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近衛戦記  作者: 島隼
第二章 ダルリア・セシル同盟
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第三話 同盟前夜 後編

 待機部屋へと入ると、ちょうど哨戒任務に出ていたルナが共に行動していた近衛騎士と部屋に戻り、待機していた近衛騎士達に引き継ぐと引き継いだ者達が哨戒任務へと出ていった。

 フォルティスはルナと共に哨戒に出ていた近衛騎士を呼び、状況の報告を受ける。

「問題無いか?」

「はい。特に問題ありません。ただ、今日は客人が多く彼らがあまり王宮内を彷徨かないようにするのに気を使い、一回の哨戒にいつも以上に時間が掛かってしまいます。哨戒の穴が出来なければよいのですが」

「多くの客人が呼ばれているからな。好奇心で王宮内を見て回りたいと思う者も出るだろうが、三階より上には行かせないように注意して欲しい。哨戒の懸念については増員するように手配しておこう。今日の夜は長い。最後まで気を抜かずに任務についてくれ」

「はっ!」

 近衛騎士が離れると、それを伺っていたようにルナがフォルティスに近づく。

「フォルティス様、お疲れのようですね」

「ん? ああ、そうだな。そう見えるか?」

「少しだけ。私も疲れました……」

「お前はいつも通り哨戒任務に出ていただけだろう?」

 ルナはまだ見習いのため、今回の強化警備には加わらず、通常任務をこなしている。

「そうなんですが、他の皆さんの緊張感が伝わって来て、疲れてしまいました……。王宮内にも大勢の人がいますし」

「そんなんでどうする。お前もいずれ、こういう警備にも加わることになるんだぞ」

「はい……」

 ルナは少し自信なさそうに返事をした。

「この後は休憩か?」

「はい、少しだけ時間を頂きました」

「なら、部屋で少しでも睡眠を取れ。そんな調子では次の哨戒に支障が出る」

「そうします……」

 ルナは肩を落として部屋を出ると、入れ違いでボストが待機部屋へと入って来た。

「お疲れ様です、団長。ルナがなんだか疲れた様子でしたな」

 ボストはフォルティスの机の前に椅子を置いて座る。

「ああ、皆の緊張感に影響されたらしい」

「はっはっは。まだ若いですな」

「ああ、だが慣れていってもらわなければな。宴の方は見てきたか?」

「ええ。そうそう終わりそうにないですな。まあ、あれだけの貴賓を招いているのですからもうしばらくは続くでしょう」

「そうだな、今夜――?」

 フォルティスの言葉を遮るにように待機部屋の扉が叩かれると、フォルティスはそちらに目を向けた。近衛騎士であればそのまま入ってくるが、扉が開かれる気配は無かった。

「?」

 フォルティスは扉の近くにいた近衛騎士の一人に扉を開けされると、扉の外には見慣れぬ正装に身を包んだ男、セシル王国近衛兵の指揮官、近衛兵長ウィリス・ロカが立っていた。

「どうぞ」

 その姿が先程謁見の間でレニスが話し相手をしていた者だったことを思い出し、フォルティスは立ち上がると中へと招いた。

「あなたは?」

「セシル王国近衛兵長ウィリス・ロカと申します。ダルリア王国近衛騎士団長のフォルティス・ブランデル殿でしょうか?」

 ウィリスは近衛騎士団と同じような敬礼をすると、フォルティスもそれに応えた。

「ええ、私がフォルティス・ブランデルですが。このようなところにどうされました?」

「まずはお礼をと思いまして。我が王の警護まで引き受けて頂き、さらに我らにまで格別の対応、近衛兵一同大変感謝させて頂いております」

「お礼など必要ありません。ここはダルリア王国の王宮であり我らが守護責任を負う場所です。ヴィント閣下がこの王宮にいる限り我らが全力を持ってお守りいたします。ウィリス殿もお気になさらず宴を楽しんで頂ければと思います」

「ありがとうございます。ですが、私もあなた方と同じ責務を負う身。同じ近衛の名を持ちながら何もしないわけには参りません。そこでご相談なのですが、王宮を案内して頂くわけには参りませんでしょうか?」

「案内を? 何故?」

「貴殿方々が守護するこの王宮で何かがあると思っているわけではありませんが、万が一の際に我が王を連れて王宮内で迷うわけにも参りません。自分たちで見てまわろうとも思ったのですが、やはり近衛の方々に止められてしまうものですから」

「なるほど……。承知しました」

 フォルティスは近くの近衛騎士を一人呼ぶ。

「ご案内して差し上げろ」

「はっ」

「ありがとうございます」

「ただ、全てをご案内するわけには参りませんので、必要最小限となるかと思いますがそれについてはご理解下さい」

「無論、わかっております」

 ウィリスはフォルティスに敬礼をすると、案内役の近衛騎士と共に部屋を出ていった。

「……ボスト殿?」

 フォルティスは座ろうとすると、ボストがウィリスが出ていった扉をずっと見ていた。

「いや、変わっているなと思いましてな」

「変わっている?」

「いくら守護を我らに任せているとはいえ、近衛を名乗る者が他国で自国の王の側を離れるとは……」

「ああ。俺も思ったが同盟を組もうとしている国で、必要以上に警戒心を見せられないという配慮もあるかもしれないしな」

「まあ、それもそうですが……」

「他国のやり方をあまり意識しても仕方ないだろう。我らは我らのやり方で責務を全うするだけだ」

「そうですな」

 ボストはフォルティスの言葉に薄く笑みを浮かべると互いに先ほどまでの椅子に座った。

「しかし、えらい強行軍ですな。明日の同盟締結の後にすぐに国に帰るそうですが、一泊でとんぼ返りとは」

「まあな。しかし、王宮には一泊とはいえセシル王国内を含めれば往復では十日程掛かる。政情によっては結構な日数さ」

「確かにセシル王国は国王が全権を担っているといいますからな。あまり留守にすると国内に支障が出るというわけですか」

 ダルリア王国では政治的な権限の決定権は元老会議に集約されており、国王といえども独断では決定出来ず、権力が各元老に分散されている。

「そろそろ俺は謁見の間に戻る。ここは頼むぞ。それと、グレンが戻ったら哨戒の人数を増やすように言っておいてくれ」

「承知しました」

 フォルティスは待機部屋を出ると直ぐには謁見の間へは向かわずに、先にいつもの巡回路を周った。途中二階のバルコニーに出ると風がマント僅かに揺らす。そして、雲ひとつ無く満点の星が瞬く夜空を見上げると、フォルティスは大きく一つ深呼吸をした。

(……ふぅ、少し疲れたな。ふふ、俺もルナのことは言えないな)

 フォルティスは目を閉じ顔の表情を僅かに緩めたが、すぐに目を開けると正面を向いた。

(さて、戻るか……)

 バルコニーを後にし謁見の間のある三階に上がる階段へと向かう途中、交差する廊下に差し掛かったところで話し声が聞こえたため、その方向を見るとウィリスと案内をしている近衛騎士の後ろ姿が見えた。ウィリスは真剣な面持ちで近衛騎士にいろいろと質問をしているのが伺える。

(他国の者に答えられることなど、それほど無いのだがな。しかし、やはり近衛は近衛か……)

 フォルティスは二人に特に声を掛けることも無く、再び謁見の間へと向かった。

 

「何か変わったことはあったか」

 フォルティスは謁見の間に入ると、先程と同じ位置にいたクラウスの隣に立つ。

「特には。クリシス様は部屋に戻られたようですが」

「そうか。……やはり限界だったか」

 二人は話しながらも視線は謁見の間にいる宴の参加者達の行動を追っている。すると、ヴィントがフォルティスの元へと向かってくるのが目に止まり、フォルティスはヴィントの方に体を向けると敬礼で迎えた。

「お主がこの王宮の近衛騎士団の指揮官かな?」

「はい。近衛騎士団の団長を努めますフォルティス・ブランデルと申します」

 元元老家の人間とはいえ、そのことを知るはずもないヴィントから声を掛けられるとは思っていなかったフォルティスは、少々緊張した面持ちで応えた。

「世話になるの。ダルリア王国の近衛騎士団は精強だと我が国にも届いておるぞ」

「ありがとうございます。ですが、我々は近衛の誓いのもと、ただ使命を果たしているだけですので」

「ふふ、頼もしい限りだな。ウォルト殿に王都にも常駐の騎士団がいると聞いたが、ここは二重の守りになっておるのか?」

「はい。王都ルキアは王都防衛師団が常時防衛についており、王宮内は我ら近衛騎士団が守護にあたっております」

「なるほど。お主らのような精強な騎士に守られておれば、ウォルト殿達も安心してここで暮らすことが出来ようぞ」

「光栄なお言葉。ヴィント閣下もここにおられる間は安心しておくつろぎ下さい」

「うむ。そうさせてもらおう」

 ヴィントは軽く頷くと今度はレニスの元へと近づき、話し始めた。

「ヴィント閣下も長旅でお疲れであろうに。俺にまで声を掛けてくださるとは」

「ダルリア王国とセシル王国は外交関係が薄かったですからね。信頼の醸成に努めているのでしょう」

 フォルティスは二人から視線を外すと、今度はウォルトが周りを伺っているのが目に入った。隣では侍従がフロリアに何かを耳打ちし、フロリアがそれをウォルトに伝えるとウォルトが軽く頷いた。

「そろそろ終了のようだな」

「ええ、時刻も大分遅くなってきましたし、明日は大事な同盟の儀ですからね」

 フォルティスの言葉通り、少しするとウォルトは両手を高く上げ二度程大きく手を打つと、この場にいる者達の視線を集めた。

「皆の者、申し訳無いがそろそろ終了の時刻となる。明日は我が国とここにいるヴィント殿が国王を務めるセシル王国が同盟を結ぶ。この同盟は両国間にとって未来へと繋がるものとなるだろう」

 ウォルトの言葉にヴィントが手を上げて応えると、盛大な拍手が沸き起こる。

「明日の同盟の儀は皆の者に見届けてもらいたいと思う。明日の朝、もう一度この場集まって頂きたい」

 ウォルトが言葉の最後に片手を上げ、さらにフロリア、レニス、そしてヴィントを連れて謁見の間の出口へと向かうと、再度盛大な拍手がウォルト達とヴィントに送られた。

 ウォルト達が謁見の間を後にし拍手が薄れていくと、フォルティスは静かに片手を上げる。すると、近衛騎士達は一斉に動き始め、参加者達が王宮を出るための準備を始めた。

 クラウスは近衛騎士達の準備が整ったことを確認すると、ウォルト達が出た玉座側の出口とは逆側、謁見者が出入りするための入り口の前に立ち、参加者達を王宮の外まで先導していった。

 フォルティスは最後の一人が謁見の間を出るまでその場に残り、最後に侍従達を残し自らも謁見の間を後にした。侍従達はこの後、明日の同盟の儀のための準備に入る。

 

 フォルティスとクラウスは、その後も翌日まで交代で近衛騎士団の指揮にあたり続けた。

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