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第6話:世界を救うには、まず課金から。

「うわっ……何これ……『原因不明の職員連続失踪』『患者集団幻覚…後に昏睡』って、ヤバすぎない……?」


自室に戻ったいろはは、MOCAがモニターに表示した『関連非公開事件記録』のテキストを読み、顔を青くした。ククから手に入れた情報は、ネットで拾えるような生易しい噂話とは次元が違った。そこには、霧科医療センターが廃墟となるに至った、おぞましい出来事の断片が生々しく記録されていたのだ。


「マスター、落ち着いて。感情的な反応は状況分析の妨げになる」


MOCAは冷静に言いながら、複数のウィンドウを開き、事件記録の詳細解析と、同時に手に入れた二つの設計データの解析を同時並行で進めている。その処理速度は、いろはの理解を遥かに超えている。


「落ち着いてって言われても、こんなの見たら普通引くでしょ……『特定エリアにおける非ユークリッド的空間歪曲の観測』……『断続的な高周波エネルギー放射、既存センサーでは計測不能』……何それ、もう意味わかんないんだけど!」


「言語化不能な現象であることは同意する。だけど、これらの記述は重要だ。特に『地下研究施設での“制御不能”事象に関する隠蔽された報告』。これは、我々がこれから対峙するであろう脅威の核心に触れている可能性がある」


MOCAの分析は続く。その声は淡々としているが、画面に表示される解析データは、事態の深刻さを物語っていた。


「地下に何かヤバいのがいるってこと?それに空間が歪むって何!?ワープでもするの!?」


「現時点では断定できない。だけど、これらの記録が示す脅威は、我々の標準装備――私が普段使っている汎用センサーやEMPバーストでは、探知・干渉が難しいだろうね」


モニターに、MOCAの装備と、記録にある脅威パラメータの比較グラフが表示される。結果は、絶望的なまでに差が開いていた。


「うそ……じゃあ、どうしたらいいの?カレンとの勝負以前に、私たち、瞬殺されちゃうじゃん!」


「そこで、これらのデータが生きてくる」


MOCAは、並行して解析していた設計データのウィンドウを前面に表示した。


「クク氏から提供されたこれらの設計データ……政府か大企業の闇プロジェクト由来の可能性が高い。倫理的問題で凍結された対超常現象兵器研究の試作品データだよ。驚くべきことに、これらの技術は先ほどの事件記録にある特異現象に『特化』して設計されているフシがある」


「え……あの怪しいデータって、このヤバい記録と関係あるの?」


「断定はできないが、偶然にしては符号しすぎている。まるで、この廃病院で起こった何かに対処するために作られたかのような……。解析を続行する」


MOCAはまず、『逆相関波干渉装置』のデータを解析していく。モニターには複雑な回路図と数式が滝のように流れる。


「……なるほど。記録にある『高周波エネルギー放射』に対し、逆位相の干渉波を照射し、強制的にその構造を不安定化・中和を狙う設計思想か。しかし、制御系に致命的な欠陥がある。エネルギー効率も極めて悪い。失敗すれば、術者自身にも深刻な影響が及ぶ可能性がある」


「危なっ!そんなの使えないじゃん」


「単体ではね。だけど、私の演算能力と現代の制御技術で補強すれば、あるいは……」


「……うん、とにかくやってみよ。――でも絶対、私が死ぬオチだけはナシね?」


「次に『指向性センサー』。こちらも同プロジェクト由来のようだが、これはより汎用的な設計思想が見られる。原因不明の異常高周波パターンを広範囲かつ指向性を持って探知するセンサー。記録にある『空間歪曲』のような特異現象の痕跡だけでなく、エネルギーが残留・集積しやすい場所の特定にも応用できるだろうね。ただし、こちらも感度と安定性に問題を抱えている。どちらも未完成かつ危険な代物だ」


「未完成で危険って……そんなの作って大丈夫なの?」


「リスクは未知数。だけど、これらの技術なくして、霧科医療センターの深部に到達し、生還する保証はない。事件記録を信じるなら、標準装備では我々は探知すらされずに消滅する可能性がある。これらの『失われた技術』は、まさに記録にある脅威に対抗するために設計された、唯一の手がかりと言える」


MOCAは、事件記録の別の断片をハイライトした。


「……記録の断片には『被験体消失』『制御不能』の文字も。開発者自身がこの技術を扱いきれなかった可能性が高い。それはこの技術の危険性を示唆すると同時に、我々が挑む脅威がいかに強大であるかも示している」


「うへぇ……ますますヤバいじゃん……」


いろははゴクリと唾を飲んだ。恐怖と、それ以上に強い好奇心。そして、ライバルへの対抗心。


「……」


一瞬、迷いが心をよぎる。本当にこんな危険なことに首を突っ込んでいいのだろうか。でも――。


「……分かった。やるしかないでしょ!」


いろはは顔を上げ、決意の光を目に宿した。


「カレンに負けられないし、何より、この記録の真相、突き止めたい。それに、こんなヤバい話、配信ネタとしても最高じゃん!」


最後のは少し本音が出すぎたかもしれないが、偽らざる気持ちだった。


MOCAは数秒間、沈黙した。


「……了解。ただし、これらの技術の再現と改良には、特殊な部品と精密な調整が不可欠だよ。数種類のレアメタルや、高純度のクリスタル発振器などが必要になる。当然、それなりのコストがかかる」


「コスト……つまり、お金?」


「あるいは、視聴者からのQチップだね」


MOCAの言葉に、いろははニヤリと笑った。


「よっしゃ、Qチップ集めは任せて!次の配信で、このヤバい計画、発表してやる。みんな、きっと応援してくれるって!」


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