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これは、多少は実情に基づく物語である

筆者はマジでウーバーイーツを少したしなむ者です。

その実情を元にしつつ、少し笑えて、それでいてファンタジックに仕上がればいいなあと思います。

専門用語が出てきますが、最後に開設を付けているので、タブを二つ開いて読んでもらえればいいkなあと思います。


「では今日一日の労働に、乾杯」

「乾杯」


 俺はジョッキに入ったビールをグイッと飲み干す。

 週に一回、友人の中川と日高屋でやる飲み会は、俺の人生で最高の楽しみである。


「おいおい、一口で開けるのかい?」

「当然だ。こう言うのは一気に飲まないとな。店員さん、もう一杯同じのを!」


 早速注文する俺に、中川が呆れたような目で見てくる。


「君、金を貯めたいんだろう? こういう所で少しぐらい節約しておいた方がいいんじゃないの?」

「バカ言え、酒ってのは燃料なんだよ。これがねえとそもそも仕事も出来ないんだよ」


 そう言って俺は、おつまみの枝豆を一つ食べる。


「で、梶は今週いくら稼いだんだい?」

「まあクエスト(*1)込みで6万ぐらいか。だがまあ、俺は明日明後日もやるからもう少し増えるな」

「へえ。じゃあ今週も休みなし? よくやるね」

「少しでもお袋に楽をさせたいからなあ」


 父親を亡くしてから10数年。お袋は俺を女手一つで育ててくれた。これからは俺がその恩を返していかなければいけない時だ。


「それならウーバー辞めてもう少し真面な職に就けばいいのに」

「余計なお世話だ。というかな、休みなしで働けばウーバーの方が大抵の会社より稼げるんだよ」

「そうなのかな……?」


 首を傾げる中川に、俺も反撃のつもりで言ってやる。


「偉そうに言うが中川。お前は今週の稼ぎは」

「クエスト込みで2万前後かな。勿論土日は働かないよ」


「お前、それで生活成り立つのか?」

「前にも言ったでしょ。僕はまだ失業保険を貰ってるから週の労働時間を20時間以内にしてるの」

「何だお前、何かズルいな」

「ズルくないよ。雇用保険を1年以上払った者の権利だよ。君だって前の会社をあんなに早く辞めなければよかったのに」

「しょうがねえだろ。月50時間も残業あんのに一円も払われないんだから」

「まあね。そうなると就職する前の自分の見る目の無さを恨むしかないね」


 そこを突かれると弱い。俺は無理にでも話題を変えることにする。


「で、お前もウーバー慣れて来たか?」

「まあね」


 失業中のこいつにウーバーを勧めたのは俺だ。少し位は相談に乗ってやるのも筋だろう。


「でも、あれだね。鳴らない(*2)時は本当に鳴らないから少し焦るよね」

「そうか。お前品川でやってるんだっけ?」

「うん」

「だからじゃねえか? 渋谷の方なら凄い鳴るぞ」

「わざわざそこに移動する時間が無駄だよ」

「それだけじゃないぞ。渋谷なら染み(*3)が付くことがある」

「品川だってつくことはあるよ。それに、品川の人の方がチップ(*4)くれやすいと思う」

「それはお前の偏見だよ……」


 中川は納得いってないみたいだった。


「大体さ。数珠があった時には何処でやる、とかそう言う問題じゃ無くない?」

「それは確かに。でもまあ、俺はちょくちょくオフラインにして渋谷に帰ってるぞ」

「それも効率がいいのか悪いのかわからないね」

「だがあまりにも渋谷から離れると帰るのが面倒だからな」


 そこで店員が新しいビールを持ってきた。俺は早速一口飲んで、喉を潤す。


「で、お前就職はするつもりか?」

「勿論だよ。失業保険が切れる頃には見つけて、ウーバーもやめるつもり」

「もったいねえなー。ダイヤ(*6)になれば美味しい特典もあるのに」

「それより僕は社会保障が欲しいんだよ。梶こそ、いつまでも出来るものじゃないんだから、しっかり次を考えた方がいいよ」

「そうはいってもなあ。今より稼げる仕事があるのかどうか……」


 就職すべきか、このまま一配達員として仕事を続けるのか。幾度も考えては見たが、未だに答えの出ない問題ではあった。


*************************************


 中川と日高屋で飲んだ翌日。俺は宣言通り、ウーバーの仕事に向かっていた。

 今は新宿から渋谷に自転車で走っている最中である。

 多摩市に住んでいる俺は、電車で新宿に行ってから渋谷にわざわざ走っている。電車代と駐輪場の代金がもったいない気もするが、多摩では注文も少ないうえにインセンティブ(*7)も付かないのでトータルでは得……のはず。

 その渋谷に向かう途中、新宿~代々木間を走っている俺は、少し気分が良かった。今日は土曜日なので人通りが少なく、いつもより自転車の速度を出せていた。

 

 しかし、それが良くなかったのか。

 毎日10時間以上も自転車をこぐという生活。昨日酒を大量に摂取したと言う体調。整備をあまりしていない自転車。それ全てが重なって、不運は起こる。


 最初は小さな違和感だった。

 ブレーキを掛けようとした時、少しだけ利きが悪かった。本来ならそこで自転車屋に持って行って整備してもらうべきなのだが、仕事を休みたくない一心でそれをしなかった。

 そして、その問題は再作のタイミングで表出した。

 JR東京総合病院の横。中々渡れない踏切がある場所。

 いつも通り踏切が下りていたので、俺はその直前で止まろうとした、

 しかしブレーキの利きが鈍く、思うように速度が落ちない。

「待て、待て、危ないぞ!」

 そこに至って、ようやく俺は自分の身に迫った危険を感じた。

 このまま踏切に突っ込むぐらいなら、自転車ごと横にぶっ倒れた方がまだ安全だ。

 しかし、判断が遅かった。

 俺は自らバランスを崩して倒れて、強引に自転車を止めた。しかし、タイミングが最悪だ。何と俺は踏切の中でぶっ倒れてしまったのだ。

 もうこうなったら自転車を捨てても逃げるしかない。咄嗟にそう考えて立ち上がったのだ、もう遅い。

 眼前に、電車が迫っていた。


*************************************


*1 ウーバーイーツから与えられる指令の様な物。何軒配達したらいくらと言う様にボーナスがでる。最近は複数のクエストの中から選択式になった。

*2 鳴ると言うのは注文が入ること。ウーバーは時給制では無いので、注文が無いと一銭にもならない。

*3 追加でボーナスが支払われるエリアの事。飯時の都心部に出やすいが、絶対では無い。

*4 文字通りの意味。お客様の善意で配達員に払われる特別報酬。

*5 注文が連続で入ること。本当に数珠つなぎに注文が入る時は、新宿で初めて気付いたら品川にいることもざら。

*6 配達員の、配達件数(厳密にはポイント)に応じたランクの事。ダイヤは最高ランク。

*7 ピーク時に報酬に掛かる倍率のこと。金額が固定で決まっている染みとは違い、倍率なので報酬が高いほど金額が増える。


面白かったらブックマークと評価お願いします。面白くなくても、その評価を頂ければ幸いです。

それをもらえるだけで筆者のモチベーションと言うのはマジで変わります。よろしくお願いします。

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