再び家族に迎えられる経緯としましては、
「家族っていいと思わない?特に兄弟っていうものはこの世で一番美しいものだ。美だよ、美。もうこれは芸術の域といってもいい。鑑賞にし得る唯一のものだよ。だけど、この世の中にはそれをなんとも思わない奴らがいる。必要さえないものだと思う奴らがいるんだ。捨ててしまうものがいるんだ。傷つけてしまうものがいるんだ。殺してしまうことがあるんだ。まあ例外に、愛してるあまりに殺してしまう、なんてのもあるけど。それは例外として置いておいて。家族を愛さないなんて、信じられるかい?俺は信じられない」
そう、目の前の男の人は至極残念そうに呟いた。
グレーのスーツに黒髪、まるでホストのような雰囲気。ぼんやりと眺めていたら、目の前の男の人の後ろにもう一人男の人がいた。後ろの男の人は、白髪にゆるいニット、どこか妖しい雰囲気を漂わせていたが、呆れたように肩をすくめていた。目の前の男の人の話を常日頃から聞かされているのだろうか、うんざりだ、とでもいうような態度だ。
私は曖昧に頷く。
すると、目の前の男の人は嬉しそうに笑って私の濡れた髪をさわる。
「君はイイ子。俺なんかの話、みんなどーでもいいからって聞いてくれないんだもん。君はとても優しい子だね。思った通りだ」
私はとても怪しいと思っていますが。
先ほど降った雨でびしょ濡れになり、道路の隅っこに座り込んでいた私に手を差し伸べる人なんていないと思ってた。いるとしても、体目的で拾ってくれそうなおじさんとか補導をしている警察とかそんなものぐらいだと。
前者ならそれでもいいか、と思っていた。意地でも生きてやろうと思っていた。後者であれば、逃げなければ、と思っていたが。捕まる訳にはいかないのだ。
私はもう家には戻れない。家族なんて知らない。
「お前、家出なの?帰る場所は?あんの?」
後ろの男の人が、めんどくさそうに聞く。
帰る場所。
それはあの家なのか。
あの家なら私はもう戻る場所なんかない。
帰る場所なんてない。
「……、ない」
そう呟くと怪訝そうに眉をひそめたが、私の血にまみれた手を見て、納得したように目の前の男の人に目配せをする。目の前の男の人は、苦しげな表情を見せた後、少し微笑んだ。
「痛い?」
「痛くはないよ、かすっただけ」
血にはまみれているけど、そんなに傷はひどいものじゃない。雨で一度綺麗に血は流れたものの、ぶつけてしまい、新たに傷口が広がっただけだ。つけられた傷はひどいものではない。
むしろ家に置き去りにした妹が少し心配。
まあ、妹は大丈夫か。好かれていたから、きっと平気。
嫌われていたのは私だけ。刺されそうになったのも私だけ。
頭をよぎるのは、鬼みたいな顔をした母の顔。
急に包丁を取り出して振り回し始めたのだ。
それはいつものことだった。
でも、それを振りかざされたのは初めてで。
殺される、と思った。
さすがに慌てて家を飛び出して。
もう戻れない。
目の前の男の人が言うように、私の家族は私を必要としなかった。殺してしまおうとした。例外である、愛してるあまりに殺そうとする、なんて一番程遠い。
「俺らの家族になる?」
「……かぞく?」
ぽつり、呟く。
家族って血の繋がりが必要なんじゃないの?
私が考えていることが分かるのだろうか。目の前の男の人はにこやかに続ける。
「血は繋がっていないけどね。でも、家族に必要なものは家族であるという気持ちだ。気持ちで繋がればいい。俺は歓迎するよ」
ね?と目の前の男の人は、後ろの男の人を振り返る。
後ろの男の人は、私を見て一つため息を吐いた。
「しゃあねーな、まあ今更一人増えるぐらいどーってことねえよ」
「じゃあ、決定だ!かわいい妹が増えてうれしいなあ」
いいの?
嫌われない?
私は捨てられない?
邪魔じゃない?
家族に、してくれるの?
「殺したくなるぐらいに愛してあげる」
目の前の男の人は、やわらかい微笑みで私の顔をのぞき込む。
そっと伸ばされた手に自分の手をのせた。
それは、とても暖かかった。
元のネタには、この後家に行った彼女は家族全員からべたべたに愛されるという流れがありました。学校でいじめられたら家族全員が乗り込んでくるとか。毎日誰かが添い寝しに来るとか。そう、連載ネタです。どんな設定。誰得な話。
目の前の男の人は、長男。後ろの男の人が次男。後、三男と長女がいる感じでした。みんな寄せ集めの家族。でもとっても幸せです。