女神様の私情 - 特別な転生 4 -
どうも皆さん、水無月カオルです。
今回はリットの礼儀作法についてと、ミユキとセキエイの関係がちょっとだけ分かります。
では、続きをどうぞ
第1章 女神様の私情 ― 特別な転生 ―
ep.4 『礼儀作法は蛮全デス!』
アネッサに呼ばれた深雪たちは夕食を食べる為、浴場の隣にある宿屋へ向かう。深雪はアシュリーに手を握られ「はやくはやく」と引っ張られ案内される。宿に到着した深雪は宿の看板に目を向けると『睦月』と書かれていた。暖簾を潜り中へ入ると、そこには名前のとおり仲睦まじい夫婦が出迎えてくれた。
「蓮さん恋さん、こんばんは~」
「いらっしゃ~い。睦月の宿へようこそ!」
玄関で出迎えてくれたのは恋さんという宿屋の女将さんであった。
「あら、アネッサとアシュリーちゃん。旦那さんが奥の座敷で待ってるわよ」
すると、声に釣られカウンターの奥から和服姿の料理人っぽいひとが現れ声をかけてくる。
「いらっしゃい。レティアちゃん達も奥へどうぞ。今日はご馳走だぞ」
「やったぁ!楽しみやぁ」
「ご馳走、待ってて…」
「みんな、奥へ行くわよー」
宿の一階は主に食事処になっており、入って手前はカウンター席、奥は靴を脱いで座れる座敷という和風料亭でお馴染みの落ち着いた感じがする造りになっている。従業員に案内され奥へ進むと、襖で仕切られた部屋があり、従業員が声をかけ襖を開けると、ダンクーガと隻影が上座へ座って談話しており、他には護衛と思わしき数人の部下が襖の前で正座していた。
「…では、手筈通り(小声)」
ふたりは何やら頷くと顔を深雪たちに向けてきた。
「おう、待ってたぞ。みんな座ってくれ」
「はく…深雪殿は、拙者の隣へ参られよ」
「ハイ、お隣失礼しマス」
「貴族様からご指名や…」
「深雪ちゃん、頑張れ…」
(ほれ、ちこうよらぬか。ぐへへへへ)
「ハイハイ(小声)」
靴を脱ぎ、座敷に上がった深雪の前には高級感漂う座敷机の上に様々な海の幸が豪華に並べられていた。白米に吸い物、刺し身を中心に蟹、貝、茶碗蒸し、お酒、極めつけに鯛の船盛がどーんと用意されている。
アネッサとアシュリーは上座へ座り。レティアとリリカは下座へ座る。(これは当然の事だが)深雪も隻影の隣へ向かおうと足を一歩前に踏み出す。だが、落ち着いた雰囲気の空間にドタドタと音を立て、ヒーローが遅れてやって来た。襖を豪快に開け、靴も脱がず畳の上をドカドカ歩くその正体は、奴しかいなかった。
「わりぃー、遅れたっ!おっ、すげえ豪華だな。アカイのジイさん隣座るぜ」
「あっ、ちょっと待てリット!」
「リット、オワタ…」
(く…空気が、酸素があるのに食う気が無い!)
(アナタ、ナニ言ってるの?)
ダンクーガが僅かに顔をしかめ、部下が隻影の顔を窺う。隻影の顔は笑みを浮かべているが、空気がヤバい。さらにリットはへらへらした表情で鯛の船盛に手を出そうとする。
(だ、だだだれか止めないとオオオオ!!!)
このままでは鯛の船盛の他にリットの船盛までもが出来上がってしまう。誰もがそう感じた瞬間、そんな空気をぶち壊すように可愛らしい声がリットを注意する。
「リットお兄ちゃん。そこお姉ちゃんのせきだよ~」
「フフ、リットさん。ワタシのお膝に座りマスか?」
「ぷぃ~」
いつの間に移動したのか、鯛の船盛に目を奪われているリットを後ろから見下ろし声をかける深雪の青眼は、少しだけ殺気が放たれていた。背中にヒヤリと感じたリットは一瞬身震いすると、後ろをゆっくり振り返る。
「あっ、わりぃ。……えっと」
「ウチらはこっち!下座やっ!あと靴は脱いでこなあかんて」
「リット、恥ずかしい…」
隻影に頭を下げ、青ざめた顔のレティアが何とかリットを下座に移動させたが、奴は追い討ちをかける。
「いやぁ!それにしても豪華な飯だな、どれどれ…うめえっ!」
「リ、リットー!挨拶がまだなんやから食べたらあかんてっ!」
「リット、打ち首獄門…」
「フフ、リットさんは手が早いデスネ」
(あわわっ!…せ、隻影さんの笑顔が怖いよぅ)
「ハハハッ、……すまんな紅よ。こいつは腕は良いんだがナニ分性格がな……」
レティアがリットの頭をぶっ叩き、無理やりヤっちまった空気を引っ込ませる。隻影の他に、雪は隅で正座をしている護衛にチラッと目をやると、護衛のおでこにはびっしりと汗が浮かんでいた。何とかドタバタが落ち着き、ダンクーガが咳をひとつすると改めて挨拶した。
「今日は、俺にとって凄く嬉しい日だ。ガキの頃からの親友であり戦友が、可憐なお嬢さんを連れて尋ねてきてくれた。ささやかだが料理を用意した。みんな、遠慮せず腹一杯食べてくれ!」
『乾杯』の合図と共に、みんなは雑談をしながら箸を進める。深雪も箸に手を付けると、目の前にある白く透き通る刺し身に手を伸ばし、醤油に付けると、艶やかな口元に運ぶ。
「おっ、河豚からいくのか、…どうだい味は?」
「モチッとした食感がして美味しい!とても上品な味デスヨ」
「だろ!この魚たちはな、アーカムネリア王国が管理する南の海『鯨の浜辺』で捕れた魚介類を生きたまま馬車で運んで捌いたものだ」
「だから新鮮なのデスネ。でも、ここまで運ぶのに何日掛かるのデスカ?」
「要塞都市の港からだと馬車で2日程だな。深雪ちゃんは旅をしていると聞いたがどこの出身なんだ?海育ちかい?」
ダンクーガの何気ない質問に雪は戸惑いを見せる。
(み…深雪ちゃん。どうしよ~?)
(大丈夫ヨ。任せて…)
「西の山奥から来ました。なので山育ちデスネ」
すると、下座から聞き耳を立てながらご飯を口にかきこみ、チラチラこちらを伺っていたリットが突然話に割り込んできた。
「に、西の山って『日枝山』の事か?あ、あそこは確か鬼門があって、鬼が住んでるって噂がある場所だろ…」
「そうですネ。鬼が降りて来たのかもしれないデスヨ~」
「はっはー!深雪ちゃんみたいな鬼なら大歓迎だぜ!」
はしゃいで調子に乗ったリットは、大声を上げた拍子に口からご飯が飛び、隣にいたレティアとリリカに叱られる。
「フフ、リットさんは相変わらずデスネ。ではおじ様、お酒を御注ぎしマス」
「お…おぉ、では一献!」
片眼を瞑り、ウインクしながら徳利を持ちあげると、隻影はつられてお猪口を持つ。深雪は色っぽい声で「トクトクトク」とお猪口に酒を注ぐと、それを聞いた隻影は思わず頬が緩む。お猪口に注がれた酒をぐびっと呷った隻影は、鼻から抜ける極上の酒の香りとおなごに満足げな表情を見せると、それを確認した周りの護衛が額の汗をぬぐいホッとする。
周りの空気を和ませた深雪は笑みを浮かべると、鮮やかな浴衣の袖を横に広げ『似合ってますか?』と隻影にアピールする。
「いやいや、深雪殿はお酌上手でござるな。浴衣姿も良く似合っておる。拙者の娘を思い出しますな」
「フフフ、ありがとうございマス。紅のおじ様の着物もとてもお似合いですヨ」
(深雪ちゃん凄く誉め上手だね。ドコの御店に居たのかな?)
「朱色を基調とした物を身に付けてマスが、御好きなのデスカ?」
その言葉に隻影はダンクーガと眼を合わせると、深雪に説明する。
「この燃えるような朱色は、拙者が以前当主をしておった紅家の本家本元を象徴する色でござる。深雪殿はアマミヤ皇国へ赴いたことはござらぬのか?」
隻影からの問いかけに深雪は眼を瞑ると、暫く考えた後微妙な笑顔で答える。
「すみません。昔の事はあまり覚えていないのデス」
(このひとたち上手い具合にちょいちょい質問混ぜてくるね。さすがに困っちゃうよ)
「いや、覚えておらぬのなら仕方がない(やはりそうであったか)」
「変なこと聞いてすまんな深雪ちゃん。紅の奴が深雪ちゃんの事が大好きみたいでよー。惚れたならお前の嫁にどうだってさっき話し合ってたんだよ」
「……うぇ!!」
突然のアドリブに隻影の口からすっとんきょうな声が漏れる。
「…マ、マジかよ」
「貴族様に気に入られてすごいやん」
「深雪ちゃん。玉の輿…」
(みみみみゆきちゃん!?ど、どどうしる???)
「……今日、初めてお会いしたワタシをデスカ?」
深雪はそっと胸に手を当てると、上目遣いで隻影を見つめる。その仕草に隻影は顔を赤らめあたふたしながらも会話を続ける。
「そ、そ、そうでござる!しぇ、拙者は深雪殿をお助けした時から、しゅしゅすす好いておおおった!」
御貴族様からの愛の告白に、みんなは箸を止め食い入る様にふたりの様子を伺う。すると、横から可愛らしいアシュリーの声が深雪に届く。
「お姉ちゃんけっこんするの~?」
茶碗蒸しをウサギと一緒に頬張りながら無邪気な笑顔で話しかけるアシュリーに、ダンクーガがさらにアドリブを仕掛ける。
「そうなんだよアシュリー。深雪お姉ちゃんが紅のおじさんと結婚したら俺と親戚同士になるからなぁ。だから深雪ちゃんはアシュリーのお姉ちゃんになる訳だ!嬉しいなアシュリー」
「うん!お姉ちゃんのウサギさんとあそべるからうれしい~」
(えっ、……そっち?ていうか、いきなり結婚の話になってますけどぉ!ま、まずはお付き合いからじゃないの?……じゃなくてー!ぬぬああああっ!!)
(…これは困ったわネ。下手に貴族様の申し出を断ったら後々トラブルになるから、どう返事を返したらいいかしら……)
(本家本元とか言ってたし!絶対大貴族の方だよ!このあと無理やり布団のある部屋に連れていかれるぅぅ!ど、どーする?ぬおおおおっ!!)
叫び声をあげセンシティブに混乱する雪と、困惑した表情で解決策に悩む深雪。ここは一先ず当たり障りのない会話でやり過ごすか、そう考えた深雪は言葉を返そうとすると、今まで大人しく聞いていたアネッサが口を開く。
「アナタ、深雪ちゃんが困っていますよ。殿方の一方的な愛の押し付けはしこりを残し、後々トラブルの元になるだけです」
「お、おう!そうだな。アネッサの言うとおりだ。深雪ちゃんすまねえ」
「も、申し訳ござらぬ!」
「いえ、突然の事で少し驚きましたケド……えっと、このお話は…その…あの……」
なかなか言い出せない深雪にアネッサが助け船を出す。
「では、まずは隻影様がアマミヤ皇国へデートのお誘いしてはいかがですか?」
「アマミヤ皇国へデスカ?」
「ええ、そうよ」
アネッサは隻影にアイコンタクトをすると、その言葉に続いて隻影が話し出す。
「う、うむ!アマミヤ皇国の季節はちと特殊でのぅ。一年中四季折々の季節が観られ、デ、デートには打って付けなのだ。ど、どうであろう?深雪殿さえ良ければ拙者がえすこーと致すが?」
(隻影さんは深雪ちゃんの事を本気みたいだね)
(アマミヤ皇国、少し行ってみたい気がするわネ。アナタはどうする?行く?)
(ウサギさんの事もあるけど、断るのも悪いしのんびりのほほんしたいから行くー!)
(じゃあ決まりネ!アマミヤ皇国へ行くわヨッ!)
深雪の問いかけに雪は秒で答え、隻影の誘いに乗る事にした。引きつった笑顔で返事を待つ隻影に、小悪魔少女は眼を細めながら含みのある言葉を返す。
「隻影様は見た目によらず積極的な御方ですネ」
「はっはっはっ、年甲斐もない!」
「隻影様がえすこーとして下さるのでしたら、ぜひお願いしマス」
深雪は合わせた手を頬に付け、可愛い仕草でお願いすると、復してもリットが親指を自分に向け横から口を挟む。
「だ…だったらオレも一緒に着いて行って、深雪ちゃんの護衛するぜ!」
お前はナニを言っているんだ。一瞬誰もがそう言葉をよぎると、リリカがぼそっと呟く。
「リット、ベヒモスのエサ…」
「あん?ベヒモス?子供の時に聞かされたあのおとぎ話のか?」
「前の戦争で実際に大暴れしおった怪物やよ。リット知らんの?」
すると、アネッサの横でウサギと遊んでいたアシュリーが得意気に話してくれた。
「わたし、しってるよ~。わるいていこくがおいていったんだよ~」
「そうなんだ~。アシュリーちゃんは物知りさんでスゴいネ~」
「だろ?俺の自慢の娘だからな。賢いはずだ!」
ダンクーガは腕を組み、自慢げに笑う。
「ママにおしえてもらったんだよ~」
「うふふ、覚えてて偉いわね。アシュリー」
アネッサの膝の上でウサギと遊んでいるアシュリーを横目に再びベヒモスの話しを始める。
「リット、7歳に負けてる…」
「う…うるせえ!たまたまだよ!」
「帝国の置き土産デスカ?スゴく強そうな名前ですネ」
「あの怪物は拙者もダンクーガ殿も何度か遭遇しておるが、初めてベヒモスに遭遇した時は、20年前の大戦、アマミヤ皇国とヴァイオレット帝国との『第三次中央戦国大戦』であったな。あの時はまだ全長10mほど、20年立った今では全長30mほどになっておるが、動きは鈍足、倒して暫く立つとどこかへ消え、再び現れ動き出す摩訶不思議な化け物であった」
「あぁ、少しずつ成長するみたいでな。取り巻きも厄介ではあるが、倒せない事は無い。正に帝国らしい置き土産だ」
「ギルド掲示板の護衛依頼に、アマミヤ皇国までの護衛依頼『Bランク以上推奨』って、いつも貼ってありますもんね」
話を聞くたびにみるみる表情が固まるリットに、女性陣は追い討ちを掛ける。
「リット、頑張れ…」
「リットさん、護衛の件ヨロシクお願いしますネ」
「おぉぉ…さ、さんじゅうめーとるーーー!!!」
『無謀な護衛依頼』を頼まれたEランク冒険者リットの悲痛な叫びにオチが着いた処で、今夜は無理やりお開きとなった。
時刻は夜の21時を回った辺り、深雪たちはおねむのアシュリーを見送るため一度宿屋を出る。深雪はアシュリーにバイバイと手を振るが、ウサギと離れたくないとぐずるアシュリーは泣き出してしまう。深雪は仕方なくウサギを一晩だけ貸す約束をすると、アシュリーは泣き止み笑顔を見せた。ダンクーガとアネッサはお礼を言うと娘を抱き抱え、中央の建物へ帰って行った。
(ウサギさんとられちゃった……ぐすん)
「我慢しなさい。……ふぅ、それにしても今日はイロイロあって疲れたわネ」
(うん。転生してすぐにウサギさんと深雪ちゃんに出会って、妖精さんと仲良くなって、そのあとでっかい狼に襲われて、隻影さんに助けられて、すっごく充実した1日が終わろうとしてるよ。あ~、何だか叫んでばかりな1日だったなぁ)
「それもそうネ。フォレストウルフの群れに襲われるのはさすがにハードな体験よネ」
(あれは思い出しただけでもトラウマになりそうだよぉ~。夜に襲われてたらどうなってたのかな?ギラギラした目が光ってもっと怖かったかも?)
雪はぶるぶると震えるように思い出す。その言葉に深雪はふと思う。朝と夜とでは実力はどれくらい違っていたのだろうか?深雪は雪に今の状態を確かめたいと告げると広場へ向かう。
(今から特訓するの?眠くないの?)
(何を言ってるの。ワタシ達は基本夜行性ヨ。自分が吸血鬼なの忘れた?)
(じょ…冗談だよ。忘れてないよ…。い、色んなところを吸っちゃうぞ~)
「忘れてたわネ」
雪の下手くそな演技にハイハイと相づち打ち広場へ向かっていると、レティアたちに出会い声をかけられる。
「あれ、深雪ちゃんどこへ行くん?」
「食後のトレーニングを少しするところデス」
「私、観たい…」
「ウチも観たいわ」
「良いデスヨ。では、広場へ行きまショ」
レティアたちと少し歩き広場へ到着した深雪は辺りを観察するように見回した。目の前はちょうど中央の建物の裏手のようで、うっすらと建物の明かりが広場を照らしている。広場から右に見える奥の建物は厩舎になっている様で、時より馬の鳴き声が聞こえる。中央には池があり、先ほど涼んで座っていたベンチも見えた。周りの確認を済ませた深雪は日傘を取り出すと、基本動作を確かめる。
「まずは傘を使わず左手で…『血の光線』……3m…6m…9m…。朝よりスムーズに出せる」
空に向かって血の光線を放った後、日傘に切り替え石突きから同じ様に空に向かって血の光線を放つ。
次に深雪は日傘をしまうと、両手から血の糸を出す。その糸を巧みに操り近くに落ちている小石を拾う。
「よし、今なら使えそうネ。ふぅ…『血染めの長靴』…どうかしら、素敵でショ?フフフ…」
浴衣の裾を少しだけ捲り上げスキルを唱えると、深雪の白い脚に赤い液体がまとわり着き、まるで真っ赤に染められたブーツが出現した。
(スベスベしたキレイな脚にブーツだなんて、一体どんな事が出来るのかな?ぐへへっ!)
(フフ、このスキルは観てて驚くわヨッ!)
先ほど拾った小石を高く真上に投げた深雪は地面を蹴るとブーツの底から滲み出た血液を踏み台代わりにして再度蹴り上がる。高く上がった小石に追い付いた深雪はブーツを操り赤い刃を出現させると廻し蹴りを放つ。真っ赤な軌道を描いた赤い刃は小石に抵抗なく触れると真ん中から綺麗にスライスされた。確かな手応えを感じ取った深雪はどや顔で地面に着地したのだが、浴衣姿だった為に純白な下着が丸見えになってしまった。
(凄いよー!いま空中蹴ったよね?それにブーツから飛び出した赤い刃、隠しナイフみたいでカッコいい!)
(アリガト。ウルフの時に使えなかったケド、…夜ならスキルが発動できるわネ)
「す、すげえ!……白だ」
(すげえ白?ムッツリットがまた何か言ってるよ)
「はっはーん『すげえ白』は深雪ちゃんの下着のことやねっ!」
「リット、スケベ…」
「ば、ばっか!ちげえよ。石の色だよ!」
「フフ、リットさんもやってみますか?」
「い…いや、オレは…ああいう小技はちょっと…」
「あれ出来んの?この前やったか、大木斬り倒したって言っとったやん」
「リット、ウドの大木…」
「なっ!やっ、やってやろうじゃねえかっ!ちょっと待ってろよ!」
そう言うとリットは走り出し何処かへ消えていった。深雪たちは雑談をしていると、剣を片手に息を切らしながらリットが戻って来た。
「はぁ、はぁ、はぁ……よし!見てろよ。………はっ!(カキンッ!)」
肩に力を入れ、ガチガチになりながら小石を真上に投げたリットは剣を構え抜刀すると、小石は斬れること無く刃にはじかれ明後日の方向へ飛んで行った。
「リット、ナイスショット…」
「リットなにやっとんねん」
「ちょっと待て!もういっかい!」
その後、リットはもういっかいを4回続けたが小石は切れる事はなかった。レティアたちが諦めた表情で見つめると、暗闇から真打ちが登場した。
「小石が飛んできたと思ったらおぬしたちであったか。食後の稽古でござるか、精が出るのぅ」
「隻影様も一緒にどうデスカ?」
「ほう、懐かしい小石斬りでござるか。では拙者も失礼して……(キンッ!)」
「……えっ、見えなかった」
隻影が親指で真上へ弾いた小石は、眼で捉えぬほどの斬撃が刀から放たれると、瞬く間に12個に分かれ隻影の手の平に落ちる。リットとの格の違いを魅せ付けた隻影は、女性陣から黄色い声が上がる。
「きゃー、すごいアカイ様!」
「アカイ様、神業…」
「隻影様素敵デス!」
「はっ!えっ!うぇっ!…どうなってんだこれ?」
「はっはっはっ、まだ拙者も若い者には負けん」
「くっ……くそっ!もういっかい………(カキンッ!)なんでだー!なんで斬れねえんだ!?」
「リット殿、刃の角度がずれておる…が、まずは力み過ぎず自然体を意識する…」
「力が入ってなきゃ斬れないだろ!………くそっ!まただ!」
「リット、助言は聞こう…」
「う、うるせえっ!オレは親父みたいに我流を極めるんだよっ!」
「ほぅ、父の様に?…左様か、では拙者はこれにて失礼」
リットがムキになり助言を拒むと、隻影は笑顔で踵を返し帰って行く。
「リット、意地っ張り…」
「………くそっ!」
「ワタシも失礼しますネ。皆さんおやすみなさい」
「おやすみ、深雪ちゃん!」
「オヤスミ、また明日…」
リットは隻影の後を小走りで追う深雪を横目で見送ると、息を整え集中する。真剣な表情で再び小石を上空に投げ、目線を正面に剣を構え、一点を見つめ抜刀する。
「(キンッ!)手応えありだぜ」
「すごいやん!」
「リット、やれば出来る子…」
「深雪ちゃんがおると集中出来んみたいやね。良いところ魅せようとし過ぎなんよ」
「くっ…なんも言えねえ」
気になる女性の前では空回りする自分の未熟さに痛感し、新たな青春の1頁を刻むリットであった。
そんな出来事には追知らず、隻影に追いついた深雪は後ろから声をかけ、隻影の左腕に手を廻すと胸を当て、おねだりをする様に甘い声を出す。
「隻影様、追い付きましたヨ~」
(深雪ちゃんすっごく大胆!)
「はく…深雪殿、どうされた?」
「先程の神業を拝見して感動いたしました。胸がドキドキしてカラダが疼いてしまって落ち着きません…」
「ごほん!…しょ、それは大変であるな」
「なのでぇ、…今後の護衛の件も兼ねて、今晩御一緒してもよろしいデスカ?」
「……拙者とでごさるか?それは構わぬが、深雪殿も…積極的でござるな」
「フフフ、一緒に睦月へ参りまショ。隻影様」
(み、深雪ちゃん!お姉さんは許しませんよっ!)
(大丈夫、隻影様に限ってまだ無いわヨ。それとも、…お姉さんが不安なら替わる?)
(ぐぬぬぬぬっ…)
唸るお姉さんからの了承を得た深雪は隻影と宿屋睦月へ戻り、女将から鍵を受け取ると二階へ向かう。傍から見れば仲の良いお爺さんと孫に見えるが、まぁ深くは追及しまい。二階へ上がる階段の踊り場には花が活けてあり、宿屋の気遣いが感じられる。ふたりは会話も弾み、奥の突き当たりの部屋『松の間』へ到着する。
隻影は汗で滲んだ手で鍵を開けると深雪を先に入れ、そして辺りを見回した後、ゆっくりと扉を閉め鍵を掛けた。十年ぶりに再会した深雪の姿をまじまじと眺めながらもう一枚の扉を開けると、部屋の中は贅沢な作りになっており、虎が描かれた屏風や、梁には鳳凰を象った欄間がはめ込まれ、高級感を漂わせている。
「わぁ、とても豪華な御部屋ですネ。隻影様、檜の露天風呂がありますヨ。こちらの部屋は…アラ、お布団が敷いてあって枕がふたつ…」
(ガタンッ!)
「あいたたたっ!つ、机に脛を…」
「大丈夫デスカ?そこの椅子に座って休みまショ」
「うむ、かたじけない…」
巨乳ちゃんの肩を貸り、隻影は窓際の椅子に腰掛けると、高鳴る心臓と足の痛みを落ち着かせる。暫くすると痛みも引いていきほっと溜め息を付く。
「隻影様もこういう可愛い所があるのですネ」
「部屋が暗かった故に不覚を取った。深雪殿は夜目がきくのであったな」
「ええ、とても良く見えます…ヨッ!」
復しても不覚を取られ、深雪は隻影の膝に飛び乗ると、頭を隻影の胸に預けそっと眼を瞑る。月明かりに映る幼げな顔が子猫のような甘えた声を出す。その声に隻影の一部が反応してしまい、慌てて静めようと努力するが……
「隻影様から感じる匂い、何だか懐かしくてとても好きです…」
「み、深雪殿!せ、拙者は…その…」
「…あら、何か膨らみが……?」
「いいい、いかん!そ、それは拙者の懐刀でござる!」
「フフ、隻影様の懐刀は大変興味がありマス。拝見してもよろしいデスカ?」
「は…白魔様!それ以上は拙者も…耐えきれぬ!」
(ス、ストップ!!お姉さんは許しませんよっ!でも、ちょっとだけ興味が…ゴクリッ)
隻影の朱色の着物に深雪は小さな手を乗せながらお互いに眼を合わせる。高鳴る胸の鼓動を鳴らしながら深雪は時間をゆっくりとかけ隻影の裾を広げて行く。その光景を隻影は息を荒げ、あの頃とは違う立派になった懐刀を白魔様に拝謁できるのだと歯を食い縛り耐える。
そんないけない濡れ場に突入する!と思いきや、力強いノックが部屋に響くと、何かが壊れた音と同時に扉が開かれ、酒瓶を片手にしたダンクーガが現れる。
「来たぞ隻ッ!……って暗がりで何してんだお前らー!」
ダンクーガが驚きの声をあげる。扉を開けた先には鼻の下を伸ばした隻影と、その膝に乗り、朱色の裾を捲っている少女の姿が映し出されていた。何ともうらやま…センシティブな状況を目撃してしまい、扉の前で立ち尽くしたダンクーガはいちゃこらなふたりと目が合い気まずそうになると、「ぁ~」と呟き頭をポリポリ掻く。
「ダ、ダンクーガ殿!?か、鍵は閉めたはず……。い…いやいや!ちょ、ちょーど良い所にござったな!!」
「……どうやらお邪魔だったようだな、すまねえ…出直すわ」
「か、勘違いでござる!!こ、これはさっきぶつけた脛を深雪殿に看ていただいただけでっ!」
「フフフ、スゴく腫れてましたヨ。今は…落ち着いたみたいですネ」
「へえ…そうか、なら「脛」が落ち着いた所で一杯やるか?」
ニヤけた顔のダンクーガは手にした酒瓶を隻影に見せると、深雪はふたりを座る様に促す。そしてダンクーガから酒瓶を受け取った深雪は慣れた手付きで準備をはじめる。
(ふぅ、ダンクーガさんが来てくれてよかったぁ~。お姉さんほっとしたような、何だか残念なような……)
腫れの治まった隻影はダンクーガへ椅子を勧め、ふたりは向かい合う様に座り直す。それを見た深雪は、行灯に明かりを灯した後、奥の戸棚を開けグラスやつまみになる物を用意する。
「あら、氷が無いわネ」
隣に設置された冷蔵庫を開けるが、氷らしき物が見当たらない。
(ほんとだ~、無いね。このお酒って見た感じ日本酒っぽいけど度数高いのかな?)
「どうかしら、ちょっと味見してみるわネ」
深雪は酒瓶の蓋を開け、自分のグラスに注ぐと、ゆっくりグラスを傾け口に流し込む。口の中はまろやかな味が広がると、仄かに柑橘系を感じさせる。「これはヤバい」深雪は思わず目を閉じた。あまりにも旨さに、深雪は飲み込むのを忘れ、舌に何度も絡み付かせながら至福のひとときを味わう。
(……深雪ちゃん?…おーい。おーーい!)
いつまで立っても反応の無い深雪に、しびれを切らせた雪は大声で叫ぶと、深雪はようやく酒を呑み込む。
「……くっはぁぁぁ~~~」
(やけに長いテイスティングだったね。それで、度数はどんな感じかな?)
「うっまぁぁぁ~~~い!!ナニコレすっごく美味しぃ~んデスケドォー!」
(ねぇ…深雪ちゃん。味じゃなくて度数が知りたいんだけど……って!また呑むんかーい!グラスをおけー!深雪ちゃーーん!)
雪の言葉が聞こえていないのか、深雪はさらにグラスへ酒を注ぐと、躊躇うことなくぐびぐび呷り続ける。
「ハ~~イィィ、おぅ、おうししいぃおしゃけぇぇがぁぁでぇきぃぃまんしたったぁぁぁっ!!」
「………み、深雪殿、どうなされた?」
お盆に乗せたグラスをグラグラ揺らし、ろれつの回らない言葉と千鳥足で、隻影たちのところへ酒を運んできた深雪の姿をふたりは目を細め凝視する。
「…なぁ、深雪ちゃん。……呑んだ?」
「うぇぇ~?じぇんじぇん、まんだぁぁのおぉんでないんでぃすよぉぉオオオ!!」
「はぁんはぁん」と喘ぎ声を出しながら身体をふにゃふにゃさせ、深雪は何とかお盆を机に置こうとするが、距離感が上手く定まらず苦戦する。
「おいおい深雪ちゃん、酒が溢れそうだからお盆渡してくれ」
「だいだいじょうぶでっしゅ~ぅぅぅ。ふぉん!ふぉ~ん!」
ふらつき転びそうになりながらも、お盆を何とか机に置くと、深雪は「うおっし!」と何処かの現場猫を思わせるポーズを取る。
「ほいよ、じゃあ頂くか」
「かたじけない。では、ダンクーガ殿」
「おう、10年振りの再開に『乾杯』」
「ちんちーーーん!!」
深雪の盛大な声と共にグラスを傾け酒を呷る。度数の高い酒が口に流れ、悪戯に舌を痺れさせると、喉を通り潤した先は鼻から柑橘系の匂いが溢れだした。
「これはっ!30年物の『鬼人の酒』ではないか。これ程の酒をおぬしは何処で……」
「ちょっと伝があってな。旨いだろ。独特のクセがあるが、それがまたいい」
「うむ、旨い!深雪殿の酒の作り方も絶妙でござるな。特に、このグラスに入った白い雪玉が口当たりを良くしておる」
「ほっほぉぉ~。……隻もゆうようにぃなったわネェェ~」
「はっはっはっ…………ん?」
「…おい、いま隻って言わなかったか?」
「どうしたのかにゃあぁぁ~、ダァン?…ひっく!」
(ちょっと深雪ちゃん!浴衣が乱れてるって!…き、聞いてない!?もうかなりベロンベロンになってるよ。…私も呑みたいのにぃ~)
ダンクーガと隻影は鬼人の酒を口に含みながら顔を見合わせると、深雪の方へそっと振り向く。そこには、顔を鬼の様に真っ赤にさせ、小さくなった浴衣をだらりと乱れさせた大人の女性が横たわっていた。
「ナニよぉ~、ふたりしてぇ~ワタシを見てぇ~……ふぅ、あっついわぁ~」
「ぶはっ!×2」
いきなり浴衣をはだけ、『巨乳』を剥き出しにする深雪の前に、ふたりは思わず酒を吹き出してしまう。貴重な酒が女性に振り掛かり、白い肌をキラキラと濡らす。
「うわっ、ぷぷっ!!ナニするのよぉ~…この悪ガキどもぉ~、高い酒を無駄にしてぇ~…まったくぅ~」
「し、失礼しました!白魔様!!×2」
「この悪ガキどもぉ~、ばちゅとしてワタシのカラダをありゃえ!こんのぉたわけどもめっ!」
「はっ!ははぁっ!×2」
なぜか大人の姿になった深雪の言葉がふたりの染み付いた感覚が反射的に反応すると、椅子から転げ落ちる様に思わず土下座をする。顔を青くしたふたりは目を合わせ、一体何が起こったのか思考を巡らせていると、深雪がいきなり喘ぎ出した。
「あんっ!んっ!ああんっ!お…お腹が…スゴく…熱い!燃えるよう…じゃッ!セキィ、ダァン、はやく…何とかしなさいっ!」
「はっ!では、失礼して……雪玉をお腹に当てますぞっ!御免!」
急に悶えた深雪は、お腹を押さえ畳の上で暴れる。ダンクーガは暴れる深雪を押さえると、隻影は浴衣を捲りお腹を露にさせる。そして手にした雪玉を腹部に当てようとするが、ダンクーガの声に呼び止められる。
「待て、…なんだよこの紋章は、かなりヤバいぞ……」
「これは、制約の紋章でござるな。悪魔が使う呪いだが、吸血鬼の紋章に合わさる様に書いた様だ。だが作りが粗い。一体どこでこのような呪いにかけられたのだ」
深雪のへその下に描かれた紋章は、吸血鬼の紋章に合わさる様に妖しく紫色に光り続ける。
「おそらくこれが白魔様の記憶を阻害しているに違いないが、おぬしの技で祓えぬのか?」
「呪いは専門外なんだよ!くそッ!どうすりゃいいんだっ!」
「セキィ、ナニをしてるのぉ?お腹が…はやくぅ…苦しい……ああんっ!」
汗ばみながら乳房を揺らし、苦しみに喘ぐ深雪の声が部屋中に木霊する。外から聞けばけしからん行為をしていると思われても不思議ではないが、今はそんな些細なことを気にしている場合ではない。
眉間にシワを寄せ焦るふたりに追い討ちをかけるかの様に、部屋の扉がスーッと開く。そして空間が陽炎の様に僅かに揺れると、怪しげな声が部屋に響く。
「あぁ、ようやく。ようやく見つけたぞ我が姫君。まったくニンゲンどもめ!許さんぞ!」
「なっ…何奴!」
「おいおい、こいつはやべえぞ。悪魔様のお出ましだ……」
暗闇から業を煮やし現れたのは、頭に黒い角を2本生やし、肌は灰色、黒髪のオールバックに瞳を閉じた姿の優男であった。
「我の姫君をその様な姿にさせ何を遊んでいる!その汚い手を今すぐどけろっ!」
「角が2本、…子爵級かよ。俺なら3秒ありゃ余裕だけどよ。…お前はどうする?」
「今の拙者なら25秒…いや、20秒あれば十分でござるよ」
「下等種族の分際でさっきから何をブツブツ喚いている!我の言葉が聞こえんの……ゴハッ!」
怒りを露にする子爵級悪魔が、ふたりに向かって魔法を放とうとした瞬間。今まで立っていた自分の身体がうつぶせで床にバウンドすると、後頭部を強打されたのか、ズキッと痛みが襲う。
「ぬぁっ!…な、なんだ?」
かっこ良く閉じていた真っ黒な目を見開きようやく気づいた悪魔は、さらに頭と右腕を激しい力で床に押さえ付けられた状態になっていた。悪魔は力を込め振りほどこうとするが、まるで万力でガッチリと絞められたような恐ろしい力が身体を押さえつけていた。自分の身に何が起こっているのか分からず、頭が混乱した悪魔は焦り、思わず言葉が砕ける。
「おいっ、…痛えぞ!何でオレがこんな風になってんだ!?ニンゲンは弱いって言ってたのに、あいつらの話と違うじゃねえか!」
「へえ、あいつらって誰だよ。良かったらお兄さん達に詳しく教えてくれよ。なぁ、若いの!」
「それに、おぬしはひとつ勘違いをしておる」
初老の男に低い口調で指摘された若い悪魔は思わず吃る。
「な…なんだよ。勘違いって…言ってみろよ。この劣等種がっ!」
「先程、おぬしは白魔様を『我の姫君』と申したな」
「ああんっ!セキィ~、はやくぅ~。も、…もう…ダメェ~」
甘い声を響かせる深雪の様子を、隻影は紅い瞳を燃やしながら、そっと見つめた後、深雪への思いを語る。
「いいか、良く聞け。このお方はな、本来ならばおぬしのような鼻垂れ小僧が気安く会うことも触れる事も出来ぬ、高位なお方なのだ。だが、自身が高位である事など気に留めず、周りの者を蔑む事なく平等に接する心の優しいお方だ。そして、その優しさに漬け込む輩がたまにおる。…拙者はのぅ、そう言った輩を長年屠ってきた」
ゆっくりとした口調でそう述べると、隻影はいつの間にか取り出した刀を悪魔の鼻先に向け、覇気のある声を轟かせる。
「我が命が尽きるまで、この使命は変わらぬ。たとえ四肢がもげようが、心の臓を貫かれようが、拙者の『思い人』は死んでも誰にも渡さぬ!」
「ひゅー。いや、暑いねえ。隻の燃えるような愛の告白が聞けて良かったなぁ若いの!この話の続きは俺の拷問部屋で、ふたりっきりで話そうな。寝かせねえから…よっ!」
「ホゲッ!!」
隻影の燃えるような紅い瞳に睨まれた悪魔は、恐怖でガチガチと震え上がる。それを笑顔で見下ろすダンクーガは握り拳を作り、悪魔の後頭部へそれを振り下ろすと、鈍い音を響かせ衝撃を与えた。だが、その威力は想定よりも凄まじく、悪魔の頭が畳にめり込むと床が抜け、激しい音と共に、先程まで夕食を食べていた一階の座敷へ崩落する。
「やっべ、やっちまった。蓮と恋にどやされる。……よし、こいつのせいにするかっ!」
「まったくおぬしは戦闘面では脳筋過ぎる。白魔様が落ちてしまったではないかっ!」
「あんっ!セキィ~、痛いよ~。……もっとやさしくしてぇ~」
ダンクーガを叱責すると、隻影は一階へ素早く降りると、何食わぬ顔で深雪を優しく抱き抱え、踵を返し風呂場へ向かおうとする。
「拙者は白魔様を介抱する故、これにて御免!」
「はあ?てめえ、美味しいトコだけ持ち逃げするんじゃねっ!ほら、離せって」
「よさぬか!おぬしが白魔様の柔肌を洗えるわけが……」
ダンクーガの伸ばした腕を隻影は払い退け、どちらが白魔様を洗うか言い争いをしていると、激しい音を聞き付けた店の夫婦と部下達が大声を上げながら駆け付ける。酒に濡れ、喘ぐ半裸な女性を奪い合うふたりを発見すると、周りは一気に白い眼を向ける。隻影とダンクーガは言い訳をしながら顔の潰れた子爵級悪魔を持ち上げ、『全部こいつがヤりました』と指を差しながら全ての罪を擦り付けた。
何とか社会的抹殺を免れたふたりは、悪魔の襲撃があった事を強調するとハンターズヴィレッジに厳戒態勢が敷かれ、皆は眠れぬ夜を過ごすのであった。
オリンピックが始まり、テレビを視ながら虫歯に苦しむ水無月カオルです。
今回も、リットがヤらかしてくれましたね。
ミユキの事が気になって空回りする姿が想像出来て、実に面白いデス。やれば出来る子なんですけどね。皆さんも気になったキャラが居ましたら、応援して頂けると幸いです。
では、また次回お会いしましょう