しゃしん。
写真が学校の廊下に、ずらりと掲示されている。
この間、学校行事をやったときのスナップだ。
「お、智詞、なんで三年の写真なんか見てんだ?」
クラスメートの鷹橋は相変わらず目ざとい。
「べ、別に。三年の写真だけど、ちょっと僕が写ってんだよ」
「どれどれ。あー、ほんとだ! すっげえちっちぇえけど!」
三年生が写っている写真の中に、二年生の僕が小さく入っていた。
「こっちの写真は遠くなのにカメラ目線で、なんかストーカーみたいになってんな。おもしれー!」
掲示された写真を見ながら、鷹橋が好き勝手なことを言う。
この時もたまたまカメラマンの方を見ていただけなんだってば。
ストーカーでは、断じてない。
「おー、なんだよサっ君。三年の教室になんか用か」
詩奈が教室から出てくると、いきなり僕にヘッドロックをかけてきた。
首を脇に抱えるようにして締め上げるプロレス技だ。
顔に柔らかいものが当たっているが、それどころじゃない。これは本気で落ちる……。
「ギ、ギブ……、ギブだって!」
「まったく、図体の割にはてんでなってないなあサっ君は」
詩奈が僕の首を解放する。
頭がくらくらして、目がちかちかしていた。
「僕が写ってるやつがあるか、探しに来たんだよ。ほら」
僕は自分が写っている写真を、詩奈にも教える。
「あー、ほんとだ。ちっさ! サっ君三年生の背後霊みたいになってんじゃん!」
キャラキャラと詩奈が笑う。
「言うと思ったよ。ったく」
僕はそうつぶやきながら、注文書に写真の番号を書いていく。
「へー、でも買うんだこの写真。サっ君はほんと、自分大好きだよな~」
「しゃーねーだろ。カメラ目線になってんの、あんましないんだからさ。
で、先輩は何枚か買うの?」
「いやー、特にいいかなー。詩奈が写ってるのあるけど、自分の顔ってなんだか変な感じがするんだよね。
それにさ、この間もみんなで遊びに行った時とか写真撮ったじゃん。
だからこの学校行事のやつはいらないかなー」
「遊びに行った時のって、あの変顔ばっかのやつだろ。それとも怒ってるようなやつ?」
「ちょっ、そんなわけないでしょ! ぷぅ」
むくれたってダメ。それが変顔なんだってば。
「僕と一緒に写ってるやつだと、いつも変な顔なんだよなー。
まともに写ってるの、見たことねーわ」
「うっさいなあ!」
詩奈の膝蹴りが、僕の太ももに入る。
「ぎゃっ!」
思わず悲鳴を上げてしまった。
ちくしょう、これはアザになる痛さだぞ。
「ほら、早く戻んないと授業始まるぞ」
「わーってるよ!」
じんじんと痛む太ももをかばいながら、ほうほうのていで僕は自分の教室まで戻ってきた。
「智詞はいいよなあ、詩奈先輩にあんなことしてもらえてさー。
幼馴染ってだけで羨ましいぜ。オレも頭抱えられて、顔をグリグリしたいよ」
「ばっ、んなのうれしーわけねーだろ。あんなん毎回食らってたら簡単に死ねるってーの」
「あー、それでもオレは幸せだなー。智詞はさ、詩奈先輩が男子に人気あるの知ってっか?」
「えーなんだよそれ。あんな凶暴女、誰も好きこのんで一緒にいないっつーの」
「そうかあ? 元気あって先輩後輩関係なく話しかけてくれるし、なんたってかわいいし」
「うわー、ありえねーわ」
「智詞、お前は近すぎんだよ。だから詩奈先輩のことよく判ってねえんじゃねえの?」
会話に割り込んでくるように、授業のチャイムが鳴る。
「あ、ちょ、チャイム。授業始まっぞ、席に着けよ」
「へいへい」
僕は授業を言い訳に、鷹橋を席に戻した。
数日後、購入した写真が家に届いた。
小さく僕が写っている写真だった。
僕はそれを写メで撮って、スマホのホーム画面の背景に登録した。
待ち受けだとロック画面に出るからやめた。ロック中に誰かに見られでもしたら大変だからな。
ジェスチャーでロックを解除してホーム画面に移動する。
そこには小さく写る僕と、満面の笑みを浮かべた詩奈の姿があった。