表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/16

第7話:決戦前夜!最終警告ストリーム!

「あちちっ!だから言ったじゃん、こっちのコンデンサだってー。MOCAの指示通りにやったらショートした」


「失礼な。マスターの半田付けが雑なのが原因だ。そもそも、失われた技術の再現において、マスターの勘に頼る方がよほど危険なんだ」


翌日の放課後。いろはの部屋は、完全にカオスと化していた。床には電子部品の空箱やケーブルが散乱し、部屋の隅では3Dプリンターがウィーンと唸りを上げてパーツを出力している。テーブルの上では、いろはとMOCAが物理的にも、比喩的にも火花を散らしながら、二つの怪しげな装置の試作品を組み立てていた。


昨日の決意表明の後、いろはは早速「緊急!ヤバすぎ廃病院攻略のための新兵器開発資金カンパお願い!」と題した短い告知動画を投稿。意外にも、前回の事故配信のバズ効果か、あるいはカレンへの対抗心からか、目標額のQチップはあっという間に集まったのだ。


「よし、こっちはなんとか形になった……かな?じゃあ、早速テストしてみよ!」


いろはは、ゴツゴツとした金属パーツと配線がむき出しになった、銃のような形状の装置を手に取った。これが『逆相関波干渉装置(仮)』だ。


「待って、マスター。出力制御がまだ不安定だ。最低レベルでの試射を推奨する」


MOCAの警告も聞かず、いろはは部屋の隅に置かれた、もう使っていない古いクマのぬいぐるみに向けて装置を構えた。


「発射!」


トリガーを引くと、装置の先端から青白い光線が一瞬放たれた。……かに見えたが、直後、バチン!という音と共に部屋の照明が消え、PCや3Dプリンターなど、接続されていた全ての電化製品が沈黙した。


「……やばっ、ブレーカー落ちた!」


「……やはり。出力制御に致命的な難あり。要再調整」


暗闇の中、バッテリー駆動のMOCAだけが冷静に分析結果を告げる。


「次はこっち!『指向性センサー(仮)』!」


ブレーカーを復旧させ、今度はもう一つの、片眼鏡のような洗練されたデザインのモノクル型センサーを手に取る。


「起動!」


そっと片目に装着すると、モノクル内側の精密光学ディスプレイが起動し、視界に直接、周囲の空間情報らしきものがオーバーレイ表示され始めた。壁や家具がワイヤーフレームで表示され、その中にいくつかの光点が明滅している。


「おおっ、なんかすごい!これは何の反応?」


いろはが壁の向こうを指差すと、MOCAが答える。


「それは壁内部の水道管を流れる水のエネルギー反応だね。周波数がズレている。このままでは、ただのノイズしか拾えない」


「壁の中に何かいるのかと思ったのに、ただの水道管?」


カクリと肩を落とすいろは。


「これじゃ全然ダメだあ……明日、カレンとの配信対決なのに」


「まだ時間はある。調整を続ければ……」


「そうだ」


MOCAの言葉を遮り、いろはがポンと手を叩いた。


「こうなったら、もう配信で見せちゃえ。開発中のトラブルも含めて、全部!」


「マスター、それは無謀では?未完成な兵器を公開するのは……」


「いいの、これが私のやり方だから」


いろはは有無を言わさず、PCを再起動し、配信ソフトを立ち上げた。


『【緊急生配信】ヤバすぎ新兵器できた!&最終決意表明!』


突発的なゲリラ配信にも関わらず、通知を受け取った視聴者がちらほらと集まってくる。


「みんなー、こんばんいろは!緊急配信だよー」


カメラに向かって、満面の笑みで手を振るいろは。背景には、まだ配線がむき出しの怪しげな装置が二つ。


「見てみて!これが、明日の霧科医療センター攻略のための、対カレン&対ヤバすぎ怪異用秘密兵器だ!ドン!」


いろはは、まだ調整中の二つの試作品を、自信満々に掲げてみせる。


コメント欄が加速する。


『キターーー!』

『新兵器!?』

『なんかヤバそうwww』

『配線むき出しで草』


「ふっふっふ……この子たちの名前はね……こっちのヤバいビーム出すのが『ゴーストキャンセラー』! で、こっちの空間の歪みとか見つけるのが『スペクトラル・ファインダー』だ!」


『おおおおおおお』

『かっけえ』

『中二病ww』


その場のノリで命名した武器のスペックについて語っていると、コメント欄に見慣れた名前からの投稿があった。


『@幽識(ゆうしき):そのスペックだと低出力でも相当な威力が出そうだが……』


「あっ幽識さん、さすが詳しい!でも、大丈夫。私がちゃんと制御してみせるって」


いろはは自信満々に胸を張る。


「この子のスゴさを見せてあげないとね。せっかくだから、ちょっと強めに出してみようかな」


「マスター、待ちなさい。出力制御はまだ調整中、高出力テストはシミュレーションでも未検証だ」


MOCAの警告が響くが、配信のテンションが上がっているいろはの耳には届いていない。


「ゴーストキャンセラー、出力50%!」


数秒間の内にエネルギーがみるみる充填され、いろはは部屋の隅に置かれた、哀れなクマのぬいぐるみに向けて、トリガーを引いた。


瞬間――


装置の先端から放たれたのは、青白い光線ではなかった。空間そのものが歪むような、禍々(まがまが)しい紫色のエネルギー波が(ほとばし)る。


バチチチチッ!!


激しいスパークと共に、エネルギー波はぬいぐるみを跡形もなく消し飛ばし、さらに壁の一部を(えぐ)り取る。部屋中の照明が激しく明滅し、PCやモニターが一斉に火花を散らしてブラックアウト。近くにあった小物類がカタカタと震え、壁に貼ってあったポスターがパラパラと剥がれ落ちる。


「緊急警告。制御不能なエネルギーサージ、局所的空間不安定化を検知。システム……強制シャット……ダウン……」


MOCAの声が弱々しく響き、ドローン本体もガクンと床に落ちる。


「ひゃああああああっ!?」


いろはの絶叫。配信画面は激しいノイズに覆われ、視聴者の阿鼻叫喚のコメントが一瞬流れた後、プツンと途切れた。


――数分後。


焦げ臭い匂いが立ち込める部屋。床には散乱した部品と、黒焦げになった壁の一部。そして、床にへたり込み、顔面蒼白でワナワナと震えるいろは。


「……う、うそ……でしょ……」


目の前で起きた惨状に、声も出ない。あのクマのぬいぐるみは、お気に入りだったのに……いや、それどころじゃない。壁に穴が……。


「……システム再起動。マスター、無事かい?」


床からゆっくりと浮上したMOCAが、ややノイズ混じりの声で問いかける。


「ぶ、無事……だけど……MOCA、あれ……」


いろはが震える指で、抉れた壁と、その向こうに見える隣の部屋を指差す。


「ゴーストキャンセラー、想定外のオーバーロード。空間歪曲効果を伴うエネルギー放出を確認。原因……マスターによる無謀な高出力設定』


「うぐっ……」


正論パンチが痛い。痛すぎる。


「幽識氏の警告通り、低出力でも十分な威力、いえ、危険性があったものを、マスターは……」


「わ、わかってるって!もう言わないで!」


耳を塞ぐいろは。完全に自業自得。配信は大事故で強制終了。コメント欄はきっとプチ炎上。明日のカレンとの対決以前に、この部屋の修理代と、何よりこのヤバすぎる兵器をどうするか。


「これ、本当に明日使えるかな……?」


半泣きでMOCAを見上げるいろは。


MOCAは数秒間、赤く点滅するレンズで部屋の惨状とゴーストキャンセラーをスキャンしていたが、やがて静かに告げた。


「……リスク再計算。ゴーストキャンセラーの制御不能リスク、95%に上昇。しかし、観測されたエネルギー出力は理論最大値を38%超過。これは……驚異的な破壊力だ」


「え?」


「結論。この兵器は極めて危険だ。だけど、同時に、記録にある脅威に対抗しうる唯一の可能性も示した。……マスター、最終判断を」


MOCAの言葉に、いろははゴクリと唾を飲んだ。恐怖と、ほんの少しの好奇心。そして、絶望的な状況なのに、なぜか湧き上がる妙な対抗心。


「……やるしかない、でしょ……」


顔を上げた彼女の目には、涙が滲んでいたが、その奥には決意の光が宿っていた。


「もう配信で言っちゃったし……それに、このヤバさ、逆に面白くなってきたかも……!」


(いやいやいや、全然面白くない!壁どうしよう!クマさんごめん!でも、ここで逃げたらもっとカッコ悪い!)


心の中で激しく葛藤しながらも、いろはは無理やり笑顔を作った。


「……了解。これより、プロトコル・オメガを発動。マスター就寝後の再調整フェーズの際、残りのリソースを、マスターの生存確率最大化に最適化しておこう。ゴーストキャンセラー及びスペクトラル・ファインダーの緊急時制御権限の一部を、私が受領する』


MOCAの声には、AIとは思えないほどの、固い決意と……ほんの少しの呆れが混じっているように聞こえた。


「……ありがと、MOCA」


「感謝の言葉は不要だ。最優先目標は“マスターの生存”。ただし、その感情的決断の確率推移は、危機回避アルゴリズムの範囲を逸脱している。次回はもう少し論理的な判断を頼むよ」


「……うん、次は気をつける……」


いろはは頷いたが、次の瞬間には、ひときわ小さな声で呟いた。


「……ところで壁、なんとか誤魔化せないかな……」


【本日の配信結果】

▶ チャンネル登録者数:151人(+23人)

▶ 最高同時接続者数:480人(+125人)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ