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近衛戦記  作者: 島隼
第一章 ダルリア王国
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第三話 フォルティスとルナ 前編

 自室に戻ったフォルティスは部屋の天井にある魔石の灯りをつけ、近衛騎士の鎧を脱いで壁際にある専用の台に掛けると部屋の奥にある窓から外の見張りの様子を確認する。王宮の要所や王宮と元老院を囲む城壁の上にいる見張りの近衛騎士達が普段通りであり、特に問題が無いことを確認すると窓の正面にある机の椅子に座った。

(しかし、ヴェチル卿にはどうすればわかってもらえるのか……。一方的な勘違いなのだがな。それに、元老家の例外的な交代をそう何度も繰り返すことなど出来ないことはヴェチル卿もわかっているだろうに。最近はやたらと近衛の職務に口を出して来るようななったのもやはり俺を意識してのことなのだろうか? 我々は王国騎士団ではないのだから元老の方々が口を出す権限などないのだがな……。だからと言って陛下に報告すれば事を大きくし過ぎてしまう……。困ったものだ)

 国家防衛を使命とする王国騎士団は元老会議配下の組織であるが、王家の守護を使命とする近衛騎士団は王家直属の騎士団であり、元老達には構成人数の制限以外の権限無い。それにも関わらず、最近のオリゴは王宮の警備体制にまで口を出すようになっていた。

(まあ、俺が気にしなければいいだけのことなのかもしれないが……。――そうだ。日誌を付けていなかったな。忘れるとまたクラウスにうるさく言われる)

 フォルティスは机の引き出しから近衛騎士団の日誌を取り出すと記載を始めた。日誌とは近衛騎士団の日々の活動を記録するもので、団長であるフォルティスの重要な定例作業である。

 フォルティスが日誌に今日の活動内容を一通り記載が終わった頃には、細かい事が苦手なこともあり大分遅い時間となっていた。

「こういう作業はクラウス向きだな。さて、そろそろ寝るか」

 日誌を書き上げたフォルティスは満足そうに一人呟き頷くと、隣接する寝室に移動するために立ち上がる。すると、それとほぼ同時に部屋の外から扉が軽く叩かれた。

「?」

「ルナ・コルです」

 周りを気にしているのか押し殺した声でルナが名乗る。

(こんな時間に何の用だ?)

 ルナがフォルティスの部屋に来ることはめずらしくはないが、この時間に来る事はあまりなかった。

「入っていいぞ」

 ルナは扉を開けると部屋の中へと入り、フォルティスに対し未だ慣れない敬礼を行うと、フォルティスは笑った。

「な、何で笑うんですか! ちゃんとやったのに!」

「まだ不自然さが残るな」

「うっ。最近グレン様にも言われました。どうしたら自然に出来るんでしょうか?」

「まあ、まだ俺が見慣れてないってのもあるんだろうが、何度も繰り返せばそのうち自然に出来るようになるさ。そうだ、クリシス様には会ったか?」

「クリシスに?」

「クリシス『様』だ」

「あ、す、すいません。クリシス様には午後以降はお会いしていません。何故ですか?」

 敬称を付けなかったルナにフォルティスは少し厳しい口調で訂正を促すとルナは慌てて訂正する。

「そうか、探していたようだったが。本当に諦めていたのか。また王宮の脱走にお前を付き合わせようとしていたようだ」

「え、も、もう付き合いません。二度と……」

 前にクリシスに付き合い王都に二人で出掛けた時に、それがクラウスに知られてしまいひどく怒られていた。それを思い出したのかルナは一瞬肩を震わせる。

「当然だ。昔とは違うのだ。クリシス様に付き添って出掛けるのは構わないが、あくまでも近衛騎士としてだ。その上、お前はまだ見習いなのだからしっかりと団に報告して、正規の近衛騎士が護衛に付く手配をしなくてはな」

「はい。でも、クリシス……様が嫌がるもので」

「嫌がるから危険に曝してもいいというのは違うだろう。王都に危険があるわけではないが、だからと言って王家の者が護衛を連れずに王都をうろうろしては何が起こるかわからない」

「……はい」

 ルナは寂しい表情を浮かべながら返事をすると、フォルティスにもその理由がわかっていたためかそれ以上は言わなかった。

「それで? 説教をされに来たわけではないんだろ?」

「あ、もちろんです。お願いしたい事があるのですが……」

「なんだ?」

「明日、私の鎧をファベルさんの所に取りに行くのですが、替えの分も含めて三組あるんです」

 ドワーフ族の鍛冶職人であるファベルは王都ルキアに自分の店を持っている。

「それで?」

 フォルティスはなんとなく言いたいことがわかったが先を促す。

「……お、王宮まで運ぶのを手伝ってもらえませんか?」

 ルナは申し訳なさそうに続けた。

 ルナは今まで自分用の鎧がなかった。これまでは見習いとして主に近衛騎士団の雑用をこなしながら近衛の役割や魔法学、剣術を学んでいたが、近々哨戒の任務も行うことになったため、自分の鎧を用意することになっていた。

「ほぉ。おまえは見習いのくせに団長の俺に荷物持ちをしろと?」

 フォルティスは意地悪な笑みを浮かべる。フォルティスの言うとおり本来見習いのルナが近衛騎士団の団長であるフォルティスに頼むようなことではなかったが、ルナがフォルティスに頼むのにはそれなりに理由があった。

 

 

 二十年程前にフォルティスの実父であり元老の一人だったマティアス・ブランデルが死去した。ブランデル家はダルリア王国の建国に関わり、当時から続く元老家でありこの国では王家、大公家に次ぐ大貴族の家柄である。母親はフォルティスが生まれてすぐに病死しており、当時一人残された幼少の跡取りであるフォルティスの処遇が問題となった。

 高級貴族のため孤児院に預けるわけにもいかず、さらに元老家であるため他の貴族の家に養子に出すこともためらわれた。そもそもブランデル家には子がフォルティス一人だったため、養子となれば元老家であるブランデル家が断絶してしまう。その為、最終的に成人するまで元老の地位は保留され、王家預かりとなり王宮で育つことになった。

 当時まだ子がいなかった国王ウォルトと王妃フロリアはフォルティスをわが子のように接し育てた。第一王位継承者となる長女レニス・カイザスが生まれて以降はフォルティスがレニスに遠慮し一定の距離を保つようになっていったが、自らを我が子のように育ててくれたウォルトとフロリアにはとても感謝しており、その恩返しの意味も込めて近衛騎士として王家を守護すると誓い、近衛騎士団に志願していた。成人前とはいえブランデル家の当主でもあるフォルティスが近衛騎士団に志願することには、ウォルトやフロリア、そして他の元老達は当然反対したが、フォルティスの意思は固くウォルト達は説得を諦めた。

 ウォルトはフォルティスが成人した際に再度元老となるか近衛騎士として生きるか意思を確認したが、フォルティスは迷わず近衛騎士を選択する。元老家としてのブランデル家を維持するための措置として王家預かりとなったはずであったが、最終的にはフォルティスの意思によりブランデル家は元老の地位を放棄した。

 その後、しばらくして欠員となった元老の地位の補充が求められ、当時豪商としてこの国の経済面での地位を築いていたヴェチル家が元老家に任命されることになった。

 

 そして、ルナもまた親が幼少の頃に亡くなっていたため、出自は違えど同じ境遇のフォルティスに親しみを持っていた。

 

 ルナはダルリア王国の北西、アルデア帝国との国境近くの山林にあった小さな村ヒリーフの出身である。

 十二年前の帝国との国境紛争の際に帝国に攻め込まれ、村は一時帝国の支配下に置かれた。その後、王国騎士団の活躍により村の奪還に成功したが、ほぼ壊滅状態となっていた。戦後、村を視察に訪れたウォルトは、村奪還時の戦闘に巻き込まれて両親を亡くし一人で泣いているルナを見つける。国家間の紛争に巻き込んでしまった自責の念に駆られたウォルトはルナを連れて帰り、最初は王都にある孤児院に預けたが、次の王位継承者が娘であり、将来的に女の近衛騎士が必要と考えたウォルトは、ルナを孤児院から引き取り王家で育てることにした。もとより子供好きのフロリアもルナを実子のレニスと同じようにわが子として接し、レニスとその後に生まれた次女クリシスと共に姉妹のように育てられた。また、それ以前から王家で暮らしていたフォルティスを兄のように慕い、フォルティスもまた境遇は違えど共に親を亡くしたルナを妹のように可愛がっていた。そして、今から半年程前に十八歳になったのを機に、フロリアの猛反対を押し切って自ら近衛騎士団に志願した。ウォルトとしては望んだことではあったが、ウォルトが直接薦めたことは無く自主的に志願しており、むしろウォルトをも驚かせた。

 

 このような関係もあり兄のような存在であるフォルティスに頼む方が、他の近衛騎士に頼むよりもルナにとってはずっと頼みやすかった。

「だ、だめでしょうか?」

 ルナは悲しそうに潤んだ目でフォルティスを見上げると、フォルティスは困ったように頭を掻いた。

「……ふぅ。構わないよ。但し、クラウスに見つかると大変だから早い時間に行くぞ。クラウスは今日は警備体制の見直しで遅いだろうから明日の朝は休んでいるだろう」

 参謀長であるクラウスは礼儀など、こういうことには非常に厳しい。

「本当ですか! ありがとうございます! 明日の朝にまた来ます!!」

「ああ」

 ルナは喜ぶと慣れない敬礼をしてフォルティスの部屋を後にした。

(我ながら甘いな……。クラウスに見つかったら何を言われるか……)

 フォルティスは自分自身に溜息をつくと改めて隣の寝室へと移動した。

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