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悪い夢であってくれ
「言葉にするに恐ろしい怪物が居るよ」
気の触れてしまった友人が僕に言う。
「三角の胴体に首と頭の区別なく、大きな目玉の怪物が居るよ」
気の触れてしまった友人が僕に言う。
「口には牙を揃えて、手足は細い怪物が居るよ」
気の触れてしまった友人が僕に言う。
「その怪物に捕まると頭からかじられて、ガリガリ、ガリガリと咀嚼されてしまうよ」
気の触れてしまった友人が僕に言う。
「でも足首から先は決して食べないんだ」
気の触れてしまった友人が僕に言う。
僕は聞きたくなくて、耳を塞いでいたのだけれど、彼の言葉は粘ついて耳から離れない。
数日後、彼が足首から先だけを残して死んだと聞かされた。
それでも僕は信じない。
信じてしまえば、認めてしまうことになってしまうから。
電灯の下、僕の部屋をじっと見つめる、三角形の怪物を。