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7.サザノス鉱山

お読みいただきありがとうございます。

ブクマ登録者が増えてきてビックリと同時にとっても嬉しいです。

頑張って書いていくので、今後共よろしくお願いします。


では、サザノス鉱山スタートです。


8/19 一部訂正しました。

山の中の道を進んでいくと、まるで鉄製の鳥居のようなアーチが掛かっていて、そこには大きく「サザノス鉱山」と書かれていた。

そのアーチを抜けると道の左右にはそれぞれは小さいながらもパン屋であったり、服飾屋であったりと数軒の商店が軒を連ねていて、中でもひときわ大きい建物には「呑み処」と看板が掲げてあった。

たくさんの鉱夫達が押し寄せるのであろう。

納得、納得と1人で頷く。

商店の裏には三階建ての木造アパートが数軒と、平屋の住宅が何軒も広がっていた。

その様子は「鉱山」と言いつつも小さな1つの町のように思えた。


私達を乗せた馬車が道をまっすぐ進んでいくと、まわりを歩いていた人々が一様に帽子を取って頭を下げる。

どうやら私達が来ることは先触れしてあったようで、歓迎の態度を取ってくれているようだ。

中にはわざわざ店から出てきて頭を下げる者の姿もあった。


私は窓越しに住民達に向けて片手を上げて礼を返しつつ、横目でギルバートの様子を探ると、彼はいつもの柔らかな雰囲気を消して威厳ある領主の表情を浮かべて同じように手を上げていた。


ハリオットは先程までと違う両親の姿にきょとんとしながら、窓の外と私達を代わる代わる見ている。


「ハリオ、皆が私達を出迎えてくれているのです。あなたもご挨拶なさい」


私がそう促すと、ハリオットは「ごあいさつ…」とつぶやいて窓際に寄り、天使のような笑みを浮かべてヒラヒラと手を振った。


そのまま少し進むと道の先に他の建物とは一線を画す石造りの建物が見えてきた。

サザノス鉱山の管理棟だろう。

彫刻などはないシンプルな外装は山を背にドンと建っている佇まいも相まって、まさに「質実剛健」という感じがした。

すでに正面の玄関ポーチには数人の人が待っている姿が確認出来て、きっとその中の1人がオーガンなのだろうと思った。


馬車が停まり従者が扉を開けると、まずギルバートが先に降りる。

私も降りるため扉の近くに寄ると、ギルバートが私に向け手を差し伸べて待っていてくれた。

ギルバートにエスコートされながら優雅に馬車を降りると、次いでハリオットもその小さい手でギルバートの手を握りピョンピョンと跳ねるように馬車から降りた。


…子どもは元気が一番だよね。

お行儀については少しづつ気長に教えていこう。


後ろの馬車から降りてきたシーネが倒れそうになっていたので、後でやんわりフォローしてあげようと思った。


どこかへ飛び出していってしまいそうなハリオットの肩をグッと掴んでギルバートの隣に並ぶと、私達を迎えてくれている列の中から1人前に出てくる。


「お待ちしておりました、ファンドール公爵様。そしてお初にお目見えいたします、奥様、ハリオット様。私はサザノス鉱山の管理を任されております、オーガン・ラインベルトと申します。どうぞお見知りおきください」


来たっ!この人がオーガン!!


ちょうど私の前に来たオーガンは右手を胸の前にやると軽く腰を折った。

赤いリボンで束ねられた藍色の髪が一房肩に落ちる様子に目をやると、ちょうど姿勢を戻すオーガンと目が合ってしまった。

ニコリと細められたマーサよりも赤みの強いその鳶色の目の奥が、偏見かも知れないが底知れない闇を秘めている気がして、私は少しだけ身が竦む思いがする。


「ファンドール公爵夫人のステフィアと申します。今回の訪問を快く受けていただき感謝します」 


軽く裾を掴んでカーテシーをする。


「ハリオットです。おねがいします」


ハリオットも私に続いてペコリと頭を下げた。


「久しぶりだな、オーガン」


私の気持ちとは対象的にギルバートは久しぶりに会えた学友が嬉しいようで、オーガンの肩をポンと叩いく。


「お久しぶりでございます。公爵様はお変わりないようで安心いたしました」

「ははは、公爵様はやめてくれよ。以前と変わらずギルと呼んでくれ」

「いえ、今は以前と立場が違います故ご容赦ください」


オーガンはまっすぐギルバートを見て笑顔を浮かべる。


「そんなに固くならなくても。今日はあくまでもプライベートで来た意味合いが強いんだ。頼むよ」

「では、ギルバート様と」

「…じゃあそれでいいか。しょうがない」

「はい、ではご案内いたします。どうぞこちらへ」


私はギルバートがオーガンに向ける砕けた様子にちょっと驚いた。

私達には常に柔らかい物腰だが、それ以外でのギルバートはどちらかと言うと無愛想で、リアクションは薄い。

そのギルバートが笑顔で他人と話すのを見られるなどレア中のレアだった。

それだけでギルバートがオーガンに対して傾ける信用の高さが窺い知れた気がする。

私の胸中は複雑だった。



オーガンに続いて進むと、品のいいテーブルセットの置かれた応接室と思しき部屋に通される。

ギルバートが1番上座に。

私とハリオットは2人がけの長椅子、オーガンはテーブルを挟んだもう一つの椅子にそれぞれ座ると、ここに仕えている使用人がお茶を出してすぐに下がった。


「さて、今回ここには秋に生まれた娘ネイリーンのバースジュエル探しと、息子ハリオットの学びの一つとして鉱山の視察させてもらおうと思う。オーガンには無理を聞いてもらい感謝する。ありがとう」


ギルバートは組んだ膝を抱えて言った。


「いえ、こちらこそ数ある鉱山の中から我がサザノスを選んでいただき光栄でございます。お嬢様のバースジュエルにふさわしい魔石が発掘されておりますので是非ご覧になって下さい」

「ああ、では早速だが頼む」

「かしこまりました。―ディノン!」


オーガンが後ろに控えていた従僕と思われる男性に目配せすると、その男性は後ろの棚から布のかぶったトレイを持ってきて、丁寧な動作でそれをテーブルの上に置いた。


私はこの彼が気になってジッと見つめてしまう。

オーガンは私の視線に気が付いたのか


「申し遅れました、この者はここで私の秘書を務めているディノンと申します。ディノン」


とディノンに挨拶を促した。


「オーガン様付き秘書のディノン・ソーサーと申します。以後お見知りおきください」


ディノンは短い金髪にグレイの瞳でその体躯は秘書にしては少々逞しい。

そして私が一番気になったのはその肌がやや浅黒いことだった。


「失礼ですが、ディノン様はもしかして…」

「はい、私の祖父が隣国エジルブレンの出身です。私自身はマグノリア生まれのマグノリア育ちですが」


私の胸がドキリと跳ねた。


「あぁ、御祖父さまが。肌の色が濃かったのでもしかしてと思いましたの」


そう、エジルブレン人の特徴の1つ、マグノリアではほとんど見ることのない褐色の肌だ。


こんなところにぶっこんできてますねー。

明らかじゃないですか、不用心すぎません?

エジルブレンとの混血はたまにいますが、ここに置いちゃう??

もう真っ黒けじゃない!


思わず持っていた紅茶をひっくり返しそうになったのは言うまでもない。


「珍しいな。オーガンとはどこで?」


おおっとギルバートさん、いいパスです。


「元々は鉱山研究として各地の鉱山を回っていたのですが、サザノスに来た際にオーガン様にお声がけ頂きそのまま秘書としてお仕えすることになりました」


ほうほうほう、鉱山の研究ねぇー。


「鉱山の知識が豊富だったので、サザノスの繁栄の為に口説き落とさせていただきました」


どっちが口説いたのかしらねー。

は!断じてBなLの展開じゃなく真面目によ!!

一瞬だけど前世のクセでどっちがどっちと組ませてしまう自分が憎いわ!


そんな私はさておきー


「では、こちらを」


そう言うとオーガンはトレイに掛かっている布をそっと取り外す。


「まぁ!」

「おぉ!」

「わぁあーーー!」


そこにはピンポン玉位の大きさから子どもの拳位のサイズまでの緑の魔石の原石がトレイいっぱいに並んでいた。


明るいコバルトグリーンや森の葉を思わせるフォレストグリーン。

少し白みがかった物に青みがかった物。

緑色の魔石を見たいと言ったけど、目の前に並んだ種類の多さと美しさに言葉を失う。


「サザノスでは緑の魔石だけでも5種類はあります。そして同じ種類でも色味や透明度が違うのです。ここまでのサイズと種類はマグノリアでもサザノスだけでしょう。」


オーガンは自信に満ちた表情で語った。


「えーと、これがクリントでしょ。これがカマストス。この小さくて青っぽいのはブーベン」


????


この部屋にいる全員が一斉にこの小さな声の主の方に顔を向ける。


「あーーこの1番おおきいのヘルゼウルだよ、ははうえ。これ!ネリィのおめめ!」

「ハリオ…これが何の魔石なのかわかるの?あなた…」

「わかるよ、図鑑で見たもん!」


え?すごくない?

普通読んだだけでわかるものなの?


「オーガン、合っているのか?」


ギルバートも驚きの表情を浮かべてオーガンに尋ねた。


「あ…っておりますね。いや、びっくりいたしました。慣れればすぐに見分けは付きますが、こんな小さなお子様が、図鑑のみの知識で判別してしまうとは」


オーガンは口に手を当て、ディノンも目を見開いていた。


「あ、これノノだよ、父上」

「これで5種類全てだな。すごいぞ、ハリオット」


父は静かに息子の頭を撫でた。


3歳児、恐るべし!


3.4歳児って、思わぬ集中力を発揮したりするもんです。

ハリオくん、マニアだねー。

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