第4話 〜団長〜
「誰が……行くんだよ。こんな厳しい試験だと知らなかったぞ」
「ああ……どうすんだよ」
何千人と集まった男や女達が喚き散らしている。馬鹿なもんだよな。ゴブリン・ロードの分身体を倒さなきゃ、誰もシルフィードを倒せねぇよ。
「貴様が最初の試験者か」
誰もビビって行かないんだったら俺が行ってやる。格の違いを見せつけてやるわ。
「ああ。よろしくお願いします」
「その度胸を認めるが……。貴様職業は?」
「錬金術師だ」
————ザワザワザワッッッッッ!
はい、これが普通の反応な。錬金術師がなんで騎士試験受けてんだって笑われるし、馬鹿にされる。
「…………錬金術師か。期待はしないが、まあ頑張ることだな」
俺は決戦場に上がり、ゴブリンと対峙するがゴブリンは何かに縛られているように苦しそうに体を拘束されてる。
開戦と同時に拘束が解放され、俺に襲い掛かってくるのは明確。ならば——
「では、初め!」
————瞬間
ゴブリンはパンに首を斬られる。
ざわめきが会場内を包み込む。
何が起こったかはパンしか分からない。
パンが履いている靴。これは体を1ミリ浮かせることが出来るパンが錬金術で創った装備【浮遊の靴】。
パンは開始直前に大きく踏み出し、直ぐに体を浮かせた。
摩擦という抵抗が無くなったパンは高速に移動し、何処からか出した大剣によってゴブリンの首が飛ぶ。
この大剣はパンが創った、大きさや重さを自由自在に変えられる剣【千変万化の剣】である。
【浮遊の靴】【千変万化の剣】によりゴブリンは死に至った。
「合格だ。次!」
試験を見ていた人があんなにも怯え、倒せないと畏怖していた存在をたった一振。パンが屋敷の執事から鍛えられ、アオと肩を並べるぐらいに努力した証が証明された。
周りは才能だといい、パンは努力だという。
それを気にしない人が試験官の彼女であり、この会場に居る強者達だ。
「へえ〜アイツ面白いじゃん。誰が引き取る?」
「…………私は嫌。偉そうな奴嫌いなの」
「あはははは! ルビちん、そういう所あるよね〜」
「がははははは! 俺も嫌だなあんな奴! 取りたくもねぇわ!」
試験場を城から眺めている7人の男女
誰がどう見ても彼ら7人は最強だと感じさせる。
「皆そんなにあの男が嫌い? 私は可愛くていいと思うのだけれども」
「うわ〜完全に目付けられてんじゃん。あいつ喰われたな」
「あら、私はそんな女じゃないわよ。……なんなら私はワー君もたべたいもの」
「そりゃあ遠慮するわ。マリンさんに食べられたらもう終わりですもん」
「きゃはははは! それはいえる〜!」
個性が強すぎる7人の中で2人だけ無言で、パンを見つめる人がいた。
「あははは〜、皆個性が強くて……困っちゃうね」
騎士試験は合格者からここ7人が話し合いどの団に入れるか決めるのだが、パンに目をつけたのは多数。それほど鍛えがいがあり、面白うそうだからだ。
ここから話し合いが始まると思った時———
1人の男の発言により場は静まり返った。
「私が取る」
小さき男性は無口であり、第7騎士団団長。
誰よりも計算高く誰よりもこの国を思い、誰よりもモンスターを憎く思っている人物。
「カルカルが言うなら、あいつはカルカルのもんだな」
「「「「「そうね(そうだね)(そうだな)」」」」」
今、パンの行き先が決まった。
毎年、どの団よりも死亡者が多い——
第7騎士団だ。
◇◇◇◇◇
結果的にゴブリンを倒した人は約500人
思ったより少なかったな。ってか思ったよりゴブリンが弱かったってもんもある。ゴブリン・ロードのゴブリンって言われたら萎縮するのが当たり前だ。
試験で異彩を放ったのはもちろん俺、あの俺に付いてきた女、眼鏡の男、筋肉モリモリの男、金髪のかっこいい男、紫色の髪の女。
5人が一振でゴブリンを殺し、他の試験を受けた人はギリギリで勝った人や、一振じゃなくても余裕で倒す人。最初のあのざわめきは何だっただよとか思っていたら———
————ツンツンッッッッッ
「あ? なんだ……お前か」
「……さっきはありがとうござひました」
「うん。分かったから……もう付いてくんなよ?」
「……わ、わ分かりました」
「あの〜、2人でイチャついてる所申し訳ないんですが……なんで私達3人だけで……第7騎士団 団長の前にいるんですかね?」
今俺に話しかけたのはザイザル・マーフォン。金髪の髪に、丸渕の眼鏡のかっくいい奴だ。俺とアクイル、ザイザルは一振でゴブリンを倒し、その功績が認められ第7騎士団 団長の部屋にいる。
「それは俺も聞きたい。俺の配属先が第7騎士団は別にいいが団長が俺達を見つめてからもう1時間経ってるな」
「…………パンさんとアクイルさんでしたっけ? なんでそんなにこの状況を受け入れてるんですか?」
「……面白いから?」
「……これが普通なのかなって…………」
「いやどう考えても普通じゃないし、面白くないでしょ!? しかも私、第7騎士団入っちゃった!? 死の騎士団だよ! 死にたくねぇよ!」
「そうだ。私の騎士団は死の騎士団と言われている」
「いやいやいや!? 死の騎士団がトリガーだったの!? それ言わなかったらどうなってだんだよ!?」
「無言を貫き通していたが?」
「あ、頭イカれてる人だ」
水色の短髪と水色の目。ダボダボの水色騎士団長の証の服を着て、150センチにも満たない目の前の人物。
彼が第7騎士団の団長と分かるのは団長の証の服だけだろう。
「私の団は本当に人が死ぬ。団員はここには居ない副団長、もう1人の団員と私だけだで、この団に所属した5000人の命は全員消えた」
「ひえええぇ!? そんなに死んだんですか!?」
「ああ、死ぬ。私以外は必ず死ぬ。だから言う、お前達も必ず死ぬだろう」
「まっそれがどうしたって話だけどな」
パンは堂々と団長の顔を見てそう放った。本だらけのこの部屋、窓から夕日の光が差し込み、ホコリが回りを飛んでいるだけの部屋。
ならばパンの顔は団長にはハッキリ見えただろう。
自信満々のその顔を
「そうやって言って死んでった奴は山ほどいた。だから聞く……お前らは死ぬ気で生きてくれるか?」
「当たり前だろ。死ぬ気なんて程々もねぇわ」
「私もないですね」
「わたひも!」
「ならばいいだろう。お前たちの今言った言葉を忘れるな! …………付いてこい……地獄を見せてやる」