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近衛戦記  作者: 島隼
第四章 王国の抵抗
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第四話 増援要請 後編

 元老会議が中断してから二刻後、再度予定通り元老会議が招集され、冒頭でウォルトはセシル王国への援軍要請が受諾されたことをアウロと元老達に説明した。

「そうですか」

 アウロは複雑な表情をしている。

<<セシル王国軍側の規模はいかほどと?>>

「一万程とのことだ」

 コルトの問いにウォルトが答える。

<<一万……。では、前線の師団と西方師団、それにセシル王国軍を合わせれば五万を超える規模。なんとか帝国軍に対抗できそうですな>>

「うむ、これで退けられればよいのだが……」

 王国騎士団の錬度が高いとはいえそれでも数千程動員数が下回っていることもあり、未だ楽観視出来る状況ではなかった。それに対し、援軍の状況を黙って聞いていたオリゴが口を開く。

「陛下、王都防衛師団も派遣してはいかがか?」

「……どういうことだ?」

 ウォルトはオリゴと視線を合わせた。

「セシル王国軍の援軍を合わせてもまだ帝国軍の軍勢には及びません。しかも、前線では既に多数の負傷者も出ているとのこと。確かにこれで帝国軍は退くかもしれませんが、必勝を期すのであればもう一師団派遣すべきです。王都防衛師団を派遣すれば総勢で六万五千程の軍勢となる。そうなればまず帝国軍を退けることができる」

 オリゴはウォルトと視線を外さずに正面から見据えていたが、アウロがそこに割って入る。

「ヴェチル卿、それは危険すぎる。王都の守りを放棄するなど。もし本当にそれが必要なのであれば公都防衛師団を派遣しましょう」

 しかし、その意見にはオリゴが異を唱えた。

「公都シーキスからでは距離があり過ぎる。失礼だが、大公殿下。王都の守りと言われるが一体何から守るのです? 今戦場ははるか北方、帝国との国境ですぞ。王都にいてもやる事などせいぜいいつ発生するかもわからない瘴獣退治だけではありませぬか? 逆に問うが仮に前線の王国騎士団が敗れ、王都まで侵攻してきたら王都防衛師団だけで防げると御思いか? 三師団とセシル王国軍を破った程の軍となるのですぞ。我々はなんとしても国境で帝国軍を退ける必要がある!! 動員数で上回れば王国騎士団が帝国軍に敗れることなど有り得ない!!」

 オリゴは声を荒げた。

「しかし……」

 アウロは王都防衛師団の派遣に反対のようだったが、オリゴ言うことに反論できなかった。アウロがウォルトに目を向けると、ウォルトはアウロの目を見ながらゆっくりと頷くと口を開いた。

「確かに今の状況で国境を突破されればその後の戦争は厳しいものとなる。制圧される可能性も否定出来まい。今こそ王国騎士団の、いやダルリアの力を結集し戦う時なのかもしれんな」

 その言葉にアウロと元老達がウォルトに注目する。

 

「王都防衛師団を派遣しよう」

 

 ウォルトは静かだが力強くそう言うと、オリゴは安堵の表情が浮かべた。

「陛下……。わかりました。ですが、一つだけ提案させて下さい。やはり長期間王都の守りを薄くするのは危険です。そこで、王都防衛師団の代わりの王都防衛の任務を公都防衛師団に命じてはいかがでしょうか?」

「しかし、それでは公都が無防備になるであろう?」

 ウォルトはアウロの治める公都シーキスを気遣った。

「シーキスの周りには東方師団もいますのでしばらくは兼務させましょう。公都は前線からも離れていますので問題ありません」

「そうか。では、公都防衛師団を王都に派遣しよう。皆も異論は無いか?」

 ウォルトは元老達を見まわすとその意見に対しては異論は出なかったが、オリゴは言葉に出さないが何か不服そうな表情をしている。

 ウォルトは異論が無いことを確認すると卓の上にあった呼び鈴を鳴らし、部屋に入った来た侍従に王国騎士団長ルーク・アステイオンをこの場に至急呼ぶように命じた。

 

 しばらく待つとルークが部屋に入り、会議卓の前まで来るとウォルトと元老達に対し敬礼をする。

「ルーク・アステイオン、参りました」

「ご苦労。前線の状況については聞いておるな?」

「無論です」

 ルークの表情からは幾分苛立ちが伺えた。今、前線で戦って苦しんでいるのは自らの部下達であり、自分に権限があればすぐにでも援軍を派遣したいところなのだろう。しかし、ダルリア王国の騎士団は文民統制されており、何もできない自分に歯痒さを感じていた。

「では、元老院からの指示を伝える。セシル王国に援軍を要請した。西方師団を北方に進軍させて待機。セシル王国軍が到着後に合流し、共に前線に向かってくれ。それと同時に王都防衛師団も援軍として前線に派遣する。準備が出来次第すぐに前線に向けて進軍を開始してくれ」

 その言葉にルークは驚いた。

「王都防衛師団を? よろしいので?」

「うむ。王都には変わりに公都防衛師団を呼び防衛の任に着かせ、公都は東方師団に兼務させよ。お主は王都防衛師団と共に前線に赴き陣頭指揮を執れ。王都防衛師団はどれくらいで出れる?」

「一日以内には出れます。しかし、公都防衛師団の王都への移動には数日必要です。到着を待ちますか?」

「いや、お主も知る通り前線は既に危険な状態だ。すぐに向かってくれ」

「承知しました」

 ウォルトは元老会議で決定したことを伝えるとルークは想像以上に大規模な増援に驚いたが、この厳しい決断を行った元老達に感謝すると共に自らにも派遣命令が下ったことに胸が昂ぶるのを感じ、元老院を出ると急ぎクラウストルムへと戻っていった。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 フォルティスはウォルトに状況を確認した後に待機部屋へと戻っていた。

 有事体制が続き多くの近衛棋士達がいる待機部屋の中をフォルティスは自分の席まで進む。途中、何人かの近衛騎士がフォルティスに敬礼を行ったが、フォルティスは考え事をしているためか気付かずに応えることもなく、席に着くとそのまま目を閉じた。

 待機部屋で近衛騎士達への指示を行なっていたクラウスは、フォルティスの様子に首を傾げると近づき声を掛ける。

「どうかされましたか?」

「ん、ああ、ちょっとな。――帝国は、何故突然攻めてきたんだろうか?」

 フォルティスは目を開けると、疑問に思っていたことを口にする。

「何故とは? 侵攻の名分はヒリーフの村の奪還とのことでしたが、これは単なる口実でしょう。帝国が大陸の覇権を狙っているのは周知の事実。侵攻はその一環では?」

「まあ、そうなんだろうが……。何故、ダルリアなのかと思ってな」

「我らを落とせば、その先にある都市同盟も同時に手中にできると考えているのでは? 都市同盟は統一された軍事力を持たないことから容易く落とせると。都市同盟を落とせば帝国にとって最大の難敵であるロビエス共和国を包囲する形となります」

「それも、そうなのだが……」

 フォルティスもダルリア王国が帝国の手に落ちた後のことは予想していた。確かに都市同盟は隣接するロビエス共和国とは特に敵対はしておらず、ダルリア王国とは昔からの友好関係にある。周りに敵国となる国が存在しないため、特に軍隊というものを持っていない。その為、帝国との緩衝国となっているダルリア王国が帝国の手に落ちれば、帝国に屈することになるだろう。

「何か気になることでも?」

「ああ。帝国はここ十年程ダルリアには侵攻して来なかった。それは、この国が前回の侵攻の後に王国騎士団を再編成し、帝国の侵攻をも防げる程に規模を拡大したためだろう。現に今回の侵攻も苦戦はしているがなんとか防いでいる。増援が到着すれば帝国軍を退けられる可能性も高い」

「良いのではありませんか?」

 言葉とは裏腹に疑念の浮かんでいるフォルティスの表情に、クラウスは再度首を傾げた。

「もちろん我々としてはそうだ。だが、だからこそ帝国の目的がよくわからない。確かに帝国は過去に無いくらいの大規模な軍を編成してきた。しかし、今まさに帝国は退けられようとしている。帝国だって我々が動員できる規模の予想は着いていたはずだ。過去最大規模といっても何か中途半端な気がする。これで帝国が退くようなことになればあまりにもお粗末だ。仮に帝国がさらに動員数を増やし、国境を突破してきたとしてもまだ国内には東方、南方の方面師団と王都防衛師団、それに公都防衛師団だって動員することができる。例えこれをすべて撃破して王国を支配下に置いたとしても、帝国軍の被害は甚大なものとなるだろう。そうなれば大陸の覇権どころではあるまい。下手をすればロビエス共和国に侵攻されかねない」

 王都防衛師団の派遣は、まだフォルティスの耳には入っていない。

「確かに……」

 クラウスにもフォルティスが考えいていることが伝わりはじめる。

「帝国と国境を接している国はダルリアだけじゃない。こんなことを言うとセシル王国には申し訳ないが、ルファエル山脈があるとはいえ軍の規模からしたらセシル王国の方が遥かに攻めやすいだろうに。帝国はダルリアに対して必勝の体制がとれない状態で何故無理してまで攻めて来たのか。そうしなければならない理由でもあったのか……」

「そう言われると、確かにそうですね」

「何か気になるな……」

 フォルティスの頭にははっきりとは言い表せない不安がよぎっていた。


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