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近衛戦記  作者: 島隼
序章
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プロローグ

「――評議会の結論は出たか?」


 日が大きく傾き、クレアティオ大陸の北西に位置するアルデア帝国の帝都ベルドが美しい紅色に染まる。所々に立つ時計台からは密集した建物の上をいびつに、そして建物の高さよりも長く影を落としていた。

 帝都のほぼ中央には長大な城壁に囲まれた王宮がそびえており、白を基調としたいくつもの尖塔を携えた力強く美しい巨大な王宮は、それ自体がこの国の国力を象徴していた。


 そして、王宮の中央にある一際大きい尖塔の最上階にある薄暗い部屋の窓から、全身を覆うくすんだ赤色のマントを羽織った一人の男が紅色に染まる帝都を見下ろしていた。

 六十半ば程の黒髪をしたその男は顔にこそ歳相応の皺が刻まれているものの、その力強い眼は年齢による衰えを一切感じさせない。

 その男の口から発せられた低いがよく通る声に、窓の反対側にある扉の前にいる若い男が答える。

「はい。評議会は陛下の提案を賛成多数で承認致しました」

「賛成多数? やはり、全会一致とはならなかったか。反対したのは、ガイズ達か?」

 男の低く抑揚の無い声からは感情を感じ取ることは出来ない。その上、若い男からは背中しか見えないため、まるで別の者が話をしているような錯覚を覚えた。

「はい。ガイズ・ボト評議会議長を含む三名の評議員が反対されました」

「……そうか。それも民の声の一つ、よかろう」

 男は振り向くと自らの執務用の机に座った。無表情なその顔からはやはり感情を感じ取ることは出来ない。

「先方からの連絡は?」

「先程返答がありました。約束が確約されるのであれば協力するとのことです」

「約束の確約か……。締結後の領地維持と、交易の専有権。それで変更は無いな?」

「ありません。先方は身の安全と金が欲しいのでしょう」

 若い男はわずかに笑みを浮かべる。

「大局を見定め、そして自ら描くことが出来ぬ者だということだ」

 男は無表情のまま机上にあるヒュミドールから葉巻を一本取り出し端を切り火をつけると、緩やかに燻らせた葉巻の煙は風の無い部屋でゆっくりと立ち登っていく。若い男はその間に部屋の壁際にある木製の絢爛な棚から葡萄酒の瓶とグラスを取り出すと葉巻を楽しむ男の前で注いだ。

「承知したと伝えろ。我が名において必ず約束を守るとな」

「かしこまりました。この件は陛下のご指示通り評議会に承認申請は出しておりません。しかし、よろしいのですか? 後々評議会が騒ぎ立てるのでは?」

「構わん。今はまだ公にする段階では無い。事が済んだ後に事後承認を得ればよい。全てが予定通り終わった後であれば世論は我を支持するだろう。そうなればこの時期に評議会が我を非難することなど出来ん」

 男は葡萄酒を一口含むと十分に味わってからゆっくりと飲み込む。

「確かに」

「それより、外征軍の準備はどうなっている?」

「各地に展開していた南方外征軍に対し帝都への招集を通達しました。しかし、大規模な軍の移動は周辺諸国に警戒感を与え兼ねないため、ある程度分割して移動させています。そのため召集の完了にはもうしばらく時間が掛かります。国境警備軍への通達は完了しています」

「わかった。下がれ」

「はっ」

 若い男は一礼すると、扉から外に出て行った。

「大陸の統一と安定……。そのためには避けては通れん。ダルリアよ、我が帝国の民のためにその身を捧げるがいい……」

 男は一人呟くと、手に持っていた葉巻の煙が静かに揺らぐ。


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