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周りは漆黒の闇に覆われていて、オレとアイツ以外を映さない。そんな中でアイツは言った。選択の時は来たのだと。この時、オレには2つの選択肢が迫っていた。
1つはアイツを殺す事。
もう1つは、世界を殺す事だ。
どちらかを選ぶのはオレだ。オレにとって、何を変えてでも守りたかったアイツか、この世界に住むアイツの妹や、オレのライバル、ここまで導いてくれたあの人達か。
オレの中では、既に答えは決まっていた。
オレは最後に聞く。まだ何か選択肢はあるのではないのかと、最後なのに関わらず聞いてしまう。アイツはもう時間はないと言った。
アイツの最後の最後に笑って言った。
私を殺して、と。
オレはふと、アイツと初めて会った日を思い出した。
あれは数年前、路地裏でアイツはニコリともしなかったな、と今になって懐かしくなる。
オレは短剣を手に持った。オレの髪と同じ白銀の刀身に、アイツの髪と同じ漆黒の鞘を。オレがコレを使うのは今、この時が最初で最後だろう。
オレは、なぜか手に馴染むソレをそっと構えた。
ソレを勢いよく_____
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−−−−−時は遡る。
帝都グラドダァートの路地裏、そこで彼は寝ていた。
目を覚ました彼は、今日も何もない1日を過ごす…はずだった。寝ていた彼の側に少女が丸くなって寝ていた。
彼が警戒し、ナイフを構えた時、少女は目を覚ました。
その少女の目を見た彼は、驚愕した。
その少女の目の中には、傷がついていた。彼が固まっている隙をついて、少女は彼に言った。
「お願い、私を殺して。」
いつもの彼なら、普通に、殺していた。だが……
「理由次第だ。」
と、聞いた。何故なら、その理由は少女の目にあった。少女の目には、何もなかったのだ。絶望も、希望の一筋さえも。だから、気になった。
そして、少女は言った。
「私、死ねないの。」
そして少女は語りだした。何故殺して、と言う事になったのか−−−−−−−。
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少女は、とある王国の特別豊かでもない普通の家庭に生まれた。妹もいて、楽しく暮らせていた。だが、そんな日常が終わるのは、早かった。
王国が、『この王国にいる少女の中に、聖女がいる』といい、王国中の少女達を強制招集させたのだ。
もちろん、少女も、少女の妹も招集される事になった。
そして、聖女認定の儀で、選ばれてしまった。少女も、少女の妹も。それから、それまで送っていた日常が送れなくなった。
少女と少女の妹は、協会へと送られた。その日から、聖女教育が始まった。
聖女は、人々を癒す存在。故に、癒しの力を身に付けなければいけない。そこで、癒しの力を修得するための特訓という名の絶望が始まった。
まず、聖書を読み、聖力を高める。高める事が出来なかったら、
「卑しい平民の出の癖に!」
と、鞭で打たれ、ご飯が貰えない。なので、必死で聖力を高めた。
次に、常に笑顔でいる様に言われた。少しでも崩れると、鞭で打たれ、あとは同じ。
そんな風にして、少女達は壊れていった。やっと癒しの力が身に付いた時も、何も感じなかった。嬉しさすら。
そして、それからも少女達は、聖女としての活動に駆り出され、休む暇すらなかった。
そんなある日、王国で内乱が起こった。どうやら、国王や女王などの王族が、かなり好き勝手していた様だ。
なので、協会の人間も、今は少女達以外誰もいなかった。少女の妹は、少女に言った。
「逃げよう」
と。
それから少女二人は手を握りあって、恐ろしい協会を出、逃亡生活が始まった。
二人共、かなり衣服がボロボロで、見かけた人が、簡素なフード付きのマントをくれた。そして、いつかからか、少女達を追う人達が出てき始めた。
それらから逃げ、 ずっと住んでいた彼女達の家に、少女達は最後の希望として、向かっていた。
そして少女達が見たのは、何かが燃えた跡と、二つの墓。
近くを通った人に聞くと、放火による、殺人事件。
少女達の希望が、ガラガラと崩れ、失くなった。