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【祝10000PV感謝】異世界でもギターシリーズ  作者: bbbcat
第1章 異世界でもギターしかなかった ~迷わずの森とチケット大作戦~
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「バーウの村とピーネの怒り」

シンフォニア掲示板


 佐倉幸(さくらこう)の事

・転生の女神による転生ボーナスで、音楽の能力値が現世の100倍にアップ

・ギターの魔力の1つ 【音楽は言語を越える】

 幸のギターに魅力されたものは、例え魔物であっても、意思疎通が可能になる



 この世界の事

・世界で1番大きかった国が一年前に突然消えた?


 大鳥が縛った前髪の輪ゴムは、いつのまにか千切れていた。

縛っていた前髪が変な形で垂れ下がり、そして目には涙が垂れ下がる。


 帰りを待ちわびていたピーネが、幸を見つけると文字通り飛びついてきた。


「幸!幸!

 おかえり!!

 どうだった!?

 ……!?

 どうした幸!!!」

ピーネは幸の異変に気付いた。


 垂れ下がった前髪が幸の表情を隠してはいるが、ピーネには分かる。


「なんで!?幸!!

 何で泣いてる!?

 誰かにいじめられたんか!?」

幸は暖かい羽で抱きしめられるが、悲しい気持ちから帰ってこれない。


「幸をいじめるやつは俺が絶対許さない!!

 俺が殺して来る!!」

ピーネの怒りは頂点である。ピーネの目尻もぬれている。

もっとも愛しい人が泣かされたのだ。


 幸はこの時、地獄になかったものを知る。

それは、自分のために本気で泣いて、本気で怒ってくれる存在だ。


「……。

 俺が悪かったんだよ。

 へっ、変なっ……、笑い方しちゃったんだ。

 きっと僕のせいで気を悪くさせちゃったんだよ。」

完全に現実世界に居た時の気持ちに戻ってしまっていた。


 ふさぎがちの目線に、おどおどとして、言葉につまり、きょどってしまっている。

そんな幸に、ピーネは目を「カッ」と見開き、肩を抱き叫ぶ。


「幸は悪くない!!!

 幸の笑顔は俺を幸せにする!!

 みんなを幸せにする!!!

 幸はそんな気持ちになる必要は一つもない!!」


ピーネの言葉は少しずつ、幸の現実世界で作られてしまった大きな傷に、届いていく。


「俺は幸が大好きだ!

 大好きなものをイジメるやつは全力で……。

 全力で殺す……。」


 そう言うやいなやピーネは飛び上がり村の中へ入って行く。


「……駄目だよ!

 ピーネ駄目だ!!」

幸が口に出した時には既にピーネは飛んで村の柵を越えていた。


 幸は急いで村の入り口まで走って行く。


…………。


……。


 ピーネの飛ぶ速度は相当速い。

しかし、猛禽類の様に羽音は全くしない。

幸がいなくなってガヤガヤと村は活気づいていたのだが、「スタッ」と着地して突然現れた化け物に、悲鳴が生まれる。


「「キャー!!

  魔物よー!!」」 


 体格自体は幸とそんなに変わらないピーネ。

大きく羽を高く広げ、尻尾もピンと天へ立っている。

その威嚇のポーズは威圧感があり、恐怖の対象になる。


「ギャーウー!!

 ギャウギャウ!!

 ギャウー!!(誰が幸をイジメた!!出てこい!!かみ殺してやる!!)」

幸の力がない今、ピーネの言葉は人間には通らない。


「「「「「「なんだお前はー!!」」」」」」

悪ガキ6人組である。


「カイセ!!

 警備兵呼んで来い!」

タックは、ただ茫然として立ち竦んでいる大人をよそに、すぐさま叫ぶ。


「なんだお前は!

 今日は変な奴ばっかり来る日だなー!!」

自分に注意が向くようにピーネと同じように両手を広げ、大きな声でオーバーリアクションで叫ぶタック。


「ギャウギャウ!!

 ギャウ!!(お前みたいな子供に幸が泣かされるはずない!)

 ギャギャギャウ!!(幸を泣かした奴を呼んで来い!!)」

当然伝わるはずもない。


 ピーネも、幸との出会いや、昔の友達のこともあり、人間のことは嫌いじゃない。

 簡単に殺せるはずもなく、ましてやタックの様な子供に自分から襲い掛かる事もなく、膠着状態が続く。

 

 騒ぎを聞きつけ、家の扉を閉めてほとんどの者が身を隠す。

残っているのは、悪ガキ達と、路地裏で演奏している3人くらいだろうか。


「魔物が出たんだってー!?」

カイセが呼びに行った警備兵が駆け付けた。


 タックの前に踊りでた彼らは、俺たちに任せろと言わんばかりに戦闘態勢だ。


 装備はミスリルの鎧と、兜。

そしてミスリルの剣を構えた兵隊が3人。

まさにミスリルのセットアップである。


 ラスボス手前の村であるから、装備もいいものが売っている。

がその能力自体はたかだか警備兵。

迷わずの森で暮らしているピーネに敵うはずは当然ない。


 戦闘が始まってしまったら人死には避けられない。


「……まっ待ってー!」

ヒーローは遅れて登場するのか、か細い声の主は、幸であった。


 走って走って、なんとかピーネに追いついた幸が、構えるのはやはりギターである。


「ピーネ!

 人は殺しちゃだめだ!

 俺は大丈夫だから!!

 ほら、聴いて?」


         「F# G#m7~♪」


 カントリーチックな、優しさに包まれそうなイントロを弾き出す幸。

小さい頃は神様を信じたり、サンタを信じたりしたものだ。

この曲はそう言う小さい時の純粋な憧れや、子供の真っ白な感覚であらゆるモノを感じれる、あの時の喜びを思い出さしてくれる。


 警備兵は初めて音楽を聴いたかの様な顔をして、自然と涙が溢れてくる。


 悪ガキ達は投げようとしていた石を地面に放し、ただただ聞き入っている。


 そしてピーネはと言うと目がハートで悶えていた。


          「F# G#m7~♪」


 盛り上げて盛り上げ切った本編からの、イントロと同じに収束するアウトロも美しい。


 幸が一曲弾き切った時には、子供達はニコニコと庭駆け回り、警備兵は泣き崩れ、ピーネは幸の足元に抱き着き、丸くなっていた。


「ほら、今のうちだ!!」

幸はピーネの手を掴み立たせようとするが立たせれるわけがない。


「立って!

 ……走って!

 ピーネ!

 逃げるよ!」


 幸の言葉に、ピーネはすぐ反応し立ち上がり、幸を抱きかかえた。

「走って!」の命令通り、ピーネは入り口まで目指して全力で走って行く。


 幸のギターの魔力の一つ【心酔】は聞いた者で屈服したものに、命令を下せる魔法の力だ。


 幸はそれを、知らずに発動していた。


 ピーネは、脚力も相当に強く、泣き崩れている兵隊や子供が追って来れるものではなかった。


…………。


……。


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