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三.五章
送信先:不明
件名:観測データ(未送信)
作成日:**月**日/22:47
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本件、封印の理論の進行状況について記す。
ここ数週間、観測対象との距離を保つことが難しくなっている。
対象は静かで、余計な意図を持たず、光の反射率が極端に安定している。
どんな角度から見ても揺らがない。
それは理論上、封印の条件を満たすはずだ。
だが、数値の揺らぎはむしろ拡大している。
“信仰”の値が上昇しているのかもしれない。
もし仮説が正しいなら、
V=B×C
の式に、Belief(信仰)とCirculation(循環)以外の第三項が存在する。
それは観測者の「介入」、
もしくは──愛着。
この町の光は、他のどこよりも遅い。
波が光を反射して戻すまでに、時間の膜がある。
その遅れが、信仰を形にしている気がする。
このデータを持ち帰れば、
教授が提唱していた「永続的価値の証明」に一歩近づける。
だが、私は迷っている。
価値が永続することは、本当に幸福なのだろうか。
光が逃げないということは、
つまり、誰かを閉じ込めるということではないのか。
封印の理論は、
いずれ私自身をも観測対象に変えてしまう。
もしこの記録を誰かが読むなら、
どうか彼を見ていてほしい。
彼が光である限り、
この理論は完成しない。




