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犠牲。

作者: 洒落耕米

 ある生物学者の発見は、全世界を大混乱におとしいれた。


「地球上のほ乳類は、ほぼ人類と同じ知能、感性を持っている」


 つまり、食用にしていた牛や豚でさえ、イルカや鯨とさほど変わらぬ高度な知能を持っていたのだ。

 では何故、それが人間にわからなかったのか。突き詰めていけば、人間の「思いこみ」に過ぎないと言うことなのだろう。本来なら、悲鳴や呪詛の声として聞こえていたはずの声を「知能が低いから」と言い訳をして聞こえない振りをしていたのだから。


 ともあれ、それまではイルカや鯨の保護を声高に叫んでいた団体は、何故か自分らが毎日のように食していたステーキや豚カツの素材さえも保護しなければならなくなった。意志疎通が出来た動物たちから、莫大な慰謝料と自分らの権利を要求される。今まで大虐殺をしてきた人類に、申し開きができようはずもなく、結果とんでもなく奇天烈な制度が生まれた。


「本年の知能テスト最下位は、イルカとなりました。そこで今年はイルカを中心とした食生活を送るようにお願いいたします」


「えーっ、母ちゃん、去年もイルカだったじゃない? もう僕、食べ飽きたよ」

 テレビのニュースを見ていた子どもが文句を言う。母親はため息をついた。

「仕方ないでしょ? お前、人類が最下位だったら、何百万人の人が死ぬんだよ」


 そう、つまり年に一回、ほ乳類は知能テストを受け、受けた類の中で最下位だった動物だけが食用として利用できるようになったのだ。


 しかし。


 それまでイルカを保護してきた団体は、建前上でもそれを許すことができない。

「イルカを殺すぐらいなら、我々が食用になろう」

 そう言って、イルカ保護団体は全滅した。


 その次の年は、牛だった。

「牛を殺すぐらいなら、我々が食用になろう」

 それまで存在すらあまり知られていなかった、食肉牛保護団体が全滅した。


 その次の年は豚だった。

「あの愛らしいぴーちゃんが死ぬぐらいなら、我々が食用になろう」

 ピンクの子豚がトレードマークの、豚保護団体が全滅した。


 そして。

 ついに人類が最下位となった。


 しかし。


 人類を保護してくれる団体は、どの哺乳動物も作っていなかったので、人類はあっという間に全滅した。


「地球上のほ乳類は、ほぼ人類と同じ知能、感性を持っている」


 確かにそうだったのかも知れない。

 しかし、その生物学者は、人類と哺乳動物との大きな違いを発見することは、出来なかったのだ。


 自己犠牲、と言う名の違いを。


<終わり>

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