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Protocol  作者: R
第一章_雨が降る意味
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沈む世界

「この世界から明るいお空が消えて、お空が泣き始めてから、ずーっとずーーーーと長い時間が過ぎたんだって。」


【Protocol 第一話 沈む世界01 】


この世界では、雨が降り続けている。


降り続ける雨は、世界を沈めていく。


人々は船で移動し、代々引き継がれる家屋は沈みきる前に新たな上層階を建築し移住する。


この世界の住人は、命と家を育みながら世代を紡いできた。


…そんな沈む世界の、とある酒場にて。


様々な人たちが集まり、今日もお酒に酔い、身の上話に花を咲かせる。

酒場には笑顔が溢れる。


薄暗くも賑やかな酒場で一つのラウンドテーブルを4人が囲んでいる。


「それでねそれでね!私が大人になる頃には、もう一個上の階に移住するの!どんなお部屋になるのかな~楽しみ~!」


その中の一人、丸くて青い目に栗色のロングヘアーをした少女が3人の冒険家に語っている。


「こーら、アリス!酒場でお客さんを困らせたらだめよ!」

そこにやってきたウェイトレスに怒られる栗色の少女アリス。


「大丈夫だよママ!このお兄ちゃん達、とっても強いんだって!冒険家さんなんだって!」

キラキラした目で少女は母親を見上げる。


「アンタ達悪いねぇ、アリスがちょっかいかけちゃってさ。」

申し訳ない顔をして謝るウェイトレス。


「いえ、僕から話しかけたのです。申し訳ないことをしてしまったようで...。」

金髪で垂れた碧眼が特徴の青年。

申し訳なさそうに微笑みながら、アリスの母親に頭を下げる。


「その、お母さんがもしよろしければアリスちゃんからもう少しお話を聞いても良いですか?」

青年は、こっそりとアリスにウィンクして見せる。


「あら、アンタが良いならもう少し相手してもらっちゃおうかな?アリスったらやんちゃで困っちゃうのよ。」


「やったー!アリスね、もっともっとお兄ちゃんとお話したいー!」

栗色のロングヘアをふわふわさせながら跳ねて喜ぶ少女。


「おーい!エールを5杯追加してくれー!」

客席からオーダーが響く。


「じゃ、母さんは仕事に戻るからね、お兄さん達に迷惑かけちゃだめだからね。」

母親はアリスの目線に合わせてしゃがみ、優しく微笑みながら栗色の髪を撫でた。


「うん!」

アリスは眩しい笑顔を母親に向けて返事をする。


「お兄ちゃんたちはずっと3人一緒に居るの?」

再びアリスは3人の冒険家達とともにラウンドテーブルを囲む。


「そうだよ、この綺麗なお姉さんも、ダンディなおじさんも僕の大事な家族みたいな存在だからね」

優しい笑顔で金髪の青年は答える。


「綺麗なお姉さんだなんて!まったくもう~。」

黒髪にセミロング、目が丸く可愛げのある顔をした女性。


「ふん。」

茶髪の男性。

不機嫌なのか、腕を組みながら硬い表情のまま目を瞑ってしまった。


「お姉さんきれいー!おじさんこわいー…」


「アリスちゃんって呼ばれてたよね?私の名前はリン。よろしくね!」

黒髪の女性が優しく少女に微笑みかける。


「リンちゃん!よろしくね!お兄さんとおじさんは?」


「僕の名前はカインだよ。よろしくねアリスちゃん」

「うん!お兄ちゃんよろしくねー!」


「…おじさんは?」

少女は恐る恐る男性の方を見るが相変わらず目を瞑っている。

「ヴァン。」

「おじさんのお名前?」

「あぁ。」

ヴァンは目を瞑ったまま答える。


不安げな表情でカインとリンの顔を交互に見るアリス。


カインが優しくアリスに語り掛ける。

「ヴァンおじさんは不機嫌そうに見えるだけで、常にこの調子なんだ。だからアリスちゃん、怖がらなくても大丈夫だよ。」


「ふふ...ははは...常に...ふふふ」

笑い出すリン。

「なんなら、機嫌良いほうかもよ?何だかんだで席に座ってお話きいてるし...ふふふ」


「好きに解釈しろ。」

相変わらず目を瞑ったまま答えるヴァン。


「そうだ、アリスちゃん。僕達はこのあたり土地勘が全く無くて...色々と施設の場所を聞きたいんだけど...」

ラウンドテーブルを4人で囲む。

栗色の少女アリス、金髪の青年カイン、黒髪の女性リン、茶髪の男性ヴァン。

3人の会話はアリスが眠りにつくまで続いた。

ヴァンは目を瞑りながらそんな3人の話に耳を傾けていた。



そして夜は更けて、店じまいの後。


「アンタ達、アリスの相手をしてくれてありがとうね!これ、良かったら食べてくれる?」

酒場を後にしようとしたカイン一行に食料を渡すアリスの母親。


「いやいや、僕たちは楽しくお話させて頂いただけですから。それに...」

申し訳ない顔で空っぽの財布を見せるカイン。

「お金じゃなくて、ブツブツ交換で申し訳ないです。僕達本当に無一文で...」


「良いのよ!お駄賃替わりにもらったキラキラのコイン、パパがえらく気に入っちゃってねぇ

 "こんなの見たことねえよ!すげええ!まるで異世界の金属だ!"なんてずーっと興奮して騒いでるんだから!」


「あはは、僕達貧乏人なのであれしか払えるものが無くて本当に申し訳ないです…」

右手を後頭部に載せながら、謝罪をするカイン。


アリスの母親はニカっと笑うと

「ほらほら、みんなでいっぱい食べて!」

食料がパンパンに詰まったカバンを渡してくれた。


「正直、食料はとても助かります。頂戴いたします。ありがとうございます。」

深々と頭を下げるカイン。


「よくわかんないけどさ、アンタ達 なにか大事なことのために冒険してるんだろ?」

真剣な眼差してカイン達を見るアリスの母親。


すると、真剣な眼差しで口を開くヴァン。

「そうだ。俺たちはこの"世界"のために来た。食料はありがたく頂戴する。しかし、これ以上俺たちの事情を知ろうとしないほうがいい。」


「そうかい。私もアンタ達にはこれ以上説明は求めないよ。がんばりなさい。」


「うわーい!食べ物いっぱい!やったねカイン!ヴァン!お母さんありがとー!」

カバンいっぱいの食料を見て、跳ねて喜ぶリン。


「では、僕たちはこれで…どうもありがとう。」


「こちらこそよ!またお店に顔出しなさいよ~!アリスの相手してくれたらご飯出してあげるからね!」


「ありがとうございます。すごく助かります。」

酒場を後にするカイン一行。


扉から出て、あたりの風景を見る冒険家3人。


「この風景、凄いよね…。」

リンはどこか悲し気な顔をしながらあたりを見渡している。


先程までの明るく楽しい空間では忘れていた。

ここはただ沈みゆく世界だという、残酷な現実。

あたり一面は水面が広がり、空は灰暗く、絶え間なく雨が降り注ぐ。

そんな世界でも、人類は居住区を空に伸ばし命と歴史を紡いできた。


「そうだね。この世界を救えるのは、僕達だけだ。」


幾年と増築され続けた家屋が柱のように、深くて暗い水底から空へと突き出ている。


「お前ら、さっさと船に乗るぞ。」


一行は小さな船に乗り込むと、酒場の建物を後にした。

「ひとまず、この世界の歴史がわかる施設に行こうか。アリスちゃんが教えてくれた歴史資料館を目指そう。」


「俺が操縦する。お前たちは横になって睡眠をとっておけ。」


「あら、ありがとうヴァン。くれぐれも安全運転でお願いね?」

リンがくすくすと笑うと、カインとリンの二人は狭い船の上で横になった。


「…。お前らが眠る前に忠告しておく。」

いつもどおり不機嫌な口調のヴァン。


「今まで何度も警告してきたが、あまりこの世界の住民に情が移るようなことをするな。」


「わかってるよ、ヴァン。僕たちを心配してくれるんだね。」


「世界を救うことが、世界に生きる人たちを生かすことと同義とは限らない。今までの世界でお前たちも嫌というほど味わってきただろう。」


「私もカインもね、それはわかってる。でもね、この世界の人たちがどんなことを考えて何を感じて、どんなふうに生きているかは知っておきたいの。どんな結果であろうとも、この世界にとって大事なコトだと私は思う」


「…。後で誤った選択をするなよ。」


「そうだね、大丈夫。僕もリンもわかっているつもりだよ」


「カインお前、さっき渡してたコインずっと持ってたんだな。」


「ただ、在るべき場所に返しただけさ。大丈夫、僕は後悔なんてしてないよ」


「...。わかっているなら良い。歴史資料館まで2時間はかかる。それまで眠っていると良い。」


「ありがとう、ヴァン。」

カインもリンもすぐに眠りについた。


小さな船は、水面を進む。

灰暗い空は、なおも泣き続ける。


一行はまず、この世界に刻まれた歴史を知るべく旅路を歩む。


【Protocol 第一話 沈む世界01 】

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