きっと!運命の邂逅!その1
そこは、昔はかなり大きな駐車場だったことを伺わせる敷地だった。
だが今は、地上に出ようと足掻いた雑草達が、敷かれたアスファルトを盛り上げ、砕かれて亀裂を縦横に走らせている。
その裂け目のそこここに、人の背丈よりもまだ高い雑草が生い茂る成れの果てへと化していた。
しかし、いかに荒れ果てているとは言え、そこはかつての駐車場であり、雑草の隙間から覗く黒いタールの塊は、盛夏の燦燦と降り注ぐ太陽の輝きを照り返すことなく吸収し、生い茂る雑草達を干上がらせる勢いで、地上近くの大気の温度を上昇させている。
熱くなった空気が不規則に光を屈折させ、生気を失ってしぼんだ雑草たちがまるで蒼い炎のように揺らいで見えた。
そんな、生き物の生存限界のような環境の中で、色とりどりのポロやTシャツを身に着けた数人の男女が悪戦苦闘しながら何やら機材をセッティングしている。
労苦をいとわずよく勤めようとはするが、一向にはかどらない彼らの仕事ぶりは、傍から見れば不満があって自棄な振る舞いをする奴隷の群れのようだった。
「オオタちゃぁ゛~ん。もっとテキパキやってよぉ。暑いのはみ~んな一緒だからねぇ」
麓の海の家から借りて来た、大きなパラソルで作った日陰に、折りたたみ椅子を二つ並べて座る二つの影。
そのうちの一人、団扇を扇ぎ涼みながら、作業する者達に目を配る監督者らしき人物が、そんな報われない指図をしながら、隣の椅子に座るでっぷりと太った髭面の男『生川・ルーク』に視線を移す。
紺色の安っぽい紋付羽織袴にぶよぶよぶくぶくとした白い身を包み、赤ん坊のように短い指の生えた両手にはサテンの白い手袋と言う趣味の悪い出で立ちが――。
非常に鬱陶しい。
「センセぇ゛~。まだ随分かかりますよぉ。車の中で待っててくださいよぉ゛~。冷房効いてますからぁ」
監督者が愛想笑いをしながらそう言うと、生川はぷくぷくとした口を蕾ませて、そのまわりにチョボチョボと生やした、お世辞にも清潔とは言いがたい髭をモゾモゾと動かしながらしゃべりだした。
「いやでち!だって、ここ幽霊出るんでちょ?一人で車の中にいて出たらどうするのでち!」
生川は、拗ねるようにそう言うと、左手に抱いている赤い和装の球体間接人形『タルト』の長い黒髪を愛おしげに撫でて、己の顔の肉に埋もれて細くなった目を一層細めた。
「幽霊出たら祓えばいいじゃないですか!退魔師なんだから」
監督者が声を荒げる。
「何言ってんのよ、祓えるわけ無いじゃないのでち!」
「あ゛っ、やっぱ無理ですか?」
監督者はそう言うと、後ろ頭を右手で抑え、乾いた愛想笑いを浮かべた。
「当たり前でち!祓え無いでち!相手は幽霊なのよ、祓える訳無いじゃないのでち!余計なことをして、もし、祟られでもしたらどうするつもりなのでち!」
生川はそう言うと、抱いている人形に「ねぇー、無理でちよねー、タルトぉ」と言って人形の顔ギリギリまで唇を寄せてキスをする真似をした。
「のぶちゃぁ゛ーん『センセぇ』に何か冷たいもの持って来てぇ゛!」
見るに耐えない醜態を目の当たりにして、気分の悪くなった監督者が視線を後ろにそらしながら叫ぶ。
と――、
その時、「チーフぅ!セット完了しましたぁ」と言う声が上がり、作業員の男の一人が大きく手を振った。
「ナイス・タイミンヴぅ゛ー!オオタちゃ゛~ん」
やっとこの居心地の悪い雰囲気から逃れられると言う喜びの気持ちが、思わず言葉の響きになって出てしまう。
気取られたかと生川を見るが、彼は何やら人形との意味不明な会話に夢中で気づいていない様子だった。
すぐにその場を離れることに思い及び、手を振っていたスタッフへ駆け寄ってい行く。
「オオタちゃ゛~ん!オオタちゃ゛~ん!」
チーフと呼ばれた男はオオタの名を繰り返し呼びながら近寄ると、彼の首に手を回し、フツフツと汗のにじんでいる顔を近づけ、たばこ臭い口臭を漂わせながら声を潜めて語り出した。
「さぁ、じゃ、さっさとやっつけちゃおうよ~、オオタちゃん。日が高いうちに病院の中の撮影終わらせないとねぇ~。日がちょっとでも傾いちゃったら、あのデブ言うこと聞かなくなっちゃうんだからねー。解ってるぅ?オオタちゃ゛~ん」
オオタの首を伝わりダラダラと流れる汗が、チーフの回した腕にせき止められ、胸の方へとこぼれて来る。
オオタは、そのあまりの不快さに顔をしかめた。
「そんな顔しないのー。オオタちゃん。しょうがないだろう?だってあのデブ、明るいうちでないと怖くて幽霊病院の中に入りたくないって言うんだからぁ」
オオタの顔つきや身振りを、仕事に対する不満の表情だと思い違えたチーフが、彼をなつかせる様に当たり柔らかいダミ声で言い聞かせる。
「ささーっと病院の内のシーンとってさ!あと、夕方、日が傾くまでは自由時間にするから、昼に冷たいビールでもきゅっとあおって!一寝入りして、後は涼しくお仕事って事で。そんな風に、ひとつ、よろしく!」
そんな風には絶対行かない事が常の慣わしである事を知りつつも、自分の首にまとわり付く鬱陶しいチーフの腕を離してもらいたい一心で、オオタは「はぁ」と気の無い返事を返していた。
チーフはニタニタと上機嫌の表情を作り、オオタから離れると、朽ちた病院の前で立ったまま干からびたように散開するスタッフ達に向かって叫んだ。
「さぁー!じゃ、カメリハ行くよー!」
「ちっと、ちょっと待つでち!」




