8.狩りは目を見て
この度はお読みいただきありがとうございます。
ステフィアさんの動きが活発化してきます。
少しづつ動きがでてくるかな?
では、お楽しみ下さい。
8/19 一部訂正しました。
オーガンは私達の前にコトリ、コトリと魔石を並べていく。
「こちらの深い緑はブーベン。ブーベンよりも少し明るいこちらはカマストスです。このクリントは一見カマストスと似ていますが、研磨すると中に白い濁りが入ります。この濁りの入り方によって表情が変わりその価値が変わっていきます。そしてこのノノという石は小ぶりな物が殆どですが、その高い透明度が人気です。そして最後がヘルゼウル。数ある緑の魔石の中で女神の慈愛と呼ばれるその優しい緑は、緑の魔石の意味である平和や癒しをよく表しているとされています」
魔石の意味とは、魔石は大まかに赤、青、黄、緑、紫、黒、白と7つに分類されていて、それぞれの色には魔石の特性を表す意味が付随している。
例えば赤なら 動、強い力、躍動。
青から冷静、清廉、信頼という風だ。
あくまで大まかな特性なのでそれから外れる物もあるし、7つに分類の括りには入らない物もある。
ただ魔石は貴族が魔力を流し込んでから専用の機械に嵌め込むと、その魔石が動力となって平民では為し得ない力を生むことが出来るのだ。
その時に特性の合う魔石を嵌め込んだ方がより大きな力となるので、その確認としての意味合いもある。
自身の魔力で魔法を使うこともだが、この魔石を使いこなして国や街のシステムを維持していく事こそ貴族の役目であり、その特権が許されている所以でもある。
「原石では研磨している物よりもわかりにくいはずですのに、ハリオット様はお見事でございますね」
オーガンはハリオットに感心しながらも苦笑いを浮かべていた。
「ネイリーンお嬢様の瞳の色は私共にはわかりかねますので、同種類でも様々な色味をご用意させていただきました。どうぞお手にとってご覧下さい」
そう言われて私もギルバートも魔石を手にとって眺めた。
もちろん一番先に手を出して横から下からと色んな角度で覗いているのはハリオットだった。
お前は鑑定士かいっ!
思わず突っ込みそうになる。
それはもう嬉しそうにキラキラ・キラキラと魔石を見つめている姿は、いいお宝に巡り会えた時の鑑定士そのものであった。
将来絶対にコレクターになりそうだなぁー…
一面ガラスケースに入った魔石だらけになっているハリオットの部屋を想像し、目がチカチカしそうだなと思った。
前世の大村結の部屋も部屋中にお宝がひしめき合っていたから囲まれたい気持ちは分かるんだけどね、幸せなんだよね、どこ見ても自分の好きな物が目に入る空間は。
私の思考があっちの世界の部屋に飛びそうになると、隣に座っている我が家の鑑定士が声を上げた。
「やっぱりこれだよ、こーれ!ネリィのおめめにそっくりだもん!」
トレイの中でもひと際美しいヘルゼウルと呼ばれる拳大の魔石を指差してはしゃいでいる。
ヘルゼウルの緑は鮮やかで濃いエメラルドのような緑とは違い、優しく柔らかで青磁や若葉を思わせるような緑だった。
ハリオットの勧めるその魔石を手に取ってみると、なんだろう、石に触れた部分が暖かい湯に浸かっているかのような感覚に襲われる。
これがこの石の持つ力なのだろうか、すごいわ。
まじまじと石を見てみれば、確かにネイリーンの瞳の色によく似ている。
しかも”女神の慈愛”だなんて悪役令嬢っぽくなくていいじゃない!
「確かにネリィの瞳は優しい色合いですものね。よく似ているわ」
ギルバートも頷く。
「ハリオットがこれほど言うなら間違いないだろう。大きさも公爵令嬢として申し分ない。よくやった、ハリオット」
くしゃりとギルバートがハリオットの頭を撫でてやると、ハリオットは目を輝かせながら誇らしげな顔を私達に見せてくれた。
両親だけでなく兄も自分のバースジュエル選びに関わったなんて、大きくなったネイリーンが知ったらどう思うかしら?
あったかい気持ちになってくれればいいな。
「ではお帰りまでにこの石を用意しておきましょう。ディノン」
ディノンはテーブルに広げていた魔石をトレイに戻すと、それらを持って部屋を出て行った。
「この後は鉱山の視察ですね。手紙ではギルバート様とハリオット様だけが鉱山内を見られるとの事ですが、お間違いはありませんか?」
「ああ、ステフィアは貴婦人だからな。足場の悪い鉱山内は危ないだろう。ここで待たしてもらえるか?」
「ええ、もちろんです。ディノンを付けますので何なりとお申し下さい」
「助かるよ。いいな、ステア」
「ええ、お気遣いありがとうございますわ」
そうなのです。
ハリオットの為に鉱山の視察をすると決まった時、私はギルバートに”鉱山は足下が悪くて私には大変そうですのでお二人で楽しんでらして。”と進言しておいたのです。
何故だって?
それはもちろん怪しい所がないかのガサ入れですよ。
出来るかはわからないが管理棟内を見てみようと思ったのです。
「では少々用意があるのでこのままお待ちください」
「あぁ、すまないな」
ディノンを追うようにしてオーガンもいそいそと部屋を後にした。
「セドリック!」
ふとギルバートが自分の後ろに控えている黒服の侍従を呼んで何やら耳打ちする。
セドリックと呼ばれたこの男性はファンドール公爵家筆頭執事を父に持つ男だ。
すなわち、ピートの息子であり、ハリオットの乳母であるシーネの夫。
セドリックはピートを若くして、髪を亜麻色に染めて眼鏡をを取ったららこんな感じかなっていう位ピートによく似ている。
ただピートが持つ、人を和やかにさせるあの穏やかな雰囲気はなく、どちらかというとピリッとした佇まいで、シーネと並ぶと迫力のある夫婦に映る。
まぁ似たもの夫婦なんだろう。
今回のサザノス旅行にはピートでなく、執事補佐を務めるセドリックが同行していた。
ピート本人曰く、”年寄りに旅はつらいのです。”だそうだが、実際は主のいない公爵邸の統括と世代交代の為の実地訓練といったところであろう。
「頼んだぞ」
「かしこまりました」
話が終わるとセドリックは元の立ち位置に戻っていった。
「何かありましたの?」
不思議に思い尋ねる。
「いや、君一人をここに残していくのは不安だろう。セドリックも君とここに残ってもらうよう頼んだんだよ」
「まあ、私の侍女もおりましてよ」
公爵家の人間が動くのだ。
もちろん一人につき数人の侍女や護衛は付いてくる。
今日はあくまでも私的な旅行の体なので少ないが、それでも侍女1人と護衛1人くらいは私の傍にもついているのだ。
「念の為だよ。邪魔だったら放り出してくれて構わない」
「あら、大層な言われようですね、セドリック」
「いえ、慣れております」
表情の変わらないままセドリックは答えてくれた。
「お待たせいたしました。鉱山へ参りましょう」
ディノンを連れてオーガンが部屋に戻ってくる。
「わーい!たのしみー!」
ハリオットは待ちきれないとでも言いたそうにい、椅子に座りながらその小さな体をリズミカルに揺らしている。
「ハリオ、鉱山は遊ぶところではないのだからはしゃぎすぎてはダメよ。オーガン様の言うことを良く聞いて。しっかり学んでくるのですよ」
私は親として注意を促すと、後は任せましたよとシーネに目を配った。
シーネはわかっておりますともと声が聞こえてくるくらい深く頷いてくれた。
「ギルバートも気を付けて」
「ああ。では行こうか、ハリオ」
そう言うとそのままギルバートとハリオットはオーガンに連れられて鉱山へと向かって行った。
さて、ここに今残っているのは私と侍女のミリアにギルバートから頼まれたセドリック、護衛のゾルディクスに、サザノス管理者秘書のディノンか。
今いるメンツを確認していると先程の使用人が新しくお茶を淹れ直し、新たにお茶菓子も用意してくれた。
でもここでくつろいだりはしないのだ。
「ねえ、ディノン。わたくし、お願いがありますのよ」
お願い、得意です!!
「はい、何でございましょうか?」
「私、建物の造りや装飾に非常に興味がありまして、この管理棟は私が住んでいる公爵邸とは随分と様式が違うでしょう。出来れば…この管理棟の中を案内して下さらないかしら?私、とっっっっても気になるのです!ここが!!」
さあ、どうだ!!
私はここぞとばかりに今まで無駄に鍛えさせられた貴婦人然を発揮して自分の我が儘を貫こうと振る舞った。
「管理棟を、ですか?」
「はい、管理棟を、です」
じーーーーっとディノンから視線を外さない。
獲物は定めたら目を離さないのが狩りの基本です。
「…かしこまりました。危険がある場所以外ならご案内致しましょう」
「ありがとう、ディノン」
よしゃああーー!まずは第一関門は突破です。
後はもう流れでガサ入れさせていただきます。
私は心の中で大いにほくそ笑んだ。
ディノンはそんな私とは対照的に一瞬だけ少し考え込んだような様子を見せたが、すぐに笑顔を貼り付けて「では参りましょう」と私達を案内し始めた。
ディノンは面倒くさいなと舌打ちをしているはずです。
きっとそうです。
残念ながらこれかもそうなるのです。
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これからも頑張って書いていこうと思いますので、宜しくお願いします!