第5話 〜カルイル〜
「お前達は自分を強いと思ってるか?」
「まあ……それなりには?」
「わわ、私は……あ、あんまり……」
「僕も強いとは思ってはないです」
「だからだ。だから、お前達は未だに、私達騎士団の強さを分かっていないだろう。だから私が手合わせをしてやる」
「ここでですか?」
「ああ、ここだ」
俺達が連れてこられたのはお城の訓練所だと思われる所。それはいいのだが、俺とこいつらが何を戸惑っているかって———
「「「「「「はっ! はっ! はっ! はっ!」」」」」」
全員が気持ち悪い程に一挙一動狂わずにカカシを叩いて現役騎士達が訓練しているということだ。
「この時間は第4騎士団の騎士達が訓練をしているからな。まあ気にするな。第7騎士団は数が圧倒的に少ないからいつ使ってもいいんだ」
「……それはいいけどよ」
「本当に……やるんですか?」
「当たり前だろ?」
団長は俺達から距離を離れ、体を伸ばし始めた。
「……3人で纏めて来てもいいし、1人1人でも来ていいぞ。初日だから制限時間は1時間だ。さあ……来い」
第4騎士団の騎士達の前で団長を相手する。どう考えても団長に勝てる訳が無い。
ジェンソンにすら勝てない俺が、どうやって団長に勝つんだよ。第4騎士団の騎士達が見られる中で第7騎士団の団長の強さを示し、俺達の醜態を晒される。
けど……
「そう、舐められると腹が立つな!」
パンはゴブリンを倒したように地面の摩擦なしに団長、カルイルに斬り掛かる。
————ガァンッッッッッッッッッッ!
パンが変形させた大剣をカルイルは”拳”で跳ね返す。パンは跳ね返された衝撃によりカルイルと距離を置くことを余儀なくされた。
「もっと本気でこい。 殺す気で来ないと私は殺せないぞ」
「俺の諸刃の攻撃を意図も簡単に……おい! アクイルとザイザル! 本気で行くぞ!」
「……わ、分かった!」
「分かりましたよ」
アクイル、ザイザルはカルイルへに向かって走り出す。最初にカルイルへと剣を振ったのはザイザル。
彼の剣は特徴のない長剣。
「お前は相手の隙をつくのが得意だな。だが、強者と戦ってこなかったから太刀筋が見え見えだ」
カルイルはまたもやパンの攻撃を跳ね返したように、ザイザルの必中にも見えた攻撃を拳で跳ね返し、ザイザルのお腹に拳を入れる。「かはっっっ!?」っと言う声と、ザイザルの口から飛び出た血がカルイルの拳の威力を物語っている。
「…………アクイルは体の力の入れ方が見事だ。職業は【軽戦車】だったか?」
————スッッッッッッッッッッッッッッッ!
後方から迫ってきたアクイルの”細剣”の突きを右方向へ1歩移動し軽々と避けた。
足音も剣の音も最小限に抑え、殺す気でかかったのに、アクイルの突きは誰よりも早いはずなのに——
簡単に避けられてしまう。
「アクイルの突きは素晴らしいが、いかせん単純過ぎる」
カルイルは突きを避け、ある程度の時間アクイルが動けない時間にアクイルの顔を——
躊躇なく殴りアクイルは脳が大きく揺れ、地面に膝を着く。女だろうと関係がなく、いっそう清々しいほどにどんどんとやれて行く。
騎士なのに剣を抜かず、拳だけで。
「…………本気を出すか」
パンはベルトポーチ手を突っ込み、ビードサイズの赤い小さい球体を持ち出し———
「……剣が燃え出した……だと?」
パンが赤い小さい球体を短剣へと大きさを変えた剣の、不自然に空いている3つの穴の1つ嵌め込んだ。
すると剣が燃えだし、熱風が当たりを包み込む。魔法剣士でなければあんなことは出来ないのだが。これが不可能を錬金術師なのだろう。
「うはははは! ちょっとどっか行ってたらちょーーー面白いことしてんじゃん! はいはーーーい! 皆、カカシ打ちやめてー!」
「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」
「カルイルが戦うところも滅多に見れないし、あの錬金術師の男……面白いじゃん」
第4騎士団 団長のワマイが団員達のカカシ打ちを止め、パンとカルイルの一騎打ちに目を惹かれた。
「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
パンが先程のように超高速で移動し、カルイルに剣を振りかざす。
「3度見た攻撃などおそるるに足らず」
————ガァンッッッッッッッッッッッッッッッ!
またもやカルイルは拳で無傷で、パンの剣を弾いた。パンは微笑を零し、カルイルに敬意を示す。
こんなにも強い奴とは思わなかったと。
だが、もう遅い。この炎の剣に———
当たった奴は爆発する。
「おっほーーー! あいつすげーなっ!」
ドォン! っという爆音が訓練場に響き渡り、パンは錬金術で創った特殊な防具で爆発には無傷。
対してカルイルは——
「ゴホッゴホッ……不覚にもスキルを使ってしまった」
「……無傷ってありかよ?」
爆煙の中から現れた全くもって無傷のカルイルにパン笑うしか無い。ジェンソンに1回試したことはあったが、ジェンソンはダメージを負っていた。
これが団長クラスの強者。これがこの国とシルフィード達に対抗する最強クラスなのかと。
「お前達がそこそこ強いのは分かった。今日はもうここで止めよう。そして、パン。悪かった」
カルイルはパンに近づき、”腕を折った”ことを謝る。あの瞬間に無傷で終えながらもパンの腕を折る。
圧倒的に理不尽な強さだ。
◇◇◇◇◇
「カルカル〜」
「ワマイか。どうした」
カルイルが3人を病棟に送り、自分の部屋へ帰る時、第4騎士団 団長のワマイがカルイルに近寄る。
「カルカルってあんなに厳しかったっけ? 初心者にはとことん優しいのに〜」
「あいつらには熱い何かを感じたからな」
「うわっ、かっくいいこと言う〜」
カルイルに肘をグイグイっと押し付るワマイに、カルイルはウザそうに肘を払った。
「まーそれは前置きなんだけど。もうすぐだね〜、ゴブリン・ロードの討伐」
「ああ、そうだな」
「今度は……誰も死なないといいね」
「無理だろうな。必ずだが……あの3人の誰かは死ぬ」
「僕ちんは死なないからさ。そんの悲しい目しないでよ」
「…………これは俺だけが背負っていかないといけないことだ」
「あっそ。それを俺にも背負わせてくれたらな……」
「何か言ったか?」
「ううん! 何も言ってないよ」