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近衛戦記  作者: 島隼
第二章 ダルリア・セシル同盟
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第一話 西方師団砦

 元老会議の日から二日後、ダルリア王国の西にあるセシル王国の国王一向が、同盟の儀に参加するために国境の代わりとなっているラーナ川を越えてダルリア王国へと入った。

 国境よりダルリア王国内の先導には、ダルリア王国騎士団の東西南北にある方面師団の一つ、ダルリア王国の中央にある王都ルキアより西側の防衛を担当する西方師団の三小隊があたっている。

 そして、セシル王国一行のダルリア王国での最初の宿泊地である西方師団の砦では、王宮から派遣された侍従や文官と西方師団の団員達が一行を出迎える準備に勤しんでいた。

 西方師団の砦は国境と次の宿泊地である観光都市リーフポートのちょうど中間に位置し、街ではないが四階建ての強固な石造りの砦であり、この周辺ではもっとも安全に宿泊出来る場所としてウォルトが指定した。本来他国の人間を王国騎士団の砦に入れることは無いが、同盟を組む相手として信頼の証を見せる意味も兼ねている。


「エルス師団長、間もなくセシル王国の一行が砦に到着します」

「――わかった。砦にいる大隊長達に迎えに出るように伝えておけ。俺も出る」

「かしこまりました」

 日が沈んで間もなく、砦内の執務室にいる西方師団長エルス・アナントの元に一行の到着を告げる報が届く。

 西方師団の師団長であるエルスは赤い髪をした、左腕が肩口から欠損している隻腕の騎士である。四十歳前後の年齢であり大らかな性格ではあるが、その失われた片腕は過去の帝国との戦争で部下を助けた際のものであり、西方師団の騎士たちからの信頼は厚い。


 エルスは座っていた執務用の机の席から立ち上がると、マントを羽織り部屋を出た。全員がマントを羽織っている近衛騎士団とは違い王国騎士団では大隊長以上の騎士達だけがマントを羽織っている。また、纏っている鎧も近衛騎士団のものとは材質は同じだが濃い青色に染められていた。

「この忙しい時期に、めんどうなことだ……」

 寒さの厳しかった昨冬に多くの生き物が死んだためか、ここ最近瘴獣の数が増加しており各方面師団はその退治に人員を割かれている最中であった。

 部屋を出たエルスは砦の入り口まで降りると既に二人の大隊長と数名の騎士達がおり、エルスを敬礼で迎える。西方師団は四つの大隊で構成されたおり、他に二人の大隊長がいるが砦を留守にしていた。各大隊の配下にはさらに数十小隊ずつ編成されている。

「来たか?」

「いえ、まだです。間もなく着くとは思いますが」

 エルスの問いに大隊長の一人が答える。

「エルス師団長。他国の元首ですから儀仗礼ぎじょうれいを行いますか?」

「必要無い。外交儀礼は我々の仕事ではない。あいさつだけで後は侍従達にまかせておけばよいだろう。陛下も元老もいないここでやる意味は無い。儀仗礼は王宮で近衛達がやるさ。あいさつが済んだら各自通常職務に戻ってかまわん。但し、第一大隊は明日通る道の見回りをしておけ。セシル王国一行が万が一にも瘴獣に襲われるようなことがあってはならないからな」

「承知致しました」

 エルスの答えに質問した大隊長が頷く。

「師団長、見えました。セシル王国の一行です」

 騎士の一人が砦からセシル王国との国境へと続く道を指さすと、未だわずかに陽の光を残すその方向には、いくつかの魔石の灯りに照らされたセシル王国の一行と思われる集団が見えた。

「よし。全員慣れないとは思うが愛想よくしろよ。これも仕事だ」

 エルスの言葉に他の騎士達から笑い声がこぼれる。

 集団が近づいてくるにつれて徐々にその姿を確認出来るようになった。集団はセシル王国の国王が乗っているであろう二頭立ての装飾が細かく施してある真っ白い馬車、その周りにセシル王国の近衛兵と思われる兵士が十名程馬でついてきており、西方師団の小隊が一行を前後から挟むようにして進んでいる。

 一行は砦の外壁にある門をくぐり、入り口の前まで来ると停止した。先導していた小隊と馬車の周りの近衛兵達が馬を降りそのうちの一人が馬車の扉を開けると、中から五十歳程の白髪の交じる濃い茶色い髪をした男、セシル王国国王ヴィント・セシアルが馬車を降りた。

 ヴィントの身長はそれほど高くは無いが、セシル王国特有の淡いオリーブ色の布地にセシアル家の紋章が刺繍された衣装を着ており、顔には相応の皺が刻まれていたが割腹で堂々とした佇まいは威厳を感じさせる。

「お待ちしておりました。ヴィント・セシアル閣下。私はここの責任者を務めるダルリア王国騎士団西方師団長エルス・アナントと申します」

 エルスが敬礼と共に丁寧な言葉使いで出迎えると、他の大隊長や騎士達も続いて敬礼を行った。

「物々しい所じゃの」

 エルスのあいさつにヴィントは軽く頷くと砦を見上げた。

「申し訳ありません。この周辺ではここが最も閣下に安全にご休憩頂ける場所なものですからこちらに招かせて頂きました。騎士団砦となっておりますので十分なおもてなしをすることは叶いませんが、長旅の疲れを癒していただければと思います」

「うむ。この辺りはお主らが防衛を行なっておるのか?」

「はい。我ら西方師団が防衛範囲となっております」

「優秀なようじゃの。国境を超えるまでは一度瘴獣に出くわしたが、国境を超えてからここに来るまでの間は瘴獣に出くわすことが一度も無かった。これならこの国の民も街道を安心して往来出来ることじゃろう」

「もったいなきお言葉。ありがとうございます」

 ヴィントの言葉は本音か社交辞令かはわからなかったが、エルスは感謝の意を述べると後ろに控えていた侍従に目で合図をし、ヴィントと近衛兵達を砦の中へと案内させた。


「ふう。慣れないことをするもんじゃないな。肩が凝る」

 エルスは肩を軽く回す。王国騎士団は近衛騎士団とは違い大半が一般家庭の出身者であり、エルスも例外では無い。そのためこういう儀礼に慣れている王国騎士は少ない。

「よし、全員職務に戻れ」

「はっ」

 エルスの号令で全員がその場を離れ、エルスも自らの執務室へと戻っていった。



「こちらの部屋をご利用下さい」

 侍従はヴィントを砦内の客室としてはもっとも上層部にあり、普段は王家や元老が砦を訪れた際に使用する部屋に案内すると中へと招き入れた。ヴィントの側には近衛兵が二名おり、他の近衛兵達は別の部屋に案内されている。

「窮屈かと思いますがご辛抱頂ければと思います。お食事はこちらにお運び致しますのでしばらくお待ちください。ご用命の際は卓の上にあります呼び鈴を鳴らして頂ければすぐに参ります」

「うむ」

「では、ごゆっくりおくつろぎ下さいませ」

 侍従はひと通りの説明をすると部屋を出た。

「これがダルリア王国騎士団の砦か……。うわさ通り精強そうだの。ウィリス、どう思う?」

 ヴィントは窓から外を見ると、飾り気は無いが全てが石造りの威圧感のある砦の周りには同じく石造りの塀が囲んでおり、その上を騎士たちが等間隔に見張りに立っているのが見える。入り口となっている門では西方地域の哨戒を行なっている騎馬小隊が定期的に出入りをしていた。

「はっ。規模ではアルデア帝国軍やロビエス共和国軍に劣りますが、練度れんどは大陸随一とも言われています。実際にこの目で見てそのうわさは真実に近いものがあるかと」

 ヴィントの問いに近くにいた近衛兵の指揮官と思われる男、ウィリス・ロカが答えた。

「大陸一と言われる軍事力を誇るアルデア帝国の軍でさえ、ダルリア王国の王国騎士団を警戒しているというのも頷けるか?」

「はい」

「そうか。――まあ良い。そのための軍事同盟だ。帝国は強大だ。我々のような小国がいつまでも抗い続けることは出来ぬ」

「はっ……」

「事が成ればセシル王国の安寧、そしてゆくゆくは繁栄へと続く道を次代に指し示してやることが出来るだろう」

 ヴィントは言葉とは裏腹にその表情は険しく、その視線は遠くセシル王国の方角を見つめていた。



「いい夜空だ」

 ヴィントが砦に入ってから数刻後、エルスは砦の屋上から空を眺めていた。空には雲は無く、月と星が美しく瞬き夜空を彩っている。

 エルスは視線を下ろすと屋上の北の端まで移動し地平線の彼方を見つめた。砦から北西に数刻程の位置にはトルトンという名の小さな村の家々から漏れる魔石の灯りが見える。


「――その視線の先はアルデア帝国ですか?」


「……ええ。我々にとっては常に警戒すべき相手ですから。あなた方も同じではないのですか?」

 エルスは不意に後ろから声を掛けられたが、人が近づく気配に気づいていたのか特に動揺することもなく答える。

 エルスは後ろを振り返ると、同い年程の緑の髪が印象的な男が立っていた。

「あなたは、確かヴィント閣下の……」

「セシル王国国王ヴィント・セシアルの近衛兵長を努めますウィリス・ロカと申します。ダルリア王国の西方師団とは国境を挟んで接しているためか、あなたの勇名は我が国にまで届いていますよ。隻腕の騎士エルス・アナントとして」

 ウィリスは存在しないエルスの左腕を軽く見るとすぐに視線を戻した。

「それは光栄です」

 ウィリスは前に進むとエルスの横に並び、同じく北の地平線を見つめる。

「やはり、帝国は危険な存在ですか?」

「無論です。ご存知でしょうが我々は過去に攻めこまれていますので。セシル王国としてもルファエル山脈があるとはいえ警戒すべき相手では?」

 アルデア帝国の南、ダルリア王国の西に位置するセシル王国はダルリア王国とは国境沿いにあるラーナ川を挟んでいるのみだが、アルデア帝国とはルファエル山脈という国境全域に渡る高く険しい山脈がそびえている。

「ええ。山脈のおかげで過去に攻めこまれたことはありませんが、今後もそうとは限りません。覇権主義を掲げたアルデア帝国の現国王がその地位に着いてからは、我々も将来を見据えいろいろと考えなければいけない時期にきています」

 二人は視線を合わせることなく、北の地平線のさらにその先を見つめていた。

「……いろいろ、ですか」

 エルスは同盟のことを考えていた。同盟の詳細を聞かされているわけでは無いが、同盟の内容はうわさ程度にはその耳に届いていた。

「西方師団と我が国は距離が近いですから今後もお会いすることが多そうですね。これを期に互いの信頼関係を築ければとおもいます」

 ウィリスは手を差し出した。エルスは近衛兵長であるウィリスと現場の指揮官である自分が合うことが何故多いのか不思議に思ったが、差し出された手を無視することも出来ずその手を握り返した。本来、前提としているとはいえ同盟国でもない国の軍人と握手をするなど異例だが、エルスはウィリスからの誠意と受け取った。

「では、そろそろ陛下の元へ戻ります。お話出来てよかった」

 ウィリスはそう言うと砦の中へと戻っていった。

「よくわからない御仁だ。だが、悪い男では無いようだな」

 エルスはその後もしばらく屋上で砦周辺の様子を確認していたが、やがて自分も砦の中へと戻っていった。



 翌朝、初夏の朝もやがまだ辺りに漂っている頃、砦の門の前にセシル王国の馬車を中心に近衛兵と先導する西方師団の小隊が集まっていた。

 そして、馬車の前にセシル王国国王ヴィント・セシアルとエルスがいる。

「王都ルキアまではまだしばらくかかりますが道中お気をつけて。ここでは何一つおもてなしできずに申し訳ありませんでした。今日お泊りになられるリーフポートでは、細やかながら閣下を持て成させて頂きたいと西方の領主クレーネ・サビオより連絡を受けています。ここよりはご満足頂けると思いますのでご期待下さい」

「そうか。聞いた話によるとリーフポートはとても美しい街だそうだな」

「はい。ダルリア王国最大の湖であるリーフ湖の湖畔にある街でして、観光都市となっております。また、リーフポートではリーフ湖の魚を使った料理が名物となっておりますので是非ご堪能下さい。必ずやご満足頂けるものと思います」

「ほお、それは楽しみだ。期待させて頂こう。では、そろそろ発たせてもらうとするかの」

「承知しました」

 エルスはヴィントが馬車に乗ったのを確認すると周りを囲む小隊に目で合図を送る。その合図で小隊は馬車の正面と後方に半数ずつ別れ、間に馬車と近衛兵達がいる並びとなり、そのままリーフポートへと向けて進んでいった。

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