元野良猫の人間観察
短編です
吾輩は猫である。名前はポン太。
数か月前から、ここの人間に世話になっている。
以前は地域の荒くれ猫どもを従える、ボスをしていたのだが、なぜかここの家の人間が吾輩を勝手に家というものに連れてきた。怪我をしていたわけではないが、この家の人間は吾輩を捕らえ、“動物病院”などという場所に連れていった。
あそこは地獄だった。耳の先から尻尾の先、ましてや尻の穴までありとあらゆる個所を調べられた。ボスとしての威厳はどこかへ消えてしまったように感じた。
それから私は“我が家”と人間が呼ぶ空間に閉じ込められている。拉致監禁というやつらしい。この間昼のTVドラマでやっていた。
この部屋には、草もなければ砂もない。代わりにトイレ専用の砂地を用意された。吾輩は自由な猫。決められた場所以外でもトイレを済ませてやったことがあったのだが、この家の人間にしこたま怒られた。何をそんなに怒るのか、吾輩の縄張りにはマーキングをするのが当たり前なのだが、人間にはそういう猫の細かい機微は解らないらしい。
人間の家には、フカフカした大きなものと、日当たりのいい小さめのフカフカ、それとTVと呼ばれる音の大きい黒い物、人間用毛皮のたくさん入ったクローゼットと呼ばれるものがある。初めの内こそ警戒はしたが、ここは外と違って、敵はほとんどいないらしい。吾輩はボス猫だった故、怪我などはほとんどしなくなったが、この家という空間は、外と比べるととても快適だ。気温も大きく変わらないし、食べ物は勝手に人間が用意する。時折もらえるおやつもなかなかうまい。吾輩はボスであるから、近所のばあさんから煮干しをいつも5匹くすねては食べていたのだが、この家に来てからは、一日2~3匹がせいぜいで、人間が「食べすぎだよ」だか何だか言うときは一匹ももらえなかった。人間は実に気まぐれで困る。まぁ、人間は猫の言葉を理解できていないようなので仕方のないことかもしれないが。
時々、“窓”と呼ばれる外と繋がっている透明な板の向こう側で、カラスやスズメ、鳩が飛んでいる姿を見るのだが、この透明な板の外に出してもらえないので、鳥は久しく捕らえていない。代わりに人間が振り回すひもやシャバシャバと気になる音のするものは追いかけているので、運動はできている。しかし時々、外にいた頃が懐かしく思えてくる。
その日食べるものとして、鳥や虫を捕らえていたが、今はソレも必要なくなった。
外に出たくないかと言えば、嘘にはなるが、今はまだ、この家という空間に居座って、人間という生き物を世話してやるのも、まぁ良いかもしれないとは思っている。
「ただいま~ポン太~」
人間が帰ってきた。帰ってくるなり、私の腹に顔をうずめて頭を擦りつけてくる。ついでに匂いまで嗅いでいるようだ。外にいた頃も人間はいたが、このタイプの人間は初めて出会う、特殊な個体と理解した。
こうして人間という生き物を観察し、この家を吾輩のチームの本拠地として利用するのも悪くない。まずは人間が猫にとって、悪となるかどうかを、見極めねばならない。注意深く観察を続けよう。
——元野良猫の人間観察——
猫ちゃん!




