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第10話 別れ雪

10時になった


空港には蒼は現れなかった


そんな、バカな、彼女が自分を裏切るはずがない


何度、そう言っても、現実は変わらない


雪がチラチラ、星を隠す黒い雲から舞ってくる


凍てつくような冷たい夜風に吹かれながら秋作はただ一人、その場に佇む



蒼からの連絡が来なくて焦っているのは彼らもだった


本所『塗仏寺』では、今夜12時に向けて押し込みの準備をする赤舐一味


しかし、赤舐の幻藏は落ち着かない


イライラして、飲む酒の量が増える


「おい、蒼からの連絡はまだか」


酒を注ぎながら赤舐は尋ねる


「まだ、予定の12時まで時間があります。きっと姉さんも残った仕事が忙しいとかで連絡できないんでしょう」


「いや、気に入らねえ」


幻藏は首を振るって否定する


「俺が言った連絡の時刻を無視しやがった」


「まさか、逃げやがったんじゃあ」


「馬鹿野郎」


幻藏は部下の頭を殴る


「あの女は俺の怖さを知っている。次に逃げれば殺すということを骨身に染みて知っているはずなんだ。何かあったとしか思えねえ」


恐怖を叩き込んだ相手は必ず従う


それは幻藏の経験では恐怖での人の支配は絶対である


だから、あの女が俺を裏切ることはあり得ない


ならばあの女が連絡してこないのはなぜだ?


まさか、思いたくはないが、蒼はこの世にいないのではないか


次の瞬間、廃寺の電灯の明かりが一斉に消える


そして闇の中に銀色の糸が走った


シュン!


空気を切るような音がして手下の首が飛ぶ


悲鳴と銃声と血飛沫


闇の中で死が起きている


そのことだけは幻藏にもわかる


「なんだ!?なんだこりゃあ!?」


幻藏は手探りで外に逃げてゆくが、その間も部下たちが銀色の糸に切り刻まれてゆく


やっと外に出ると外には一人の侍と一人の僧がいた


一人は身なりからすると同心のようだ


見張をさせていた周りに数人の手下の死体が転がっているところを見ると、この男が殺したと見て間違いがない


独鈷杵を模した鍔に赤い水晶を刃の形にしたような抜き身の赤い刀を手にぶら下げている


舞い散る雪も相舞って冷たい雰囲気の男だった


その隣には巨大な仏像を背負った大男がいる


身なりからして僧のようだが、その硝煙をあげた銃を持っているところを見るとただ、ただ念仏を唱える僧侶ではないようだ


幻藏はこの男たちに心当たりがあった


EDの陰にいるという裏社会の異端者たち


金のためならばどんな殺しをも引き受けるという始末屋が自分の首を狙ってきたのだ


「てめえ、始末屋か」


と幻藏は二人を闇夜でも輝くギョロリとした目玉で睨みつける


「待っている女は来ないよ」


と霧一倍は冷たく言い放つ


「振られちまったな。色男。彼女は永遠にお前の手の届かないところにいっちまったぜ」


口元を歪ませながら言うのは破戒僧『摩利支のゴンゲン』である


「そうか、てめえら、蒼を殺したのか」


なぜ、蒼が自分に連絡してこないのか今、理解した


ビリビリビリ


腹の中、いや、脳細胞の一つ一つから沸き起こってくるのは怒りだ


激しい怒りで幻藏の火傷が熱くなって痛み出す


あの日以来、この火傷は自分が暴力を振るう時や怒りを感じた時に痛み出すのだ


今、最高に自分は怒っている。最高にこいつらを叩きのめしたい。その怒りに同調して火傷は熱をもつ


熱い、熱い、熱い!!


薄汚い殺し屋に蒼を殺された事により幻藏の怒りと火傷の熱が頂点になったのだ


「てめえら、生きてここから出られると思うなよ。お前らは生きたまま、泣き叫びながらこの寺と一緒に焼かれる事になる」


幻藏の言葉をゴンゲンは鼻で笑い飛ばす


「女と会えないくらいでそんなにカッカするなよ。どうせ、行き着く先は地獄なんだ。寂しくなんかないぜ」


「地獄に落ちるのはてめえらだ。先生方出番だぜ」


寺の屋根に二つの人影がある


そのうち一つは背中に黒い翼を背負っている痩せの男


そのうち一つはピンク色の体をしたサイボーグの男


「てめえらも、始末屋か?」


「少しは楽しませてくれるんだろうな」


そう言いながら二人は地面に降りてくる


「なんだ、君たちは同業者か」


斬一倍は楽しそうに口元を歪ませながら刀を構えた


この男はこの中にいる誰よりも何よりも()()を楽しんでいる


「面白い、ポン引きよりも楽しめそうだ」



彼らの間を冷たい風が吹き抜ける


雪はただ、静かに降り積もってゆくのみ

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