ぬくもり。
寒い日に、ほっと温かくなるアイテムを。
今回は軽く短めにしてみました。
寒い。今日は特に。
「急に冷え込んだよね。今夜は雪かもってさ」
詩奈と帰る放課後。
「今朝はそんな寒くなかったから、手袋してこなかったんだよなー」
僕は手をさすりながら、はあっと息で温める。
「だったらこれ、やるよ。まだちょっとはあったかいからさ」
詩奈が胸ポケットから白い袋を取り出す。
「カイロ?」
「そ、使い捨ての。詩奈もう一個持ってるから」
「そっか、さんきゅーな」
詩奈から受け取ったそれは、まだほのかに熱を発していた。
「あったけ~、あ~、生き返るわ~」
「なんだよサっ君、おっさんみたいだな」
「うっせ」
それでもこの温もりに、僕はホッとした。
「なあ先輩。香水とかしてんの?」
「えー、してないよ。詩奈、香水とか持ってないもん」
詩奈が僕の顔を覗き込む。
「どした?」
「なんか、バラの香りした気がすんだけど」
「へ、へえ。気のせいじゃないの?
あ、でも、最近詩奈アロマに凝ってるからさ、もしかしたらその匂いじゃないか?」
「そっかー」
アロマなんて、詩奈も女の子だよな。
アロマ。
バラの香り。
なんか昔にあったような。
そういえば小学校の頃、日曜日に児童館でアロマキャンドル作りをした記憶がある。
火を点けると、灯りと一緒にいい香りが漂うってやつだ。
「ねえ、しーちゃん、ぼくベランダがよかったなー」
「サっ君、ベランダじゃなくてラベンダーだよー」
「えー、ぼくそう言ったよ」
「にひひっ、まあいいや。サっ君、詩奈のと交換してあげよっか。詩奈の、ラベンダーだから」
「えー、ほんと? いいのー? わーい、しーちゃんだいすきー」
あの時、僕はバラのアロマキャンドルと、ラベンダーのを交換したんだっけか。
家に帰って僕の部屋に入る。
カイロが入った胸ポケットに手を当てると、淡いぬくもりがそこにあった。
机の引き出しからあの時交換したアロマキャンドルを取り出すと、部屋の中にほのかなラベンダーの香りが漂う。
「しーちゃん大好きー、か……」
胸が温かくなったのは、カイロのせいだけではなかったかもしれない。