自由の代償
今からおよそ二千年ほど前、我々人類は海底に都士の存在を認知した。我々人類はどうにかして、その海底の都士に移住できないかと頭を悩ませていた。
なぜなら地上には、"人類の脅威〟が存在しているからだ。しかしながら"人類の脅威〟は水中へ侵入することができず、人類はかろうじて水上でことなきを得ている状況なのだ。
だから誰もがアトランティスへの移住を願った。昔のように地上で生活できなくても、それと似たような生活が出来ればそれでいい・・・。その願いは、実現する。
ある科学者が結界石という石の作成を成功させたのだ。この結界石をアトランティスの中央で砕けばそこから結界が広がってゆき、水を退ける。
結界の内部にはアトランティスが、そして外部には水が存在するという理想の形が実現できたのだ。さらに都合が良かったのは、その結界に内側から触れると外部へ、外部から触れると内部へと移動させられる仕組みになっていたので、自由に出入り可能だったということだ。
こうして人類は、海底都市アトランティスへの移住に成功し、"人類の脅威〟から逃れることができた。
「これが、我々人類の歴史です。昔は地上という、我々の住むアトランティスのはるか上空で生活していたのです」
「先生!その地上にはまだ"人類の脅威〟はいるんですか?」
先生はわかりません、と匙を投げた。かわりに、なぜわからないと思いますか?という問題を彼等に与える。教師として、そっちの方が彼等の成長に有益であると判断したからだ。
考えさせる、それが目的である。
「分かった!多分、アトランティスに移住して以来誰一人として地上に向かった人はいなかったからだ!だから"人類の脅威〟が存在するのかどうか、わからないんだ!」
「正解です!百点満点!」
太陽も、月すらもないこの海底という世界で、結界石の青白い光だけが彼等を照らしている。そんな非日常的な日常は、人類の一つの感情を殺してしまっていた。
結界内部で専用着に着替え、外部で魚等を捕獲する。それは働かなくても生きていけるということだ。内部に戻り、火屋で魚を無料で焼いて食べる。
彼等は完全なる自由を手に入れた。
代償は、計りきれないほどに巨大なものだった・・・。