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9.管理棟巡り

いつもお読み頂きありがとうございます。


今回はいつもよりも気持ち長めです。


どうぞお楽しみに下さい!

このサザノス管理棟はエントランスホールを中心に大きく2つの棟に分かれていて、右の棟が鉱山管理事業を行う棟、左が鉱山業務に従事する幹部の居住棟となっている。

2つの棟はぐるりと四角を描くように繋がっており、エントランスのちょうど真裏には鉱山へ繋がっている渡り廊下への扉があった。


私達がまず通されていたのは事業棟の応接室。

今はこの棟内をディノンに先導されて歩いている。

エントランスから応接室までの廊下には赤地に金のラインで縁取りされたカーペットが敷かれていたが、応接室を抜けるとカーペットはなくなり剥き出しの床になっていて、歩くとカツカツと音が響いた。

鉱山へ出入りする為、汚れが多く着くのだろう。

華美な装飾を必要としない事務作業に適した棟内だった。


「こちらが会議室になります。ここでは毎日オーガン様が鉱夫の代表や技術士を集めてその日の作業行程の確認や前日の進捗状況の報告を受けたりしています」


会議室は20畳程の広さがあり、部屋の中央には無垢材の大きなテーブルセットが置かれ、隅にはこちらも無垢材の本棚と戸棚が置かれているだけのシンプルな部屋だった。

ただ置かれている家具は飴色に経年美化していて、それがかえって落ち着く雰囲気を醸し出していた。


「味わいある素敵な家具ね」


私は本棚に寄って手触りを確かめる様にスッと撫でる。


…ふむ、怪しそうな本はない。

人目の付く場所なんだから当たり前といっては当たり前なのだが。

こうなんかないかなー、オーガンの執務室とか?

見たいなぁー、見させてくれるかなー?


いきなり”執務室を見せて下さい!”と言うのは怪しすぎるだろう。

私は逸る気持ちを抑えながら大人しくディノンの案内について行く。

続いて案内されたのは資料室だ。

この部屋は圧巻だった。

サザノスで採掘される鉱石、宝石、魔石が全種類展示してあったのだ。


先程の会議室とほとんど変わらないスペースに私の背よりも高い5段のラックが敷き詰められていて、各ラックにはガラスケースに保管されている物から木箱に雑多に入れられている物まで、ギッチリと石が詰められている。

これが全部鉱石だなんてと私は驚愕した。


「これはすごいですね」


私の後ろに控えているセドリックも思わず感嘆の声をあげるほどだ。


「ここには種類もですが、サイズや色味違い、また、採掘された深度によっても分けてあります。売り物ではありませんが、かなりの価値がある物も多いです」


ミリアもゾルディクスもなんだかんだ興味深そうに飾られている鉱石達を眺めている。

私は後でハリオットを是非連れてきてあげたいなと思いつつも、離れたくないとごねるのも想像出来て何とも言えない表情になってしまった。


ふと棚の奥に扉が見えたのでディノンに尋ねる。


「あちらの部屋はこれまでの採掘履歴や鉱山内の詳しい見取り図などが置かれいる部屋です。ご覧になられますか?」

「ええ、是非!」


扉を開けて入ってみると、そこはミニ図書室のような部屋だった。

本棚にはファイリングされた資料や本がびっちり入っていて、それらを閲覧する為の机も置いてあった。

ディノンは何冊か手に取ると机にそれらを広げて軽く説明をする。


「こちらが鉱夫の責任者が毎日付けている日報です。こちらに日付、採掘階層、採掘スポットなど作業に関する事が細かく記されております」


私は食い入るようにその資料に書かれていることを読んだ。

従事した人数、採掘方法、採掘の実績など本当に細かなところまで書き込んである。

こう見ると本当にしっかりと管理されているのがわかるし、こんなに大人数が関わっていてどうやって不正が出来るのかわからなかった。


「この資料はとても興味深いわね。素晴らしいわ」


見たい!これはじっくり見たいぞ!!


「そうですね。ファンドール家にも日報はありますがここまで丁寧に書かれてはいません。宜しければ参考のために数冊お借りしたいものです」


はい、またナイスパス出すんだから!

セドリックったら!


「あら、セドリックも気に入ったのね。あなたも使用人を束ねる立場だもの。部下の教育に役立ちそうなのはわかるわ」


ここでもジーーーーーっとディノンを見つめる。


「いえ、資料ですし。持ち出しは厳しいかと」

「数冊で良いのよ。すぐに返すわ!ファンドール家の使用人の質向上の為にもダメかしら?」

「…数冊でしたら。ただオーガン様にも確認は取らせていただきますが…」

「ありがとう!!出来たら同じ月のを数年分がいいわ。年ごとに見られるとよりわかりやすいから」


よし、お土産確保できました。

あとでゆっくり検分しよう。


「これとこれとこれですかね、奥様。ではお借りしていきます」


出来る執事補佐は本当に仕事が早いな。

セドリックはディノンが色々言い出す前にさらっと資料を数冊を選んで小脇に抱えてくれた。


「さぁ、次はどこかしら??」


その後もディノンは次々と棟内を案内してくれた。

事務員が仕事をしている事務所、更衣室や休憩スペース、面白い物で浴室もあった。

私は普通に感動し、関係者に労いの言葉を掛け視察を楽しんでいた。

そしてようやく待ちに待った執務室の前までやって来たのだ。


「今はオーガン様が不在なのでお通しすることは出来ませんが…」

「いえ、ちょっとだけでいいの!覗くだけで!ギルバートの執務室とどう違うかちょっとだけでいいから見たいのです!お願いっ!!」


もうね、我が儘マダムですよ。

ダメって言われているのにね。

でもここは引けない。

後からちょっとヤバい奴だったと言われようと、若干ミリアもゾルディクスも引いてる気がするけど(セドリックは無表情です。)この本丸を逃すわけにはいかないのだ。


「……」

「……」


ディノンと私の無言の応酬が続く。


「む「お願い致します。執務室の内装がどうしても見たいのです!!」


ディノンの言葉を遮ってまくし立てた。


「…内装の確認だけでお願い致します。中には関係者のみしか明かせない書類もありますので」

「はい!」


返事は元気よくである。

周りからため息がこぼれているような気もしたが無視である。

ディノンも諦めたようでゆっくりと執務室の扉を開けた。


カモーン!秘密の花園ちゃん。

私は頭の中で大きく手を広げておいでおいでをしていた。


足を踏み入れた執務室はやはり今まで見てきた部屋とは異なり、少しだけ華やかに装飾を施されている部屋だった。

奥に大きな窓があり、その両端には緑のビロードのカーテンが纏められていてなんとも豪華だ。

その前に陣取られた執務机は先程会議室で見たテーブルと同様に味わい深い飴色で、脚の部分には彫刻が施されている。

デスクの上にはディノンも言っていた通り書類が散乱しているのが見えたが、残念ながら内容まではここから見ることは出来なかった。

ふと壁に目を向けると、そこには大きな鉱山の見取り図が黒板のような板に貼られている。


「これはサザノスの全容なんですか?」


私は見取り図を指差して聞いた。


「はい、こちらを見てオーガン様が今後どの様に掘り進めていくかを決めております。もちろん、技術士達の意見も聞きますが、様々な状況を経て鉱脈を予測し、最終的にオーガン様がどの方向を掘るのかを決めるのです」


私は見取り図を食い入るように眺めた。

こうやって見ると本当に蟻の巣のように坑道が張り巡らされているかがよくわかる。

管理棟のあるこの場所は山の中腹よりも上に位置していて、ここを1層とした時、下に掘るに従って2層、3層となっていた。

そして今図を見る限りでは8層まである巨大鉱山であることがわかった。

図にはチェックや矢印が引いてありどちらに掘り進めようとしているのかが見て取れる。

ただ大体の矢印の先には赤く丸が付けられていて一体これが何を示しているのかはわからない。


「この赤い丸は何を示してらっしゃるの?この丸に向かって矢印が出てるように見えますが」

「…」


おや、だんまりとは珍しい。


「これは…オーガン様が予想する鉱脈の走り方ですね。」

「まぁ、オーガンはそんな事までわかってしまうのね」

「ええ、優秀な方ですので」

「長年鉱山研究をしていた貴方ならまだしも、オーガン様がこのような事まで。外れでもしたら大変なんじゃなくて?鉱脈を読むなら貴方の方がよろしいんじゃなない?」

「私ももちろん意見致しますよ。その為の秘書ですから」

「そう」


私は無意識にじとりと絡み付くような視線をディノンに向けていた。


ふむ。

なんだろな、引っかかるな。

さっきの間も気になるし。

でもこれ以上は詮索しようがないかな。


他に何かないかと部屋の中を見渡す。

書棚にチェスト、あとはディノンの執務机と少しの観葉植物。

近づく事が出来ないので細かな所までは見られないのが悔しい。

思わず舌打ちをしてしまいそうになると、セドリックが一点を見つめていた。


「どうしました?セドリック」


セドリックの見ている方に視線を移すと、そこには鉄製の杖のような物が立て掛けられているのが見える。


「あれは…魔道具?」


下に向かうにつれて細くなっている棒は、長さが私の首位まであって杖にしては長すぎると思える。

何よりも杖の天辺から頭一つ分くらい下には何かを嵌め込むであろう窪みがあった。

これは、一体なんなのだろうか。


「ああ、これは水脈を感知する為の魔道具ですよ。鉱山の地下に行けば行くほど鉱脈と同じように水

脈もありますから、これで水脈を探り当たらないように避けて掘るのです」


ディノンはニコリよりもニヤリに近い笑顔で私に説明する。

胡散臭いことこの上ないけど言ってることは正しいと思う。

でも、私は思うのだ。


「こんな所に置いておく必要はあるのですか?魔石も入っていないのに?」


そう、魔石が入っていなければただの鉄の棒じゃないの?

こんな邪魔な物は執務室にわざわざ置いておくよりも、地下に置いておいた方が良くないか?


「それもそうですね。オーガン様に伝えておきましょう。さあ、もう出られて下さい。次に行きましょう」


気持ちが悪いほどの笑顔のディノンがそこにいた。


セドリックは無表情だけど、案外お茶目な性格だと思います。

年を経てピートみたく丸くなるのかもしれませんね。


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