第1話 親子
人類が地球を離れて宇宙に新たな新天地を追い求めた時代の話
闇に隠れて標的を必ず始末する
火星有数の都市EDの陰に始末屋と呼ばれる組織があった
暗殺能力と戦闘能力を極限まで高めた彼女たちの中でも最強と呼ばれた女がいた
それが始末屋組織『火車』の元締め『妙多羅のお清』である
彼女が暗殺に使う得物は『糸』
両手の徹甲の爪から伸びた10本の糸が標的の肉に絡みついて切り刻む
その糸が鳴らす音は地獄の調べ
変幻自在に動くその糸から逃れたものは未だかつていないという
「た、助けてくれ!お清」
銃を投げ捨てて命乞いをする男
今にも泣きそうな顔をしながら妙多羅のお清に頭を下げる
「それはダメだね、あんたはあたしらを巨神会に売ったんだ、仲間たちはあたしを残して全滅さ。謝るなら地獄で死んだ仲間たちに謝んなよ」
その時、後ろで扉が開く音がした
振り返ると3、4才の白髪の少女が立っている
身なりがかなり悪い
明らかに殴られた後のような痣がある
この男に虐待されていたと見て間違いないだろう
「この子は?あんたの子かい」
「どうかな?半年前に馴染みの女郎が俺に押し付けてきやがった。俺の子かどうか怪しいもんだし、おまけに生まれつき目が見えないみたいでなんの役にも立たねえ。そうだ」
男は何かを思いついたように妙多羅のお清の足にすがりつく
「どうだ。あのガキをあんたにやる。だから俺を助けろ!女郎屋に売り飛ばせばいい。買い手がつかなきゃかっ捌いて臓器を」
「あんた」
お清は手を動かした
すでに糸は男の首に掛かっていた
「へ」
「化け猫に子を差し出して生き延びようなんざ、どこまでも見下げた男だねえ」
男の首が輪切りに切断されて宙を飛んだ
残された胴体はそのままゆっくり崩れる
少女は光の灯らない赤い瞳でこちらを見ていた
「親が子供を売る。全くつくづく因果な世の中だよ」
目が見えない少女
この子を守るべき親がいないのに、この子がまともに生きられる道理もなく
ならばこの手で極楽浄土に送ってやるのがせめてもの仏心としれ
お清は微笑みながら腕を振り上げる
糸は少女の首に掛かった
この手を握れば少女の首が切断される
しかし、お清は手は止まっていた
彼女はこれまで、誰も彼も男も女も老いも若きも殺してきた
しかし、唯一、子供だけは殺したことがなかった
何度か手を握ろうとするも、その幼い赤い瞳を見ているとどうしてもそんなことはできない
舌打ちをすると少女に掛かった糸を解除した
「あんた、名前は?」
しゃがみ込み目線を合わせて優しい言葉でお清は少女に問いかける
「あやせ」
「そうかい。あやせ、どうだい、あたしと一緒にくるかい?」
「うん」
盲目の少女はお清の手に縋り付く
この日、少女あやせは始末屋『妙多羅のお清』の娘となった
彼女より新しく『五十鈴あやせ』と言う名をもらう
そして、この日が悪党どもが震え上がる始末人『八握脛のあやせ』の誕生であった