イタズラ
俺は『部分別』のアクセス数が全く表示されないバグに悩まされる。
だが、ただでは転ばない、この状態に陥った事で、あるイタズラを思いついた。
このイタズラはすぐに実行できるのだが、その成果をきちんと確認する為には『部分別』のアクセスが表示が不可欠だ。
まずは『小説屋になろう』にバグがある事をメッセージで伝える。
彼らは優秀だから、すぐにでも直るだろう。
報告を済ませると、俺はさっそくイタズラの準備に取りかかった。
本来ならバグが直ってから行った方が良いのだが、一度、火が付いた衝動は抑えられなかった。
ホーム画面から、『次話投稿』をクリックする。
さきほど投稿を終えて、ストックの話しは無い。次の章の構想もプロットもまったく練っていない。
だが俺は、文章をものすごいスピードで積み重ねる。
前書き『ああああああああ……』と20,000文字。
本文『ああああああああ……』と70,000文字。
後書き『ああああああああ……』と20,000文字。
小説は一冊およそ10万文字と言われている。
この1話だけで小説一本分の量に当たる。
~ 第329話が公開されました ~
それをそのまま公開した。ユーザーはこの最新話を見てどのような反応を示してくるだろうか?
活動報告にも、わざわざ告知を入れる。
『最新話投稿しました。なんと1話で小説一冊分です。心ゆくまで楽しんで下さい』
そして俺のイタズラは本格的になってきた。
出版社の担当に電話を入れる。
「はい、こちら角巛 dooks 編集部です」
「作家の習志野ですが、さきほど329話をあげました。
この話しだけで11万文字あり、これが9巻の原稿となります」
「本当ですか、めちゃくちゃ早いですね、いま8巻のチェックの途中でまだ手が……」
「あっ、いいんです。気にせずゆっくりとチェックをして下さい」
「それなら、8巻と9巻、同時発売しませんか。話題になり、そのほうが絶対に売れますよ!!」
その反応に少し心を痛めたが、まあ、一目見ればすぐにわかるだろう。
俺はイタズラを続行した。
「まあ、9巻が問題ないようなら良いんじゃないですか。同時発売でも良いと思います。
ちなみにこの話しは自信作ですよ、この巻だけで10万は売れるかも。見て貰えば分りますよ」
「わかりました。8巻のチェックが終り次第、9巻のチェックに入りますね」
「はい、よろしくお願いします」
挨拶を済し、電話を切った。
「ふぅ、これからどういった反応が返ってくるか楽しみだ」
ひとり、ニヤけ顔で少し冷めてしまったコーヒーをすする。
しばらくすると、運営からメッセージが飛んできた。
どうやらもう直ったようだ。ところが、メッセージの中身を見てみると。
『少し調査した限りでは異常はありませんでした。
すいません、もっと詳しく調査するので、お時間を下さい』
と返事が返ってきた。部分別のアクセス数が分らないと、何人がこのイタズラに引っかかったのか分らないが、まあいいだろう。掲示板の反応だけでがまんしてやろう。
ちなみにこの第329話は裏で書きためておいて、あとで差し替えるつもりだ。
俺はコツコツと公開する事無く、執筆活動を続ける。
さて、どのタイミングで差し替えてやろうか。
いろいろと考えていたら、久しぶりに楽しくなってきた。