6.カインとヴェル
ゲームの中盤くらいだったと思う。
魔王の手先の中ボス的な枠割の敵との闘いの中で、人質となって初めて現れるのがヴェルだった。
この中ボスが割と頭の切れる狡猾なやつだったんだ。
強すぎるカインの弱点となるものを探し出して精神的に追い込むという作戦だったのだ。
他のキャラは誰だ?となる中、カインだけは茫然自失だった。
カインの弟だとわかった時にはカインは弟を助けるために一人で駆け出していた。
この事件でカインは利き手の右腕と固有スキルまで失うのだった。
ゲームバランス的に強すぎたカインをどうにかする為の制作サイドの事情だったのかもしれない。
そう邪推してしまうほどに急な展開だったのだ。
それでも皆のヘイトはヴェルに向かった。
結局ヴェルはここで殺される。
ゲームをやっていた時には
当たり前だ
自業自得だ
お前だけが死ねばよかったのに
と他のカインファンの人と一緒になって怒っていた。
あの誰よりも強かったカイン。完璧だったカイン。
ぽっと出のキャラに弱体化されてしまった。
この展開はカインのファンの間だけではなく、ゲームが好きな人にとっても納得いかず、
ヴェルは皆が憎むべき対象になっていた。
俺はあまり見なかったけれど、二次創作でもいかにヴェルを痛めつけるかで盛り上がっていたようだった。
カインがヴェルを見捨てるifは流行ったなー…
お前なんか弟じゃない!的な感じでなー
それに対して誰も苦言を呈さなかった事も、嫌われっぷりがわかるというか…
この後、腕を落とされたカインはしばらくパーティーに入る事も出来ず、
傷が治った後も能力値は激減していた。
そうして自分は役に立たないのだと思い悩むカイン
ついにその心の隙間を魔王に狙われて闇落ちしてしまう。
そう魔王はまだ完全に復活はしてはいなかったのだ。
自分が憑依できる都合の良い強い肉体を探していたのだ。
絶望したカインは肉体を乗っ取られて魔王となる。
かつての仲間が最後のボスになるのだ。
それがこのゲームの大筋の話だった。
今になって思う事だがあの事件はヴェルの固有スキルがあれば防げたと思う。
でも使わなかった。
なんて奴なんだと思うと同時に、ヴェルとして生きてきてその気持ちも痛いほどわかってしまった。
ヴェルはもう一度兄に見てほしかった。
帰って来てほしかったんだ。
この世でたった一人だけ、自分を愛してくれたカインに
忘れないでいて欲しかったのかもしれない
たとえ殺されたとしてももう一度会いたかったんだ
カインの中に何か残ればいいと
誰にも祝福されずに忘れ去られた存在だった
何にもなかった人生だった
たった一つだけの大切なものだった
その気持ちが転生してヴェルになった俺には痛いほどにわかってしまった。
カインが大好きだった。
いやずっとずっと大好きなんだ。
だから今馬車に乗り侯爵家から少しづつ離れていることにこんなにも胸が痛い。
戻りたい。
戻ってカインと一緒にいたい。
前世の俺とヴェルとして生きてきた俺
どちらもカインが大好きで大切なんだ。
だから離れるしかないとわかっているのに涙が止まらなかった。
揺れる荷台の隙間で俺は一人膝を抱えて泣いていた。




