峠のはなし
『峠のはなし』
与吉は峠を登って行った。
殺した女を埋めるという。
俺は怪奇に会えそうなので、
下で与吉を見送った。
やがて与吉が降りて来た。
汗をダラダラかいている。
きっと怪奇にあったのだ。
俺は与吉に聞いてみた。
俺は怪奇が好きなのだ。
人を殺して埋めたなら、
きっと怪奇にあったのだ。
だから与吉に聞いてみた。
「行きの登ってゆく道は、雨で激しくぬかるんだ。あんまり背中が重いので、俺は何度も戻された。あんな疲れることはねぇ…」
「着いた頂上ぬかるんで、穴を掘るには楽だった。底に女を捨てたとき、少し寂しい音がした。」
「帰りやっぱりぬかるんで、俺はこわごわ降りてった。あんまり背中が重いので、俺は何度もずっこけた。あんな疲れることはねぇ…」
なんだコイツは興ざめだ。
女を殺して埋めといて、滑って転んで泥まみれ。
怪奇のカケラもありゃしない。
俺は呆れて物言えず、
家に帰って酒のんだ。
これで話はお仕舞いだ。
なんともつまらん終わりだが。
与吉は次の日殺された。
怪奇はいつでも側にある。
意味が通じたなら嬉しいです。