小説版 第一章マスター日本へ転送される
第一章
マスター、地球へ転移する
夜の酒場。
木のテーブル。
ジョッキのぶつかる音。
冒険者たちの笑い声。
油の匂い。
肉を焼く煙。
ここは――
マスタリア。
剣と魔法の世界。
ドラゴンと魔王が存在し、
冒険者ギルドが
世界の困りごとを解決する場所。
その酒場のカウンターに
ひとりの男が座っていた。
ギルドマスター。
名は
syou。
年齢、五十三。
Sランク鑑定スキルを持つ
この街の冒険者ギルドのマスターだ。
ドラゴンの能力も
魔王のステータスも
一目で見抜く。
だが
今、彼が困っていることは――
「……栓抜きどこだ。」
テーブルを探す。
袋を探す。
見つからない。
「おいおい……」
「俺、ドラゴンの弱点は分かるのに
栓抜きは見つからないのか。」
酒場が笑いに包まれる。
その時。
指先に
硬い金属が触れた。
「ん?」
持ち上げる。
黒い鍵。
見たことのない紋章。
syouは眉をひそめる。
「……なんだこれ。」
そして迷わず言った。
「鑑定。」
その瞬間。
鍵が
淡く輝いた。
同時に
syouの瞳が光る。
酒場の奥で誰かが言う。
「お、マスター鑑定だ。」
別の冒険者が笑う。
「マスターの鑑定はSランクだからな。」
「ドラゴンのステータスも一瞬で見えるらしいぞ。」
「魔王の能力も分かるって噂だ。」
だが。
光が消えた。
結果が出ない。
syouは固まった。
「……は?」
もう一度。
「鑑定。」
再び光。
しかし
何も表示されない。
syouは鍵を見つめる。
静かに言った。
「おいおい……」
「俺の鑑定スキルは
Sランクだぞ?」
ドラゴンが見える。
魔王が見える。
だが
この鍵は
見えない。
syouはつぶやく。
「……見たことのない魔道具か?」
その時。
頭の中に声が響いた。
認証しました
【マスター】
syouは眉をひそめる。
「……なんだ今の。」
声は続く。
発動にはキーワードが足りません
続けてキーワードをどうぞ
syouは鍵を回した。
「キーワード?」
そして笑う。
「ただのキーだろ。」
認証しました
【キー】
syouは完全に固まった。
「……おい。」
その時。
酒場の入口から声が飛ぶ。
「おいマスター!」
常連の冒険者だ。
「今日は街のあの店が
オープンする日だぞ!」
酒場が一斉に笑う。
syouはハッとする。
「やっべ!」
椅子から立ち上がる。
「俺めっちゃ楽しみにしてたんだ!」
そして叫ぶ。
「夜の店オープンじゃねえか!!」
その瞬間。
認証しました
【オープン】
静寂。
そして
キーワード成立
マスターキー起動
鍵が
太陽のように輝いた。
ジョッキの酒が
空中で止まる。
笑っていた冒険者たちが
そのまま固まる。
炎が
ゆっくりと歪む。
空間が
曲がる。
酒場が
折れ始める。
syouの体が
引き寄せられる。
「おいおいおい!」
床が波打つ。
世界がねじれる。
空間が渦を巻く。
syouは叫んだ。
「ちょっ待て!」
光。
歪み。
崩れる世界。
そして
最後に叫ぶ。
「夜の店ーーーーーーーーーー!!!」
声が引き延ばされる。
そして
消えた。
転移 完了
第一章 完
次回予告
第二章
マスター、日本にやってきた
ゴールドはある。
だが
円がない。
戸籍もない。
身分証もない。
マスタリアの
ギルドマスター。
しかし地球では――
ただの無職。




