「アンコールと愛のイランディー」
シンフォニア掲示板
佐倉幸さくらこうの事
・転生の女神による転生ボーナスで、音楽の能力値が現世の100倍にアップ
・ギターの魔力の1つ 【音楽は言語を越える】
幸のギターに魅力されたものは、例え魔物であっても、意思疎通が可能になる
・ギターの魔力の1つ 【心酔】
幸のギターに魅了されたものに、命令を下せる魔法の力だ。
この世界の事
この世界は6つの国からなる。
【レナシー共和国】、【ミグニクト】、【ファードナル】、 【ソドム】、【ライトメイト】、【シグルド連邦】
・世界で1番大きかった国【ドルトナティア】が、一年前に突然消えた?
・楽奴と言う、音楽をさせられる専門の奴隷がいる。
この世界の人々は音楽が大嫌いで、その結果なのか、音楽が聞こえなくなった。
そして、音楽は、まるで黒光りするGのように、存在するだけで気持ちの悪いものとなっている。
そのような音楽の待遇の中、楽奴は何故か、音楽をすることを強いられている。
もちろん。自由や平等といった人権はない。
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「……アンコール来たね。」
幸は自分達の決意がちゃんと届いたことを胸に刻みながら言う。
「決めてたんだこの曲って。
みんな行くよ……。」
「G♭ A♭ Fm7 B♭m G♭ A♭ B♭m」
この曲は、静かにそして力強く、幸のギターがコードを弾いて、そしてキヨラのヴァイオリンがメロディを取って始まった。
それは儚くも、永遠の愛を歌ったかのような旋律だ。
観客はこの冒頭で涙腺崩壊。
曲はリズム隊が入ってどんどん加速して華々しくなっていく。
幸には、疑問に思っていたことがあった。
タック達、悪ガキ6人衆の事だ。
彼らは、自分と同じように身寄りがない子供達なのじゃないだろうか。
幸には佐倉児童保護施設あって、母さんや妹達と出会い、幸せを教えてもらった。
愛を教えてもらった。
でも彼らは、身寄りのない中で子供達だけで集まり、タックを中心にたくましく生きてきたのだ。
じゃあ……。
……大人たちは何をしていた?
ただ危機に面した時、縮こまり、困難が去るのを待っていた村の人々。
だが、タック達はどうだ。
“音が苦”を運ぶ幸が来た時も、最初から攻撃態勢で石を投げたのはタック達。
ピーネという魔物が来た時も、村を助ける為にまず立ち上がったのは悪ガキ達だった。
村の人の為に常に動いていたのは……、悪ガキと罵られ軽蔑されていた6人。
悪ガキ達は愛を求めていた。
もっと彼らに愛を与えてあげて欲しい。
壊すことで、愛を欲しがっていた悪ガキ達。
愛さない事で、彼らの気持ちをどんどん遠ざけて擦れさせた、村人達。
全部変わって愛し合って欲しい。
幸が心の底から思う彼らへの愛の歌。
最初の曲では、最初からノリノリでバカ騒ぎしていた6人もこの曲は、誰も動き回ることなく、ただただ涙がこぼれている。……伝わっている。
村人たちも涙を流して音楽を聴いていた。
_____幸は演奏しながら思っていた。_____
「あぁ、村の人、全員には届かなかったなぁ。
この音楽も。……俺の気持ちも。」
女神アルメイヤの言った、【成しなさい】
これは何をするのが正解か、まだ何も分かっていない。
自分のギターを持って【成しなさい】なのであれば、楽奴の解放。
同時に人間の音楽に対する気持ちの払拭……、なのではないかという予想だけなのである。
だから、ここで全員に届かなかったとしても、それは【成せなかった】というわけでは勿論ない。
しかし、初めての異世界ライブそういうつもりで挑んでいた幸には、しこりが残っていた。
_____しかし、ここで思わぬ救世主が登場するのであった_____
「幸!!!
おらの事、忘れてるぞ!!
助けに来たんだ!!」
村の入り口から叫ぶのは2匹のゴブリンだった。
もちろん幸達には声も聞こえていないし、存在にもまだ気づいていない。
入り口で叫んだのは異種族混合村のゴブだった。
バーウの村まで駆けつけて来たのだ。
そして、彼は勇者であるから、自分のすべきことがおのずと分かったのだ。
「おらは勇者だ!
知ってるか?
勇者専用の魔法のこと。」
ゴブは言う。
「しかも、昨日のおめーの演奏で、村に来た奴と仲良くなったんだ!
おらにも彼女が出来たんだぞ!
なんとそいつも勇者なんだ!!」
ゴブが鼻高々に言う。
「わたくし、“ゴブミ”と申しますの。女勇者ですわ。
さぁゴブ様。
わたくし達の力、御見せいたしましょう。」
彼女らしいゴブリンが言い放つ。
どちらの声も、幸達には聞こえていなかったが、ゴブ達は行動を開始した。
「勇者だけが使える雷の魔法……!!」
““イランディー!!””
二匹が唱えると、手から雷が迸る。
それらは村の入り口のそばの家に一直線に走り出し、そして窓という窓に纏わり付く。
“パリン” ”パリン”
悪ガキ達が、投げつけた石など、比べ物にならない威力の雷が、家の窓全てを一撃で粉砕する。
「こうしたらいいんだべ?
俺達は二人いるからなぁ……。
さぁいくぞ!」
ゴブが勇んで言った。
二人のゴブリンはステージに向かってどんどん進みだす。
そしてゴブが左翼、ゴブミが右翼、というようにひとつ残らず村の窓を消し炭にしていく。
“パリン” ”パリン”
“パリン” ”パリン”
“パリン” ”パリン”
“パリン” ”パリン”
ゴブ達が、村の中腹くらいに来た時、幸達は気付く。
そして、彼らの後ろからはぞろぞろと、入り口の方から村人たちが、歩いて来るのが見えた。
「ゴブ……。」
幸はちょっと泣きそうになる。
ゴブとゴブミの《《愛のイランディー》》。
それがこの村の、困難から逃げるという後ろ向きの慣習を打ち破ったのだった。
曲も終わりに近づいた。
ヴァイオリンがメロディーを紡ぎ続ける。
観客はもう100人を超えていた。
涙、涙で聞いていた観客達も、後半の全員の渾身の演奏、音の厚みに今は暴動を起こしているかのように、こぶしを突き上げノリまくっていた。
最後にその勢いのまま、ヴァイオリンがメロディーを紡ぎ切った。
……。
……。
「「「「「「「「「うおぁおおお!!」」」」」」」」
束の間の静寂から、溢れんばかりの歓声
“パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ”
鳴りやまない拍手。
演奏が終わった時には、バーウの村で家の中で縮こまり、怯えている人間はたったの一人も居なくなっていた。
…………。
……。
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