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指揮者のいない音楽会
正午の星を数える仕事を終えて、家の前。玄関を塞いでいるピアノを見つけた。
「そこは僕の家なのだけれど」
返事はない。寝ているらしい。
少し苛ついたから鍵盤を強く叩く。もちろん、不協和音で。
飛び上がったピアノは、僕が睨んでいるのに気付くと、そそくさと脇にずれた。いや、そこも我が家の庭なのだけれどと思いながらも、疲れていたからそのまま帰宅した。
居間のソファーにはヴァイオリンが二つ並んで眠っていて、今度は僕は、声もかけずに窓から彼らを投げた。
キッチンにはフルートとトランペットが、浴室にはホルンとピッコロ、寝室にはティンパニとヴィオラとチェロとコントラバスが重なって僕のベッドを占拠していて。
すべてを投げ捨て布団にこもると、丑三つ時になった途端に庭からオーケストラが聞こえてきて。
それもワーグナーのニーベルングの指環であるから、どうやら僕は明日も明後日も明明後日もコレに悩まされるらしいと、ため息をつきながら眠りにつくのだった。