第12話 それから
奉行所に蒼が自首をしてきたのは3日前だった
自分が赤舐一味の引き込みであり、一年前の白木屋事件の全貌を自白した
盗賊達のアジトが本所の塗仏寺ということがわかり、長谷川出雲奉行が機動隊を率いて捕らえに行くも、そこには盗賊達の死体ばかりが転がっており、寺は火に包まれておた
消防隊が火を消した後、寺の残骸から首領の赤が崩れた大仏の下敷きになって身動きが取れないまま、焼け死んでいたのが発見された。
誰が、盗賊達を殺したのか
サイボーグ化した連中の死体もあったから、おそらく、単独ではあるまい
蒼に尋ねるも、そのことについては、存じないの一点張りだった
赤舐の幻藏は恐怖で仲間を縛り付けていたという
おそらく、仲間の中に幻藏を亡き者にしようと思ったものが出て、互いに殺し合ったのではないだろうか
蒼については直接、人を殺めなかったとはいえ、白木屋の罪も軽くないが、その悲しい生い立ちや、幻藏に逆らえない状況だったことを考慮して、10年の遠星になった
要は惑星タイタンの鉱山への流刑ということである
「10年という、遠星は女性の身にはきついものだろう。しかし、そこを乗り越えて、綺麗な体で今度こそ自分の人生を生き直すんだよ」
お捌きの最後に、長谷川出雲は温かい声で蒼にそういった
「ありがとうございます。今度こそ、生き直して見せます」
「お前さんに、客がいるんだ。おい、連れてきてやれ」
お白洲の場に現れたのは根津屋の若旦那、秋作だった
もう会うことがないと思っていた彼の顔を見て蒼は驚いた
そして、彼に自分の正体が知られて、面を合わせて嫌われるのがとても恐ろしく感じた
「蒼さん」
「は、はい」
「私はずっと、あなたの帰りを待っています。タイタンから帰ってきたらまず、根津屋を訪ねてほしい」
「わ、私は、盗賊の片棒を担いでいた女ですよ。若旦那に似合う女じゃあないですよ」
「過去なんて関係ないよ。私はありのままのあなたのことが好きなのだから、父さんと母さんはなんとか、説得した。だから、安心して根津屋に帰ってきてほしい。待っているから」
「秋作さん」
感極まった蒼の目から涙が溢れる
あの日、幻藏が火傷したあの日から泣かないと決めていたのに、10年、溜まっていた涙が一気に流れ出したように止まらなかった。
だが、それは悲しい涙ではない、嬉しい涙だった
二人はお白洲で抱き合い、一生分を泣き尽くすかのように涙を流しあった
「なんだよ。おめえら、めでてえじゃねえかよ。泣くやつがあるかよ」
長谷川は優しい笑みを浮かべながら若い二人を見つめていた
奉行所の外を制服姿のあやせは杖をついて歩いていた
その前から同心姿の斬一倍が歩いてくる
斬一倍はあやせの顔を喉きこむ
「おや?あやせ。今日はご機嫌そうじゃあないか」
「そう?」
あやせは小動物のように首を傾げる
普段はすました顔の彼女の口元は今は少し笑みが見える
確かに機嫌が良さそうだ
「そう見えるな。仕事の時よりずっと機嫌が良さそうだね」
「仕事で機嫌が良くなるのはあなたくらいよ。この変態」
変態と言われて、斬一倍は顔を赤くして動揺する
「へ、変態!?何をいうんだろうね、この子は・・・、だが気持ちはわかるよ。蒼さんはきっと、これから幸せになる」
「当たり前じゃない。そんなの」
そういって斬一倍の袴の袖をあやせは引っ張った
「蒼さんの将来を祝って、大黒屋のチャコレートパフェを奢って」
「はあ?なんで私が君にパフェなど奢らねばならんのだ?」
斬一倍は嫌そうに顔を歪める
「いいでしょ?稼いでいるんだし」
馬鹿野郎。同心は安月給だよ
だけど
斬一倍は口元を歪めて笑う
「まあ、今日ぐらいはいいかな」
完