おそろ。
「智詞ー、亜美ちゃんの転校プレゼントなんだけどさ、なんかいいの無いか?
オレ、買い出し担当になっちゃってんだけど、女の子のプレゼントって、どうしたらいいかさ」
クラスの女子が、親の都合で転校することになった。
男子の中でも、ひそかに人気のある、鈴本亜美という子だった。
「おまえさ、詩奈先輩に、女の子が喜びそうなプレゼントって、何か聞いてみてくんないかな」
「えー、なんで先輩? めんどくせえ。クラスの女子に聞けばいいじゃんよ」
「クラスの女子は別のプレゼントだろ? そいつらに聞くのも、なんか嫌じゃね。それに、おまえ詩奈先輩と仲いいしさ」
「バカやろ、ちげーよ。ただ家が隣ってだけだよ。
でも、しょうがねえから、聞くだけ聞いてみるよ」
「おー、助かるー。さすが智詞、頼りになるぜ」
「っていうことでさ、女の子へのプレゼントって、何がいーかな」
「えー。そゆこと、聞いちゃう?」
「だ、だって、よく解んねえし」
しょうがねえだろ。
「こういうの聞けんの、先輩くらいしかいねえから」
「……はぁ。仕方ない。弟分のサっ君の頼みだもんな。詩奈お姉さんが聞いてあげましょう」
「な、お姉さんって、ただの幼なじみだろ。歳も一つしか違わねーし」
「まぁまぁ。寛大な詩奈お姉さんが、君たちのアイドルへのプレゼントに、一肌脱いであげようじゃないのさ」
詩奈はカバンを持つと、足早に昇降口へ向かう。
「ほら、これから駅前のショッピングモール行くよ!」
「で、どういう子なんだい」
「どういう子って、鈴本か?」
「そ」
「フツーの女子だよ。たまに一人で本読んでるときもあるけど、別に他の女子とも仲良くしてるようだし。流行りにも敏感みたいだし」
「ふうん。よく見てんだね」
「ちげーよ、見てねっし」
「ねぇ、サっ君、一緒に買い物に行くのって、久しぶりだよね」
「何言ってんの、昨日だって、夕飯買いに行ったじゃん」
まぁ、親と一緒に、だったけど。
「うん。そだね……」
何件か、雑貨の店を見て回る。
確かに、こんなところ、男子だけで入る勇気はない。一人でなんて、なおさらだ。
「わぁ、これ! ウザピョンだ~」
詩奈が嬉しそうな声で手にしたストラップを僕に見せる。
「かわいっしょ、今ね、ちょっとしたブームなんだよ」
なんだこれ。
元は白いウサギなんだろうけど、目つき悪いし、口から血が垂れてるし。
ブサカワ? キモカワってやつか?
解んねぇ。この感性、解んねぇ。
「女子に人気なのか、これ……」
「詩奈だったら、これがいいなぁ。ねぇ、これにしようよ!」
「いやいや、先輩に買ってやるわけじゃないから」
「あー、そうだよね。わりーわりー。ははは……」
「ちょっと暑くない? アイス食べよっか。詩奈、買ってきてやるよ」
「あ、そう? じゃあ」
「カフェモカ、だろ?」
「あ、うん」
「相変わらず、ガキのくせに大人気取りでさー」
「だよ、うっせ。どうせ先輩はラムレーズンだろ。どっちが大人気取りだよ」
「はっは、あったり~。じゃ、ちょっと待ってな」
詩奈がアイスを買いに行くのと同時に、僕も席を立つ。
僕が戻ると、詩奈がアイスを持って、待っていた。
「サっ君、びっくりしたよ。トイレならトイレって言ってくれればよかったのに」
「ちげーって」
「結構並んでたからさ、詩奈も今来たとこだけど。ほい、カフェモカ」
「お、おう」
僕はアイスをひったくるようにして受け取ると、ポケットからさっき買ってきた店の袋を詩奈に渡す。
「なにこれ、さっきの店のじゃん」
「いーから」
「くれんの?」
「ん」
「わぁ、これ! ウザピョンだ~」
さっきと同じリアクション。
「どしたの、これ、プレゼントするんじゃなかったの?」
「えっと、あのさ、買い物と、あれ、アイス。アイスの礼」
ショッピングモールの照明にストラップをかざして、詩奈が目をキラキラさせている。
「そういうことなら、もらっとくわ。ありがとね、サっ君」
数日後。
「智詞ー、亜美ちゃん、すっごい喜んでたぜ、ブックカバー」
「そうか、よかったな」
「ほんと、助かったわ。サンキューな」
「お、サっ君。丁度いいや、帰ろーぜ」
まただ。詩奈は、下校の時間に昇降口で会うことが多いんだよな。
「なんだ、そのストラップ。あ、ワザピョンじゃん!」
僕のケータイに付けた、茶色のウサギのストラップを、詩奈が目ざとく見つけた。
「これなー、もういらなくなったから。
流行ってるっていうしさ、捨てんのもったいないだろ」
「ふうん、そっか」
詩奈のケータイには、あの時あげた、白いウサギのストラップがぶら下がっていた。
「詩奈も、せっかくもらって、もったいないから付けてるけど、流行ってるからね。偶然、おそろになっちゃったね」
「ちげーよ、おそろじゃねって。色違うし。こっちカフェモカの色だし」
「はははっ大人の色ってかー」
「うっせ、いーじゃん。なぁ、これって本当に流行ってんの? 結構ハズカシくね?」
「えーっとね……」
ストラップに付いていた鈴が、リリン、と鳴る。
「詩奈には、今一番のお気に入り、かな」