イタズラの報復
第329話、あのイタズラの話しを公開して1ヶ月半ほど過ぎた。
あの話しは、あのまま放置している。
本来の9巻に該当する原稿は既に書き終えている。
もっと早くに更新してやろうかと思ったが、2週間ほど旅行に出ていたのでズルズルと更新しないままここまで過ぎてしまった。
いまごろ読者はしびれを切らしている事だろう。
久しぶりの自宅の机で、更新の準備をしていると、出版社の担当からメールが飛んできた。
『8巻と9巻、同時発売が決まりました。
なかでも9巻の前評判は凄まじく初版から10万冊発行する予定です。
来週発売なので、よろしくお願いします』
……俺を騙す気だな。イタズラの仕返しか。
だが、寛大な俺は怒らない。実際は8巻だけ発行するのだろうけれども、なかなか面白い返事だ。
そのユーモアを評価して、俺もユーモアをもって返信をする。
『よろしくお願いします。とくに9巻は話題になると思いますよ』
そう書いて、担当に送り返す。
ここで俺は一つアイデアを思いついた。
本来の9巻分の話しを、8巻の発売日に合わせるて更新するというのはどうだろう。
すぐに続きが見られて、なかなか気が利いていないだろうか。
面白そうだ、俺は更新をさらに先延ばしにした。
そして一週間が経ち、8巻の発売日となった。
日曜の朝、なにげなくテレビを付ける。既に昼近くでワイドショーが画面に映る。
「くだらない番組だな、時間を無駄に使うなら、俺の本でも取り上げろよ」
そう独り言をつぶやいた。
どうでもいい芸能人のニュースが流れ続け、その後、映画の話題になり、それから書籍の紹介コーナーに移った。
このコーナーは興味がある、どんな本が紹介されるのだろうか。
画面をボーっと眺めていたら、そこに俺の作品。『ファンタスティック・ファンタスティック』が映し出された。
「マジか!」
続いてコメンテーターが、俺の本の紹介をする。
「今日発売のこの本、8巻と9巻が同時発売なんですが、インターネットですごい話題になっています。
なかでもこの9巻は凄まじい内容となっていて、この9巻だけ読んでも楽しめますよ」
「えっ、9巻!! なんで?」
思わずおれは叫び声を上げていた。なんと存在しないハズの9巻の宣伝を始めたのである。
これ、ドッキリかなにかじゃないか?
旅行中にカメラでも仕掛けられたのか?
周りを確認するが見当たらない。なんだこれは?
「もしかしたらドッキリではなく、本当のテレビ番組なのか?」
急に不安になる。もし本当ならどうなるんだ?
俺は落ち着くために、冷蔵庫のアイスコーヒーを口にした。
……少しだけ、落ち着いてきた。
しかしそれよりあの9巻の中身が気になる。どうなってるんだ?
「もしかしたらゴーストライターでも雇って、話しを仕上げたんじゃないだろうな?」
いてもたってもいられなくなり、近くの書店へ向かう。
近くの書店に行くと、行列が出来ている。
様子を見ると、どうやらその行列のお目当ては俺の本らしい、しかも9巻のみを買っている人が異様に多い。
9巻の文章がどうなっているか気になる。
俺は行列に並び、他の人と同じように9巻のみを購入した。そして本を開く。
するとそこには
『ああああああああああああ……』
ページを埋め尽くす『あ』の群れが存在した。
ほかのページをめくってみても尽きること無く『あ』が続く。
終わった…… まさかそのまま出版するとは。
書きためておいた本来の第329話の更新などしている場合ではない。
明日からはクレームの嵐がくるだろう。
俺の作家人生は終りだ。