後
海中の秋達の目の前に、同型の雨蜘蛛が立ちふさがる。
『そこの雨具!すみやかに停止せよ!』
強制的に開放させられた通信端末からの音割れが激しい警告。ちなみに雨具とは、地下の人間が使う私達へのスラング的な呼び方である。
ただ、それを使うのは―――――。
『こちらは教団である!繰り返す!』
教団の者がよく使ってくる。彼らには自分たち以外、家畜以下の存在としか思ってはいないらしい。
「うわ・・・」
『秋ちゃん、この人うるさいから音切ろうよー』
「そうね」
人間側からの強制開放のため、回線はこちら側から切断できない。人間には命令権があり、私達はそれに従わなければならない。ただ、艦内ではまず使われない。
通信チャンネルの音量をミュートに、自動的に音声を文字にして表示される。が、未だ音割れが激しく、大半が解読できない状態になっていた。もとより聞く耳もないし読む目もないのであまり問題ないが。
「秋、なんか送られてきたぞ」
アオイには手持ち無沙汰が嫌というので、通信の確認をしてもらっている。
見ると、司令から相手側のデータが転送されて来たようだが、もう少し早く送って頂きたいものである。音声通信の画面から目を背け、データを流し読む。
こいつはいわゆる教団の狂信者。教団の意向に従わない者は悪とみなすようなそんな人間だ。
しかしそれでも人間。我々を停止状態にすることも可能だし、破壊することだって可能だ。
だが、その間に相手側は大事なことを仰っていたようで、機体の銃口をこちらに向けてくる。
おそらく返事をしなければ撃つと言っていたのだろうが案の定文字は判別できない。
『秋ちゃん、どうする?』
さて、どうしたものか―――――。
その、逡巡した一瞬だった。瞬きした瞬間に、相手が視界から消えた。そしてそれに遅れて鳴り響く警報音。
突然のことに反応できないが、意識の底ではこれが何かがわかっている。
これは、雨の結晶体だ。
『秋ちゃん!下!』
周囲のスキャンを実行し、雨の現在位置を計測し、見つけた。
わずか数100m先の海底、そこに相手の機体を押しつぶした球体、いや氷塊があった。
それもまだ、動いている。
人間を相手にしていて気が散っていたのか?いや、違う。それは現れた、というより今しがた通り過ぎたのだ。あの教団の男を巻き込んで。
通常、雨は地表に現れ、地面を穿つ。海面に、あまつさえ海中に出現するなど聞いたことがない。だが、目の前で起きていることはまさしく現実だ。
「この・・・化け物が・・・!」
こんな状況でも、いやこんな状況だからこそかもしれない、体中があの雨を倒すように動きはじめる。あの男を救出するための動きではない、自身も機体も顧みない、雨を殲滅するための動きだ。全兵装のロックを解除し、システムを戦闘状態に変更し―――――。
『助けてああああああああああああああああああ』
瞬間、さっきまで聞こえないようにしていた声が響き渡り、動きを止める。
音割れは更にひどくなり、断末魔がより強調される。
「戦っちゃ、だめだ」
アオイが、音量のスイッチを操作し、音を出したのだ。正気に戻すために。
そうだ、今戦えば自分はおろかこの子まで危険な目に会う。おまけにこの深海だ。少しの損害でも水圧で機体は圧潰するだろう。
あの男は不要だったわけでもないし、できることなら助けたい命だ。だが、彼を助けるということは、今手元にある命を自分ごと投げ出すということだ。
しかし、あの雨は果たして我々をみすみす見逃してくれるのだろうか?私達が見逃せば、奴も見逃してくれるのか?それはないに等しいだろう。
現に、人を葬り去った様に、我々も標的になるだろう。
「待って!あいつ何かしてる!」
アオイの叫ぶ方向には雨がいる。ただし全身から光を放ち始め、海中が明るく照らされている。
「なんでこんな時に・・・!」
雨が起こす災害、その一番の原因が爆発を起こすことだが、その前兆として全身が発光、おおよそ数分で爆発する。
爆発の要因はわかっていない、だが解ることはある。
あと数分で爆発すること、爆発の範囲からは機体の性能的になんとか退避できるということ、そして爆破後に起こる衝撃波と水流からは逃げ切れないということ。
それは、間違いなく死を意味していた。
「こんなところで・・・!」
おそらく、この雨が発生したのは偶然で、だれが狙ったものではない。だが、この偶然という不運な運命には逆らえない。遭ってしまったからには、どうしようもない。
『・・・秋ちゃん、ちょっとね。お願いあるんだ』
「・・・何?」
画面上にビィが即席で作ったであろう、脱出ルートと手順が示される。
機体表面にプラズマの層を発生させ、この機体を影にし、爆発と衝撃波、水流を防ぎ脱出ポッドで脱出するというものだった。
だが、この機体が頑丈だとしても、まとめて巻き込まれれば、いくらスーツを着込んでいても私も、彼も命はない。仮に脱出ポッドを使ったとしても生存率は誤差ほどしか上がらない。
「無駄よ。あの威力はあんたも知ってるじゃない!」
『やってみなきゃ、わかんないでしょ!』
直後、乗っていた私とアオイごとシートが下降し、そのまま脱出ポッドに詰められる。
「ビィ!何やってんの!止めなさい!」
『秋ちゃん。私ね、毎日楽しかったよ?喧嘩もしたけど、楽しかった』
「早く止めなさい!初期化するわよ!」
『でもね、楽しいだけじゃいけないんだって、ずぅっと考えてた。私が私である意味を』
「ビィ、お前」
『でも、今ようやくわかったんだ。私は、秋ちゃんとアオイちゃんが生きる事を諦めないように、応援するんだって』
「ビィ!」
『だからね、生きて』
脱出ポッドが射出され、丁度雨とビィが一直線に並ぶ形となる。これであれば、爆風は直撃しない。だが、秋は諦めきれずにビィとの回線を開く。
「ビィ!ビィ!」
『秋ちゃん、諦めの悪い娘は嫌われちゃうよ』
「諦めないわよ!あんたも簡単に諦めるんじゃないわよ!」
『わかってる、わかってる』
「分かってない!あんたはなんにも分かってない!」
『アオイちゃん、結構めんどくさい子だけど、秋ちゃんをよろしくね』
「・・・分かった」
『さっすがわが未来の旦那様!こりゃ秋ちゃんが落ちるのも時間の問題だね!』
「ビィ・・・」
『じゃあね、秋ちゃん。今度会うときは、アオイちゃん貰っちゃうからね!』
それだけ言い残して通信は切れ、秋は目を瞑ったまま何かをこらえていた。
脱出ポッドには一応透過ガラスが使われており、外部を確認できる。その視界の中で、ビィだけが搭載された機体が足を展開し、雨の結晶に組み付いた。
「伏せて!」
体ごとアオイを押し倒し、伏せさせる。そうすれば、いくらか生存確率は上がる。
雨は輝きを増し、海中にもかかわらず陽が刺したような状態になる。その輝きは一瞬だったが、直後に雨は爆発した。
それは爆発と呼ぶには単純すぎる、力だけを使った、無秩序な物の奔流だった。海水を追い出し、地面を抉り、自身を砕く。目的も何も感じさせない、力だけ。
だが、それ故に私達はその力を受け流す手段も、守る力も持ち合わせず、ただ悟るしかない。この力には逆らえないのだと。この力は、恐怖そのものだと。
だが、不思議とその恐怖から目をそらしてはならない、そんな気がした。
濁流に飲まれ、あまりの振動に気を失うまで、その恐怖を睨み続けた。
自動復旧プログラムを開始、記憶媒体のベリファイチェック、問題なし。システムを再起動する。
自身のシステムが起動し、意識がはっきりしてきた事を確認し、自動的に破損箇所の確認作業を行う。奇跡的に体に異常はなく、記憶媒体にも影響はない。
ただし、現在時刻から計算すると三十分ほどフリーズ状態が続いていたらしい。
確認作業の合間に原因を探るが、ログが飛んでおり不明。おまけに直前の記憶データの復元を試みるとエラーと共に自動的に再起動を試みようとするので中止する。
おそらくあの爆発の際に、何かの原因で自身にストップを掛けたのだ。原因は今のところは不明ということにしておこう。
今は、どうなっているのかの確認が必要だ。センサ系統をチェックし、軽微なエラーを確認したが無視。無理やり目と耳を使えるようにする。
「おい、起きろって!」
いきなり飛び込んできたのはアオイの顔だった。彼は、生きていてくれた。
同時に体の駆動系が動くようになる。体全てが稼動できる状態のまま残っていのだ。
おまけに、乗っていたカプセルはどうやらそれほど破損しなかったようで、まだ使えそうだ。
「私達は、生きている、んだな」
若干言語機能に異常が見られるが、データ的に一部破損している。問題は無いだろうが一応修復する。
「ああ。おまけに、あれだよ」
「あ、れ?」
彼が指さした物。それは
「結晶・・・?」
「そう、あのレポートに書いてあった結晶だよ。あの爆発の時、地面が崩れるのを見たんだ。たぶん、今はそこにいると思う」
「信じられない」
周囲を見回し、自分たちが居るのは空洞の横穴。衝撃で空いた穴に落ち、更にそこから横向きに吹き飛ばされたのだろう。
だが、そこに足りない物に気づきあたりを見回す。見慣れた自身の機体がない。
よく考えれば、先ほどまで乗っていたものは、脱出用のカプセルだ。
「アオイ!機体は、ビィは!」
フリーズする直前の記憶が徐々に解凍され修復される。そうだ、直前に脱出ポッドに乗ったのだ。そして、自分たちが生き残っているならば、あの機体も―――――。
「機体は、もう、ない」
「嘘だ!私達が生きているんだったらあいつも―――――」
「見たんだ!」
「見たって何を!」
「・・・あいつが、壊れるところだよ!」
その言葉をきっかけに、記憶データの復旧が完了し、脳内に映像がフラッシュバックする。
ビィの機体が、雨に組付き、爆破の衝撃と水流に飲まれ、ばらばらになった様子が、記録データに残っていた。
この映像は、自身が録画したものだ。直前まで私は見ていることしかできなかった、往年の相棒が破壊される瞬間を。
「あ、あ・・・・」
全身の人工筋肉が弛緩し、立っていられなかった。座り込み、いや、座ることすらもできず倒れこんだ。
脳内で機体が破壊される映像をリピートする。どうにか、機体が助かっていないか、破損箇所が少ないならば、見つけさえすれば何時でも復旧してやれる。
だが、映像は機体が破壊された直後に暗転し、部品がどこに行ったのか、どの程度壊れているのかも確認できなかった。
そして、ふと疑問が沸く。いくらビィが盾になろうと、計算上では間違いなく救助ポッドは破壊されるはずだ。何故、破壊されずにいたのか。
「そりゃあ、あいつの狙いがここだったからさぁ。失敗したみたいだけどね」
疑問を汲み取るように聞きなれない声の返答が来る。反響して場所が特定しづらいが、奥の影から声がするようだ。
「誰だ!」
咄嗟に腰に据え付けてある拳銃を構え、アオイを後ろにかばう。だが、構えた拳銃は震え、筋肉の弛緩を無理やり堪えても照準が狂う。
「おぉ怖いお嬢ちゃんだ。僕は怪しそうなやつだけど、全然怪しくない男だよ」
姿を表したのは全体的に痩せた、茶色に染まった白衣を着た男。だが、足取りも声にも生気が満ちており、異様な雰囲気を醸し出していた。
「あんた!生きてたのか!」
「やぁアオイ君。元気だったかい?」
両手を上げて武器の無所持と挨拶を器用に行う。
「アオイ、こいつは一体この変態は何者だ」
「秋、こいつは確かに変態で変人だけど悪いことも良いこともしない、少なくとも危害を与えることは絶対しないやつだ」
「んー、それは褒めているのかい?ちょっとぼかぁ泣きたいよ」
泣く素振りを見せ、緊張感が薄れてゆく。本当に何なのだこの男は。
「で、そんな変態が何でここにいる?」
「地下から上に登って掘ってたら、いつの間にか」
「あんたはモグラには見えないね。本当の目的は?」
「俺にはモグラって言ったくせに」
アオイのつぶやきは聞かぬこととし、奴の出方を疑う。アオイは大丈夫とは言ったが本当に大丈夫なやつなのかはまだ不明だ。
「・・・これはね、アオイ君にも話したこともない本当のことなんだけどね。ちょっと、昔の話をするが、いいかな?」
「構わない。ただ、短めに」
返答に納得し、話し始める。アオイを様子を見ても、初めて話される内容のようだ。
「僕はね、とある研究者に勤めていてね。まだ、雨の性質もわからなかった初期の初期、まったく解明されない雨に対して研究をしていたのさ」
ふと、研究員の単語が気にかかる。
「あんた、本当に研究者だったのかよ!今まで変な格好してるだけだと思ってた」
「ねぇお嬢ちゃん、ホントに泣いていいかい?」
「・・・話が終わったらいいよ」
「お嬢ちゃんいい女になるね、保証する。じゃあ続けるよ」
いい女の言葉に少し心が揺らいだが、言葉に耳を傾ける。
「研究も佳境になってきて、雨のかなり確信に迫る研究結果が見え始めた頃だ。結晶化した雨に襲われてね。幸い研究所からは離れてたけれど、僕以外の研究員が皆死んじゃってね。いやぁあれはちょっとグロかった」
「・・・その研究員は、血液が沸騰して死ぬか、発狂した」
「ふぅん、よく知ってるね」
話す内容は、確実にあのレポートの内容そのままだった。では、この研究者は―――――。
「貴方が書いた物だったんですね。『地球再生論』」
「うわ、何でそんな題名にしちゃったんだろ僕」
暫く手で顔を覆い、恥ずかしさを紛らわす仕草をする、がどうやら違った。
「そうだ、それは僕、いや僕達が検証して、あと一歩で理論も証明されるものだった」
覆った手を離した顔は別人とも思える、飄々とした雰囲気から鋭い、観察されているような視線へと変わった。
「だけど、研究の検証に使用したデータは雨の混乱から持ち出す暇もなく海に沈んでしまった。データもない、論文もない、証明してくれる仲間もいない。こんな状態じゃあ、この内容を話してもただの与太話にしか聞こえなかったみたいでね。今じゃ変態扱いさ」
「でも、私達はこの内容を回収して、信じてここに来た。かなり偶然な事もあるけど」
「不思議なめぐり合わせだねぇ。ちなみに僕は地下に避難してから今までこつこつとここに来るために登ってきてた。最後はさっきの爆発で開いたとこから登ったんだけどね」
「じゃあ、ここは」
「君たちの思ってる通りだよ。そう、これが雨を発生させているんだ」
頭上にそびえる異様な柱状結晶群。これが、雨をもたらした原因だ。
「今はありがたいことに共振も止まって、開いた穴から空気も流れてきてるから僕もアオイ君も無事だというわけさ」
周囲をスキャンしてみると、男の言うとおりこの中には通常の空気が流れ込んでいる。それが何時の空気なのか、どこから流れ込んでくるのかは不明だが、空気感染する様なウイルスも存在しないのでひとまず安心だ。
「わかったところで、ちょっと一息入れないかい?」
男が後ろを指した先には洞窟と、テントがひとつ。
戦闘後で、なおかつ覚醒した直後だ。自分はともかくアオイの身体が心配なので、言葉に甘えることとする。
研究者はモガリと名乗り、彼の勧めで少しばかりの食料とコーヒーを頂けることになる。だが、三人もの食料を分けてもらうには気が引けたものの、彼曰く
「どうせ今日で戦いが終わるんだ。前祝いさ」
とのことで、相伴に預かることにした。
保存食の肉と乾パンを齧り、アオイの顔も幾分か良くなった。初めてのことで、パニックを起こすかとも思ったが、精神力が強いのか、逆に既に心が砕けているのか、落ち着いていた。
戦場を経験すると、人はこうなってしまうのか。有事の際には驚きも、喜びも感じなくなり、私達より人工物らしさを感じてしまう。
逆に私のほうが動揺してしまっている。相棒の喪失とあの爆発の恐怖が、やはり大きい。
今まであの爆発を目にしたことはなかった。まず見た物は帰還しておらず、その前兆を見たことはあるものの、爆発する前には既に倒してしまっていた。
初めて感じた恐怖という感情に、戸惑っているためか、淹れてもらったコーヒーを抱える手が震え、映る自身の顔は青く、水面は揺れていた。いや、この戸惑い自体も恐怖の姿だ。
避けて、離して、触れないようにする。恐怖の原因はもう見たくない。まして、目の前で何かをなくすということが恐ろしかった。
「秋、大丈夫か?」
「だ、大丈夫。まだ、頑張れる、から」
アオイの声がやけに遠く聞こえる。目を覚ました直後は感じなかったが、落ち着くとここまで恐怖が心を支配しているとは思わなかった。
このままでは、駄目だ。だけど、どうやって抜け出せばよいのだ、この恐怖から。
「秋」
アオイに手を包まれ、顔を覗かれる。
「大丈夫じゃ、ないだろ?」
アオイの手に包まれ、震えを押さえ付けられる。だが、力は掛けていない。アオイの心が震えを抑えてくれているのだ。
「そう、ね」
アオイの心は砕けていたのでも、精神力が強いわけでもない。心が強いのだ。だからこそ、ビィの行動も受け入れ、私の心を読んでくれる。
「もう大丈夫だな」
「あっ・・・」
手の震えが収まった辺りで手を離されるが、少し名残惜しく、手を追ってしまう。だが、恥ずかしいのでやめておく。その頃には、不思議と手の震えも収まり、恐怖から抜け出していた。
「なぁ、お二人さん。いちゃつくんだったら、ちょっとおじさんは席外していいかね?」
「い、いちゃ・・・いちゃ付いてなんかいません!」
「どうかね」
照れ隠しでコーヒーを一口啜るが、味に違和感を覚える。
「これ・・・いい香りがする」
「おいおい、嘘だろ。そこらで出回ってる安物の支給品だぜ?これが美味いんだったら、不味いものなんか存在しないぞ?」
「そうなのかなぁ・・・」
では、今まで司令官室で飲んでいたものは一体、何なのだろう。単に、悪いものだったのか、それとも―――――。
「さて、お二人さん。そろそろ本題に入ろう」
モガリがコーヒーを呷り、身を乗り出す。
「僕の目的はこの結晶を壊すことにあった」
空になったカップを掲げ、結晶を指す。結晶は未だ鈍い光を返すだけで、共鳴も始まっていない。やるなら、今だ。
「それは、最終の目標は私達も同じよ」
本来は地下に行くだけだったが、それもこの雨を止めるための準備に過ぎなかった。だが、その準備を飛び越えて目的にたどり着いてしまった。
「そりゃあそうだな、あれ読んじゃったらそうなるわ。で、どう壊すよ?」
「・・・どうって」
本来なら兵器としての能力は雨蜘蛛がすべてを担っており、それの操縦者として設計された私に兵器としての破壊力はない。
ここに来てビィの損失は大きい。心の損失もそうだが、戦力としても頼りきりだったからだ。持っているのは腰にある携行火器のみ。だが、これで破壊は不可能だ。
ただ、筋肉を戦闘状態にして、殴りつければ破壊できるかもしれないが、その場合は自身も壊れることが最低条件となるため採用しない。
「まぁ、ないだろうね。そこで取り出したるは、これよ」
男が懐から手のひらほどの箱を取り出す。だが、予め用意したものではなく、ちぎれたケーブルもつながったままで、一部が破損している。
「じゃーん、核融合炉。悪いけど、君の機体の残骸からもらってきたよ」
「な・・・!」
確かに、雨蜘蛛は核融合炉で稼働しており、その動力源そのものだ。この機体の動力炉は小型設計され、出力も抑えられているものの、その動力炉の核融合反応であればこの空間ぐらいは破壊できるだろう。
だが、その動力炉は並大抵のことでは取り出せるほど外部に露出したりしないし、なおかつ簡単に取り外せるものではない。どうやって、取り出した?
「この型は、僕が設計したんだ。分解くらいなら足だけでもできるよ」
あの機体を設計したのが、この男。
驚いたが、今はそれほど重要なこととは思えない。動力炉が分解できるほど機体が残っていた事が重要だった。
「じゃあ、機体はまだ―――――」
機体の損壊率によっては、OSだけ、ビィだけを回収できるかもしれない。希望は、まだあるのかもしれない。
「残念だけど、動力炉とちょっとくらいしか残ってなかった。使える物も少ししかなかったよ」
「そう・・・か」
一縷の希望を感じたが、やはり現実は厳しい。機体は残っていても、外側の張りぼてが残っていても意味は無い。
「で、これね。残ったパーツで作ってみたから、あげるよ」
渡されたのは手のひら大の通信端末の様なもの。装甲を使ったのか、表面の手触りは悪く、無理やりその形にした印象だった。
「これは・・・」
「発電力は弱いけど、永久バッテリーとスピーカーはおまけしとくよ」
見れば、内部にスピーカーが内蔵されているようで、音が出るように穴が開いていた。
箱の横にはボタンが付いていたが、色々と押してみるも反応はない。これはただの、ボタンが付いたガラクタの箱だ。
「こんなもガラクタ受け取っても、あいつは―――――」
『やぁん、秋ちゃん指使いえっちぃよぉーうへへ』
聞こえた聞き慣れた電子音声。それが、渡されたガラクタから発せられた。
「ビィ・・・?」
確証はなかった、この喋った電子音声は、あの子と同じ音声パターンで、性格で、私の名前を覚えているだけの全くの別物かもしれない。
『えへー。ビィちゃん、なんとか生き残れましたぁ』
「・・・ばっかじゃないの、あんた・・・」
この間の抜けた返事が、何よりの答えだった。OSに生命があるのかは不明だが、それでもビィは生きていた。
『うへへー、秋ちゃんの泣き顔頂きましたー。あ、カメラないから撮れないや』
「泣いてなんか・・・ないわよ・・・ばか・・・」
『・・・ごめんね』
何故だ、何故こんなに視界がにじむのだろう。声が掠れてしまうのだろう。ただ、相棒と再会出来ただけなのに。
秋はその後も声を殺して泣き、放心状態になっていた。暫くはそっとしておくべきだろう。
「モガリのおっさん、あんがとな」
「いやいや。でも、操縦席も相当壊れていたんだけど、ギリギリOSの部分だけ残っていたんだよ。あの爆発にこれだけ耐えられたのは説明つくけど、あんまりいいたくないけど奇跡だよ、ホントに」
『いやー、あの時は必死だったからね。あ、でも秋ちゃんとアオイちゃんにもう一回会いたいなーって思ってたら、ここに来れたんだ。でも、モガっちすげぇんだよ。ぱぱぱーっと私回収してこの形にしてくれたんだ。感謝してるよー』
「そりゃどうも。でもちょっとおじさん、お礼が欲しいかなって」
『あ、私アオイちゃんの二号なんで』
「え、アオイ君愛人持ちなの!?うわー」
「違います!」
泣きの余韻を晴らすために俯いていた秋は、肩を震わせてこっそり笑っていた。
私の復活まで少しかかったが、モガリはそれを待ってくれていた。
「もう大丈夫です」
「よぅし。感動の再会が終わったところで、本題に入ろう」
膝を一つ打ち、空気が引き締まる。これから始まるのだ。世界を救う戦いが。
「僕はこの炉を臨界させる準備を始める。君たちはポッドを修理してであの穴から地下に行くんだ。元々地下に行くつもりだったんだろう?」
あまりにも単純な計画。これ以上の無駄はない。だが、問題はある。
「ちょっとまてよ!俺達はいいとして、あんたはどうするんだよ!」
あのポッドは子供二人とおまけで定員ギリギリだ。大人一人が入る隙間はない。
「僕は掘ってきた穴に入ればいいだけさ。ちょっと進めば爆風にも耐えられる」
一応計算してみるが、彼の言うとおり爆風はこの空間だけを破壊し、奥の空洞までは影響は出ない。また、洞窟の内部の岩盤も頑丈にできているため、崩落の危険性も少ないだろう。
「それじゃ、世界、救っちゃおうか?」
モガリが右拳を突き出したので、全員同じように右拳を突き出し合わせる。
「ああ、やってやろう」
だが、洞窟内にひとつ気になるデータを秋とビィは発見する。
この事実をモガリが知らないわけがない、だが視線を合わせたモガリは黙って首を振って作業を開始した。
「とは言っても、俺達逃げるだけなんだよな・・・」
三人と一つは脱出ポッドを改造し、地下に降りる準備をしていた。改造とはいうものの、雨蜘蛛の装甲を貼り付け、破損した部分を補修するくらいだが。
「仕方ないでしょ、動力炉の制御は難しいから任せるしかないのよ」
『ぐぬぬ・・・この私が全力さえ出せればあんなもの・・・』
「ほれほれ、手が動いてないぞー」
動力炉の制御は複雑化しており、モガリが持っている端末でしか操作できない。秋にも一応は可能らしいが、演算と操作を行うためのソフトウェアは邪魔だからと削除していた。通常は、機体と操縦者が演算処理を分散して行うらしい。
加えて、現在のビィはバッテリーの性能によって機能をかなり制限されており、演算能力は大幅に制限されている上に、センサ類もほとんど積んでいない状態だ。
「だってビィだけでもできるし、いらないかなーって」
『秋ちゃんが私を頼ってくれるんだよ!そりゃあ頑張りましたとも!』
「秋ちゃんさ、それOSに結構負荷かかるから今度からやめてね」
「え、嘘・・・。ねぇビィ、それホント・・・?」
『え、ちょっと熱暴走気味だなーって思ってたけど、それが原因かな?』
「そうだよ。壊れなくてよかったね」
「う・・・気をつけます」
「わかればよろしい。ほい、できた。あとは逃げるだけだ」
脱出ポットを一つ強めにたたき、鈍い音がする。
ポッドには簡単だが推進装置も雨蜘蛛から拝借し取り付けてある。これがあれば最低限進むことができる。
『あんがとねモガっち。あ、ついでに聞いときたいんだけどさ、地下ってどんなとこ?』
「どんなって・・・僕は穴しか掘ってなかったようなもんだからなぁ。まぁあんまり良い所じゃないよ」
『ふーん。それでも、地上の荒野よりはいいかな?あそこ、何もなくなっちゃうし』
「でも、着いた頃には雨もなくなって、戦争も規模が小さくなる。昔の話を聞いてもあんまり意味ないかな」
「それもそうか」
「さ、乗った乗った。時間ないぞー」
言うと、モガリは向こうへと走っていった。水晶の共振は始まっていないが、何時始まるか不明だ。その前に終わらせたいのだろう。
でも、その前に御礼の一言を言っておかなければ。
「モガリさーん!ありが―――――」
言い終わる前に、脳内で目眩がするほどの警報が鳴り響く。これ、は。
「モガリさん!上!」
「は?」
モガリが見上げた場所には結晶と天井。だが天井が割れ、そこから雨の結晶体が降ってきた。場所は、モガリの真上だ。
これも、偶然か。いや、これは必然だった。
結晶が共振した時のみ、雨は本当に降るか。だが、共振しなくともそこに結晶があれば、雨は降るのではないのか。ここに居れば、共振しなくとも奴らは襲いかかってくる。
気づくのが、遅すぎた。
「秋!もってけ!」
モガリは逃げずに、動力炉とそれを操作するスイッチをこちらに投げた。逃げても意味が無いと、モガリはそう判断したのだ。
スイッチがこちらに届く前に、結晶体が着地した。その足元に居たモガリは―――――。
だが、モガリの安否を確認する前に、その床ごと踏抜け、さらに下へと落ちていった。
「モガリさん!」
「おっさん!」
『モガっち!』
結晶体が踏み抜いた穴に叫ぶが返答はなく、自分の声が響くだけだった。
踏み抜いた穴は深く、底が見えなかった。やがて、底から勢い良く風と青い光が吹き出す。
結晶体が、爆発したのだ。
「嘘だろ・・・なんで・・・」
アオイの疑問はわかる。だが、今はやらねばならないことを託された。手元のスイッチを確認し、破損していないことを確認する。
「アオイは先に行って!わたしがやる!」
「お前・・・はどうするんだよ!」
「私はモガリさんの作った道の方に行くわ。大丈夫よ」
『でも、秋ちゃんそれって―――――』
洞窟内の見ないことにしていたデータ、それが本当ならば―――――。
「いいから行って!早く!」
「・・・わかった」
『アオイちゃん、秋ちゃんは―――――』
「行って!結晶体がくる!」
秋がいうことは正しい。いつさっきと同じように結晶体が降ってくるかわからない。
早くしなければ。
「でもな、生きて帰ってこいよ」
「・・・わかってるわ」
「ビィ!行くぞ!」
『・・・わかったよ!秋ちゃん、約束だよ!』
脱出ポットに入り込み、シートに身体を固定する。
即席で作った推進器のスイッチを押し、推進器を点火。全身を始める。
振り返ると秋がこちらを眺めつつ、手を降っていた。
それを脇目に、穴へと飛び込み、地下へと向かう。
「生きて帰って、か」
手元の動力炉とスイッチを見るが、何度見てもこれは有線ケーブルでつながっており、おまけに短い。遠隔操作で押すことができればまだ生還の可能性はあった。
だが、有線であるということは、元々ここで自身もまとめて吹き飛ばすつもりだったのだ。
「ちょっと、難しいかな」
しかし、生き残ると約束した以上、できることはやる。
スイッチを押し、備え付けられたセグメント液晶が3を示す。猶予は、三秒。
全身の筋肉を戦闘用に変更し、反応速度と筋力を限界まで引き上げ、同時に爆発の威力を計算し、最も影響の少ない場所を導く。二秒。
筋肉の変更により演算能力が下がっているが、それでもコンマ三秒で計算を終える。もっとも影響が少ない場所は、先ほど結晶体が開けた穴。そこに飛び込めば爆風の影響が最小限になる。
動力炉ごと真上に投げ、そしてそのまま雨が開けた穴に飛び込んだ。だが、飛び込んでもこのまま下の地面に叩きつけられて死ぬ可能性もある。それでも、爆発に巻き込まれれば間違いなく死ぬ状況よりは、いくらか生き残る可能性がある。一秒。
飛び込み、穴の壁際に沿って落下、爆発に耐える事と地面へ激突した際の対ショック態勢を取る。ゼロ。
頭上で動力炉が臨界、空間がプラズマに満たされ、炸裂した。
しかし、それだけでは済まなかった。雨の所為で開いた穴は、衝撃によってもろくなっており、岩盤が崩れ、空洞も全て巻き込んで崩落した。
アオイ達が先に行ってくれたおかげで、彼らには振動などは伝わるだろうが、影響はないと言っていいだろう。
だが、自身への影響はどうやら少なく見積もりすぎていたようで、爆風に巻き込まれ、岩肌に激突し、吹き飛んできた岩が殺到し、腹を貫かれ両足を潰される。
「―――――!」
眼前が痛みにより真っ赤に染まり、何も見えなくなる。
その影響により、システムが自己保護のプログラムが実行され、強制的にシステムをダウンさせ、今度は目の前が真っ青になる。
ごめん、約束は守れそうにない、かな―――――。
その言葉も残せず、秋は稼働を停止した。
「うわ!」
降下している脱出ポッドの中でも、頭上で爆発が起きたことを感じた。秋が炉を爆発させることに成功したのだ。
自分が思っていた爆発より規模が大きく、不安がよぎるが、秋はきっと無事だと信じる。
「やったな・・・秋」
これで、地上の雨もなくなり、戦争もおわる。それなのに―――――。
『もう、雨とか戦争とか、どうでもいいじゃない・・・!』
「ビィ・・・?」
ビィは秋の無事も、この先の事も何も考えずに自暴自棄になっていた。
『アオイちゃん、なんで秋ちゃん止めなかったのよ!いいじゃない、雨があったって!戦争したままでも!』
「ビィ!ちょっと落ち着けよ!」
『だって!あんな装置で逃げられるわけないじゃない!』
あんな装置とはモガリが託したものだろう。モガリの装置に何か不備でもあったのだろうか。
「どういうことだよ、それ」
『わかんない?モガリさんは元々あそこで自分も巻き込んで爆発するつもりだったんだよ。秋ちゃんが持ってたの、あれもう自爆スイッチだよ!』
「だって・・・奥の洞窟に逃げれば大丈夫だって」
『あれね、嘘なんだよ』
「嘘・・・だって」
『あの洞窟、奥は崩落しちゃってて、逃げ道なんかなかったんだよ』
「じゃあ、秋は・・・」
『・・・』
「何とか言えよ・・・ビィ!秋は帰ってこれるんだよな!」
『・・・もう・・・わけわかんないよぉ・・・』
「秋・・・!」
雨の結晶が爆破した衝撃で、母艦も少なからず影響が出ていた。
潮流の変化、衝撃による損壊、生産していた食料がダメになったなどなど。
次々と被害報告が上がり、その全てに司令として目を通しておく必要がある。もちろん、損壊箇所は命令がなくとも修理が始まっており、八割以上修復している。
「次は・・・飛んできた牡蠣が外壁に刺さっている、か。修理ロボットも今は出せないからこれは保留だな。次・・・倒れてきた本で骨折・・・?あいつ、あれほど固定しとけっていったのに・・・こいつは謹慎だな」
被害報告が五月雨式に報告され、全てを確認、既読状態にした上で処理する。
「意外と多忙なんですね」
することもなく咲は椅子に腰掛けまんじりとしていた。出したコーヒーにも手を付けていない。
「そうよ。なんたって、私の艦で、家族だもの」
「地下の家族を放り出して、得た家族の方が大事ですか?」
「・・・あの時は、そうしたほうが安全だったのさ」
報告を読む手を止め、咲と向かい合う。
「貴方の言う安全は、教団の地下で息子と義娘を監禁することなんですか?」
「そうしなきゃ、殺されてたわ」
「そうしなくても、あの人達は死んだわ」
「・・・」
「二ヶ月前よ。私も聞いたのは最近だから貴女も知らないことでしょうね!」
「・・・そうかい」
「あの人達をなんで説得してでも連れて行かなかったの!そうすればあの人達は死なずに、貴女みたいに生きてたんじゃないの!」
咲はさらに続ける。
「私は必死に自分が何者か調べた。でもそのためには、教団の力が、生き残ることが必要だったの。その結果がこれよ!両親は死んで、貴女は裏切り者!答えてよ!」
「・・・あの子達はね、私を自由にしたかったと言ったよ」
「は・・・?」
「当時の私はね、人を活かそうとするので手一杯だったんだ。その上で、あいつが裏切って、追い出された。その時一緒にあんたの両親も追い出されたんだ」
「嘘・・・つかないでよ」
「でも、政府は私を政府のトップに祭りあげて、教団と対決させようとしたんだ」
「そんな・・・そんなこと・・・」
「その時にあいつらは、自分たちは教団のスパイだって言ったのさ。そうすれば、私もスパイじゃないかって疑われて、そんなやつをトップに置けないだろうって」
「私は反対したけど、すでに動いていてね。あれよあれよと、捕まって尋問の毎日さ。いつしか拘束し続けるのも問題になってね、私を海に出すことになった」
「待って、父さんと母さんは」
「拘束されたままだった。だから、教団側にこっそり言ったのさ。政府が拘束している夫婦は教団の重要な情報を握ったままだって」
「教団に救助を依頼する形になったけど、これが最善だと思ったよ。結果的に、教団に監禁される生活になったけど、不自由はなかったみたいだよ」
引き出しから一通の便箋を取り出す。書いてある字は息子、咲の父親のものだ。
「これって・・・父さんの」
「教団に監禁されて何日か経った頃に貰ったやつだよ。不自由なくやってるって書いてあった」
「そんな・・・だったら、なんで私に何も・・・」
「あんたは教団に預かって貰って、戦いに一切触れさせないようにしたんだ。私達とのつながりを一切伏せてね。そうしないと、あんたまで無駄に狙われる。だから、その関係を知られたくなかったんだ」
「じゃあ・・・私は・・・」
「あんたは、あんたの生き方を選んだだけだよ。私は、あんたが元気でさえいてくれれば、それでよかった」
「・・・意味分かんないわ」
「そうだろうね。私の心のことだから」
「・・・わかんないわ」
空洞を爆破してから数日が経過した。
あの後、ポッドは無事に地下に難着地に成功し、生き残ることができた。直後に司令から命を受けた人間が保護しに来た。元教団の人間で、司令官の友人らしい。教団の名にかなり抵抗があったものの、贅沢は言えない。
教団には保護と名の監禁を受けたものの、投獄などされずに一軒家をあてがわれた。それも司令官の働きかけだろう。
同時にビィのデータも即席の箱から、通信端末付きの物に移し替えられた。
本人新しい入れ物を気に入ったようだが、あの箱もしっかりと保管している。モガリとの、秋との思い出の品だ。
暫くはこの一軒家に住ませてもらい、戦況が落ち着いてきた頃に司令官の元にゆく手筈になっていた。加えて、司令とは端末で通信することができた。
『アオイ君、無事で何よりだわ』
「はい、ありがとうございます」
『私も元気ですよっ!』
『それは何より。こっちはちょっと大変だけど、皆無事だから安心して』
通信端末から見る司令はやや疲れた顔をしていたが、会った時の精気はそのままだった。
出発してから数日のことだが、聞きたいことは山ほどあった。
「あの教団の人はどうなったんですか?」
『あいつは説教して返したよ。若いもんの教育がなってないね』
「それは僕に対してもですか・・・」
『そうだね。特に女関係とか』
「勘弁して下さい・・・」
『で、説教はまた後だ。今度はあんた達の話だよ』
「はい」
結晶体との戦闘、地下空洞のこと、モガリのことを話すが、会話の中に秋の事を含むのを意図的に避けてしまった。司令はその内容をゆっくりと聞き、自分の中に落としこんでいた。
『そうかい・・・そのモガリって男、なかなかいい男だったみたいだね。で、だ』
司令は一旦言葉を切り、いう言葉を探しているようて、やや間を開けて続けた。
『秋は、どこだい?』
「秋は・・・その・・・」
『・・・死んだのかい?』
「違います!秋は・・・秋は絶対に生きる・・・と思います」
言っているうちに自身が無くなりそうだった。秋の事について話すのはなぜだか情けなかったからだ。知らなかったとはいえ、止められなかったのは自分だ。それでも、真実を伝えなければならない。
先の会話で外していた秋の事を全て話した。そして、最後に行方不明とした。
まだ死んでいると決まったわけではない。
『・・・わかった。秋のやつ、やりたいようにやったんだね』
「僕は、止められませんでした」
『いいんだよ。それも含めて秋の勝手さ。その勝手を許しただけさ。でも―――――』
一瞬司令の顔が曇り、言葉を切った。
『一言、なんか言ってくれればよかったのに』
その一言に、何も言えなかった。自分たちにも欲しかった、だがそれ以上にこの人に言うべきことはいくらでもあったんじゃないか、秋。
「なぁ、ビィ。お前は秋がこれで満足したと思うか?」
司令への報告が終わり、地下の街を散策しつつ、疑問が持ち上がる。
『・・・思わない』
「だよなぁ」
あいつは、希望を抱くことも、絶望を見出しもせず、生きようとしていた。同時に、だれかを生かそうともしていた。だが、それで自分が死んでしまっては元も子もない。
「とっとと帰ってこいよ、馬鹿野郎」
あの爆発の後、地上を観測すると雨は降るものの、破壊的なほどの雨量は観測されなくなった。
さらに、楽観視はできないものの雨の結晶体もぱったりと出現しなくなった。
それに呼応してか、教団は方針を雨の打倒に全力を尽くし、地球を再生する方向に転換した。
身代わりが早過ぎる上に、あのレポートを教本として売り出しているのだから呆れて、開いた口が塞がらない。
だが、これに従えない者が新たに規模は小さいが反抗活動を開始し、戦火は少しだけ縮小しただけだ。まだ戦争は終わらない。
それでも、秋とモガリさんが成し遂げたことは確実に成果を出していた。
人の全滅を避け、雨を根絶やしにして、戦争をなくす。彼女達は狙ってやったわけではないが、人の希望となった。
そのせいか、彼女を英雄に祀り上げ、教団の偶像にしようとしているらしい。バカバカしいにも程がある。まだ彼女が死んだわけでは無いし、なおかつモガリという人物の犠牲があったことも知っておいて欲しい。
しかし、地下ではそんなことなど知らない者も多い。中にはまだ戦争が続いている者さえいるのだ。
だが、一番驚かされる物は
「なぁビィ、あれって」
『あれって・・・うわぁ・・・』
見つけたのは既に完成しそうになっている、秋の姿をした石像だった。
大層にも裸婦像にし、おまけに何故か羽まで生えており、まるで彼女が辱められている気がしたので目をそらした。
だが、これも仕方のない事だった。今まで絶望を見出し、希望を得ようとしても得られなかった人間が、そこにある希望の塊の様な存在に縋らないわけがない。
ましてや教団の公認だ。こうなってしまうのは当然のことだった。ただし、本人の公認ではないが。
「これを秋が見たら、どう思うだろうな・・・」
『多分、壊して回ると思うよ。念入りに。もしくは作りなおさせる』
「どんなふうに?」
『これよ、これ』
ビィの画面に、お世辞も出ないほど均整のとれた女性が写される。秋とは似ても似つかない。
「だれだ、これ・・・?他人の姿を作らせるのか?」
『違う違う。これね、秋ちゃんバージョンいち。昔の秋ちゃんだよ』
「は!?」
『そいでこれが最後に撮った・・・今の姿。バージョンさん』
対比するように、先ほどの姿の横に今の姿が並べられる。今の姿は、最後に雨蜘蛛に乗った時の写真で、自分と秋のツーショットの様になっていた。いつの間に撮ったんだ。
「いや、別人だろ・・・これ」
『だよねー』
並べてわかるが、顔のパーツも何も全てが全く別物だ。これを同一人物とはとてもではないが言えない。
『秋ちゃんってさ、この姿になる時に全部のパーツとっかえたんだよね。そこまでしなくてもいいと思ったんだけど』
「そうか・・・」
二人の秋、両者とも秋であることに変わりはないが、容姿はまるで別人という不思議な状態だ。
『で、アオイちゃんはどっちが好み?やっぱり大き方?それともちっちゃい方?』
「・・・秋は、秋だろ」
『お?それって、遠回しなプロポーズ?いやん妬けちゃう!』
「生きて、くれてたらね」
『そう・・・だね』
ビィの言葉も、アオイの言葉もふわふわと宙を漂い霧散した。秋が居れば、この言葉も宙に浮かずに済む。だが、それは叶わないかもしれない。
こんな気持になるのならば、いっそ秋のそばに居続けてやるべきだったと少し考えもする。
今の心には秋が居ない虚無感しかなかった。
「行くか」
『うん・・・』
秋の石像は今も着々と完成してゆく。だが、数年もすれば地下は放棄され、再び人は地上へと上がり、十数年もすれば秋の事も忘れてしまうだろう。それまでの、偶像だ。
彫られた秋の顔はなんとも言いがたい悲しそうな表情をしていたが、このような顔をしたことはない。いや、するはずがない。秋はもっと―――――。
『危ない!』
ビィが叫ぶのと同時のことだった。見上げていた秋の石像が、ゆっくりと傾き始め、倒れはじめる。石像はかなり大きく、5メートルほど。下に人がいれば間違いなく潰されてしまうだろう。
ビィの声に反応し、作業をしていた者達は何事が起きたのか振り返りながら、蜘蛛の子を散らすようにその場を離れた。
避難が完了するのと掃除に、ゆっくりと石像は倒れ、原型がわからなくなるまで粉々に砕けた。
「いったい、何が・・・」
風に煽られ建造物は倒れたりする場合があるが、ここは地下のためその可能性はない。地震かとも思ったが、自分たちは全く揺れては居ない。ならば、何が。
その原因は、石像の真下にあった。否、その原因は上がって来た。
それは人より少し大きいほどの、白い箱。それが、蝉の幼虫が上がってきたように土を押し上げて出てきた。
「これは・・・」
『輸送用のカプセルじゃん!』
地中から上がってきたのは、地上へ物資を輸送するために使っていたカプセルだった。
だが、今になってなぜ。ここは地下で、輸送するものもないはずだ。
その間もゆっくりとカプセルは上昇し、完全にカプセルは地面から露出した。
だが、突如カプセルが揺れ、中から音が聞こえ始める。だが壁が厚く何の音かは判明しづらい。
音は暫く続いたが、しばらくすると静かになった。これは、カプセルの中に何かがいるのか?
一歩踏み出し、カプセルに近づく。
『アオイちゃんやめとこうよ!きっと地底人の侵略だよこれ!』
そんなことはあり得ないと思うが、確認せずには居られない。
カプセルまであと一歩のところまで近づいた瞬間、カプセルは突如外側に向かって凹んだ。
咄嗟に凹んだ箇所から横に飛ぶ。ビィの言う通りやはり、地底人?
だが、凹んだ形状をよくみると、人の拳の形に凹んでいる。それも、子供だ。
考えている間に、凹みは増えて行き、数えて六回目の時
「おちゃー!」
中に居た者の掛け声と共にカプセルの壁がはじけ飛んだ。接合部分が耐え切れなかったのだ。
だが、重要なのはカプセルのことではない。その声の主だった。
「うー・・・やっと出れたぁ・・・」
中からした声は、間違い様がない。だが、声はしてもカプセルから出てこない。
「秋!」
カプセルの中を覗き込み、彼女の名を呼ぶ。まだ確証はもてない。同じ声のロボットの可能性もある。
「あーアオイだ。やっほ」
声に反応し、片手を上げた姿は間違いなく秋だった。石像にあった悲しそうな顔ではない、柔らかな笑み。これが秋の顔だ。
ただし、両足を失くし、着ていたスーツはほとんどなく、肌が露出し、腹にはこぶし大の穴が開いており、そこから液体が流れ出ていた。その光景に一瞬目を伏せてしまった。惨すぎる姿だった。
『秋ちゃん!・・・てかアオイちゃんは見ちゃダメ!』
「み、見てねぇよ!」
正確には見たが、そんなことを言っている場合ではない。
「うわー裸見られちゃったわー。これは責任とってもらわないとダメだわ―」
「責任とか言ってる場合じゃないだろ!」
カプセルに入り込み、ひとまず自身の上着を秋に掛ける。こうでもしなければビィがうるさい。
「大丈夫だってさー。このくらいじゃ私は死なないよ。それよりおぶってよー、歩けないよ―」
両腕を伸ばし、アオイを招く。
「ビィ、これは大丈夫なのか?」
『うん。秋ちゃん達はおつむさえ大丈夫だったら、まず死なないよ』
「はーやーくー」
「わかった、わかったからおとなしくしろ」
秋に導かれるまま、秋を抱えようとするためにかがむが、伸ばした手で逆に秋に抱かれ、そのまま唇を押し付けられた。
突然のことで全く反応できなかった。
人工血液独特の甘い香りと、秋の香りが混じり、鼻孔に流れてくる。酸欠と相まって、目眩がする。
『うわっうわっうわーっ!秋ちゃん、その抜け駆けは反則だよ!』
ビィの反応を鬱陶しくしながら、キスを終える。そして閉口一番に
「抜け駆け?ちがうよ。これは、責任とってもらっただけ」
「秋、お前・・・」
「違うでしょ、アオイ?あんた、誰かが帰ってきたらそんな反応するの?」
秋が求めているものがなんとなく理解できた。それは責任でもなく、行動でもない。
「おかえり」
その一言だ。その結果に満足したのか、再び抱き寄せられる。
今度はキスはない、言葉にはキスで返答をするものではない。耳元で答えた。
「ただいま」
秋はあの爆発の直後、以前回収に失敗したカプセルが地中に埋まっているのを見つけ、それに乗ったらしい。中の燃料などは廃棄し、非常食もあったのでそれで食いついないでいたらしい。
だが、制御盤が狂っており、地下にも地上にも出れず数日間地中をさまよっていたという。
「爆風で飛ばされてさ、もう死ぬんじゃなかいって思ってた。でも、ビィじゃないけどさ、あんたにまた会いたいって思ったらさ、カプセル見つけたんだ」
「うん」
秋を抱え、ひとまず家に戻ることにした。秋の損傷が酷く、なるべく早く技師に見て貰わなければならない。司令官のツテで『シルム』の修理技師を家に呼んでいるが、どこまで完全に直るかは不明だ。
「カプセルの中でも電源落ちて、再起動しての繰り返しだった。けど、絶対生き延びてやるって思ってた」
「うん」
「そしたらなんかいきなり止まってさ、もう自力で行くしかないかって思って、カプセル壊したらさ、アオイがいるじゃん。もう天国だと思ったよ」
「・・・うん」
「いや、実際もうここ天国なんじゃない?だれも不条理に死なないし戦争もない。アオイも居るし、ビィもいる。私、夢見てるのかな?」
「夢じゃないだろ」
「じゃあもっかいキスしてよー。そしたら夢かどうか分かるじゃん?」
「断る。てかそんな時って普通痛みのほうじゃないのか」
「酷い!・・・あ、でも断られて心が痛いから、やっぱり現実なんだ」
「悪いけど、これが現実だよ」
「アオイのいじわるー。・・・でもさ、何かこの辺り石像多いけど、そんな芸術性の高いとこなのここ?夢の世界じゃなくてホントに現実?」
「いや・・・ここ現実だけど・・・それは」
秋の質問には返答しづらい。作成している石像はどれも少女姿だが、顔に至っているのは視界に入る範囲では存在しない事が救いだ。まさか、秋の石像を彫っているとは言えない。
どうしたものかと返答に困っていると、横から助け舟が出された。
「それは、貴女の修理が終わったらお話しますよ」
聞こえた柔和な、だが甘美すぎる声に背筋の毛が逆立ち、振り向かざるを得なかった。
「あんた・・・もしかして」
『教団のトップだ!』
そこに現れたのは、今の教団のトップ、その人だった。直で見たことはなかったが、写真では見たことがある。
「どうも、英雄のご一行」
言葉全てに悪意は感じないものの、底が見えないどろりとした粘着質な感触がまとわりつく。
根本的に、俺が触れてはならない人間だと確信する。
「俺達は、英雄なんかじゃない」
「いえいえ、世界を救い、戦争を止めた。充分英雄としての資格はありますよ」
「・・・勝手に言ってろよ」
『そーだそーだ!』
「では、そのように。しかし、資格はありますが名乗るのは貴方達の自由ですので。よければ、その布教に手を貸しますよ?」
「それは結構。私達は、そんな大層なものじゃない」
「それは残念。では、気が変わりましたらご連絡を」
その言葉を残し、仰々しく会釈した上で去っていった。だが、離れると背中にいやな汗が一筋流れ落ちた。あの男は、一体何者なのか。
『なによあいつ!あいつが戦争起こしたようなもんでしょ!なのにお咎め無しなの!』
「・・・終わったことには何も言えないわよ。大事なのはいまからどうするかよ」
『でもさー』
ビィがむくれるのも無理は無いだろう。だが、彼の指導力とカリスマは本物だ。現に、教団側の戦闘の八割以上が彼の一声で止まり、それに惹かれる物は多いだろう。
この戦いが続くことを止めたのは秋だ。だが、この実質的に戦いを止めたのは間違いなく彼である。そして、これから続く戦いを収束させるのも、おそらく彼だ。
その後ろをどこかで見たことのある女性が付いていた。従者なのだとすると、相当の物好きだろう。
「アオイー、はやく行こうよー」
「あ、ああ。わかった」
『でも秋ちゃんいいの?ゆっくり行ったほうがアオイちゃんに抱えられる時間多くなるよ?』
「ビィあんた天才・・・!アオイ、ちょっと寄り道もしていいわよ!」
「じゃあ真っ直ぐ帰るぞ」
「いやだー、もっとこのまま居させてー」
実のところ、アオイ自身悪い気はしなかった提案だった。だが、秋のこの姿は早めに治してやりたいのだ。
誰かが、追いかけてきて背中に呼びかける。
「待って下さい総帥!」
おそらく咲だ。外に出たのがこんなに早くバレるとは思わなかった。
「ふらっと姿を消して、人混みのなかに入るのはやめて下さい!一歩間違えば反抗団体に襲われるかもしれないんですよ!」
「いやぁ、ごめんごめん。外の空気を吸いたくてね」
「それら何か言って下さい!しかも彼らと接触するなんて・・・彼らには謝罪もろもろ含めての場を設けるはずだったんですよ!彼らには―――――」
「いいんですよ。これ以上、彼らに頼ってはいけません。それに、彼らはその様なことも望んでは居ませんよ」
あの『シルム』を偶像にする気はなかったが、どこからか情報が漏れこのような形になってしまったのだ。少々の引け目を感じる。
おまけに内部では彼らを英雄としても祀り上げようとしているのだからたまったものではない。
どうでこの教団も近い将来消滅する。おそらく、私が畳むことになるだろう。
「しかし、咲さん、貴女が居てよかったですよ」
「いえ、私は何も・・・」
教団は方針を転換した。だが、その提案を行ったのは咲だ。
「貴女がいきなり教団の元の姿に戻すと言った時に、私は来る時が来たと思いましたよ」
使者の任務が終わった直後、咲は私のもとに殴りこんできた。文字通り殴られもした。
「す・・・すいません、あの時は・・・」
「いいんですよ。私は、最初から貴女がそれを成すために近づいてきたと思っていました。もちろん私を殺す事も含めて」
「違います!私はただ・・・!」
「ですが、貴女は私を生かした。何故です?」
「・・・総帥、あなたは戦争を始めてしまった。でも、始めたからには終わらせなければいけない。貴方はその責務があるし、私はそれを最後まで見届けなければならない。祖母の代わりに」
「・・・分かりました。でも、たまに私も弱音を吐くかもしれません。そのときは、叱ってくれませんか?あの時のように」
「総帥・・・でも・・・」
「以外と、可愛かったですよ?」
「からかうのは、やめて下さいよ!」
「その調子ですよ。・・・さて、まだ仕事はたくさんありますね」
「でも、やるしかないです」
「一日でも多く生きて、皆を幸せにしてみろ!でしたっけ?せっかくですから、貴女の言葉に従ってみるとしましょう」
「言わないで下さい!」
保護を受けている家に帰り着くと、既に技師が到着しており、部屋の一室で秋の診断と応急の処置をしてもらった。だが、応急処置のため、義足などもないただの止血だ。これ以上の修理は工場で行う必要がある。
処置が終わると、その足で修理を行うために工場に向かうための準備が始まる。ひとまず歩けない秋には車椅子が与えられ、自分で動くことができるようになった。
『秋ちゃんもう行っちゃうの!やだよー女子トークしようよ―』
「帰ったらいくらでもやってあげるから待ってて」
『むー分かった。あ、あとね』
「ん?何?」
二人の会話が途切れる。どうやら秘匿回線での通話だ。数回言葉を交わし、通話が終わる。
「アオイってさ」
「ん?」
会話が終わると、次はこちら。ビィと何を話したのか―――――。
「結局ビィに見せてもらった中で、一番どれが好みだったの?」
「ビィ!お前!」
おそらく先ほどの会話を全部話したのだ。思い出して顔が熱くなる。
『だってぇー、今は秋ちゃんいるじゃん?』
「そうだけどなぁ・・・」
「実はね、今から直してもらいに行くけど、色々機能を制限したらどの姿にでもなれるらしいのよ。で、どうせならアオイの好みの姿になっとこうかなーって。で、どれ系の私が好き?」
「・・・秋は、秋だろ?」
先ほどの答えをそのまま使用する。本心だが、実のところ何も考えていないだけだ。
「ぶー。その答えじゃ受理できませーん。ちゃんと言えるまで私修理受けないよ?」
「何言ってるんだよ・・・」
「さぁさぁ、どれ系よ?」
「うう・・・」
「決めれないなら、こうするまで!」
いきなり胸ぐらをつかまれ、寝室に連れ込まれた上で、ベッドの上に投げ飛ばされる。
『秋ちゃん・・・!これはまさか・・・!』
「その通り、身体に聞くまで!」
「秋!お前本気かよ!」
『うおー!秋ちゃん流石っす!』
「でもビィには刺激強そうだから電源切るねー」
『いやー!秋ちゃん酷すぎ・・・あんっ』
電源を切られビィは沈黙する。こうなってしまうと為す術はない。
「さて、アオイ。これから君がどうなるか、わかるね?」
「わかんねぇよ!」
「今から君の身体をくすぐって、正直な気持ちを吐くまでやめません。泣こうが喚こうが、やめません」
「や、やめろ・・・!」
「いざ!」
「やめろおお!」
「すぐ戻ってくるから、浮気なんかするんじゃないわよ―!」
「わかったから、さっさと行けよ・・・」
あれから数時間、本当に白状するまで秋にくすぐられ続けた。
『で、アオイちゃんはどの秋ちゃんを選んだの?』
「・・・全部」
『欲張りー!でも、それってできるの?』
「身体の換装は何時でもできるらしいから、成長するみたいに身体をちょっとずつ変えていってもらうようにした」
『へー。だったら今回は、ちっちゃい秋ちゃんのままなんだ』
「そうなる。それで、俺と一緒に成長して生きていこうってなった」
『でも、秋ちゃん『シルム』だよ?人工生物だよ?それでもいいの?』
「だからだよ。それも含めての秋だから」
『ああん、もう二人の間には誰も入り込めない・・・!完全敗北だ!あたし!』
「わかったわかった」
これから先、希望も絶望も見ることになるだろうし、時には決断を迫られる事になるだろう。
でも、生きていくことを、生き残っていくことを考えて生きて行けば、必ず良い方向へと向かってゆくだろう。
だからこそ、秋と一緒に生きていくことを決めたのだ。彼女と共に居れば、生きてゆくことも生き残ってゆく事も可能な気がする。
人は、人以外の存在も、生きているのだ。生き残るために。




