14.魔王
成功した!
と喜ぶのもつかの間…全身に重苦しい空気と刺すような痛みが走る。
脱出するのに多少無理はしたがそれだけではない。
カインが言っていたようにここは瘴気が濃いのだろう。
息をするのも苦しい。
まだ身体が完全に適応していないのだ。
それでも行かなければ…
今行かなきゃ後悔する。
俺は重い身体を引きずって部屋を出た。
どこにいけばいいのかもわからない。
けれどなんとなくカインはこっちにいる気がするという直感だけで進んだ。
そんな直感は当たっていたようで大広間で玉座に座るカインとそれに対峙している勇者の姿を見つけた。
あぁこの場所は最終局面の場所だ。
俺のいた部屋は玉座の裏側に廊下で繋がっていたようで部屋に入ると近くにカインがいて、ゲームでのやりとりも魔王側から見る事ができた。
こんな場所があったんだ。
ゲームではこの部屋に入ってからは探索する事もなくオートで進むから知らなかった。
なんて感慨にふけるよりもとりあえず今はこの戦いを止めないと…
勇者と魔法使いが大きな魔法を繰り出す。
あれはとても協力な合体魔法だ。
危ない!止めなければ。
カインですらまともに食らえば無事では済まないだろう。
「…にぃさま…」
声もまともに出なかったが気が付いてはくれたようだ。
急に目の前に現れた俺にカインは驚きつつも駆け寄ってきてくれた。
「ヴェル…!先ほど一瞬気配が消えたと心配していたんだ。すぐに現れたから、俺の感知がイカれただけかと思っていたが…様子を見に行けばよかったな。まだ身体は適応しきってはいないだろう。早く部屋に戻ろう。でもその前にヴェル…あぁ美しい瞳…動いているお前をもう少しだけ目に焼き付けさせてくれ…」
カインは俺の両頬に手を当て、またうっとりした顔でそう言った。
勇者達も突然の第三者とカインの変貌っぷりに驚いてはいるが、すぐさま我に帰り今がチャンスとばかりに大技を繰り出す。
あぁやってしまった…また俺のせいではないか。
戦いの最中にカインの隙を作るだけになってしまった。
せめて大技を全てカインが食らわないように庇うためにカインの前に出ようとする。
そんな俺を抱きしめて尚も1人でカインはしゃべっていた。
「ひとりで寂しかったか?すまないな、片時も離れるつもりはなかったのだが…やはり面倒事はすぐに済ませるべきだった。」
いやそんなことはどうでもいい。
もう魔法が放たれてしまう。
来る衝撃に覚悟をして俺は少しでもカインに当たらないよう抱き着いた。
「はぁ…ヴェル…なんて優しい子なのだろうか。あの頃からなにも変わっていない。もう何も心配しなくていい。」
パチンッ
何が起きたか俺にもわからなかった。
それは勇者たちも同じようだった。
カインは何をしたんだ。
放たれた魔法に向かい指を弾いただけで魔法は何もなかったかのように消えていた。
あの魔法は、勇者と魔法使いの全てをかけた究極魔法だったはずだ。
俺以上に呆然としている勇者たちに向かってカインは言う。
「そろそろ学習しろ。まだ力の差がわからないのか?俺がその気になれば、世界などたやすく壊せる。この力の差を見て何故理解しない?」
どういうことだ?カインはなぜこんなに強いんだ…
改めて見ると勇者はボロボロであったが、カインには傷1つついてなかった。
「そもそも俺はこの大陸1つで我慢してやると言っているのだ。我が愛しのヴェルが見つかった時点で、共に暮らせる地があればそれでいい。世界を征服するだの、俺にはどうでもいいのだ。」
誰も何も言えなかった。
「まぁ見つからないままであったら世界中探す手として征服くらいはしていたところだが…早々にヴェルが戻ってきてくれたことに感謝するのだな人間」
抱き着いたままの俺に顔をうずめスーッと匂いを嗅いで満足したのかカインは寛容な顔で続けた。
「今お前たちを殺さないのも、単にヴェルの前で酷なものを見せたくないだけだ。これ以上俺を煩わせ俺達の時間を邪魔するのであれば本当に世界を征服してやろうか?」
その一言でこの戦いは終わりを迎えたのだった。




