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近衛戦記  作者: 島隼
第六章 終結
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第二話 守護者 前編

「まだ王宮ともラファエルとも連絡が取れんのか?」

 先ほどから何度も通信球のテントへと出入りしているカストスが、普段の冷静な態度とは違いかなり焦りの色を交えながらテントの中にいた通信官に声を掛ける。

 ルーク達に王宮との通信が不通になったことを伝えてから更に二刻程が経っていた。

「……はい。不通になってから半刻おきに通信を開いていますが、王宮、公都防衛師団共に反応がありません」

「ラファエルもか。もう到着していてもおかしくないはずなのだが」

「公都の師団砦とは連絡が取れたのですが、公都防衛の東方師団への引き継ぎと出発直前に発見された瘴獣の対応に時間が掛かり、公都を出るのが遅れた模様です」

 通信官の報告にカストスは顔をしかめる。

 前線の帝国軍の攻撃は先程のルーク達の騎馬突撃により若干の鈍りを見せていたが、当初と状況が変わったわけでもなかった。その上、元老院とも連絡が取れないため補給物資の要請が出来なくなっていた。

「王宮は誰も応答しないのか?」

「はい……」

「既に王宮の一階は制圧されたとみるべきか。しかし、セシル兵すら反応しないところをみるとルーク殿の言われる通り、陥落しているわけではないのかもしれんが……。王宮の状況がまったくわからないのは厳しい。対策が立て難い。……そうか、ラファエル達も王宮の状況を知らないのかもしれん。西方師団の壊滅と公都防衛師団が公都を出たのはおそらく同じ頃だろう。情報が届いていなくても不思議ではない。まずいな。セシル王国軍は公都防衛師団が王都に向かっているのは知っているはず。王宮が落ちていれば待ち構えられてしまう……。先にこちらに連絡をくれればよいが」

 その時、通信用魔法陣の中央付近にある魔石が青く輝き、徐々に外側へと広がり始める。それはこの魔方陣に対し、どこからか通信球が開かれたことを意味していた。

「どこからだ」

 それに気付いたカストスは魔法陣に視線を移し、通信球が開かれるのを待つ。

 そして、魔法陣内の全ての魔石が青く輝き最後に中央の水晶球が青く輝きを放つと、通信球から特有のくぐもった声が聞こえてきた。

<<公都防衛師団長ラファエル・フォルリーだ。誰かいるか?>>

「ラファエルッ!! カストスだ。今どこだ?」

 通信球から届いた公都防衛師団の師団長ラファエル・フォルリーの声に、カストスは通信球に近寄る。

<<こ、これはカストス殿。今の場所でしょうか? 今は王都まで後一刻程の位置で休憩を取っていますが。こちらかも一つよろしいか? 王宮に連絡を入れたいのですが、通信球に誰も応答しないのです。何かご存知でしょうか?>>

「ラファエル、王都へ急ぐのだ。休憩を取っている暇は無い。既に王都は落ちた。王宮ももはや時間の問題だ!」

<<――なっ!! どういうことです? 前線は突破されたのですか? し、しかし、それにしてもこんなに早く……>>

 ラファエルはまったく想定していなかったカストスの話に言葉に詰まる。ラファエルは出発前にルークより受けた指示は王都防衛師団の変わりに王都ルキアの常駐防衛に着くことであり、そもそも戦闘が発生することは想像すらしていなかった。

「やはり知らなかったか。時間が無い故、簡潔に話すぞ。セシル王国軍が裏切りを犯し、西方師団が壊滅した。エルスは討ち死に……。セシル王国軍はそのまま前線に来ず、六千の兵を引き連れ王都ルキアに侵攻した。王都には既に王都防衛師団はいないため元老達は王都を放棄、陛下はフロリア様と少数の民と共に王宮に残られた。現在は王宮正門にて近衛騎士団がセシル王国軍と相対している状況だ」

<<な、な……んという。エルスが……>>

 カストスの口から紡がれるまったく考えていなかった状況に、ラファエルは絶句する。

<<し、しかし、元老達は六千もの兵を近衛騎士団だけで退けるつもりなのですか?>>

「不可能だ。近衛はお主達が到着するまでの間の時間を稼ぐことが精一杯だろう。しかし、数刻程前からこちらも王宮、そして元老院と連絡を取れなくなった。我々が最後に得た情報では、王宮内部にもセシル兵が侵入されている状況だった。我々は帝国軍の侵攻を防ぐ必要があるため国境から離れることは出来ない。これ以上質問に答えている時間は無い。ラファエル、事は一刻を争う。早急に王都へ向かうのだ! セシル王国軍はお主達が王都へ向かっている事は知っているはずだ。王宮が落ちている場合は待ち構えている可能性もある。十分に注意せよ」

<<か、かしこまりました。早急に王都へ向かいます>>

 ラファエルからの声を最後に、通信球は公都防衛師団側から閉じられた。

 

 

「なんという、ことだ……。数日の間にこれ程戦況が変化していたとは。エルスよ……」

 接続の切れた通信球を見つめながら短い銀髪の男、公都防衛師団長ラファエル・フォルリーは呟く。隣では共に聞いていた通信官が言葉を失い、ただラファエルを見ていた。

「お前も急ぎこのテントを畳め」

「は、はい」

 ラファエルは通信用のテントを出ると、近くにいた公都防衛師団の軍師官、セイフ・ライエを呼ぶ。

「セイフ!! 休憩は終わりだ! 進軍を再開する。準備しろ!」

「え? まだ到着したばかりですが――」

「つべこべ言うな!! 王都が落ちたっ!」

「なっ――」

 セイフだけでなく、近くにいた騎士達もラファエルの言葉に顔を見合わせる。

「ここで説明している時間は無い!! 移動しながら話す! 急げ!」

「わ、わかりました」

 セイフは急ぎ大隊長達の元へと走ると、休憩を止めさせ進軍準備を急がせた。ラファエルは王都の方角へと視線を向けると、気が急ぎ爪を噛んだ。

「くそ……」

 ラファエルは自分の馬に跨ると、苛立ちを抑えながら師団の準備が整うのを待った。そして、それ程の時間が掛からず師団がラファエルの後ろに整うと、ラファエルは声を張り上げた。

「これより進軍を再開する! 進軍が続き疲れている者もいるだろうが、一刻の猶予も無い。カストス殿からの話によるとセシル王国軍が裏切り王都に侵攻、王都は落ちた。現在の状況は不明! 我々はこれより急ぎ王都へと入る! 詳細は移動しながら大隊長を通して伝える。進軍開始!」

 ラファエルの言葉に公都防衛師団の騎士達はざわめくが、ラファエルは動揺する間も与えず進軍命令を下した。

『おおおっ!』

 騎士達も状況はわからなかったがその言葉に応えると、ラファエルを先頭にセイフと四人の大隊長が続き、進軍を開始した。

 ラファエルは馬を飛ばしながら周りにいたセイフと大隊長達にカストスから聞いた話を伝える。それを聞いたセイフと大隊長達は、ラファエルがカストスから話を聞いた時と同じく言葉を失う。

「現在わかっている状況は以上だ。事が非常に急を要することは理解出来たと思う。しかし、落胆している時間は無い。対策を考える時間もだ。我々のやることは一つ、近衛騎士団が未だ戦っていることを信じ、一刻も早く王宮に辿り着くことだ。よいなっ!!」

『はっ!!』

 それからしばらく、無言のままラファエル達は馬を駆った。ラファエルはその間に王都の地理を思いだしながら、考えられる状況を一人検討し続けた。

 

「ラファエル様、あの丘を上ると王都ルキアが視界に入ります」

 セイフが進んでいる街道の先にある丘を指差す。

「よし。このまま止まらずに進むぞ。王都突入後の動きは、王都及び王宮の状況が確認出来次第伝える」

 ラファエルの言葉にセイフと大隊長達が頷くと、師団はそのまま一気に丘を頂上を駆け抜ける。そこから先はなだらかに下った後に平原が続いている。そして、その先には王都ルキアと王宮が確認出来たが、王都の所々から煙が上がり、さらに王宮からも多くの煙が立ち上っているのが見えた。しかし、ラファエル達の場所からはそれ以上の詳細は確認出来ない。

「――状況は見た通りだ」

 ラファエルの言葉に周りのセイフと大隊長達は、しかし前持ってラファエルが隠すことなく全てを伝えていたことにより、その光景を見ても必要以上に動揺が広がることはなく、ただ目の前の状況を受け入れた。

「詳細は確認出来ない。斥候を出して様子を見る時間も惜しい。我々はこのまま止まらずに王都へ突入するぞ。突入後の動きを説明する。近衛騎士団は王宮の正門、つまり南門でセシル王国軍と相対しているとのことだ。今も戦っているのであればセシル王国軍もそこにいるはずだ。我々はそれを叩く! 王都へ入った後に第一大隊と第二大隊は東の街道を北上しろ。第三大隊と第四大隊は我と共に西の街道を北上する。そして、正門前で合流だ。そこにセシル王国軍がまだいた場合は、東西から挟撃を掛けるぞ。但し、その際は王都中央の大通り側には回りこむな。そこが奴らの逃げ道だ。王都内で激しい戦闘を行うわけにはいかない。奴らを大通りから王都の外まで追い立てる。その役目を第一大隊から第三大隊に任せる」

『はっ!』

「第四大隊は我と共に王宮内に入り、王宮内に侵入したセシル兵を討つ! ――そして、正門前にセシル王国軍がいなかった場合、既に王宮は陥落している可能性がある。正門前で合流後、一度進軍を停止し状況を確認する。その際は周りの気配に十分に気を配れ、罠を張り待ち構えている可能性がある。但し、敵を発見してもこちらかは仕掛けるな。人質を取られている可能性がある。人質が取られていた場合は、一度王都の外へ戻りルーク団長の指示を仰ぐ。良いな?」

『はっ!!』

 ラファエルは考えていた方策をセイフと大隊長達に伝えると、全員がそれに応え、大隊長達は自らの大隊に作戦を伝えるためにラファエルから馬を離していった。

 そして、公都防衛師団は既に王宮が陥落しているかもしれない不安と、未だ近衛騎士団が戦っている希望を胸に王都までの草原を駆けていった。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

<<ルーク団長。公都防衛師団との連絡が取れましたぞ! 王都から一刻程手前で休憩を取ろうとしていましたが、急ぎ王都へ向かわせました。どうやらラファエルらは現状を知らなかったようです>>

「よし。王宮はどうだ? 連絡はついたか?」

<<いえ……。未だ、反応がありませぬ>>

 ルークは前線の戦陣でカストスからの報告を受けていたた。

「そうか……。しかし、王宮が落ちたにしろ、まだ戦っているにしろ、公都防衛師団が王都に到着次第もう一度ラファエルから連絡があるはずだ。まずはそれを待つ。ラファエルから連絡は入り次第、こちらにも知らせろ」

<<はっ>>

 通信球は本陣側から閉じられた。

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