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テナント / 役所通り
テナント
空気に包まれて
音に囲まれて
視線に出会いながら
生きているのに
僕を抱く腕だけがない
身近なものではあきたらず
急いで掴んだ手に
小麦粉が塗してあったなんて
よくあること
年々猫背がひどくなる
名刺みたいな言葉を交わす
のぞむ温度はわかっているのに
乾いたレンズは
確かな像を結ばない
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役所通り
不似合いな瞼と唇で
季節に霞むビルに向かっている
ちぐはぐに見えるのは
彼女が戦闘モードでないから
職場ではきっとなんの違和感もない
肉食なのも
草食なのも
確かにその人で
どちらが本当などと
わけることはできないけれど
即かず離れず
彼女と同じ通りを行きながら
いまの僕には確かに不似合いな
ネクタイを軽く締め直した




