やぶれ。
今回は短めに、ひとくちサイズでお楽しみください。
詩奈が体育の授業でハデに転んだらしい。
「大丈夫かよ」
「んー、ケガはなかったんだけどさ」
見ると、ジャージの袖口が破れていた。
「あー、結構おっきーな、穴」
「そうなんだよねー。こんなに破れてると恥ずかしいかなー」
「ふっふっふー。ソーイングセットー!
たまたま家庭科の授業あったからさ、ほら、縫ってやんよ」
「えー、いいよ、いいって」
「破れたまんまにしとくわけにはいかねーだろ。とっとと脱げよ」
「わ、脱げとかって、だいたーん!」
「バッカ、余計なことゆーなよ、ほら」
「や、ちょっ、まてって。き、今日体育着忘れちゃってさ、ジャージん中さ、あれなんだよ……」
「なん、だと」
「し、下着は、つけてるってば……」
バカか。断じて変なことは考えてないからな。
「そ、そか。んじゃ、着たままでいーよ。腕、貸しな」
僕は詩奈の返事を待たずにジャージに合った色で縫い始める。
「いって!」
「あ、ごめ、痛かった!?」
「う、だいじょぶ……」
「……ごめん」
「いいよいいよ」
「ほい、これでおしまいっと」
最後に目立たないところで玉を作って糸を切る。
「あ、ありがと」
「ほんとなら裏で留めたいんだけどな、しゃーねーか」
「そっか。なあ、サっ君さ、昔、詩奈のぬいぐるみ、こうやって直してくれたことあったよな」
「え、そんなんあったっけか」
いや、覚えてる。
あれは小学4年くらいだったかな。
白いウサギのぬいぐるみが破れて、その時あったソーイングセットで直したんだっけ。
色の付いた糸しかなくて、縫い目が目立つってんで、詩奈がもっと泣いちゃったんだよな。
せっかく直したのに詩奈が泣いてて、僕も一緒になって泣きはじめたんだっけか。
「まだあんだよね、あれ」
「マジかよ、んなボロっちいの捨てちゃえよ」
「やーだよ、大事にしてんだから」
「じゃあさ、白い糸で縫い直すから。今ならもっとキレイにできるしさ」
「なんだ、覚えてんじゃん。
いいっていいって。あれでいいんだよ」
「そーなん?」
「そ。あれがいいんだよ、赤い糸のあれがさ」