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第4話 赤舐

あれを親とは思いたくもねえ


物心ついた時は飲んだくれの女衒の親父と一緒だった


よく、このろくでなしが俺のことを「やれ、愛想がないだ」、「母親に目が似ている」「女なら岡場所で働かせられたのに男で生まれたお前は役に立たねえ」と言って俺を殴りやがる


俺は床を舐めてそいつの暴力に耐えてきた


地べたを這うような生き方


風呂に残った他人の垢を舐めたような生き方


俺のガキの頃はそんな生き方ばかりだ



ガシャあああんん


俺の体がぶっ飛ばされて囲炉裏で湯気を上げていた鉄瓶に頭から突っ込んだ


熱湯が頭から被りボコボコ音がなる熱湯によって、肉を焼き付けるような激痛が俺の頭に走った


釜茹で地獄というものがあるらしいが、俺は生きながらそれを味わった


閻魔の裁判なしで味合わされたから、10才の俺がよほどの罪人なのか、浮世が地獄より地獄じみているのか


「幻藏!!」


ここで仲良くなった蒼が叫ぶ


女衒の親父が死んで次に連れてこられたのがこの小さな孤児施設だった


ここもどうしょうもない男が腕力で俺たちをぶん殴って、自分の意のままに従わせようとしてきやがる


子供に暴力が振るえるということはこの世の何より偉いことらしい


2歳年下の蒼とはここで知り合った


お互い碌でもない親の話をしているうちに気が合ったのだ


ある日、蒼が所長に部屋に連れられていくのを見た


なぜか胸騒ぎを覚えた俺は部屋の中をこっそりと覗いた


そしたら案の定、このクソは蒼の体をその脂ぎった両腕で抱き抱えて、舐め回すように弄ってやがった


怒った俺は部屋に飛び込み、所長に殴りかかった


そこまではいいが、まだ俺も10才の小僧だ


一発でぶっ飛ばされて、頭から熱湯をかぶることになる


だが、いい


おかげで目が覚めた


死んだ親父も所長も大人は暴力を振るう


それをされたくないなら・・・、簡単な話だ


こっちが先に仕掛ければいい


俺は囲炉裏にあった火箸を後ろに隠し持つ


「見たな!このクソガキ!!いいか、ここで見たことを誰かに言ったら」


奴は俺の首を絞める


その力の強さに俺は一瞬落ちかける


奴は、俺を口封じに殺す気だったかもしれない


それだけ短絡的で、粗暴な野郎だった


だが、いつもの俺とは違う


手には火箸がある


ぐさっ!


俺は奴の喉笛に火箸を思いっきり突き刺した


「ぐええ、ぐええええ」


奴はガチョウのような声を上げて床に転げ回る


「げ、幻藏!」


蒼は俺に縋り付いてくる


こいつは俺がいないと本当にダメだな


俺は微笑みながら蒼の頭を撫でた


「行くぞ、蒼。ここにはいられない」


「で、でもどこに行くの?」


「俺たちを受け入れてくれるところだ」



15年後


俺は『赤舐の幻藏』と呼ばれる盗賊となった


ここは水星の周辺を飛ぶ俺の船の中だ


俺は囲炉裏の前に腰をかけると電気囲炉裏に当たっていた


鉄瓶が熱せられて湯気を上げている


「おい、何をビビっているんだ?末吉」


「あ、ああ」


左右から仲間に腕を掴まれた末吉は怯え切った目で俺を見ている


「俺たちは兄弟分、盃を交わし合った中だろうが」


「か、勘弁してくれ、勘弁してくれ兄貴」


「あの日、蒼が脱出用小型機でここを逃げ出した日の見張りだったのはお前だな末吉」


俺はできるだけ優しい口調で末吉に語りかける


「冗談じゃねえ、なんで俺が」


「お前が蒼に色目を使ってんのは知ってんだよボケがあ!」


俺は思わず怒鳴り声を上げる


いかん、いかん


短気を治そうとしているのだが、ついつい、カッとなると怒鳴り声を上げちまう


嫌なところばかり親父に似てきて困る


「末吉、怒鳴っちまって悪かったな。だが、教えてくれよ。蒼は俺の元から離れてどこにいっちまったんだ?」


「知らねえ知らねえ!」


奴は泣き叫びながら否定する


俺は頭を抑えた


額から左目の周りまでに残る古い赤色の火傷が疼く


あの所長に負わされた火傷は俺が誰かを傷つけようとすると疼きやがる


「お前ら、末吉の頭を押さえつけろ」


部下たちは末吉の顔を押さえつけて口を開かせる


俺は熱湯の入った鉄瓶を手に取った


「や、やめやめてくれええええ!」



俺はガキの頃から頭の悪い大人から地を這わせられ、垢を舐めさせられてきた


もうそんなのは懲り懲りだ


今の俺は暴力を振るって人を従わせる側に回る


俺や蒼を傷つけてきた世の中、全てが仇人だ


絶対許さない


絶対に逃さない


誰も俺の仇を取らないならば、俺は俺の力で世の中に仇討ちをしてやる

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