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近衛戦記  作者: 島隼
第六章 終結
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第一話 王国騎士団の覚悟

<<ルーク団長。王宮との連絡が途絶えました……>>

「――いつからだ?」

 通信球の置かれた薄暗いテントの中にルークとオルカがいる。戦陣にいるルークの元に本陣のスタインから通信球での連絡が届いていた。本陣側の通信球の傍にはスタインとカストスがいる。

<<一刻程前から王宮に対し通信球を開いても反応がありません。数刻前に受けた王宮からの最後の連絡では既に王宮内にまでセシル兵の侵入を許していると。団長、これは……>>

 ルークは魔方陣の中央にある青く輝く通信球を見つめている。

「――いや、まだだ。王宮が奪われたのであれば、我らの士気を削ぐためにも王宮の通信球を使ってセシル王国軍が我々に伝えてくるだろう。通信球に反応が無かったということは、未だその段階では無いということだ」

<<確かに。しかし、元老院が機能しているかどうかは……。少なくとも、通信球が維持されていないことは間違いないようです>>

「ラファエルとは連絡は取れるか?」

 ラファエルとは王都ルキアに向かっている公都防衛師団長ラファエル・フォルリーである。

<<試みましたが、未だ移動中らしく繋がりません。向こうが魔方陣は未だ設置していないようです>>

「もう到着してもおかしくはない。定期的に接続を確認してくれ」

<<わかりました>>

<<ルーク殿。最悪の結果も想定せねばなりますまい>>

 しばらく黙っていたカストスの声が通信球から響く。

「……王宮と元老院が制圧されているということか?」

<<はい。通信球が不通になった以上、こちらからは確認が取れませぬ。我々が単独で判断を下す必要が出てきます>>

「ルーク団長。自分もそう思います。今のうちに東方師団と南方師団に連絡を取っておいたおうが良いのでは?」

「指揮権を行使しろと?」

「……はい。元老院はその統治機能を失っている可能性が高いと思われます。王国騎士団の指揮権はルーク団長に移ったと考えた方が良いかと」

<<オルカ、控えよ。それは団長の判断に委ねられることだ>>

 スタインがオルカを叱責する。

「……はっ。申し訳ありません」

 ルークは目を閉じるとしばらく口を開かなかった。

<<ルーク殿。やはり迷われておるか。――降伏か、否かを>>

「なっ! 何を言われるのですカストス殿! 今はまだそのような状況ではありません! ここでは苦戦しているとはいえ、我々には未だ東方師団や南方師団、それに公都防衛師団も残っています! それらを招集すれば帝国軍と十二分に対抗することが出来るではありませんか!!」

 カストスの言葉が信じられないオルカは声を荒げた。しかし、ルークが否定することは無かった。

「――ルーク団長?」

<<オルカ、お前の言う通り全師団を招集すれば帝国軍と渡り合うことは可能だろう。だが、東方師団や南方師団がここまで来るのを待つことは難しい。全師団が集まるためには我々はここから後退し国内のかなり内部で合流する必要がある。我々が後退すれば帝国軍も国内に侵入し、ダルリア王国内で帝国軍と戦争を行うことになるだろう。その上、残る全師団を招集しても帝国軍と戦力的に拮抗する程度だ。さらに、元老院も機能していないとすれば国家としての方向性も定まらず混乱に陥り、いずれ我々に対する民の支援も無くなるだろう。最悪の場合は内戦に陥り、そうなれば王国の民にも多大な犠牲が出ることになる>>

 言葉を発さないルークの代わりにスタインがオルカに説明する。

「し、しかし……」

<<オルカよ、我々の使命を忘れるな>>

「我々の使命は国家防衛! だからこそ帝国に降るなど!」

 王国騎士団は『国家に忠誠を誓い、国家を守る者』である。『王家に忠誠を誓い、王家を守る者』である近衛騎士とは根本が違う。

<<では、国家とは何か?>>

「国家とは……」

 オルカは口ごもる。オルカとて漠然とはわかっているが、改めて問われると答えられなかった。それをカストスが代弁する。

<<国家に必要なものは何か。それは民であり、民が安全に暮らせる土地が国だ。決してダルリア王国という名では無い。それは国では無く政体だ。そして、戦場は決して民が安全に暮らせる土地ではなく、また、もし戦争に負けるようなことがあれば最後まで敵対したこの国を帝国は徹底的に苦しめるだろう。それでは王国騎士団は誓いを果たすことにはならない>>

<<例え帝国に降り帝国の支配下に置かれようと、それで民の生活が維持されるのであれば、それも我々が使命果たすための選択肢の一つだ>>

「そう、かもしれませんが――」

 オルカは頭ではわかっていたが、賛同できずにいた。そして、ずっと黙っていたルークが静かに口を開く。

「――勝手に話を進めるな。確かに、最悪の事態を想定し、我々が使命を全うすることを考えればスタインとカストスの言う通り降伏することも考えねばならん。だが、俺も今はまだその段階ではないように思う。俺は未だ王宮が落ちたとは思っていない。王宮を守る近衛騎士団は精強な騎士達だ。必ずまだ、戦っている」

<<近衛騎士団の団長、フォルティス・ブランデルはまだ若く経験も浅い。戦争そのものが初めてのことでしょう。果たして、やり切れるのかどうか……>>

「ボストが指名した男だ。決して王家との縁だけで指名するような者ではない。フォルティス・ブランデルであればその責務を果たすことが出来ると判断したからこそだ」

 近衛騎士団の副団長ボスト・バンテスとルークは騎士としての誓いは違えたが、昔からの友人でありフォルティスとクラウスのような間柄である。

 ルークはさらに続ける。

「王宮が未だ落ちていないのであれば、我々は我々の使命を全うするためにまだ出来ることがある。この国の民にとっての最悪の事態は国内が長期間戦場または内戦となり、荒れ果て、その後さらに帝国の圧政に苦しめられることだろう。当然それは回避せねばならぬことだ。だが、民にとっての最善は、この国がダルリア王国として、未来永劫存続されることだと俺は信じる。その望みが明確に尽きるまでは、ダルリア王国存続のために戦うことが我々が今すべきことだろう」

 ――。

<<わかりました。今は帝国軍の侵攻阻止に全力を注ぎましょう>>

<<差し出がましいことを言い、申し訳ありませぬ>>

 一瞬の間のあと、通信球からスタイン、カストスの声が響いた。

「ルーク団長、自分も最後まで共に歩ませて頂きます」

 オルカの言葉にルークは静かに頷いた。

「カストスは王宮の状況把握に全力を注げ。少なとも、もうじきラファエルとは連絡が取れるようになるはずだ。スタインは、本陣にいる師団は最小限を残し戦陣に移動させろ。どちらに転ぶにしろ、ここでの戦いはそれほど長くは無いだろう。帝国軍の攻勢も勢いを取り戻しつつある。こちらも全力で対応にあたる」

<<はっ>>

<<わかりました。準備ができ次第、至急移動させます>>

「よし。判断すべき時に判断すべきことは必ず俺が行う。皆は己の使命を全うせよ。オルカ、行くぞ!」

「はっ!」

 ルークはオルカと連れ立ってテントを出ると、通信球は本陣側から静かに切られた。

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