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女神様の私情 - 特別な転生 7 -

どうも、水無月カオルです。

今回はお約束とニケの秘密が少し明かされます。


では、続きをどうぞ

第1章 女神様の私情 - 特別な転生 -



ep.7 『出発の前夜に』



照り付ける太陽が今日の仕事を終え、早々に酒を煽ると、顔を真っ赤にさせながら西へ沈んで行く。辺りを夕闇に落とすと、引き継ぎを済ませた月が気だるげにあくびをしながら、暗闇を静かにを照らす。二階の執務室から降りてきた深雪達は、階段から下を覗きながら、預けたウサギと遊んでいるアシュリーの所へ向かう。明かりに灯されたラウンジに、銀髪を肩まで垂らした護衛と思われる女性と、テーブルに座り裁縫道具を片手にせっせと小さな洋服を作るアネッサの姿があった。


「深雪ちゃんお帰りなさい。もうすぐウサギさんのお洋服が完成するから楽しみに待っててね~」


「お姉ちゃんおかえり~!ママ、くびわにつけるリボンも作ってね~」


ウサギと楽しそうに遊びながら追加の注文をするアシュリーに、深雪は笑顔を向ける。


「うさちゃんのお洋服を作っているのデスか?アラ、首輪も着けて貰ったのネ、ありがとうございます~!」


「ぷぃぷぃ~」


嬉しそうに鳴く緑の子ウサギの頭を撫でながら、首に着けられた高そうな首輪を眺めると、金具のバックルの真ん中に、ライオンに似た刻印と一緒に『RB』と刻まれていた。


「アネッサ殿は器用でござるな。色模様もウサギと同じ鮮やかで素晴らしい!」


「うふふ、昔から裁縫が趣味でお洋服を作ってますのよ。アシュリーの着ているお洋服も私のデザインですの、良かったら触ってみます?」


アネッサはテーブルにある生地を手に取り、深雪達の前に差し出す。緑を基調としたチェック柄で、触ると綿特有の肌触りを感じる。


(これはチェック柄だね。この世界でも上流階級のひとが身に付けてるのかな?)


「この生地は綿(コットン)ですネ。柔らかで適度なハリもあって、通気性にも優れた素材ですネ」


「その生地おばあちゃんがおくってくれたんだよ~」


「アネッサ様のご実家は紡績と紡織事業を営んでおります。ちなみに王都ではこのチェック柄を使った洋服が、上流階級の方々に大変人気であります。ちなみにRBとは『ロンバリーブランド』の総称であります!」


「有名ブランドなのですネ。先ほどお婆様から頂いた紅茶をダンクーガさんからご馳走になりましたヨ。ニケさんが淹れる紅茶がとっても美味しくて、何度もおかわりをしてしまいました」


「そうなのよ~。ケーキと一緒に頂くと最高の気分になるわよ~」


「ハイ、ニケさんからチーズケーキを頂いたので体験済みデス~!」


「あら、ニケもやるわねぇ~」


「はっ!隻影様にも大変ご好評でございました!」


「ごほっ!…ゴホゴホッ!」


「隻影様、大丈夫デスか?」


「…うむ、大事無いでござる!少し風に当たって来る故…御免!」


そう言うと、隻影は紅い顔を隠しながら外へ出て行ってしまった。


その後、ラウンジに声を響かせながらたわいもない女子トークをしていると、中央の扉が乱暴に蹴り開き、外から見慣れない冒険者達が大きな袋を肩に掛け、汚れて黄ばんだ服に、下品な笑い声と共にドカドカ音を立て入って来た。


「ひゃはははっ!今日も大漁だったな、楽な仕事だったぜ!」


「キシシシッ、帰り道に思わぬ収穫でしたね。まさか魔物同士の殺し合いで素材が楽々手に入るなんて大儲けですよ!」


「おう、姉ちゃん!素材の買い取り頼むぜ!ついでに今晩オレ様達に付き合いなっ!ぎゃははっ!」


「…えっと、買い取りですね。ただいま係りの者を呼んで参ります!」


受付嬢は頬をピクピクさせると、逃げる様に奥の部屋へ駆けて行った。


(うげっ、ガラの悪い人間(ひと)達だね。関わりたくないから見ちゃダメだよ!)


(そうネ。………でも、向こうはお近づきになりたいみたいヨ…)


汚ならしい格好の冒険者は、卑猥な発言をしながらカウンター越しの受付嬢に耳障りな笑いを浴びせると、ひとりのモヒカン冒険者が深雪達を見つけ合図を送ると、下品な奇声を上げながら近付いて来た。何日も風呂に入っていないのか、冒険者から発せられる酸っぱい臭いが、深雪たちの鼻を付く。


「ひゃはっ!よう、お嬢さん方!ナニしてるんだ?良かったらオレ達と飲みに行かねえか?安心しなっ、金なら持ってんだよ!」


「ママ、おじさんたちくさいよ~」


「本当ねぇ、少し離れていましょうか。ウサギさんを連れて奥に行きましょうねぇ~」


銀髪の護衛とアネッサたちは子供を守ろうと立ち上がり、ウサギを抱きながら笑顔でアシュリーを連れて奥の部屋へ逃げようとすると、透かさずスキンヘッドの冒険者が行く手を遮ろうと近付く。


「桃色髪の姉ちゃん、子供連れてどこ行くんだよ!そのパイオツでオレ達の相手をしてくれよ!ぎゃははっ!」


「銀髪の女もいい尻してるじゃねえか!ちょっと触らせてくれ!」


スキンヘッドの冒険者は、銀髪の護衛の尻に手を伸ばそうとする。向かって来る手を金色の瞳でじっと見つめる護衛。手が触れようとした瞬間、横から声が挙がる。


「こんばんは、酸っぱいおじ様!お相手なら、……ワタシの胸でいたしますヨ?」


「では、及ばずながら。わたくしの尻もお貸しいたします!」


横から遮るように身を乗り出した深雪とニケは、ウサギを抱えたアネッサ親子に向かってくる男共の前に立ち塞がり、胸の谷間を寄せながら相手に見せつけると、角刈り冒険者が引き笑いをして谷間を凝視する。


「キシシシッ!子供なのに大人ボディとは実にけしからん!オレがオシオキしてやるよ」


「じゃあオレは隣の眼鏡の姉ちゃんだ!いい尻してるぜ、しっかりお相手してくれよ。ぎゃははっ!」


「では、皆さんでお風呂に入りませんか?身体を洗って差し上げますヨ」


「ひゃはっ!サービス精神豊富じゃねえか!いいぜ、お前ら風呂に行くぞー!」


(ひぃぃ!深雪ちゃんが泡姫になっちゃうよぅ!そんな事言って、だ…大丈夫なの?)


(ワタシ、こう見えて経験豊富なのヨ。一度に三人相手なんてザラだったんだから!)


(経験豊富なオトナの女性だったんだね。お姉さん負けたよ……ぐすん!)


深雪達は酸っぱい冒険者を連れて建物の外に出ると、あれだけ居た見回りの姿が何処にも見当たらない。不思議に思い、深雪はチラリとニケを横目に伺うと、微かに笑みを浮かべている。これは彼女の仕業と気付き、安心してお風呂場に向けて歩き出す。その間も男共は耳元でいやらしい奇声を上げ、深雪の巨乳(たわわメロン)を触り、ニケの尻を鷲掴む。ボディタッチされながらも、ふたりは笑顔で歩き、中央の池へたどり着くと、汚ならしい男共に、風呂に到着したと告げる。


「酸っぱいおじ様たち、お風呂に到着しましたヨ~!」


「御背中をお流しいたしますので服をお脱ぎください!さあ、遠慮せずにどうぞ」


「はぁ?この池のどこが風呂なんだよ!風呂ならそこの建物にあるじゃねえか!ぎゃははっ!」


「冗談言ってねえでさっさと行く…(ドバン!)ゴボゴボゴボッ!………ぶはっ!な、何だこれ!?足が付かねえぞっ!」


酸っぱい男が深雪に触れようと手を伸ばすと、小さな手に突然腕を掴まれ、身体を回転させながら池へ頭からダイブした。訳も分からずもがく仲間を助けようと冒険者は慌てて池へ駆けて行くが、いきなり脚に黒いものが巻き付くと動けなくなる。


「ひゃはっ!脚になんか絡み付きやがった!くそ、取れねえぞこれ!」


「服も脱がず勢いよく御入(おはい)りになられるとは驚きでございます!」


「はや…はやく入って助けて…れ!石が滑って…掴め…ぶはっ!」


「おじ様、そんなにはしゃいでどうしたのですか?…お仲間さんも早く入れろ?」


「せっかちな人間(ひと)でございますね。では、ごゆっくりどうぞ!」


仏頂面で身動きの取れないふたりの男に告げると、ニケは先程のお返しとばかりに、ふたりの尻を蹴り上げ、仲間がはしゃぐ池にぶち落とすと、鯉に似た魚が盛大に飛び跳ねる。


「……ぶほっ!装備が…ぶはっ!おもっ!……しっ…ぬっ!」


「だからお脱ぎくださいと始めに申したではありませんか、あとからのプレイ変更は困ります」


「おじ様、息が荒いですヨ~?熱いのデスか?ワタシが冷やしてあげますネ~!」


深雪は満面の笑みを見せ、掌から純白な粉雪を出現させると、入浴剤の様に流し込む。池一面が真っ白に染め上がり、池の水温が急激に下がると、男共から歓声が上がる。すると、冒険者たちは顔を真っ青にさせ、最後の言葉を述べると、静かに底へ沈んでいった。


「……沈んでからまもなく一分。そろそろ限界の様でございますね。引き上げましょうか?」


懐中時計を手に携えたニケは、時間を計測しながら深雪に述べる。


「どんな状態か楽しみデス。気温差が激しいのでゆっくり上げてくださいネ~!」


「ハッ、了解しました!『影の手(シャドウハンド)』」


ニケが魔法を唱えると、自らの影から真っ黒な手を出現させ、池に沈んだ三名の冒険者をゆっくり引き揚げる。服の中からバシャバシャと鯉に似た魚がこぼれ落ち、死んだような顔をした頬に尾ビレが激しくスプラット音を立てる。身体の芯からシャキッとなった三名を地面に横たわせると、最後に影の手で、膨らんだ水腹を殴り魔法を解除する。男共は口から水を吹き出し息を吹き返すと、何やら深雪達に向かって罵声を浴びせた。


「……ぶはっ!…はぁ、はぁ、はぁ……おえっ!キシシ…」


(うわっ、唇が真っ青だね!ブルーマンもびっくりだよ。モヒカンもぺったんこになっちゃって…)


(良い顔をしてるわネ、まるで死んでるみたい…フフフ)


「…がはっ!…て…てめ…えら悪魔か!…死にかけたぞ!ぎゃはっ!」


「か…可愛い顔して…やるな!次はこっちの…番だ!ひゃはっ!」


「身体がビチョビチョですヨ。拭いたらどうですカ?」


「水も滴るむさ苦しい男になりましたね。まだ酸っぱい臭いが残っております!」


「うるせえ!このキンキンに冷えたオレ様の相棒でオシオキしてやる!覚悟しやがれ…ぎゃははっ!」


「そこの眼鏡の姉ちゃんも尻をぶっ叩いてひぃひぃ言わせてやる!ひゃはは!」


「キシシシッ!食らえ『ネバ付く粘液(テネーシャスムーカス)』」


角刈り冒険者の構えた手からピンク色のネバネバ粘液が飛び出し、油断した深雪とニケの身体に絡み付かせると、嫌らしい姿に拘束する。


「…何デスかコレッ!?……ぅ!、変な臭いで鼻が曲がりそうデス」


「同感ですね。そして状態は拘束され、男共の相棒がそこまで迫っており、非常に危険であります!」


男共はズボンにテントを張りながら自慢の相棒を見せつけると、奇声を発しながらふたりに近付く。


「ぎゃはははっ!そのけしからんパイオツに相棒を挟んでホットドッグを作って食べさせてやる!」


「ひゃはっ!オレは眼鏡の姉ちゃんの尻に挟んでアンアン言わせてやるよ!ヤっちまえっ!」


(ひぃひぃ!やだよー!お嫁に行けなくなっちゃうよ!み、深雪ちゃーん!お願いだからー!何でもするから早く助けてー!)


(フフ、何でもしてくれるの?仕方ないわネ~!)


男共の欲望を膨張させた相棒が、深雪達の身体に触れ掛けたその時、ニケが不適な笑みを浮かべると、いきなり池の周りにひとが現れた。現場を目撃した数名の女性冒険者が一瞬にして大声を上げると、ズボンにテントを張った冒険者共は、突然の事に慌てふためき混乱する。


「キャー!変態よッ!誰か来てー!」


「何よあれ!ビチョビチョな男達が女の子とニケさんを襲おうとしてるわよ!」


「……はっ?いきなりどうなってんだこれ、今まで誰も居なかったじゃねえか!」


「あっ、ダンクーガさん!こっちにいます!」


部下に連れられやって来た上司(ダンクーガ)は、変態共の犯行現場を目撃すると、見るからに顔をしかめ、シャレにならない表情をする。


「…おい、てめえら。……俺の女に何してんだぁー!」


(うわーーーん!救世主(ダンクーガ)さんが来てくれたよ~!たしゅかった~)


ダンクーガから発せられた威圧感をたっぷり浴びせられ、変態冒険者の三人は一瞬たじろむが、すぐに反論する。


「……こ、こいつらが、オ…オレ達を襲って来たんだよ!だからヤリ返してるんじゃねえかっ!ひゃはっ!」


「キシシシッ!これは立派な正当防衛なんだ!オレ達は悪くねえぞ!」


「おらっ、見てんじゃねえ野次馬共!あっちへ行ってなっ!ぎゃははっ!」


凄みを利かせ見物客を追い払おうとする変態冒険者たちと、シャレにならない現場を目撃し、睨みを利かせるダンクーガ。周りの舞台が整うと、チャンスとばかりに深雪は顔を俯き、笑いを必死に堪えると、泣き真似をしながら演技をする。


「…この人間(ひと)たち、…はじめにワタシの胸をいっぱい触りました。す…凄く……怖くて、声が出せなかったデス……えーんっ」


「わたくしのお尻も念入りに揉みしだいておりました。かなり手慣れておりますので、常習性ありと思われます!……うるうるっ」


「ほぅ、つまり強姦の常習犯というわけだな。臭え粘液ぶっかけてイタズラしようって魂胆か?」


ぷるぷると身体を震わせ顔を俯くいたいけな少女と、仏頂面の眼に涙を浮かべる女性の証言を聞くと、野次馬が凄い剣幕で騒ぎ出した。


「こんな小さな少女を襲おうだなんて、鬼畜の所業だなっ!羨まけしからんっ!」


「ニケさんのお尻は私達のものよッ!変態共になんて渡さないからっ!」


「……お前ら少し黙れ、欲望が声に出てんぞ!まぁ、ひとまず拘束して連行するから、ムダな抵抗せず大人しくしとけよ」


欲望をぶちまける野次馬たちを静まらせたダンクーガは、呆れ顔で三人に忠告をするが、納得いかない三人は得物を手に取ると、威勢の良い声を轟かせた。


「う…うるせえっ!オレ達は無実なんだよ!やっちまえっ!ひゃはっ!」


「そうか、なら仕方ねえな……」


「キシシシッ!武器も持ってねえ若作りした爺が、カッコつけてんじゃねっ!死ねやオラッ!」


鞘から剣を抜いたスキンヘッド男はそう叫ぶと、落ち込んだ表情の、…既に心にダメージを受けたダンクーガの胸に目掛け、鋭い突きを入れる。手応えを感じ、ニヤけた顔をすると、スキンヘッドの男は手に力を入れ、剣を引き抜こうとするが、剣は微動だにしない。男は何度も引き抜こうとするが、結果は同じだ。異変に気付いた男は、刺した先のダンクーガの胸元をよく見ると、日焼けした大きな手が、鈍い光を放つ剣を掴んでいた。


肩を落としたダンクーガは、顔をスキンヘッドの男に向けると、か細い声でブツブツと呟きだした。


「……なあ、……俺って、そんなに若作りしてるか?この服、妻のアネッサが俺に似合う様に作ってくれたんだぜ。…流行ファッションだって笑顔を振り撒いてよ……」


「し…しるかっ!…ぬ、抜けねえッ!お、おまえ握力いくつあるんだよ!!びくともしねえ…キシッ!」


「くそっ!こうなりゃ魔法でっ!燃え盛る矢よ。爺の身体を貫け『火の矢(ファイアアロー)』ひゃはっ!」


焦ったモヒカン男が杖を(かざ)し魔法を詠唱する。そして、ダンクーガへ向け火の矢を放つが、剣を握った男ごと持ち上げ肉壁に使うと、放った魔法が背中に直撃し、汚れた革鎧を燃やす。根性焼きを入れられたスキンヘッド男は堪らず叫びながら剣を離した。


「熱っちぃーー!背中が焼けるっ!み…水をくれ!みずぅーー!」


「…うるせえな、いま落ち込んでんだよ。少し静かにしてくれ……」


のたうち回るスキンヘッド男の頭を剣の柄で殴り付け黙らせる。そのままモヒカン男に目掛け、剣を真っ直ぐ投擲し、腹部に直撃させると、身体をくの字に曲げたまま、馬小屋まで吹き飛ぶ。その光景を目の前で目撃した角刈り男は、顔を硬直させると、戦意を喪失し武器を捨て、大人しくなる。


「やっべえー!またやっちまった!宿屋の次は馬小屋かよっ!」


(うっはー!ダンクーガさん強すぎだよ~!人間(ひと)を吹き飛ばすとか戦闘力いくつなのっ!誰かスカウターで測って!)


(またアナタ変なコトを、鑑定の事を言ってるのかしら?)


破壊された馬小屋を見つめ、頭を抱えるダンクーガ。物凄い音を聞きつけた隻影が慌てた様子で駆け付けて来ると、立ち竦んだダンクーガを見つけ状況を訊ねる。


「ダンクーガ殿!悪魔共の襲撃でござるか!?」


「あ…あかい。…あれを見てくれよ。また、やっちまったよ……」


「……また壊したでござるか。次の悪魔は何級でござる!?」


「隻影様、悪魔の襲撃ではありませんヨ。この変態さん達の襲撃デス」


深雪にそう言われ、辺りを見回した隻影は、びしょ濡れで倒れている男たちを発見する。


「そうでござったか。…それはそうと深雪殿にニケ殿、その格好はどうされた?…何やら面妖な粘液でござるな……」


「そこにいるスキンヘッドの男達にいっぱい胸を触られて、臭い粘液を掛けられました。とっても怖かったデス…」


「な、何だと!?ニケ殿、おぬしが居ながら何たる失態!…拙者が着いておればこんな事には……」


「いいえ、これは立派な作戦でございました。元を辿ればアネッサ様とアシュリー様から暴漢を引き離す為にした事であります!」


「はあ、なんだってー!?アネッサとアシュリーは無事なのかッ!?」


「ハイ、無事ですヨ~!アネッサさんのお胸を狙ってたので、この人間(ひと)達を懲らしめる為にここまで連れてきたのデス」


「…よし、こいつらは死刑だな!」


「そうでござったか。知らぬ事とは言え、…ニケ殿失礼いたした」


「では罰として、わたくしと深雪様をお風呂でキレイに洗って頂けますか?」


「せっ!?…拙者がでござるか!?…嫌、…しかしこれも修行の為と思えばっ……ッ!」


復してもニケの爆弾発言に、隻影は顔を紅くすると、俯きながら了承するが、周りからの痛い嫉妬の眼に気付くと、大慌てで黙る。


「あーかーいー!!てめえっ!あとから来てオイシイトコだけ持って行くんじゃねえっ!こいつら縛り上げて牢屋にぶち込むから手伝え!ニケ達もからかってねえで早く風呂へ行けッ!」


「ハッ、了解しました!深雪様、粘液を剥がしますね『影の手(シャドウハンド)』……では、隻影様失礼いたします。ちなみに今回は貸しひとつでございます」


「隻影様、早く仕事を終わらせて来てくださいネ。お風呂で楽しみに待ってますから」


「み…深雪殿、拙者は…その…あの……」


「あーかーいー、早くしろよ!逃げた馬も捕まえるぞッ!」


「…くっ、御免!」


ダンクーガの声に急かされた隻影は、深雪にひと言告げると、背を向け走り出した。ダンクーガと冒険者達が必死に馬を捕まえる姿を横目に、ニケ達はお風呂屋の玄関口へ向かった。年季を感じさせる立派な引き戸を開け中へ入ると、部屋の真ん中に番台があり、そこに腰の曲がったひとりの老婆が佇んでいた。


「こんばんは、ナムコ様。女性ふたりお願いします」


「……大銅貨一枚(1000円)だよ。ゆっくりして行きなさい。ヒッヒッヒィ~」


(ぶはっ!…くくくっ!お…お腹がっ!)


(何を笑ってるのヨ。いま面白い事あったかしら?)


ニケと赤い暖簾をくぐり脱衣場に着くと、深雪たちはピンクの粘液が付着した洋服と下着を脱ぐ。それをアイテムボックスへ入れると、手で髪を纏めながら白い花のバレッタで留める。そしてタオルを片手に昨日ぶりの洗い場へ向かうと、風呂場には先客がおり、数人の冒険者が雑談しながら湯に浸かっていた。先客たちは深雪達に気付くと、こちらへ振り向き笑顔で挨拶してきた。


「ニケさんこんばんは!その子は噂の白髪(はくはつ)の巨乳少女ですよね?」


「渋いおじ様が連れてきたっていう訳ありな感じの?」


「すっごく気になるんですけど、一体ふたりはどんな関係なの?」


「…えっと、隻影様との関係デスか?……まだ、ヒ・ミ・ツですヨ~!」


深雪は含みを持たせると、焦らす様に答えた。


「えー!教えなさいよっ!」


「ていうか、なんかめっちゃ汚れてない?ドコ行って来たのよ!」


「私達が綺麗に洗ってあげるから素直に白状しなさい!」


お風呂場での女子トークが開始され、身体を隅々まで洗われながら質問攻めに合う深雪達、初めて出会った女性冒険者達と仲良くなり、先程の出来事もいつの間にか忘れ、気分も晴れる。



騒動も一段落した頃、腹を空かせたダンクーガ達は、いつもの宿屋『睦月』でテレビを観ながら少し遅めの夕飯を食べていた。カウンターには六つの背中と小さなうさぎの背中があり、店主の握った美味しそうな寿司を頬張る姿が見受けられる。


「まぐろ、いくら、うに、えんが~わぁ。回らないお寿司はネタもシャリも別格な美味しさですね!くるくる寿司もう行けなくなっちゃうよ~!」


あまりにも旨さに頬っぺたが落ちない様に手を当てる少女。深雪と入れ替わった姿の雪は、目を輝かせながら、カウンターの前に次々と置かれる寿司を頬張り続ける。


「今日はこの店での最後の食事だろ?寂しくなるが、満足するまでゆっくり食べていってくれ」


「はい、お寿司は大好物なのでとっても嬉しいです~!ウサギさん、それ食べたらお薬も飲もうねぇ」


「ぷぃぷぃ~!」


「やっぱ(れん)が握った寿司は最高だな!シャリもうめえ、わさびも効いてて言うことなしだな」


「そうかい、嬉しいよ。…だけど馬小屋はちょっとやり過ぎかな?馬は無事だったから良かったけど…」


「……はい、その件に関しましては後程改めてお話をお伺いしますので、何卒ご勘弁ください…」


(ダンクーガさんがめっちゃ丁寧語になってる!オモシロイ一面だね~!)


(蓮さんは笑顔なのに持ってる包丁がギラギラして怖いわネ……)


「馬は値が張る生き物、ひやひやしたでござる…」


隣で山葵を塗ったくった寿司を、平気な顔で頬張りながらウンウン頷く隻影に、雪は少し退き気味になりながら話しかける。


「馬って結構高そうですよね。税金とか掛かるんですか?」


「一般人が使う乗合馬車(のりあいばしゃ)は利用料金が、個人での移動に使う場合は、高い登録料が必要です。ちなみに馬の体重が重くなる毎により、支払う税金が加算されます!」


(うへぇ、自動車の重量税と同じだ……)


(……自動車、確か帝国?にもあった記憶が、……ダメ、思い出せない…)


(時間が立てばきっと思い出せるよ。諦めずに頑張ろうよ~!)


ニケの丁寧な解答に返事を返すと、もうひとつ、気になっていた質問をする。


「そうなんですかぁ。……それより、さっきダンクーガさんが投げた剣が人間(ひと)を吹き飛ばしてた時に嘆いてましたよね?その、力の制御とか難しいのですか?」


雪がダンクーガに質問をすると、本人は急に俯きしょんぼりする。


「雪殿が申す通り、ダンクーガ殿は幼少期から兼ねてより『破壊神の申し子』と、二つ名が付けられておる…」


「へぇ~、子供の時からなんですね。やっぱり強すぎるのも苦労するんですね。肉体を弱体化させる方法とかはないのかな~?」


すると、見計らった様にニケが口を開く。


「ダンクーガ様は既に、両手と両足に『弱体化(デバフ)』のアーティファクトを装着されております。ちなみに身体的(フィジカル)低下率は80%であります!」


(あれで通常の20%なのネ、解放したらどうなるのかしら?)


「この、若者が付けてそうなチャラい腕輪がそうなんですか!…ずっと趣味だと思ってました…」


「……俺だってこんなの着けたくないもん!……でも着けないと生活に支障が出るから………」


「あなた、私は似合ってると思うわよ。アシュリーもそう思うわよね?」


「うん、パパすっごくカッコいいよ~!」


「…ぐすん!パパ、明日も頑張るよ!」


「ダンクーガ様も普段は意識なさって行動されていれば、職人顔負けの繊細な技術力で建物などを修復されております」


「ダン……悪魔が破壊しおった二階の部屋も、ダンクーガ殿が綺麗に直しておったからのぅ」


アネッサ親子とニケたちのフォローと慰めに、顔を上げたダンクーガは元気を取り戻す。その姿にホッとした隻影はお茶を呑むと、ふとダンクーガの腰元を見つめ、疑問を投げ掛けた。


「そう言えば、おぬしの愛刀はどうしたでござる?久方ぶりに会うた時は背中に大剣を背負っておったが……」


「………王様に預けてある」


「ヴァイス殿にでござるか?何故ダンクーガ殿が愛刀を国王に預けるのでござる?」


隻影は首をかしげた。頭の中にアーカムネリア国王を思い浮かべ、ダンクーガとの接点を探すが、一向に出てこない。歯切れの悪い言葉で濁し俯くダンクーガに再度問い掛けるが、一向に口を開こうとしない。すると、パパの替わりにアシュリーが疑問を解消した。


「パパ、おっきいお家こわしちゃったんだよ~」


「おっきいお家?どんなお家なのかな?」


「えらいひとが住んでるお家なんだよ~」


「ダンクーガ様は先日、王家が管理する迷宮都市『メビウス』で発生したスタンピードの依頼を受けたのですが、今回はなぜか魔物がランダムに出現しまして、一応討伐は完了したのですが、その際に領主様と貴族様の屋敷を数件破壊しまして、その弁償の担保として愛刀二振りを国王陛下へお渡しになりました。ちなみに被害総額は白金貨250枚(250億円)であります!」


「白金貨250枚って、ベヒモスが壊した被害総額の10倍じゃないですか!呑気にお寿司食べてていいんですかっ!?」


「おぬし、その二振りはまさか……」


「『鬼切安綱(おにきりやすつな)』と『九鬼正宗(くきまさむね)』でございます。ちなみに安綱は担保として白金貨200枚、正宗は白金貨50枚の差し押さえとなっております!」


「あんな守りづらい都市なんか行くんじゃなかった!…俺は悪くないもん。魔物の奴らが暴れただけだもん!」


「だもん…て、子供じゃあるまいし、愛刀無しで私の護衛って、…出来るんですか?」


雪の言葉に再度俯くダンクーガ、その無責任な態度を見るや否、椅子を倒しいきなり隻影が立ち上がると、ダンクーガへ向かって激しい剣幕で恫喝した。声が挙がる瞬間を察したアネッサは娘の耳を、雪はウサギの耳を素早く塞ぐ。


「この馬鹿者がッ!事は重大でござるぞ!鬼切安綱が手元に戻るまでおぬし、……アマミヤ皇国の土を踏むことは叶わぬぞ!!」


「……分かってる。…あの王様が満足する。替わりになる物を探すしか……」


隻影に叱責され、湯呑みに入ったお茶の水面を覗くダンクーガに、表情を曇らせる隻影は不安な声を洩らす。


「伯爵級悪魔からは別格でござるからな、……あの刀が無いとちと心配でござるよ…」


「悪魔って、そんなに強さが違うんですか?」


「昨夜現れた悪魔は、子爵級の中でも油断したお子様(くそ雑魚)でしたので、難なく素手で倒されたのですが、伯爵級からは魔力量及び身体能力、障壁の強度も桁違いであります。ちなみに魔族は物理攻撃がさほど効きませんので、魔法か属性の付与された武器で倒すのがセオリーであります」


「物理耐性が高い種族なんですね。出会ったら本当に厄介そう。……それと、問題はお金ですよ。そんな大金をすぐに返せる当ては?蓄えはあったりするんですか?」


雪の的確な指摘により、周りに沈黙が流れると、気まずそうな顔をしたダンクーガが重い口を開ける。


「せ、隻……いまいくら持ってる?」


「むっ!せ、拙者でござるか!?…確か、先月の預金残高は白金貨20枚ほどであったはず……」


「隻影さん…すっごいお金持ちですね!ちなみに、ニケさんは?」


「わたくしは今手元にあるのは白金貨で換算すると、…100枚ほどでごさいます。倉庫に眠っている魔導具などを売却すれば、更に倍の倍はご用意できるかと……」


「スッッゴッ!……上には上がいるもんだね…」


ニケの口から恐ろしい金額が発せられ、雪はそっとお茶を口に流し込む。すると、ダンクーガは何度も視線をニケに向けると、くしゃけた笑顔で頼み事をする。


「あのさ、…ニケ。お願いがあるんだけど……」


すると、再びアネッサは娘の耳を塞ぐと、笑顔で話しかける。


「あなた、それはダメよ~!お父様とのお約束忘れたの?大人の女性からは絶対に借りたらダメと言われたでしょ?…また変な虫が寄ってきますよ」


「……はい」


アネッサに警告されショボくれたダンクーガは、蓮に頼もうと視線を送るが、凄まじい眼力により思わず言葉を飲み込む。


「隻、……兼元貸して、確か持ってたよな?」


孫六兼元まごろくかねもとでござるか?…持っておるが。しかし、おぬしに貸すと紛失の可能性が大でござる」


「隻影さん、孫六兼元って確か『関の孫六』が打った『最上大業物』ですよね?」


「うむ、雪殿の申す通り!三本杉の焼き刃が特徴、折れず、曲がらずの逸品。孫六殿が拙者にと打って頂いた名刀でござる。刀の事までご存知とは、雪殿は博識でござるな」


(アナタよく知ってたわネ、刀に詳しいの?)


(実家に岐阜の刀匠が打った刀があったから調べたことがあってね。その時覚えたんだよ)


「最上大業物クラスの刀でしたらダンクーガ様の力に耐えられますが、代わりの武器が都合よく見つかるでしょうか?」


「とりあえず白金貨50枚返済出来れば九鬼正宗が戻って来るんだ。それまで貸してくれよ!」


「…う~むぅ、しかし以前に貸した刀を折られておるしのぅ」


「あれはまだ若かった頃だろ!頼むからさー!」


「白金貨50枚かぁ、…私何か持ってたかな?」


渋る隻影へ必死に手を合わせ嘆願するダンクーガ、堂々巡りをする姿を哀れむ顔で見る雪は、アイテムボックスを開くと、次々と表示される中身を確認する。


「…うーん、相変わらず効果の解らないポーションと、…魔導具らしき物かな?コレとか、何とか鑑定出来ないかな?」


「よろしければわたくしが鑑定致しましょうか?」


雪が画面を覗き込み悩んでいると、後ろからニケ(リッチウーマン)に声をかけられる。


「ニケさん鑑定出来るんですか!?ぜひお願いします。いま出しますね」


(アナタ、注意して出しなさいヨ!ひとつずつだからネ!)


(うん、ニケさんならしっかりしてるから大丈夫だよね?)


アイテムボックスから初めて魔力カイ復ポーションを取り出し掌に置くと、雪は目線まで持ち上げ中身を確認する。小瓶の中身は紫色の液体に満たされており、茶色の種が浮き輪の様にプカプカ浮いていた。


「じゃあ、これの鑑定お願いしますね!」


「お任せください!では、失礼致します」


ニケは紫色のポーションを慣れた手付きで受け取ると、眼鏡に魔力を通し鑑定を掛ける。すると、ニケの額から汗が吹き出し仏頂面が震え出す。ニケはハンカチを取り出し汗を拭うと、慌てた様子で雪とポーションを交互に見比べる。何を思ったのか、急に魔法の鞄(マジックバッグ)から白金貨のぎっしり詰まった財布を取り出すと、立ち上がり、鑑定待ちに寿司を頬張る雪を直視する。ニケは白金に輝くお金を震える手で見せると、裏返った声でお願いする。


「あの…雪様!!このお金で、ポ…ポーションを譲って頂けませんでしょうか!?」


「んぐっ、び…びっくりした!いきなり大声出してどうしたんですか?」


「ニケ、どうしたの~?…ママ見て!キレイな色だよ~」


「あら、ブドウジュースみたいでキレイねぇ~。それよりニケ、一度落ち着いて座ったら?周りがびっくりしてるわよ」


「ハッ!…失礼しました!」


アネッサの言葉に、白金貨の詰まった財布をガチャガチャ鳴らしていたニケは、正気を取り戻す。


「どうした?ニケがそんなに大声出すとか、久し振りに聞いたぞ……」


「そんな大金早くしまって!ひとまず鑑定結果を教えてください!」


両手に大金とポーションを持ちながら、血走る目で興奮するニケに、お茶を飲ませ落ち着かせると、話を再開させた。


「はい、こ…このポーションの効果は『魔力完全回復及び、一定時間体内魔力1000%増加、魔法攻撃力500%増加』副作用に『空腹』がありますが、問題ではありません!」


「飲んだだけで10倍って、……これはまたチート級の恐ろしい効果だね…」


「さらに、この特殊な小瓶に入っております『種』ですが、魔法を追い求める者にとっては喉から手が出る代物『魔力の泉』そのものであります…」


「えっ!?どゆこと???」


「つまり、この種は無限に魔力が沸く『無限魔力(マナインフィニット)』という神話に登場する……神話級の代物で…あります。口に含み使用すれば、無限に魔法を使えます」


ニケの説明により、またしても恐ろしい代物を出してしまった雪は、何とも言えない空気に晒される。蓮さんにお茶のおかわりを頼み、温かいお茶を啜ると、内心バクバクな雪は、くしゃけた作り笑顔で話し出す。


「つ、つまりニケさんはコレがあれば、悪魔と渡り合えるってコト?」


「その通りであります。非力なわたくしもコレを飲んで戦えば、悪魔もクソ雑魚同然です!ちなみにわたくしのお師匠様も長年探し求めている究極の逸品でございます。これさえあれば、行き詰まった魔導具の問題も解決します」


「悪魔もクソ雑魚ですか……」


「個体差によりますが、公爵級悪魔の襲撃でも退ける事が可能になるかもしれません」


「じゃあ、戦闘面では解決かな?もう何個かあるから大丈夫だよ」


ポロリと雪の口から溢れた言葉に皆は絶句する。


「…雪ちゃんは何度も俺たちを驚かせてくれるな。『おとぎ話』に登場する種ってことかよ。冷や汗が止まらねえよ……」


「国に献上すれば、爵位も思いのままでござるな……」


「だな!白金貨250枚でも安いな…ってか、それがあれば俺の安綱と正宗返ってお釣りがくるぞ!」


解決方法をクリアしたダンクーガと隻影は、互いに手を取り喜び合う。


(まったく、あの女神様も大変な代物を作ったわネ。これひとつ売れば一生遊んで暮らせるわヨ)


(深雪ちゃん『また私やっちまいました?』みたいな感じがするんだけど、…どうしよっか?)


(そうネ。売るのではなく『貸与』にしまショ!持ち逃げされないように『契約(コントラクト)』すれば大丈夫ヨ)


(それだっ!契約内容は追加で好きな時にケーキ食べ放題にしようよ!)


(…言うと思ったわ。…とりあえず契約スキル持ちの者を探して契約して貰いまショ!)


「あの、ニケさん。コレが欲しいなら私と契約しませんか?さすがにコレを売る事は出来ないけど、貸与なら良いですよ!」


「もちろん貸与でも構いません!アネッサ様、今から契約書の作成をお願い出来ますか?」


「ええ、いいわよ。横から話を聞いていて、ニケが羨ましくなったわぁ~」


「アネッサさんは契約スキルが使えるんですね、凄いなぁ~!」


「こうみえて『大商人』の娘ですから、これくらいは普通なのよ。じゃあ契約内容を決めましょうか」


「私は条件に『好きな時にケーキ食べ放題』とかが良いかな?」


「うふふ、雪ちゃんらしい内容ねぇ。でもそれだけではダメよ~!紛失した場合はどうするのかしら?」


「あっ、忘れてた!…むむむっ」


(何が、むむむっ…ヨッ!素人丸出しの契約内容じゃない。ほら、ワタシに替わりなさい)


おバカな契約内容に呆れた深雪は我慢ならず身体を交替すると、雰囲気が替わり、深淵を司る青眼が現れた。


「お待たせしました!ワタシが替わりに契約内容をお伝えしますネ」


「その雰囲気は深雪ちゃんよね?あなたなら安心して聞けるわねぇ」


(ぐぬぬぬぬっ!……私はお姉さんなのにぃぃ!)


「まずは『魔力カイ復ポーション』を貸与する契約金として白金貨50枚、使用条件として『貸与された者』は持ち主『天花 雪(てんか ゆき)白魔 深雪(はくま みゆき)及びうさちゃんを『アマミヤ皇国の目的地』へ到着するまで全力で守る事。自己防衛及び自己判断での使用可能』『持ち主の判断で貸与された者の使用を中止出来る事』『持ち主が貸与された者の同意なく契約をいつでも満了できる事』『貸与された者が契約を放棄する場合、貸与した物を返却した上、白金貨100枚を支払う事』『他の者に売却、譲渡、貸与不可、窃盗及び強奪、放棄不可、破損、紛失又は盗難にあった場合は同等の対価を差し出す事』『契約を破った場合、女神様からオシオキ(天罰)が下される』」


「白魔様、これだけの契約内容でよろしいのですか?神話級の代物の貸与に護衛は勿論ですが、当たり前すぎる内容に少し驚きなのですが……」


「そう、不満ならエッチな内容でも付け加える?」


「そうなると、護衛契約から奴隷契約になってしまうわよ。ニケはそれでも良いの?」


「わたくしは一向に構いません!」


「冗談ですヨ。とりあえず貸与及び護衛契約内容はこんな所ですネ」


(深雪ちゃん、スイーツが食べたいです!ぜひ内容に付け加えてください!)


「あと、雪ちゃんがスイーツを食べたいそうだから、たまに作ってあげて欲しいデス」


「雪様がですか?…承知しました!」


(いやっほー!これでいつでも甘い物が食べられるよ~!ぐへへっ!)


「契約書を作成するから少し席を外すわね。あなた、アシュリーを観ていてね」


「ママ、いってらっしゃい!早くかえってきてね~」


アネッサは席を立ち、笑顔でアシュリーの頭を撫でると、ダンクーガを見つめ、目で合図を送りながら店を出て行く。それを見計らい深雪はスプーンを手に取り、茶碗蒸しを頬張ると、ダンクーガへ視線を向け、小悪魔な笑みを浮かべながら語り出した。


「ふぅ、今回の契約で思わぬ大金を手にしてしまいそうデス。白金貨で50枚、王都へ着いたら何を買おうかしら?」


それを察したふたりは頭を下げながら深雪に嘆願する。


「白魔様、ぜひ俺にひと振りの刀を買い与えください!その刀で必ずあなた様を守ってみせます!」


「拙者からもお願い申す!この者に刀をどうかお与えくだされ…」


いたいけな少女に対し、頭を下げるふたりの真剣な眼差しを確認すると、深雪は笑顔で了承する。


「分かりました!その言葉を信じましょう……フフフッ」


「パパ、良かったね~!お仕事たくさんがんばってね~」


「…うん!パパ頑張ってお金稼いでくるからね」


「深雪様でしたら、「一部分」以外は大人の女性ではないのでお約束は守られますね。お見事でございます!」


ニケの少し引っ掛かる発言を無視(スルー)すると、深雪たちはとりあえず安心の表情をする。


(深雪ちゃん賢いなぁ!次は王様にこのポーションでも貸して鬼切安綱返してもらう?)


(それはダメ、こんな代物ポンポン出したら政治バランスが崩れるわヨ。また戦争が起きるでショ?)


(だ、だよね。…これが26個あったら世界征服楽勝に出来ちゃうもんね……)


(まぁ、最終手段として考えておきまショ!恐らく王国も戦争の飛び火で被害を受けているはずヨ。他には、ニケさんが行き詰まった魔導具の事を話していたから、その師匠に限定で貸すとか、それくらいかしら?)


(ぐへへっ!山吹色の金貨(お菓子)がザックザクですな!お代官様も(わる)ですのぅ)


(あくまで仕事(ビジネス)の話、お金稼ぎは悪い事ではないのヨ!)


澄まし顔をする悪代官(深雪)と、手揉みをする桔梗屋()は、心の中で引き笑いをすると、食事の終わったウサギに薬を飲ませる。


しばらくすると、アネッサが契約書を手に持ちながら帰って来た。三人と子うさぎは場所を替え、深雪が泊まっている部屋に移動する。


気持ちが昂るニケを落ち着かせ、ふたりは契約書にサインをした後、アネッサは手を二枚の契約書に翳し、契約魔法を唱えると、魔法媒体となった指輪がピンク色に光り、紋様が現れると、二枚の紙に同じ紋様が浮かび上がり契約が完了する。


「はぁい、これで契約は完了よ!ここからはお互いの信頼関係を大事に築いていってねぇ」


アネッサは指輪を大事そうに擦りながら告げる。


「アネッサ様、ありがとうございました!白魔様、天花様、うさちゃん様、これからよろしくお願いします!まずは契約金として白金貨50枚をお受取りください。アネッサ様も契約手続きの謝礼としてこちらをどうぞ」


「…金貨5枚も?こんなに頂けるなんて太っ腹ねぇ」


「ええ、…確かに受け取ったわ。では、これがお待ちかねのポーションです…ヨッ!」


受け取った金子を数え終えた深雪は、魔力カイ復ポーションを取り出しニケに渡す。ニケは目を輝かせ、小瓶にくちづけをしながら深淵を司る青眼の少女にお礼を言う。


「白魔様、わたくしにこのような代物を貸与してくださり大変恐縮でございます!気持ちが昂り今夜は眠れそうにありません!」


「フフ、効果を早速試したい気分かしら?なら、少し外へ出掛けてみます?ワタシもそろそろ、血が吸いたい気分なの……」


「はっ!お供させていただきます。護衛はお任せください!」


「うさちゃんはそろそろおネムかな~?」


「ぷぃ~」


ウサギは眠そうに答える。それを見たアネッサはお願いをしてくる。


「深雪ちゃん、またウサギさんを一晩貸してくれないかなぁ?明日のお見送りには連れて行くから…」


「アシュリーちゃんにですネ。契約の手続きをしてくれたお礼デス。大切にしてくれるなら良いですヨ」


「ありがとねぇ、大事に預からせてもらうわね。この子がいるとアシュリーの寝付きも良くなるから助かるのよ~」


(ウサギさん不思議な感じがして落ち着くもんね。精霊さんだからかな?)


眠そうな子ウサギを抱きアネッサに渡すと、三人は一階の食事処へ戻る。カウンターに目を向けると、ダンクーガと隻影は、アシュリーにお酌をされていた。バカ笑いしながらお互い仲良く酒を飲み交わし、昔話に花を咲かせていた。


「あなた、明日は早いのだからあまり飲み過ぎたらダメよ~!アシュリー、ウサギさんと一緒に帰るからこっちへ来なさい」


「うん、パパも早くかえってきてね~」


「おう、パパはもう少し立ったら帰るからね~」


(こりゃ絶対深酒コースの言い方だよね。明日は地獄を見るよ…)


もう少しが30分、1時間と伸び、気付けば日付を跨ぐ。まさに恐ろしい言葉である。


そんな事はお構い無く、赤ら顔で酒を呷る隻影に、深雪は意味深な言葉を送る。


「隻影様、少し夜風に当たって来ますので、布団を暖めておいてくださいネェ~」


「ぶほっ!…げほっ!げほっ!深雪殿、拙者をあまりからかわないでいただきたい!」


「昨日の続きをと思ったのですが、仕方ありませんネ。はぁ、残念デス……」


「深雪様、その件はのち程わたくしが努めさせていただきます。さあ、参りましょう!」


「は…はくまさまっ!やはり、拙者気が変わったでござっ…ッ!ぶほっ!」


「あーかーいーッ!今夜は寝かせねえぞ!おらっ、もっと飲めよ!」


ダンクーガに首を絞められ徳利を口に突っ込まれながら、仲良く酒を飲む隻影。深雪はふたりに会釈をすると、(こい)が玄関を開けてくれ、笑顔で見送ってくれた。


暗い夜道を灯籠の灯りに導かれ、中央の建物まで来ると、ウサギを抱いたアネッサ親子と別れ、ニケと一緒にハンターズヴィレッジの外へ出る。警戒中であったが、ニケを見た門番は納得すると門を開く。ふたりは門番に手を振ると、あらためて夜の草原を見渡した。


「ん~~、ふぅ!何だか久し振りに外へ出た感じがしますネ。…まだ一日しか立ってないのに変な感じ……」


「予想外なトラブルもありましたから、その影響でしょう」


「ある意味、退屈しなくて良かったデス!…それでは『闇夜の狩りダークナイトハンティングへ行きまショ!』」


その言葉にふたりは得物を各々取り出すと、眼を光らせ闇夜を駆け巡る。


やはり夜は体が軽い。深雪は状態を確かめながら、滑る様に脚を運んでいると、隣を並んで追いかけるニケは嬉しそうに微笑みながら深雪の脚運びを見つめている。ニケは近くの森の狩場へ行こうと深雪を誘い、それを了承すると、獲物を探しに森へ向かう。


(ハハッ、ひとっこひとり居ない夜の森は、めっちゃ雰囲気あるね……)


人気のないうっそうとした森へ到着したふたりに、雪は半笑いを浮かべた。ウズウズしているニケはさっそく杖の石突きを地面に突き『探索(サーチ)』魔法を発動させると、魔物の位置を特定させる。


「前方50mに魔物三体確認、反応からおそらくホーンウルフかと思われます」


「では、最初はワタシが殺りますネ、早速狩りまショ!」


「はっ!お手並み拝見いたします!」


深雪は臭いを嗅ぎ位置を把握すると、自分の存在を闇に紛れさせ獲物へそっと近付く。ホーンウルフ達は狙われている事に気付かず呑気にじゃれ合っている。深雪(ハンター)は日傘を銃口の様に構えると、一直線上へ血の光線(ブラッドレイ)を放ち、三体同時に仕留める。


「(ぶしゅ!)……うん、良い感じ」


「お見事でございます!三体同時に心臓への急所攻撃とはやりますね」


「狼なのに狼狽えなかったデス!」


「ぷっ!ジョークも一流でございますね」


(深雪ちゃん盗らないで、それ私のポジションだよ~!)


血の支配を発動させ、血液だけを抜き取ったホーンウルフを回収すると、次の獲物を探しに行く。再び探索魔法を掛けながら森の奥へ進むと、纏まった小さな反応が複数あり、ニケは「次はわたくしの番です」と深雪に伝えると、少女は笑顔で頷く。視認出来る場所まで近付くと、ニケは胸元から紫色のポーションを取り出すと、小瓶を呷り魔力を高める。


「では、ご覧ください!死霊術『影の騎士(シャドウナイト)』」


眼鏡から覗く紫の瞳を光らせ詠唱すると、両手に剣と盾を持ち、青黒い鎧を纏った禍々しい騎士が突如出現する。


(うわぁ、こ……こんなのと森で出会ったらおしっこチビっちゃうね………)


(召喚したのは恐らく冥界の番人ヨ)


「まずは1体で戦わせてみましょう」


そう述べたニケは指示をだすと、冥界の番人は「コオォォッ」と唸り声を上げながら獲物へ襲い掛かった。


15頭ほどいたホーンウルフが、ものの数秒ほどでオーバーキルされぐちゃぐちゃになり、辺り一面に素敵な光景が造り出された。


(ひぃぃっ!あんなのが暗闇から襲い掛かって来たらトラウマになっちゃうよ!)


「…たったの1体でこのありさま、凄いわネ。……でもこの光景、どこかで観たような……ッ!」


(深雪ちゃん、さっきまで狼だったものが、…ぐちゃぐちゃ過ぎてもう原型がわかんないね……)


「素晴らしい!影の騎士(シャドウナイト)がかなり強化されていますが、この辺りは魔物―がクソ雑魚過ぎて本来の力が発揮されませんね。深雪様、他に手応えのある獲物を探しましょう!」


興奮した表情で深雪に話しかけたニケは、次の獲物を探そうと森の奥へ足を向ける。だが、それを遮るように深雪はニケへ質問をする。


「……あの、ニケさん。少し思い出した事があるのデス。不躾な質問なのデスが……」


「それはよい兆候でございます!それで、質問というのはなんでございますか?」


笑みを浮かべたニケに、深雪は恐る恐る口を開く。


「……ニケさんは、…昔のワタシと戦ったこと、……ありますか?」


深雪からの問いかけに、少し戸惑いを魅せるニケだったが、何かを懐かしむ表情に変わると、深雪へ質問を返す。


「…はい、ございますが、毎回ボロ負けで、わたくしはいつも泣かされておりました……」


「それはまた嫌な思い出ですネ。変な事を聞いてすみません……」


背中を向けたニケは、何処か悲壮感を漂わせる。それを察した深雪は謝罪するが、急にニケが振り向き、表情を一変させると声を荒げた。


「いいえ、違うのです!あれはわたくしにとって楽しい思い出です。あの頃はまだ白魔様の足元にも及びませんでしたが、今はこうしてお側にお使いできるまでに成長しました!…白魔深雪様は、わたくしの憧れの存在であり、お師匠様の大切な親友でごさいました!」


「えっ、ニケさんのお師匠様とワタシは親友だったのデスか?…大切な事ばかり、ワタシは忘れているんですネ……」


(ダンクーガさん、隻影さん、ニケさん、みんな深雪ちゃんのお世話になってた人達なんだね!)


「それに……わたくしは、白魔様とはかれこれ200年ほどの付き合いであります……」


ニケの口から飛び出した『200年』という言葉に驚く。


「ニケさんは見た目二十歳くらいですよネ、失礼ですケド年齢はおいくつデスか?」


「今年で219歳になります。ちなみにわたくしは人間ではなく『シャドウエルフ』であります!」


ニケ(仏頂面)の口からまたしても思わぬ発言が飛び出すと、深雪達は困惑した表情を見せる。


「いま御見せします」


ニケはそっと眼を瞑り、ブツブツ何かを唱えると、左耳に付けたイヤリングが反応し変身が解かれる。背景が一瞬蒼白く光り、風が吹くと、それに(なび)く銀髪と色素の薄い肌があらわになり、深雪たちの前にその姿を現した。


「……この姿が本来のわたくしでございます。深雪(みゆき)お姉様、この姿に見覚えありませんか?」


親しみの込められたニケの言葉、『お姉様』と呼ばれ、脳裏に何かがよぎる。ハッとした深雪は目を見開くと、口元に手を当て、驚きの表情を浮かべた。


「……ア、アナタ……ッ!…あん!熱い!お腹が…あぁんっ!」


「お、お姉様?…どうされました!?お腹が痛いのですか?」


「ニケちゃん!…お願い!助け…て…あっ!あぁん!いやぁ!」


「この症状は、…紋章が反応している様子ですね。お姉様失礼いたします!」


お腹を押さえ踞り、悶え苦しむ深雪の姿に、秒で駆け様子を観察すると、少女の服を捲り、お腹の紋章を確認する。


「…チッ!忌々しい紋章めっ!並列思考での解析はまだ途中だが、やるしかない!」


突然の出来事に、焦り額から零れ落ちる汗を拭いながら、ニケは鞄から補助系アーティファクトを取り出し強く握りしめると、深雪のお腹に手を乗せ解呪を試みる。


「聖なる光りよ。呪いを退け清浄なる身体へ……成功しろッ!『解呪(ディスペル)』」


ニケは叫ぶように魔法を唱える。だが、僅かな光が一瞬だけ灯ると瞬く間に消えた。相性が悪いのか、ニケの唱えた魔法はむなしくも、蛍よりも儚い僅かな光り、ただそれだけであった。


「あぁん!痛いよー!やめてぇ!お腹が壊れちゃうよーー!」


「痛いですが我慢してください!……ニケ!考えろ!お師匠様、ミザリィ様ならどうする!?……くそっ!なぜ私には神聖魔法が使えないのだっ!」


己の不甲斐なさに両手で地面を叩き怒りを露にすると、突如影の騎士(シャドウナイト)が反応する。ニケは回りを囲むように追加で影の騎士を召喚すると、直ぐに防御体制を取らせる。そして杖を持ち、探索魔法を発動させると、悪魔と思われる大きなふたつの反応が返って来た。


「このクソ忙しい時に現れるとは……」


ニケがそう呟くと、ふたつの影が森から現れた。


「やっと見つけた!オレの可愛い花嫁ちゃん!…オイオイ、パンツ丸見えかよ」


「この花嫁は我輩のものである!貴様のものではない!そしてナイスパンツである」


そこへ現れたのは、復しても空気を読まない変態悪魔共であった。


「んっ?…あれはエルフか、おい貴様、ナニをしている?我輩の花嫁から離れろ!」


太った寸胴体型の悪魔が叫ぶ。


「ちげえよ!オレの花嫁だっての!とりまぁ、まずはこの青黒い奴から排除します……かっ!」


足を踏み込みカッコ良く飛び出した見た目チャラ男の悪魔は、唸る右手の拳に魔力を溜めると影の騎士に向け魔力を解き放つ。


「くらえっ!オレ様流!愛の拳『闇拳(ダークフィスト)』」


「ガィィィン!」


チャラ男悪魔が助走を付けて解き放った愛の拳は、青黒い騎士が持つ盾に激しく当たる。舞い上がる土煙と鈍い音を立てた拳は、少し痺れを感じさせたが、弱い人間相手を倒すには十分な手応えであった。


「よっしゃ決まった!」


チャラ男悪魔は騎士たちが吹き飛んだとばかりに思う。だが、ニケが召喚した青黒い騎士鎧の中に入っているのは、人間とは程遠い者である。


土埃が晴れ、チャラ男悪魔の前に平然と現れた影の騎士は、『コオォォッ』と口から霊気を吐くと、兜から覗く瞳で相手を睨み付ける。


「………あれっ?いつもならここでぶっ飛ぶはじゅ!ずッ!ごはっ!」


お返しとばかりに影の騎士から繰り出された斬撃を受け、チャラ男悪魔は右腕が吹き飛ばされると同時に、複数の剣が飛び交い、反撃する暇もなく絶命する。


「ぷっ!ただホコリを巻き上げるだけの攻撃でわたくしの騎士(ナイト)を倒せると?今時の悪魔は知能がゴブリン並みですね」


「ええいうるさいッ!わ、我輩は子爵級悪魔であるぞ!そこの男爵級悪魔より倍はちゅよいのだ!い、いまならその花嫁を差し出すだけで勘弁してやろう!」


「なッ!倍もちゅよいですってッ!…くっ、なら降参します。とてもちゅよそうで敵いそうにありません。お詫びと致しましては「素敵な花道」を作りますので、ここまで花嫁を取りに来てくださいますか?」


「ほ…ほほぅ、殊勝な心掛けである!どうやら話の分かるエルフのようだな!…よかろう!我が愛しの花嫁よ、共に屋敷へ参ろうぞ!」


30体の影の騎士達は縦二列に並ぶと、お互いの剣を真上に交差させ、トンネルを作ると、ニケは魔法を唱え地面に影の花を咲かせる。そして、笑顔で小太りな子爵級悪魔へ手招きをしながらこちらへ来るよう促すと、それを見た悪魔は気を良くしたのか、短い足で堂々と闊歩しながら、剣のトンネルへ向けて歩き出した。


「あっ!あぁん!…ダメ!はや…くぅ……お腹壊れちゃうー!」


「待っておれ!我輩がすぐに向かうからのぅ!……んっ?なぜお主達は道を塞いでおる!ええいっ!早くどかんかっ!」


小太り悪魔はお腹を弾ませ花道を真ん中辺りまで進んで行くと、突如として青黒い騎士達に行く手を遮られる。悪魔は激怒し足で小突くが一向に退く気配がない。すると、眼鏡を掛けたシャドウエルフは笑みを溢しながら苦しむ少女を抱き抱え、ゆっくり立ち上がると、影の騎士へ首を切る合図を送った。


「バカにも程がある悪魔ですね。自らの愚かさに気付かず影の餌食になれ…」


「(コオオオッ!)ザシュッ!」


背後から首を一閃され、子爵級悪魔の頭が宙を舞う。首を失った身体は両膝を突き、前屈みに倒れると小刻みに震え、やがて動きを止める。


「はぁ、この悪魔もクソ雑魚過ぎて相手になりませんね。昔の悪魔はまだ勤勉でした。せめて障壁でも張っていれば楽しめたのですが、……次回の持ち越しですね」


ため息混じりに語るニケは、チート級の薬で強化された影の騎士たちをじーっと見つめると、不満げな表情で歯がみする。


(ニケさんもすっごく強くて安心したよー!よく見ると青黒の騎士もカッコいいですなぁ~!)


「……どうやらお姉様の体調も落ち着いたようですね。一時はどうなるかとヒヤヒヤしましたよ…」


「………あれ、ニケちゃん?」


「お気付きになりましたか?安心してください、悪魔はすべてわたくしが始末致しました!この勇姿を御見せできなくて残念ですが、こんなクソ雑魚変態悪魔共には指一本触れさせません!」


「………おしっこしたい」


「…はいっ?おトイレですか?えっと、……あそこの茂みに簡易トイレをお出しいたしますね!」


「はやくぅ~!漏れちゃうよ~!」


「は、はいっ!」


大活躍を収めたニケは、締めのセリフを見事に決めさせたが、深雪のどこか締まらないセリフに翻弄され、四苦八苦するのであった。

いかがでしたか?水無月カオルです。

強すぎる英雄の息子にそれを支える妻と娘、さらに優秀な部下ニケと幼馴染の親友セキエイ、ダンクーガは恵まれていますね!

お約束のシーンからニケの正体と、今回は書きたい事がいっぱいありました。


皆さんは楽しめたでしょうか?


では、また次回でお会いしましょう

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