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近衛戦記  作者: 島隼
第五章 二つの戦場
29/45

第一話 裏切りと決断 前編

 翌日、朝から厚い雲が立ち込め、激しく叩きつけるような雨が降っていた。本来であれば日が高く上っている時間帯ではあるが、厚い雲のためか外も薄暗く感じられる。

 そして、王宮内は前日にアサシンが侵入したことと近衛騎士団が総動員されていることもあり、異様な緊張感に満ちていた。

 総動員された近衛騎士団は総力を上げて王宮の警備、そして王宮に侵入したアサシン達の侵入経路の調査を行い、フォルティスも自ら見回りと有事体制時の視線の穴を探して回る。侵入経路が判明しなければ近衛騎士団の総動員を解くことができず、交代もできない。長期間続き疲労が蓄積してくる前になんとしても見つけ出す必要があった。

 夕刻になると、ウォルトは西方師団とセシル王国軍が前線に間もなく到着すると思われる時間帯に、報告を受け次第すぐに元老会議を開けるように王宮内の執務室から元老院へと向かった。その傍らには護衛の近衛騎士とフォルティスの姿もある。

 夕刻になっても侵入経路は判明せず、フォルティスはその日の調査を諦めると自らもウォルトの護衛についていた。

 途中、ちょうど謁見の間へと入る扉の前で近衛騎士の一人がウォルト達に近づくと、フォルティスは足を止めた。その近衛騎士はそのままフォルティスの前まで来るとフォルティスに顔を近づけ、耳打ちで何かを告げる。

「――何? 直接ここに来ているのか?」

「はっ」

 報告を聞いたフォルティスは怪訝な表情を浮かべたが、ウォルトにその内容を伝える。

「陛下、王国騎士団からの伝令が来ているそうです。至急陛下に報告があると」

「報告? ここに通せ」

「わかりました」

 ウォルトも一瞬フォルティスと同じような表情をしたが、謁見の間に通すように伝えるとそのまま自分も入っていった。フォルティスは報告に来た近衛騎士に視線を送り頷くと、自らもウォルトに続いて謁見の間へと入る。

 中に入るとウォルトは既に玉座に座っており、フォルティスはその斜め前に立った。そのまま少し待つと謁見の間の正面の扉から案内の近衛騎士とその後ろに青い鎧を来た王国騎士が現れ、ウォルトの前まで進み敬礼と共に名を名乗る。

「西方師団第二大隊所属ガイツ・バーホートです」

 ガイツと名乗った王国騎士は全身が雨で濡れたままであり、相当馬を飛ばして来たのか顔には疲労と焦りの表情を浮かべている。

 しかし、それよりもウォルトとフォルティスはガイツの所属にさらに怪訝な表情を浮かべ、思わず共に顔を見合わせた。

(西方師団? 西方師団は前線に向かっているはず。通信球も使わずに何故直接伝令を?)

 順調に事が進んでいれば西方師団は昨日中にセシル王国軍と合流し、今頃は前線の直前まで進んでいるはずだった。通信球での前線合流の連絡であればわかるが、西方師団所属の騎士が直接王宮に何かを報告に来る必要性は想定できなかった。

「何があった?」

 ウォルトもフォルティスと同じ疑問を持ったらしく、ガイツに視線を向ける。問われたガイツは急ぎ息を整えると、神妙な面持ちでゆっくりと答えた。

 

「西方師団、壊滅。西方師団長エルス・アナントが――討たれました」

 

 ガイツの答えに、ウォルト、そしてフォルティスがその内容を理解できずに沈黙した。無論、ガイツが国王であるウォルトを相手に冗談や嘘を言っているとは思えない。しかし、それでもその報告の内容にすぐには反応できずにいた。

「なん、だと? 何を、言っている?」

 ウォルトは眉間にしわを寄せなんとか言葉を搾り出したが、頭の中では未だガイツの言葉を飲み込みきれていない。そして、それはフォルティスも同様だった。

(西方師団が、壊滅? いったどういう――)

「……ガイツよ、順を追って説明してくれ。西方師団が壊滅とはどういうことだ? 西方師団が前線に到着したという報告は受けていないが、既に前線に到着していたということか? それとも、まさか帝国軍が既に前線を破りそこまで南下してきているということか?」

 ウォルトは自らの冷静さを取り戻すためか、かなりゆっくりとした口調になっている。しかし、その表情にはゆとりがなく、あきらかに動揺の色が伺えた。ガイツはウォルトの問いに対する答えを頭の中で整理すると、一度深く呼吸し話し始めた。

「いえ、違います。セシル王国軍、味方では……ありません」

 ガイツの言葉にウォルトとフォルティスは一瞬凍りついたように固まる。

「――なに? どういう、ことだ?」

 ウォルトは、驚愕と共にガイツの口から次々に発せられる、どこか現実味の無い話に疑惑の眼差しを向けたが、ガイツが嘘をつくはずも無くウォルトは先を促した。

「我々は前線への進軍のために北方に陣を向けセシル王国軍の到着を待ち、合流後にそのまま進軍を開始する予定でした。しかし、南方より現れたセシル王国軍は援軍を装い後方から接近後、西方師団の本陣を急襲。不意を突かれた師団長の陣が壊滅……。残された者達は各大隊長指揮下退却戦を行いましたが、師団長を失い連携の取れた戦いができず、セシル王国軍に各個撃破され半数以上が……。残った者達の行方も……」

 ガイツはうつむき、後半の言葉はもはや聞き取れない。

「――」

「――」

 ウォルトとフォルティスは共に言葉を失いガイツもそれ以上は語れず、その場は時が止まったかのように静まりかえった。謁見の間にいる侍従達も三人の様子に只ならぬ雰囲気を感じ、言葉を発すること無くその様子を見つめていた。どれくらいの間沈黙が続いていたのかわからないが、ウォルトが止まっていた時を動かす。

「セシル王国が、裏切りだと……。それで、セシル王国軍は?」

 ウォルトはなんとか冷静を装ったが、その表情は動揺からセシル王国への怒りへと変わりつつあるように見えた。そして、ウォルトの言葉にガイツも声を絞り出した。

「我らとの戦いで、セシル王国軍にもかなりの被害が出た模様です。その為か、現在は西方師団の砦に駐留しています。負傷者の手当てと休養を取った後に体勢を整え北上し前線の王国騎士団の後背を突き、帝国軍と共に南北から挟撃きょうげきするつもりかと思われます……」

 ガイツの言葉にウォルトの押さえていた怒りが噴き出す。

「セシル王国め……、何故裏切りなど!!」

 ウォルトはすさまじい怒りに震えていた。そして、謁見の間に控えていた侍従を呼ぶ。

「連絡が着く者だけでよい。早急に元老を招集しろ!!」

「は、はい! 直ちに!」

 侍従は普段温厚なウォルトのあまりの剣幕に悲鳴のような返事をすると、足早に謁見の間を出て言った。

「陛下?」

 フォルティスにはウォルトの意図が読めない。

「セシル王国軍が到着する前に前線を撤退させる!!」

 ウォルトは吐き捨てるように言うと、謁見の間を後にし元老院へと向かった。

(国内に引き込むつもりか……。確かに内部に引き込めば地の利は我々にあり、帝国軍は補給路が長くなるためこちら側がかなり有利だ。残る師団を集結させれば規模も上回る。しかし……それでは戦場となる国内にも相当の被害が出るだろう……。覚悟の上か……)

 フォルティスも謁見の間を後にした。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 西方師団壊滅の報が王宮に届いたそのすぐ後に、元老達が招集され元老会議が開かれた。ウォルトは元老達に西方師団が壊滅したこと、セシル王国が裏切ったことを伝えその後の対応を協議している。

 フォルティスはウォルトを元老院まで付き添った後、待機部屋でクラウスとボストにその事を伝えると考えを整理するために自室へと戻っていた。

 

 日も大分傾く時間になり、厚い雲と相まって部屋の中はかなり暗く未だ降り続いている雨が激しく窓を叩き、部屋の中はかなり耳障りな音が響いていた。しかし、フォルティスはその音が聞こえていないのか、窓に注意を向けることも無く執務机の椅子に座ると目を閉じ考え込んでいた。

 

 

 

 

 ここにきて、セシル王国が裏切るとは……。増援策が潰された以上、前線の撤退はやむを得ない。セシル王国軍が前線に到着する前に撤退しなければ前線の師団は挟撃され逃げ場を失う。

 

 しかし、前線が撤退すれば帝国軍はダルリア国内へと侵入してくるだろう。戦場になる地域にいる国民にも多くの犠牲が出かねない。――だが、戦場が国内になれば王国騎士団にとっては確かに有利にはなる。帝国軍は補給路が伸び、その維持にも人員が必要になるはずだ。王国騎士団にとっては戦場が国内であれば補給の心配はなく、各方面師団との距離は近くなり増援も容易だ。

 

 ……おかしい。だったら何故帝国はこんな行動を取っているのだ?

 

 確かにこれによりダルリアは大きな被害を受けることになる。だが、それによって帝国になんの利益があるというのだ?

 帝国がダルリア国内に侵攻しても、北方の国境からでは王都まではかなりの距離がある。帝国軍が王都に到着する前に各方面師団を召集すれば、現在の帝国軍を完全に包囲することは十分に可能だ。そうなれば、帝国は南方外征軍の大半を失うではないか。

 

 

 なんなんだ? このままでは互いに被害を被るだけではないか。

 

 

 いや、そんなはずはない。帝国が何の勝算もない戦いを仕掛けるわけがない。何か、あるはずだ。

 

 

 そもそもセシル王国は何故裏切ったのだ?

 

 

 帝国に脅された?

 

 

 いや、この前締結された同盟は、アルデア帝国からの侵略を意識した軍事同盟だったはず。帝国に脅された程度で寝返るくらいなら最初から帝国と組めばいい。

 

 

 そもそも脅された程度で裏切らなければならないような状況ではなかった。確かに今、前線は苦戦しているが西方師団とセシル王国軍、それに王都防衛師団が合流すれば帝国の動員数を上回る。そうなれば十二分に帝国を退けることが可能だったはずだ。

 

 

 帝国を恐れて裏切る必要など無かったではないか。

 

 

 しかも、同盟は国家間の契約であり、その一方的な破棄は国家の信用を失墜させる。今後の外交にも相当影響することになるだろう。

 

 

 どういうことだ? セシル王国にも利益が無いじゃないか?

 

 

 ダルリアは国内に相当な被害を受け、帝国は南方外征軍を失い、セシル王国は国家としての信用を失う。

 

 

 ――このままでは、これが最終的な結果ではないのか?

 

 

 違う。そんなはずはない。帝国は間違いなくこの戦争に勝利するつもりだ。

 覇権主義を掲げ、戦争により領土を拡大した国だ。何の勝算も目的も無く戦いを仕掛けるはずが無い。

 

 

  何かを見落としているはずだ。だが、何だ?

 

 

 )

 

 

 フォルティスは自分でも気付かない間に立ち上がっており、腕を組んだまま部屋の中を歩き回っていた。窓の外では雨が激しさを増している。

 

 

 

 

 仮に、これまでの動きが全て帝国が勝利するために必要だったと仮定すると……。

 

 

 落ち着け。最初からだ。最初から考え直すんだ……。

 

 ダルリア王国、アルデア帝国、セシル王国。

 この三国間でこの数カ月の間に何があった?

 

 

 まず、帝国を警戒したセシル王国からの要請により、ダルリアとセシル王国がダルリア・セシル同盟を締結した。

 その後、俺たちは帝国が南方外征軍を帝都に召集しているという情報を得ると同時に帝国に対する監視を強めた。そして、帝国の外征軍はダルリアへの進軍を開始した。

 

 それに対し陛下は北方師団に警戒態勢を取らせたが、目的が不明のため緊急展開師団を帝国に気付かれない位置までの派遣に留めた。

 

 しかし、帝国軍も国境から数日程手前の位置で進軍を停止し、四日程陣を構えていた。その間に俺達は帝国軍の目的を掴むために奔走した。

 

 ――何故だ? 何故帝国は進軍を停止したのだ? 行軍による兵の疲労を考慮してか? だが、それに四日も必要なのだろうか?

 

 宣戦布告を行ってまでダルリアに侵攻するつもりだったのなら、こちらの準備が整う前に仕掛けるべきだ。

 

 まてよ、そもそも帝国は何故宣戦布告をしたのだ?

 

 確かに戦争前の宣戦布告は騎士道に則った通例ではある。だが帝国はそんなものに従うような国ではない。奴らが目指すのは完全な勝利のみだ。騎士道など持ち合わせていない。

 

 

 ――宣戦布告が帝国が勝つために必要だったのか?

 

 

 ばかな。あり得ない。

 

 

 現に宣戦布告されたことにより迷い無く緊急展開師団を前線に派遣することができ、今も帝国軍の侵攻を防いでいるではないか。

 

 

 確かに帝国軍の規模は大きく、それだけでは防ぎきることは困難だった。しかし、前線からの増援要請により元老会議で増援が決まり、西方師団、セシル王国軍、そして王都防衛師団を派遣した。

 これで、こちら側の帝国に対する戦力は十分になるはずだった。

 

 

 セシル王国への援軍要請に気付いた帝国は、今の状況を鑑みて自らの不利を悟りセシル王国に接触し、裏切らせたのか?

 

 

 そうなのか? それでは、今の状況は帝国の判断ミスが招いた事態なのか?

 

 

 兵の休養を短くし、帝国のいつものやり方で宣戦布告を行わず、こちらの準備が整う前に国境を突破していれば帝国にとっては今の状況よりも遥かに有利となっていたろうに。

 

 

 しかし、帝国が不利な状況だったのなら何故セシル王国は裏切ったのだ?

 

 

 帝国が不利なら、同盟の破棄などせずに我々と共に戦ったほうが良いではないか?

 

 

 何故裏切りを――いや、そもそも帝国はいつセシル王国と接触し、いつ裏切ったのだ?

 

 

 セシル王国に援軍を要請した二日後にはセシル王国軍は西方師団と合流する予定だった。西方師団が壊滅したのはおそらくこの時だろう。

 増援要請に気付いた帝国はたった二日でセシル王国と接触し、セシル王国は裏切りを決めたのか?

 

 

 そんなばかな。国家間の要請と同盟の破棄を行うには間にさまざまな判断が入るはずだ。そんな短期間で出来るわけがない。

 

 

 ということは、セシル王国に増援要請をした時点で既に裏切っていたということか?

 いつだ? 帝国が前線の突破は容易では無いと判断した時か?

 いや、それではやはり帝国が不利でありセシル王国にとって裏切る意味は少ない。

 

 

 もっと前? 帝国がダルリアに対して進軍を開始したとき? セシル王国を裏切らせることに成功したからダルリアに対して進軍を開始したということか? だとすれば、同盟締結後すぐにセシル王国と接触していたのか?

 ばかな、タイミングが良すぎる。あれだけの軍を動かすからには相当前から準備をしていたはずだ。セシル王国の裏切りを取りつけてからの行動ならこんなに早く攻めて来れるはずが無い。

 

 

 だとすると、セシル王国の裏切りは予定されていた?

 

 

 ひょっとして、セシル王国は裏切ったのではなく、最初から帝国側なのではないのか?

 

 

 最初から帝国と組んで、帝国の指示で我々と同盟を結んだとすれば……。

 確かにそうだとしたら、今の状況は納得できる。

 

 

 味方を装いダルリア国内に侵入し、増援された西方師団を急襲して壊滅に追い込んだ後に、前線で戦っている師団を帝国軍と共に南北から挟撃し帝国の前線突破を手助けする。

 

 

 こちらの動きが遅ければ挟撃により王国騎士団は大打撃を受け、その後の侵攻も楽になるということか?

 

 

 ――いや、違うな。落ち着け。これは、現状から辿った結果論でしかない。そもそも軍事同盟を締結したからといって、戦争になれば必ず援軍を要請するわけではない。

 

 

 こちらがセシル王国に援軍を要請しなかったらどうするのだ? 増援が西方師団と王都防衛師団だけだったら?

 

 

 セシル王国に増援を要請したとしても、こちら側の増援が西方師団ではなく、時間が掛かっても東方師団や南方師団だったらどうするのだ?

 セシル王国軍が前線に向かうには必ず西方師団の防衛範囲を通過しなければならない。しかし、それでは裏切った時点で西方師団に囲まれ前線の挟撃どころではなかったはずだ。

 

 

 王都防衛師団が増援に出なかった場合だってそうだ。王都防衛師団が今も王都に残っていたら裏切ったセシル王国軍を討伐することだって出来たはずだ。

 元老達が一つでもそう決断していたら、帝国の作戦は成り立たない。

 

 帝国は賭けに出たのか?

 

 我々が西方師団と王都防衛師団を増援に出し、セシル王国に援軍を要請すると。

 

 そういう賭けに出て、その賭けに勝ったということなのか?

 

 

 ――そんな国だろうか?

 

 

 帝国は十二年前のダルリア侵攻では失敗した。今回も失敗すれば帝国の民が許さないだろう。となれば二度目となる今回は賭けではなく万全の態勢を整えて望むはず。

 

 ということは、帝国には我々の動きが読めていた?

 

 確かに西方師団の派遣やセシル王国への増援要請は、この状況を考えれば一番可能性が高い対応だ。

 しかし、王都防衛師団の増援派遣は異例中の異例だ。王都防衛師団が王都を離れるなど過去に例はない。

 

 これが読めていたと言ういうのか。

 

 そんな馬鹿な。有り得ない!

 

 ――いや、だめだ。否定するな。おそらく現状は帝国の狙い通りのはずだ。否定しては駄目だ。すべてを肯定するんだ。そうしなければ、帝国の考えがわからない。

 

 

 だが、仮にそこまで読み切ることが可能なのだとしたら、何故こんな回りくどいことを……。

 

 

 そもそもセシル王国との軍事同盟にしてもセシル王国側からの申し出を受けただけだ。セシル王国側からの申し出が無ければダルリアとセシル王国が軍事同盟を結ぶことは無かったはずだ。

 そうなればこの戦争はダルリアと帝国との戦争だ。そして、帝国がいつも通り宣戦布告をせず、こちらの準備が整う前に一気に国境を突破し、ダルリア内部で前線にいる北方師団を緊急展開師団が合流する前に総力戦を仕掛けることだって出来たはずだろうし、帝国としても分の良い戦いのはずだ。

 

 何故わざわざこんなことを?

 

 何か理由があるはずだ。

 

 帝国にとって失敗の許されない二度目のダルリア侵攻……。

 

 前回の失敗を教訓にしているのだとすれば……。

 

 帝国は前回の侵攻を防ぎ、帝国軍を撃退したダルリア王国騎士団を恐れているとしたら?

 そうだとしたら帝国は王国騎士団と全面的な直接対決は避けたいはずだ。だから、セシル王国を使い奇襲するような回りくどいことを?

 

 アサシンを王宮に放ったのもその一環なのか?

 

 ――まてよ、そもそもアサシン達の目的はなんだったのだ?

 

 王家の命を狙っていた……それは間違いない。だが、それでどうするつもりだったのだ。

 

 アサシン達が王家殺害を成功していたらどうなっていただろうか?

 

 仮に王家の全員を暗殺することに成功していたとしたら、王位は大公殿下に引き継が――違う。

 

 あの時、ボスト殿は何と言った? そうだ、『大公殿下のもとに来たアサシンを討った』と言っていた。

 

 大公殿下の命も狙われていた? 何故だ? 何故アサシン達は大公殿下が王宮にいることを知っていたのだ? 大公殿下は王宮にいること自体が稀だ。たまたま見つけたにしては都合が良すぎる。

 

 どういうことだ?

 

 もし、何かしらの手段で大公殿下の居場所を掴んでいたとして、大公殿下までも暗殺されていたとしたら?

 

 恐らく、ダルリアはかなりの混乱に陥るだろう。しかし、それは一時的なもののはずだ。ダルリアは決して王族の独裁国家ではない。

 仮に国を統べる王家を失ったとしても、元老達が残り、王宮、そして元老院が機能している限り立て直すことは可能だ。

 

 帝国だって王の権限はダルリアよりは強いが独裁国家ではない。そのことは予想が付いていたはずだ。

 ということは、一時期の混乱を目的にアサシンを放ったのか?

 

 それとも、王宮や元老院を制圧し国家としての機能を失わせ、王国騎士団の命令系統の混乱や補給を停止させることがアサシン達の目的だったのか?

 

 ばかな。どんなに手練れだとしてもたった七人で王宮の制圧など絶対に出来ない。

 

 だとしたら……

 

 )

 

 ――― ガチャッ ―――

 

 その時、私室の扉が何の前触れもなく開きクラウスが入ってくる。その表情には厳しさを伺わせ、自らがここにやって来た理由を早口に告げた。

 

「アサシン達の侵入経路が判明しました」

 


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