子爵令嬢
○月×日
きょうはあめ。
あめのひはきらい。
じめじめしてて、みんなのかおもくらくて、きらーい。
○月△日
きょうははれ。
おかあさんがおしごとにでかけてるあいだ、わたしはぱんやのおじちゃんのおてつだい。
いつもえらいなってほめてくれて、ぱんをすこしわけてもらえたの。
もってかえったら、おかあさんもよろこんでくれたんだよ。
○月◻︎日
きょうはとてもすてきなことがあったの!
きんいろのかみのおうじさまにあっちゃった!
しんぷさまがよんでくださったほんにでてくるおうじさまにそっくり!
おもわず、おうじさま?ってこえをかけたら、シーって、ナイショだよ、だって!
うん、わたしとおうじさまだけのひみつ!
○月○日
いえに、しらないおじさんがやってきた。
むずかしくてよくわからないけれど、わたしがヨーシ、というのになれば、おかあさんもわたしもはたらかなくていいんだって!
△月×日
ヨーシになるために、すごくすごくおおきなおやしきにつれてこられたの!
おふろにいれられて、かみもといてもらって、すてきなふくもきせてもらって、おひめさまになったみたい!
おうちのひとが、わたしのこと、おじょうさま、ってよぶの。
なんだか、くすぐったくて、へんなかんじ。
△月○日
ヨーシ、になったから、おべんきょうしなくちゃいけないみたい。
おとうさまだ、っていうひとがやってきて、こわいひとかとおもったけど、かみをなでてくれて、それから、これからのことをいろいろおしえてくれたの。
しんぷさまのところで、もじやけいさんはすこしおしえてもらったけれど、それじゃぜんぜんだめなんだって。
ヨーシになったからには、ふさわしいふるまい?をみにつけるひつようがあるんだって。
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◻︎月○日
私が子爵家に引き取られて半年が経った。
母さんは別邸にいるから、月に一度しか会えないけれど、二人だけで暮らしていた頃よりもふっくらしてきてる。
本当はもっと会いたいけれど、子爵令嬢にふさわしい振る舞いを身につけることの方が先だから、我慢しなくては。
勉強を頑張れば、お父様も褒めてくださる。
私は養女だけれど、もう子爵令嬢なのだから、子爵様のこともお父様と呼ぶように言われている。
明日はダンスのレッスン。
私はどうやら筋がいい、のですって。
◻︎月×日
行儀作法のレッスン、ようやく合格点がいただけたの。
でも、これで終わりではないみたい。
我が家で覚えれることは覚えたから、もう少ししたら、行儀見習いで王宮にあがるかもしれないのですって。
これも花嫁修行の一環、と言われたけれど…母さんとしばらく会えなくなるのかしら。
×月○日
今日から王宮で行儀見習い。
私は王女殿下付きになるのですって。
そういえば昔、街で出会った男の子を王子様と勘違いして話しかけたことがあったかしら。
でも、こちらにいらっしゃるのは本物の王様や王子様。
思えば可愛らしい勘違いをしたものね、私も。
×月△日
王女殿下に初めてお会いしたの。
素敵な金色の髪…、私のまだらな色の髪とは大違いで、なんだか恥ずかしくなってしまったわ。
いいのかしら、いくら今は子爵令嬢とはいえ、私のような元は平民の者が王女殿下の側近くに仕えても。
×月◻︎日
王女殿下って、とても気さくな方。
かと思えばとても真剣な顔をして何事か考えてらっしゃる時もあるの。表情がコロコロ変わって、そこがまた魅力の一つでもあるのだと思うわ。
正式なデビュタントはもう少し先だけれど、きっと大勢の殿方の視線を奪う美姫になるに違いないんだわ。
私、この方にお仕えできて、とても幸せ。
×月×日
王女殿下のお兄様…つまり正真正銘の王子様、王太子殿下にお会いしたの!
正確には妹である殿下の部屋に王太子様がいらしたわけだから、私がお会いした、というのは不敬に当たるわね。
王太子様も、王女殿下と同じ金色の髪で、お二人が並んでいるともう眩しくて眩しくて…吸い込まれそう。
帰り際に、近くに控えていた私の髪の毛を見て「三毛猫のようだね」なんておっしゃるものだから、恥ずかしくて顔から火が出そうだったわ!
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●月×日
王太子様に、この髪色のおかげで顔を覚えていただけたみたい。
お声がかかることはないけれど、王女殿下の近くに侍っている時にお会いすると、ちらっと私の髪を確認して微笑んでくださるの。
光栄なことではあるのだけれど…
「猫のようだね」って仰ったあの時の言葉が一人歩きして、お話好きな方たちが噂をされているみたいなのよね。
王太子様にも、王女殿下にも、それからたまに王女殿下と中庭でお茶会をしている公爵令嬢様にも申し訳ないわ…
◼️月×日
最近王太子様がじっとこちらを見ている気がするの。
ふと視線を感じてそちらを見ると、一瞬目が合う…気がするのよね。
きのせい、かしら…?
それとも私、何か気づかないところで粗相をしてしまったのかしら。
お声かけいただいたのは、後にも先にも、初めてお会いしたあの時だけなのだけれど……。
▲月○日
何だか最近とても眠いの。
この間なんて、朝起きれなくて、王女殿下のお側に向かう時間に遅れてしまったのよ。
こちらに来て3ヶ月だから、気が緩み始めてるのかしら…。
「気にしなくていいわよ」って殿下はおっしゃるけれど、それじゃあいけないと思うのよね。
しっかりしなくちゃ。
▲月×日
朝、髪に櫛を通していたら、ちょうどつむじより少し横の方…左右にそれぞれ硬いしこりがあるのを見つけたの。
触っても痛くもなんともないし…、ただ、何かの病の先触れで、お仕えしている殿下に万が一のことがあっては困るから、侍女長に相談してみることにしようかしら。
▲月◻︎日
侍女長にお願いしてお医者様に診ていただいたの。
そしたら、その日の夜のうちに使いが来て、しばらく王女殿下付きを解かれることになったって…。
やっぱり、何か良くないモノだったのかしら。
使いの方は朝また連絡を寄越す、と言って帰って行ったけど、王宮では見かけない顔の方だったわ…
私、大丈夫かしら。母さん…、少し、不安なの。
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××月○日
これを書いているのはあさです。
あれから何日経ったのでしょうか。
しばらく侍女長が用意してくれたこの部屋で過ごすことになるようです。
日光を浴びるのが良くないそうで、この建物から出ることは許されておりません。
幸い、誰かにうつったりするようなしゅるいの病気ではないそうなのですが…
きのうは、王女殿下がお見舞いにきてくださいました。
殿下とたわいもないお話を少しだけしました。
××月
しこりが、だんだん大きくなっている気がします。
気のせいでしょうか。
心なしか、尖っているような…?
てのひらの感覚も、最近なんだかにぶくて、ペンがじょうずに握れません。
ここは光が入らないよう窓もなくて、同じ理由でかがみもないのです。
身支度はメイドがひとりついていてくれますので、身の回りのことに不自由はしておりませんが…
私、元気になれるのでしょうか。
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今日がなんにちなのか、すっかりわからなくなってしまいました。
くるひもくるひも同じことのくりかえしで。
でもねむくて…あまりかんがえることもないので、ねたいときにねて、食べたいときに食べるせいかつです。
しこりはやっぱり大きくなっているきもしますが、だれにあうこともないので、別に気にならなくなりました。
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きょうは、かあさんにあえました!
ちょくせつかおはみれなかったけど、
元気そうな母さんのこえがきけました
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きんいろのひとがきて、なで てくれた。
とてもきもち がいい の。
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きょ うは、お ひ っこし