小説屋 習志野 誠司
この話しに出てくる事は全てフィクションです。
『小説屋になろう』というサイトは今のところ実在しないもようです。
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敵の放った魔法『メテオバツーカー』が俺様の胸に突き刺さった。
直撃だ。大爆発をして辺りは火の海に包まれた。
「馬鹿め、あのお方に逆らおうとするからだ」
敵の黒いローブの男が言った。
舞い上がる粉塵の中から、俺様は何事も無かったかのように立ち上がった。
「なっ、なにぃー、無傷だと!!」
敵の黒いローブの男が驚いた。
「そんなもんじゃ俺様は倒せないぜ、こんどはこっちの番だな、ギャラクティカ・スウォード」
剣を一振りすると敵の黒いローブの男はドグシャアと吹っ飛んだ。
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……なんかイマイチだな、もっと良いフレーズは他にないか。
読者をバッチリ引きつけるコレだという書き出しはないだろうか。
「……ダメだ、思いつかない。とりあえずこのままでいいや。先のシーンに進もう」
俺の名は、習志野 誠司。文系の大学に通っていて今年で3年目を迎える。
ごく普通の学生と言っても良いのだが、友人にすら打ち明けていない秘密の趣味がある。
それは、なんと小説を書くこと。
しかもただ書いて満足している訳では無い。『小説屋になろう』というサイトで作品を全世界へ向けて公開をしている。
「俺の書く作品はどれも大ヒット、ベストセラー作家です」と言いたい所だが、どの作品も反響は芳しくない。
作品の人気を示すブックマークの数字はいずれも一桁に留まっている。
ちなみにブックマークがもらえない人気の全く無い作家は『底辺作家』と罵られ酷い扱いを受ける。
だが俺は今、その状況から這い上がる為に、とっておきの新作を用意した。
『ファンタスティック・ファンタスティック』という異世界物の小説を書いている。
異世界物の小説は『小説屋になろう』では花形で、一番人気のあるジャンルなのだが。下書きをしている時点では、あまり良い手応えが感じられない……
「うーん、どうすりゃいいんだ?」
パソコンの画面をジッと見る。もちろん見ているだけでは良いアイデアは浮かんでこない。
なにげなく、机のそばに置いてある飴を口に放り込む。
「人気の作品から少しだけ,アイデアを拝借して…… いや、ダメだろ、それは作家としてやっちゃだめだ」
さらに15分ほど時間が経過するのだが、やはり何も出てこない。
「……うーん、まあ、良いか今日はここまでにしよう。とりあえず下書きとして保存だ」
パソコンの画面から『保存』を選択する。
まだ書いている途中なので、この小説は公開はまだ先だ。
「作品中の主人公のように、俺もなにか特別な能力が使えたら良いんだけど……」
そういって、二つ目の飴を口に放り込んだ。すると、舌をするりと抜け変な所へ収まった。
「っが、い、息が……」
こうして俺はあっけなく死んだ。