7、舞踏会とドレス
「シンデレラの魔女の役は私がやりたかったのだけれど」
部屋中にどっさり届けられた衣類や宝石類の入った箱を眺めながら、氷の魔女は小首を傾げた。
「……急だったもので、仕立ては間に合いませんが……いえ、お望みであれば、舞踏会の日程をずらして、三日で仕上げさせます」
「舞踏会は今日だろう。何を言ってるんだい、君は」
「すいません、聖騎士さん。こういうお願いが出来るのって、聖騎士さんしかいなくて……」
連れて来られたメイドたちに着せ替え人形よろしく、正装をあれこれ着替えさせられながら、アキラ君はすまなそうに頭を下げた。
舞踏会に参加したいと言ったアキラ君。かといって、どういう身分で城に上がらせるか。魔女のエスコートとしては聊か心もとない。世に飽いた氷の魔女の付添人、に、貧相な子どもはどうしたって注目を浴びる。それはアキラ君も望まないだろうと、仕方がないのでヘクセは聖騎士に「パーティーの招待状が欲しいのだけれど」と魔法の伝言を送った。
直ぐに用意します、という返事が来たのは送ってすぐ。そして豪華な馬車を三台引き連れて、煌びやかな礼装を纏った聖騎士殿が魔女の家にやってきた。
「……君はいつも、こんなにキラキラした礼装を着ているのかい」
王族しか身に付けることの許されない白と金糸をたっぷり使った礼服は、聖騎士の顔をいつも以上に良く見せた。目がちかちかすると、瞬きを繰り返して、魔女は眉間に皺を寄せる。
「いえ、今夜は魔女殿のエスコート役ですので……張り切りました」
こほん、と咳払い一つ。
胡散臭い男もこうして照れたように言うのは中々「本気」っぽい。こうやって御令嬢を落とすのだろうな、と、ヘクセは感心した。
「さて、弟君の支度はメイドたちに任せれば問題ないでしょう。魔女殿もそろそろお支度をされてはいかがですか。こんなこともあろうかと、私の礼服と揃いのドレスがありますので」
なにがこんなこともあろうかと、なのか。
「私は魔女の正装があるのでそちらでいいんだよ」
氷の魔女。絶対零度の永久氷壁。真珠と鉛。理解の女。第十三階級の序列は三位。魔女として漆黒の正装があるので、それを着て大きなツバつき帽をかぶって参加すれば問題ない。
そもそも、王位継承権を持つ聖騎士と魔女がおそろいの煌びやかな服を着て王族主催の舞踏会に参加するなど、前代未聞。勇者殿のお披露目パーティーで騒ぎを起こす気か。
「私たちが目立てば、勇者殿の弟君が一緒に来た印象が薄れますので、是非」
「仕方ないねぇ」
なるほどそう言う作戦か。
さすがは手段を選ばない男である。アキラ君を無事にパーティーに潜入させてくれる約束を守るためなら、醜聞だって受け入れるということか。ヘクセは納得して頷き、メイドたちにされるがままドレスを身に付けることを受け入れた。