表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/18

ゆきかき。

 昼過ぎまで降っていた雪が、辺りを白一色の世界に染めていた。


 家の近くに来たとき、僕が歩く音とは別に、かき氷にスプーンストローを刺すときのような音が聞こえた。


「なにやってんの?」

「見てわかんないかな、雪かきだよ」

「いや、そーじゃなくってさ、なんで雪かきやってんのか、って」


 詩奈しいなは、ジャージにダウンジャケット姿。


「暗くなったら足元危ないだろ。パパ帰ってくるときとかさ。

 それに、ほっといたら明日凍るし」


「凍ってても、大丈夫だもんねー」

「なんでよ。お、その靴?」

「そそ。雪だからさ、スノーブーツ。今年の新色」


「なーにガキが色気づいてんだよ、スノーブーツなんてさ」

「中二にもなって、ゴム長なんか恥ずかしーだろ」

「えー、いいじゃん、長靴。カワイイし」


「かわいくねって。んじゃ、そーゆーことなら、ついでに僕んちの前もよろしくね」

「どういうことだよ。ま、いっか。一緒にやっとくよ」

「バカ、冗談に決まってんだろ」

 

 僕は詩奈の持っていたスコップを取り上げようとする。


「あ、ダメだよ、いいよ」

「よかねーよ」


 スコップを取ろうとして、詩奈の手を握ってしまう。

 やわらかい手から、冷たさが伝わってくる。

 

「あ……」

「なんだよ、こんなに手ぇ冷たくしちゃってさ」

 

 詩奈が手をゆるめた隙を見てスコップを奪うと、代わりに、学校指定のカバンを詩奈に渡す。

 

「じゃあこれ、僕んちの玄関に置いといてよ」

「あ、うん」

「それとさ、戸棚の中にココアがあるから、それいれといて」

「わかった」

 

 詩奈とは、家も隣で幼なじみ。家族ぐるみの付き合いだ。

 勝手知ったる他人ひとの家とはよく言ったもので、どこになにがあるかは僕より知ってるかも。

 


 詩奈がやった雪かきの跡に続いて、雪かきを始める。


 これは思ったより重労働だな。

 明日の筋肉痛は覚悟しておこう。


 

「サっ君、はい」

「わっ。あー、先輩か」

 

「フフッ、どんだけ集中してんだよ」

「うっせ」

「ココア、持ってきてやったぞ」

 

 詩奈の手には、湯気の昇るマグカップが二つ。

 

「懐かしいね、これ」

「お、そうか?」

「小さい頃一緒に家族旅行したとき、詩奈が選んだマグだからさ」

「あー。あのときは大変だったよな、しーちゃんのカップ、じぇったいかうーって泣いて騒いでさ」


 ココアの温かさが、両手と口に広がっていく。


「えー、そうだっけ?」

「忘れちゃったのかよ」

「どうだろ? でも、まだ持ってたんだ」

「別に、たまたま捨ててなかっただけだし」

 

 なにニヤニヤしてんだよ。


「それにしても、やっぱ男子だなー。もうほとんど終わりだよ」

「まあな。あとこの端っこがラストだな」


「でもさ、そんなかっこで寒くない? せめて着替えてからのがよかったんじゃん?」

「んなことねっし。動いてたから、暑いくらいだし。

 先輩こそ、よくジャージで寒くねーな。

 毛糸のパンツでもはいてんのか?」

 

「お、よく判ったね、詩奈が毛糸のパンツはいてんの。あったけえぞ」

「え、マジかよ」

「なんだったら見せてやろっか?」

 

 詩奈がジャージのズボンに手をかける。

 

「や、やめろよ、誰が見てっかわかんねーし」

「プッ、冗談だよー。あはは、サっ君、マジ、キョドってるし! こんなとこで見せるわけないっしょ、笑えるー! ぼはっ!」


 僕の投げた雪玉が、詩奈の肩にヒットする。

 

「おー、やったなー!」

 

 詩奈が応酬する。

 僕は華麗に……避けられず、腹へ直撃した。

 

「へっへーん」

「よーし、覚悟しろよー!」

 

 雪合戦なんて、いつ以来だろう。

 気がつけば、二人とも息を切らせて雪まみれになっていた。

 

「はぁ、はぁ、ふぅ。あー、疲れた。

 サっ君、もう一回、もう一回ってしつこいんだもん。

 詩奈、もうぐったりだよ……」

「まだまだ、次はどでかい一発をお見舞いしてやっかんな……」

 

 僕は雪玉を握ると、雪の上を転がし始めた。

 

「サっ君、タフだなー」

「まだ、こんなもんじゃねーから」

 

 僕は、さらに雪玉を大きくする。

 

 

「で、そんなに大きくして、投げられんの?」

 

 調子に乗りすぎた。

 雪玉は、ひざの高さくらいの大きさになっていた。

 

「えっと、これは、雪だるまだよ、雪だるま」

「なんだよー、いつのまに雪合戦終わってんだよ」


 文句を言いながら、詩奈も雪玉を作り始める。

 

 

「ふー、できた」

「詩奈のも完成ー」

 

 僕が作った大きいやつと、詩奈が作った小さいやつ。

 二つの雪だるまが、隣り合って立っていた。


「すっかり暗くなっちゃったなー。やり残した雪かき終わらしちゃうから、先輩は家に入ってなよ」

「えー、いいよ、悪いから」

「汗かいてんだから、見てたら寒くなっちまうだろ。

 女の子は、身体冷やしちゃダメだって、母ちゃんが言ってたぞ」


「ハハッ、詩奈は毛糸のパンツはいてっから大丈夫って……くちゅん!」

「ほらー、そんなネタどーでもいーから、とっとと帰れよ。風邪でもひかれたらこっちがめーわくなんだって」

 

「うん、わかった。ありがとね、サっ君。

 マグ、洗ったら持ってくよ」

「はいはい、早く帰って風呂でも入んな」

 

 僕は詩奈が家に入るのを確認して、残りの雪かきに手を付けた。

 

 それから間もなく、二軒の前の雪かきが終わった。

 

 

 翌朝。筋肉痛で辛い。

 

智詞さとし、忘れ物ないわねー?」

「ねーよ、母ちゃん。行ってくんね」

「下、凍ってるところあるかもしれないから、気を付けるんだよ」

「わぁってるって」

 

 昨日、雪かきしたところは、凍っていない。筋肉痛になった甲斐があったな。

 

「サっ君、おはよ!」

「あー、先輩、オハヨウゴザイマス」

「なんだよそれー。ほら、急がないと電車行っちゃうよ!」

 

 雪かきした道を、詩奈が走っていく。

 

 

 庭を見ると、昨日作った雪だるまが二つ。

 

 小さい方が、大きい方に、寄りかかるようにしてくっついていた。

※アイディアを下さった、みつながめいさんと、いろはさんに捧げます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ